Drama
野田マップの稽古場の隅で。

第6回


糸井 棲み分けの次はね、「リンク」っていう考え方を
僕は入れてるんです。
つまり人間は全部孤独であると。
個である以上のことなんてありっこない。
だけどそれは瞬間的に交錯することはできる。
通信することができる。
同じことを二人が一遍にやったときの喜び、
つまりビートルズの歌ってるシーンで、
ポールとジョンがよく顔見合わせて喜んでるんだよ。
ハモった時に。照れてるんだよ、ちょっとね。
あのハモりがうまくいったときに。
あれは個として音を出してるけど重なった! って、
一つの人になったような、
「類」である喜びっていうかさ、あの感覚なんだろうな。
うちのホームページのキャッチフレーズが、
英語的には正しくないらしいんだけど、
"Only is Not Lonely" っていうんだよ。
つまり独りぼっちでいることは孤独ではない、
っていう言い方をして発信してるんだけど、
まずは個になることが大事で、個になっちゃった人は
ものすごいインセンティブをもらえる。
それはLonelyじゃないっていう。
そのあたり棲み分けしてるんだけど
もしかしたらライオンとゼブラが
同じオアシスを見つけた瞬間に
お互いに水を飲んでるっていうことがありうるみたいな。
でまた去っていって追っかけっこが始まるみたいな。
そのあたりにたぶんヒントがあるんだろうな。
まずは個になることだよっていうのが。
つまんない組織だとか連帯だとかっていうのを、
早めに言わないでくれ。
まずはハリネズミ現象になってもいいから、
本当に肉体的に近づかなくてもいいから、
いったん個になっちゃったやつはかっこいい。
野田 うん。
糸井 それは俺の癖なんだけど、
一人でいるときの姿が想像できない人間は信用できない、
っていう僕の名言集があるんですよ。
つまり仲間内でたむろってる時にはかっこいいやつなのに、
「あいつ一人になったときにきっとつまんない顔してるな」
ってやつ、いっぱいいるじゃない。
それはね、やっぱり友達になりにくいんだよ。
一人でいるときの顔がすべてだって思ってる。
もうちっちゃいときからそう思ってたんだと思うんだ。
それが今ね、リンクっていうつなぎ方だろうな。
だからインターネットでハッキリしたんですよね。
僕の中ではね。「急に通じる」っていう面白さ。
野田 舞台やってるとそれは単純にあるからなぁ。
リンクできたときの喜びって、
しょっちゅうかもしれないしね。
糸井 似たテーマで、外国のどっかで同じような
表現に夢中になってる人がいるかもしれないとか、
それはかっこいいよね。
同時多発するじゃないですか。
ある結晶の発見が、世界的に3つ、
だだーっと続いたみたいにさ。
野田 棲み分けなんて、まさに、
同時期に同じものが出るんだっていう考え方だもんね。
糸井 あの、まがい物的な研究者でさ、
ライアル・ワトソンっているじゃないですか。
あいつの本なんか読んでると、
そこの部分の面白さが結構あって。
体がワニの顔にそっくりな虫がいるんだよね。
ユカタンビワハゴロモっていう、蝉の一種なんだけど、
横から見ると全くワニなんだよ。
なんで虫がワニの顔してるんだ? って。
ワニのそばにいるらしいんだけど、デザインがなぜ、
感染するんだっていう。
俺、きっと、一生好きだねこの話は。
だけどそれをインターネットで検索すると
日本もアメリカも3件ぐらいずつしか
ユカタンビワハゴロモのデータが出てこないんだよ。
これもまた面白いんだよね。
野田 ライアル・ワトソンの話は本当なの?
糸井 本当なの。それでその写真もあって、
俺、広告に使ったことあるんだけど、
見事に横から見るとワニなの。体が。
目の位置は別にちっちゃくあるのに、
目玉のような模様がある。
ギザギザした歯のような模様があるんだよ。
これねぇ、わからん。もうまったく野田君の芝居と同じ。
駄洒落でつながってんだろ、って言ってるみたいな。
だから、俺、野田の飛躍だとか、無理なジャンプが面白い、
とか言うけど、あれは飛躍じゃなくて必然。
ユカタンビワハゴロモのように。
野田 そうだよね。必然だよね。
糸井 それを、相変わらずやってる気がするんで、いいなあ。
野田 階段があれば走るしね。
またやってるよって自分で思いながらもね。
糸井 デザインがウイルスで感染するはずがないしさ、
いや、感染してるかもね。
野田 してるかもしんないね。形っていうのは感染するからね。
だってほら、おじいちゃんおばあちゃんで育った子って
いうのは、いつの間にか、五歳ぐらいなのに
