糸井 |
やっぱり先陣切って汗かいてる人たちって
何人もあちこちにいるんだけど、例えばこの間、
松本人志さんっていう人と話してて、
なんでもない質問のやりとりをしてたんだけど、
「それは糸井さん、温泉に泊まって
3日間やんないとだめだと思う、
答えは出ないと思う」
って。その言い方できること自体がもういいんだよ。
もうすごいんだよ。
「もしわかってしもたら、どうすんでしょうね」
ってもう一回帰ってくるわけ。
この人はやっぱり、風、受けてる人だなぁ。
そんな人がいっぱい点在してるっていう感じで、
結構見てると同じ体質だなっていうか、
自分でわかんない。
そこのクイズが面白いんだな。 |
野田 |
一つのタイプで謎を解きたくないのは、
もう絶対に俺の癖だよね。 |
糸井 |
詩で解くクイズってすごいと思うんだよ。
クイズ出す人はそこが欠けてるんだと思う。
コンピュータゲーム作ってる人って、
全部ロジックで、整合性で勝負するわけだよ。
「整合性」って、10年かけたら
秀才なら誰でも作れるんですよ。
でも秀才が10年かかって作れるものを
僕ら短い人生の中で作る意味ないんだよ。
詩で解くクイズを出せるっていう人がすごいんだよ。 |
野田 |
詩で解くクイズを出してるから翻訳しにくいんだよ。
それは海外でいつもぶつかる壁なんだよな。 |
糸井 |
民族芝居なんだよね。全部ね。 |
野田 |
そうなっていっちゃうからね。 |
糸井 |
ハリウッドの人たちはそこをわかってて
解決してる人たちが何人かいると思うんだよね。 |
野田 |
英語って日本語に比べるとやっぱりロジックの言語だから。
彼らのは詩でさえロジックだったりするから
いいんだろうなぁ。 |
糸井 |
村上春樹が最初の小説を英語で書いたって
いうじゃないですか。 |
野田 |
ああそう。 |
糸井 |
一回英語で書いて、翻訳したって。 |
野田 |
ああ、だから「と僕は言った」なんだね。
あれは向こうのI saidを訳したわけじゃないですか。
俺あれを読んだときに英語の理論とは気づかなかったな。 |
糸井 |
英語で書いたんだって。
彼は当時から世界性をいつでも意識してて、
当然のように外国に行ったけど、
どっかにきっかけがあれば
そこのところはやらなきゃいけないのかもしれないし、
やるだけの価値はあると思うんだけど
俺もわからないんだよ、そこ。
世界があるって知っちゃったんで。 |
野田 |
出たり行っちゃったりすると
そこがまた面白いってことに気がついちゃうんだ。
そうするとやっぱりそこに混じっていきたいっていうのが。 |
糸井 |
ワールドシリーズ出たいじゃん。野球やってると。 |
野田 |
だからね、俺ミュージシャンと
スポーツ選手はうらやましいね。
ほんとの単純な肉体芸術だから、音楽も肉体と呼べば。
そういうもの、それでいけるんだよな。
言葉が障害にはならない。
音楽の言葉もあるんだろうけど。大してならないしな。
特にスポーツはうらやましいね。絵画もそうか。美術も。 |
糸井 |
今、日本から発信して市場を作れるものって
ゲームしかないんですよ。
僕はゲーム翻訳したのをアメリカに出てるんだけど、
大して売れない。
十何万本なんだけどそのホームページがあったりして、
未だに謎解きとかしてるんだよ。
それ考えると、俺は全部日本語で表現したのに
不自由な日本語を使うわけですよ。ゲームだから。
おかげで通用したと思うと、
「あ、もしかしたらあるな」
と思い始めたんですよ。
僕が作るものだからロジックじゃないんだけど、
なんとか間に立つアメリカ人が、僕の作った意図を理解して
翻訳しようとしたり、ここはこうしないと通じないぞとか
いうのを多少変えたんだけど、
アメリカ人がものすごく面白がって、未だに
オタク化して研究してるんですよ。
それを思うと、この芝居だって
いったん作っちゃってからだったら輸出できるかな。 |
|
野田 |
向こうの現場のやつ、この前、『赤鬼』っていう芝居を
タイのやつとやったのがとりあえずあって、
今年の夏に今度はロンドンの役者と
ワークショップをやってみたんですよ。
翻訳自体はつたない英語なんだけど、
それを読ませてもすごい興味示して、
わからないところ、ここはどうなってんのかっていうのは、
言葉遊びだったりするじゃん? そのことを説明すると、
説明がわかると面白がるじゃん。
日本語っていうのはこうなってこうなんだっていうと、
「ああ」ってわかるんだけど、
じゃあどうやって翻訳するっていうのはできないんだ。
でもそのときにやっぱり30分か1時間かけて、
みんなで「それは文化的にはこっち側でいうと
こういうことかもしれない」とか、
つまり単純なやつはことわざの類で言うと、
「その手は桑名の焼き蛤」とか「遠慮のかたまり」とか。
遠慮のかたまりについて説明するとさ、
それはこうだとかっていう。 |
糸井 |
できるかもしれない気はするんだよね。
両方が歩み寄ればできるとは思うんだ。
その意識っていうのは頭の片隅にあるじゃないですか。
世界知っちゃったが故に。そこ興味あるね。
老い先短いんでさ。 |
野田 |
韻を踏むとかいうのが悔しいんだよ。
彼ら韻を踏むの好きじゃない?
