Drama
野田マップの稽古場の隅で。
野田秀樹さんの芝居『パンドラの鐘』の
パンフレットに掲載する対談をやりに稽古場に行った。
パンフからはみだした会話のすべてを、全文掲載します。

第6回

(対談、いったん終了して)

野田 それにしてもやっぱ糸井さん刺激的ですねえ。
最近ねぇ……、
糸井 僕はやきもちやきなんで、いいもの観ると
急に頑張るんですよ。
野田 若いとき、20年ぐらい前は対談してましたよね。
糸井 してる。
それはもっとね、もっとビートルズな人たちだったかな。
あの韜晦の固まりだったじゃないですか。若い時って。
世代的にも。もう今さら韜晦する必要ないし。裸。
どうしたって背丈変わんないぜ、ってとこあってさ
北村
マネジャー
Right Eyeの前にごらんになったのは
何が最後だったんですか。
野田 いやあ、糸井さん相当観てないんじゃないかな。
糸井 紀伊国屋ホールの時代ぐらいだと思いますよ。
野田 いや、紀伊国屋出た後の駒場に戻ったのも
観てるかもしれない。
糸井 ああ、観てるな。そのくらいでプッツリ途絶えてますね。
受け手としての快感が同じになってきちゃったときに
だいたい人は「飽きた」っていうんですよ。
それはもう自分でわかってるんだけど、
どうなんだろう、一回ずつ刺激がある時期に
だーっと付き合っちゃうと、しばらくは
水のような関係になるんで。
野田 それって本でも何でもそうだね。
糸井 本でもそう。それがある意味では、
困ることでお金払ってくれなくなるんですよ。
お客さんとしてね。
その問題をどうするかっていうのがね、
今日話し合わないテーマとしてはねあるんだよ。
薬が効かなくなるみたいに。
自分は、お客さんとしてはそういうことは
人にさんざん冷たくしてるわけですよ。
でも自分のお客さんが、同じように面白いものから
だいたいいいかって思ってくのを、
どうなんだろう、つかむべきなんだろうか。
どうぞ行っちゃってくださいって言うべきなんだろうか。
新しい人に向けるべきなんだろうか。
わかんないから結局作り手同士とばっかり
会うようになっちゃうんですよ。
野田君に会うなんていうと
ちょっといそいそするんですよ。
いい意味で客と作り手じゃないですか。対談って。
これはね、僕は仕事というよりは、快楽なんですよね。
そうなっちゃうとね仙人化しちゃうんですよね。
まずいんですよねぇ。
野田 でももうちょっと仙人化しちゃってるでしょ。
糸井 うーん、あの、核はね。
野田 ユートピアの話が出たあたりはねえ……。
糸井 宗教家だしね。危ないねえ。
リアリズムをこんなに語っていながらね。
でもそうやって会って、そこまで面白いかなって人、
そんなに大勢いないから。
もっと俺、実業家って面白いかと思ったわけよ。
そうでもなかったんでねぇ……。
野田 俺も、実業家幻想はある。
糸井 あるでしょ。
野田 俺は全然会わないから、
実業家っていう人たちってのは。
糸井 一代で名を成した人とか……、
野田 その辺いいんじゃないの?
糸井 ただ翻訳に時間がかかって。
つまり文脈が違うから即座にやりとりできるほど
僕に力が無いんですよ。
違うような気がするけど、
「はぁ……」って言ってる時間が
老い先短いんでもったいないんですね。
明らかに俺死ぬときから逆算して、
ものを考えるようになっちゃってるから。
そういう話を分析することもできるわけだけれど、
分析し終わって終わりじゃあ面白くないんで
やっぱりこうやって
動いてる人たちと会うのが一番楽しい。
最近では松本人志さんですよね。
ふらふらしながら動いてるじゃないですか。
野田 やっぱいいよね。
糸井 うち子供が演劇やりたいらしいんですよ。
大学行くし演劇やるって矛盾だよね。
野田 それ俺言われてもなぁ(笑)。
糸井 そうかぁ。野田君、学校行って演劇やってたのか。
野田 学校行って。
でも俺芝居やるために、まず大学に行ったよ。
糸井 遊び時間を作るために学生がいいっていうのが
最後の僕の納得なんですけどね。
仕事しながらは無理だもんね。
でもどう演劇やりたいのかって……、
野田 でも芝居やってくと
仕事しなくちゃいけなくなるんだよね。
芝居だけで喰っていけなくなるから。
糸井 そうなんだよね。
やっぱりね、最初に大きいお金を稼いで
株で喰えるとかね。そういうのがたぶん・・・
でも経済的なバックボーンがありつつ
やれたら、動機を失うんだよね。
「喰えない恐怖が俺を走らせる」ってところない?
野田 若いときはそうだよね。
糸井 あるよねぇ。
野田 なんたって。
糸井 そういうところに自分を追い込むと、
知恵を使うじゃない。
そうなると、金あっても駄目だよな、とか。
野田 だって未だにやっぱそうだもん。
糸井 そうだよね。喰えない恐怖ってあるよね。
野田 そういう、ねぇ。
糸井 毎日あるよね。
野田 芝居やらなきゃ喰えないわけだから。もう絶対。
糸井 逆にその前の段階だと、
「芝居さえやらなきゃ喰えたのに」
っていう時期もあるでしょ?
野田 そうだね。
糸井 それを行ったり来たりするわけでしょ。
でも芝居に戻るんでしょ。
野田 今は芝居をやめたら喰う道ないわ。
しばらくはなんかどっかでちょろちょろと動いて
ゴハン食べられるかもしれないけど。
糸井 それってなんかさあ、
「選び直した」っていうことだよね。
芝居をね。芝居と再婚したみたいな。
そこの決意は、他人には絶対わかんないね。
野田 わかんないね。
糸井 ずっと芝居やってる人だと思われてるね。たぶん。
野田 ずっとやってる人なんだけどね。結局(笑)。
見た目通りなんだけど。
内面的にはちょっと違うんだけどね。

(了)
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1999-12-25-SAT

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