妙に年寄りのようなしぐさをしたりね。
糸井 俺と矢沢永吉の共通点それだもん。
後ろで手を組んで歩く。
二人ともばばあに育てられたから。
野田 喋りにはもちろん出るけどね。
糸井 でるでるでる。そういうことあるよね。
でもまあ、虫とワニはすごい。
野田 虫がどのぐらいワニを観察してたかっていう問題はあるね。
糸井 わけわかんないよな。それとかあの、
寄生してる虫とかさ、ワニの歯を掃除する虫だってさ、
互いに類が全然違うのに当てにしてるじゃない。
それもわかんないよね。ミツバチを当てにする花とかさ。
野田 本当だよね。
糸井 花とみつばち……って郷ひろみも歌ってるけれども。
その世界観だよね。それをきっと、お客さんたちは
無意識にそうだと思ってんだよ。思いたいし。
それで野田芝居を見てスカッとしてるんだよ、きっと。
野田 ジャンプ。
糸井 若いときよりも今の方がもしかしたらしてるかもしんない。
若いときのほうが細かった気がする。そのつなげ方がね。
この間、僕は初めて松尾君の『大人計画』を観て、
後半になればなるほど
そういう理論があるんだよっていう気がしたんで。
野田 最近俺がこの前観たのもちょっとそうだった。ちょっと。
糸井 やっぱり感じた?
野田 うん。あいつハチャメチャに来りゃいいのにとか思うけど。
ちょっとあるよね。「まとめ」に入るよね。
糸井 ある。それって、逆に、若いからなのかな。
野田 岸田國士戯曲賞が悪かったのかな。
糸井 賞をもらうとなるのかな。
野田 なるやつとかいろいろいるかもね。
一時期だけ、そうなったりとか。
糸井 あとお客がちゃんと確実につくと、
そのお客がどう思うだろうっていうのは
無意識に考えるから、分かり合うクイズを強要するよね。
俺、批評とか批判はするつもりはないんだけど、
ああもったいねぇ、後ろに行くほど普通になるのはまずい。
後ろに行くほど手が着けられなくなっていくのは
自然の姿なんで、エントロピーが高くならないで
低くなるのはまずい。
最初に空飛ぶ人が現れてさ、豚の首がぽーんと飛ぶ、
その豚の首が飛ぶ距離感が面白かった。
それが後ろの方に行くと、ああこれは解説できちゃうな。
秀才が解説できちゃうなってところにいったんで、
これ、出来としてはこの世界ではどうなの? っつったら、
今回、出来よくないですねって言われたんで、
あ、よかった。前のを観たくなったよ。
あれでも20歳代はああだよね。
野田 あいつも、もう35、6かな。
あいつの若いときのやつ、結構面白いんじゃないの。
糸井 受け入れられない喜びを知ってたんだね。
野田 でもそれも出来がよくなかった頃のじゃない。
糸井 でもかっこよさの端々はさ、ものすごくあってさ。
筆遣いがいいじゃない。
野田 いい。
糸井 なあ。スピードもあるしさ。
役者の使い方というか、これはこのままにしておこう、
っていう判断がものすごくいいじゃないですか。
野田 そうだね。余計にしないで。
糸井 僕は、リーダーシップのない人間なんでね、
他の劇作家と野田君が、たとえば役者の使い方がどう違う、
ということなんかはわからないんだけど、
野田君が命令でやってんじゃない、ていうのはわかるな。
自分がもしもっと芝居の才能があって演出したとしたら
きっと野田君に近いやり方だろうとは思うけど、
わかんないんですね。才能でしょう。きっと。
説得力でしょ、要するに。
野田 そうだよね。要するにね。
糸井 ねえ。わかんなくても説得すればいいんでしょ。
野田 でも長くやってる人は、そうなんじゃないの。
長くやってると、その人がよく考えてるように
思われるから。
でも野田一神教になっちゃうと
やっぱり面白くなくなるということもわかってる。
もちろんそういう時期も、たぶんあったことも
あると思うけれど……。
糸井 季節のようにあったよね。
野田 そう、季節のようにいろいろ。
糸井 よその世界にいる人が野田君に一回壊されてみたい、
っていう、「一回破滅させてちょうだい」っていう感じで
憧れてるのは確かですよね。
で、壊された後どうするかはその人次第なんだけど。
昔の価値観からいうと無責任なんだけど、そうだよね。
役割ってそういうものだもんね。消化酵素みたいなね。
野田 そうなんだね。酵素なんだよ、俺は。
糸井 酵素。ジアスターゼのような。
野田 教祖じゃないんだよ。
糸井 ああ、そうだね(笑)。

1999-12-18-SAT

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