すると「いつわりは真実を生むためのつわりだ」
っていう僕の芝居のセリフがあるんですよ。 |
糸井 |
ああ、いいねぇ。 |
野田 |
そうすると直訳しても彼ら結構喜んだの。笑ったの。
そのウソをつくことはホントへのつわりだと。
それだけでも笑ってたんだけど、いつわりとつわりが
韻を踏んでるって言うと、はぁーんってなるわけだよね。
そういうのって実はシェイクスピアなんかと比べて
偉そうって言われるけどさ、
あのさ、シェイクスピアってさ、
あれはすごく言葉遊びがすごくてとかいうけど
やっぱりほとんどちゃんと翻訳されてないような
気がするんだよね。
だから、韻なんかすっごい踏んでるわけだから、
それで、こう言うと、翻訳の人に悪いけど
やっぱり言葉遊びはめちゃくちゃ難しくて
それですごいって日本で言われているシェイクスピアって
何なんだろうと思う。 |
糸井 |
柳瀬尚紀が一所懸命やってるけど
もう俺は違うと思うんだよ。
あれ大脳的すぎると思うんだよ。
それに比べてあっちのほうがヒントになる。
『ロミオとジュリエット』のこないだやったやつ。映画の。
あれ古語でしゃべってるらしいんだよ。
だけど勢いがあるの。
つまりアメリカ人にもわからないようなこと
言ってるんだよ。きっと。
ディカプリオだっけあれ。あれはね、
俺わかんないけど、面白かった。
あの辺がね逆にヒントになるんじゃないかなぁ。
ぞくぞくするものあるんだよ。
ああいうような可能性も、ちょっとあるなぁ。 |
野田 |
でもやっぱり英語だから少しわかるんだよね。きっとね。
だからロシア語とかロシアの芝居とか観たときって、
わかんねぇ。
とにかく言葉がこんなにわかんねぇもんかとか、
もちろんタイの言葉なんかも
そうだけどわかんねぇなぁって。 |
糸井 |
ちょうど今、カミさんが岩松了さんが翻訳した
チェーホフ(『かもめ』)やってるじゃないですか。
岩松さんがあえてチェーホフを翻訳し直してって考えてる
センスっていうのも、俺らが今喋ってることの
逆側からの発想だと思うんだよね。
できるかもしんないって思って。
きっとチェーホフの理解のされなかった状態を
今再現したいと思ったんだと思うんだよ。
たぶん道は違って同じようなところに、
きっと裏表から攻めてるんじゃないかなって気がして。
まだ観てないんだけど、
やっぱり台本面白いらしいんだよ。
笑うんだって。なんでもないセリフで笑うっていうから、
ああ、きっとその辺をやりたいんだろうなぁと思ってて、
みんな俺らの近い世代のやつらがそこんところに
なんかわだかまりを持ってて、
世界と今の島国っていう、リンクしてることを
意識しながら日本で芝居してるっていうのが、
客も意識してると思うんだよね。
その状態っていうのがこれはこれで
何か生むと思うんで、面白いなあ。 |
野田 |
全然違うけど、昔、俺、翻訳のそれ、
翻訳が如何に正確に伝わらないかっていうのの実験として
テレビなんかでやってほしいなと思ったのが、
向こうの小説、全然知らないのを日本の翻訳家に
ぱーっと翻訳させて、その翻訳したやつを
今度向こうのやつに戻すの。 |
糸井 |
再訳ね。 |
野田 |
再訳させると原作のものと同じものができるかって、
もちろんできないんだけど、
どのくらい違ってるのかっていうのを、
「伝言ゲームじゃないけど
ああいう企画ってやってみたら?」
ってテレビやってる人に言ったことあるんだけど、
テレビじゃあ、って言われちゃった。
そこがテレビのダメさだと思うんだけどね。 |
糸井 |
それインターネットだとやりやすいね。 |
野田 |
そうだよね。でもその意図を、
隠しておかないといけないんだよね。
これをただ単純に翻訳してくれって
頼みさえすればいいんだよね。 |
糸井 |
やってみようかね。いつかね。 |
野田 |
そんな長いもんじゃなくてもいいかもしれないね。 |
糸井 |
テレビだと……。 |
野田 |
4回くらい繰り返したら、伝言ゲームじゃないけど
もう全然違うふうになるかもよ。 |
糸井 |
あの、吉本ばなななんかはイタリアとかヨーロッパで
すごく人気あるけど、
それはもう一つのチームになってるみたいね。
すっごく仲良くなって、
吉本ばななそのものが翻訳されるって
意識してるんじゃないかな。
彼女3回書くっていうんですよ、同じ小説を。
たぶんそこのところで作業してるのは、
単純にしてくことじゃないかと思うんだよね。
それを意識してるのは僕らよりずっと下の世代の
吉本ばななだっていうのがリアルだね。 |
野田 |
とてもわかる気がする。だから、漢字とかほんとに
いらなくなっていくのかなとか思っちゃうしね。
でも漢字を覚えた私たちっていうのは、
あと漢字から考えちゃう頭を持っていて、
セリフのなかにまだざらに漢字があるし。 |
糸井 |
体癖だよ。
(つづく) |