野田琺瑯の 野田善子さん。 (工場見学もしてきました)



第3回 「ホワイトシリーズ」で、琺瑯が再び身近なものに。
── 「ほぼ日」にも愛用者が多い
「ホワイトシリーズ」のお話を
聞かせていただけますでしょうか。
野田 「ホワイトシリーズ」。
こちらですね。
── こちらも善子さんが開発されたものですよね?
野田 ええ、やっぱり、自分が使いたくて(笑)。
── なるほど(笑)。
シリーズの特徴をご説明いただけますか。
野田 下ごしらえ、調理、保存。
この3つができるシリーズになります。
── ひとつで、3つのことができる。
野田 たいていの料理の下ごしらえはできますし、
お鍋と同じ材質ですから
そのまま直火にかけることもできるので‥‥
── 調理ができてしまう。
野田 それと、やはり私は、
仕事をしながらの家事になりますので、
時間や光熱費のことを考えますと、
いつも一度にたくさん料理を作るんですね。
── ああ、作っておきたい。
野田 以前はいわゆるラップのようなものを
容器にかぶせて冷蔵庫で取っておいたわけです。
そうした方法も便利なのですが、
どうしても他の食べ物の匂いを吸着してしまって
作りたてのおいしさが
すぐになくなるような気がしていたんです。
男の方が「残り物は食べない」とおっしゃるのは
そういう理由なのかなあ、と。
── それは理由としてあるかもしれませんね。
野田 そういうことを繰り返しているうちに、
「だったら、ふたがあったらいいな」
と考えるようになりまして。
── はあー。
‥‥こう申し上げてはあれですが、
とてもシンプルなアイデアで。
野田 そうなんです、単純なんです(笑)。
── でも「ホワイトシリーズ」のふたは、
ほんとうに優れたアイデアだと思います。
簡単にぴったりとふたができますし。
何より気持ちがいいのは、
冷蔵庫の中がすっきり見えることです。
野田 ありがとうございます。
毎日、目にする景色ですから、
すっきり美しい方がよろしいですよね。
── 色はやはり、白なんですね。
野田 そうですね。
台所にはお野菜の色があるし、
ほかのキッチン用品など、
いろいろな色があります。
その中で、
何色だったら嫌味がなく受け入れられるだろう。
そう考えると、やっぱり白だったんです。
白という色は、強い主張はしませんが、
独特の緊張感がある色でしょう?
── そうですね、清潔感と緊張感。
野田 それまでも台所で使う琺瑯製品には
白いものがあったんです。
縁のところに
赤ですとか青のラインが入ったもので。
── はい、そういう琺瑯製品も見たことがあります。
野田 ですが、私が欲しかったのは、
ぜんぶ白、白一色の琺瑯製品でした。
── このシリーズはほんとに白一色ですよね。
野田 最初は周りに反対されたんですよ(笑)。
── そうだったんですか。
野田 「そんな、真っ白いだけの容器なんて
 売れるわけがない」って。
── へええー。
野田 ですが主人がゴーサイン出してくれまして。
ほんのすこしずつ作ってみよう、
ということになったんです。
── すこしずつ。
野田 もし売れなかったら
私が風呂敷で包んで背中に背負って、
売って歩きます! なんて言いながら(笑)。
真剣でした。
── ほかに「ホワイトシリーズ」の特徴は?
野田 あとは、重さですね。
── 重さ。
野田 女性が毎日、持つものですから、
あまり重量があると
やはり手首が痛くなるんですよ。
── はい、はい。
野田 手が伸びる道具はどうしても、
軽くて使い勝手のいいものになるんです。
── 毎日のことですからね。
野田 ええ。
ところが昔は琺瑯というのもは、
「鉄板が厚いほうがいい」
とされておりまして‥‥。
── しっかりしているほうがいい、と。
野田 そうなんです。
「しっかりしてる」「これは板が厚い」、
そういうのが琺瑯への、なんと言いますか‥‥
── 褒め言葉。
野田 そう、それです(笑)。
でも私は、「それはおかしいんじゃない?」
と思いまして。
女性が毎日使う台所用品としての琺瑯は、
やっぱりこう‥‥。
── 軽い方がいいのでしょうね。
野田 でしょ?
なのに営業の野田(息子さん)は、
「そんなもの作ったって、
 いいって言われるわけないよ」って(笑)。
── ですが、周りに反対はされましたが、
これが大ヒットシリーズになったわけですね。
何年の発売ですか?
野田 2003年です。
発売してしばらくしまして、
漆(うるし)のギャラリーさんが
「ホワイトシリーズ」を扱ってくださることに
なったんです。
── 漆? 漆と琺瑯ですか。
野田 そうなんですよ。
漆のギャラリーをやっている方が
工場を見学に来てくださって、
「琺瑯は、消えゆく産業、漆と同じなのね」
と言ってくださって、
力を貸してくださったんです。
で、漆のそばに琺瑯をちょこんと置いて。
── へええー、ギャラリーで。
野田 そうしますと、見え方が違うんです、やはり。
── 印象が。
野田 いろいろな方が、見てくださいましたし。
それで、口コミでだんだんと‥‥。
「ホワイトシリーズ」のはじまりは、
あの展示からだと私は思っております。
── そうですか。
野田 それとほぼ同時期に、
料理・雑貨スタイリストの伊藤まさこさんが、
ご自身の著書でご紹介くださいました。
それで電話がひっきりなしにかかってきまして、
インテリアショップやギャラリー、
雑貨屋さんやデパートでも
扱っていただけるようになりました。
── 大ヒットですよね。
野田 ‥‥本当にわからないものですねえ。
私は「こういうのがほしい」
と言い続けただけなのですが‥‥。
こうしてまた琺瑯製品が、
みなさんにとって身近になったことは
とてもうれしく思っています。
(つづきます)



2009-07-20-MON