その拾壱 [11] 男の芝居、女の芝居。


糸井 演出家のいのうえさん自身の
アイカメラがあったら面白いでしょうね。
「えーと、あそこ大丈夫だっけな」
っていうのもあるだろうし、
「いいぞ」というのもあるだろうし。
染五郎 それは面白いですね。
ときどきカメラが
天井向きになっちゃったりしてね(笑)。
お客さんを見てたりするし、
もうそれは僕、一番知りたいですね。
いのうえさんはもうほとんどの公演を
見られるんですよ。
これだけの公演数を見るわけだから、
どこを見てるんだろうって。
普通にセリフのところを見てるだけじゃ
絶対、ないはずですからね。
なるほど、いのうえカメラね。
それは見たいですね。

糸井 ちょっと見たいよね。
染五郎 いろいろ企画があがりましたね、また。
多分、もう次回の作品のDVDには、
特典映像としてそれが入るような気がしますね。
糸井 そうですかね。そうですか(笑)。
染五郎 はい、もう、企画会議に
入ってるんじゃないかと思いますけどね。
糸井 次の芝居をまずやんなきゃダメですけどね(笑)。
染五郎 あ、やんなきゃダメですね(笑)。そうですね。
糸井 だから、その意味では稽古場も見たいですよね。
稽古場は僕は見たいなあ。
染五郎 稽古風景が多少入ってる
映像はあるんですけど‥‥
糸井 あるんですか!
染五郎 うん、でももっとコアなね、
それこそ音効さんの指先だったりとか。
糸井 見たいですねえ。
何ていうんだろう、さっき言った
「モニターがワーッとあって宇宙基地みたいですよ」
っていうのとかも‥‥
染五郎 いや、ビックリしましたね、あれ。
ある意味カッコよかったですけどね。
糸井 出演者が驚いてるんだから、
その関係者じゃない人は驚くに決まってますよね。
染五郎 舞台自体もそうですけど
完成されてるものを見ると、
もうそういうものだと思っちゃうんですけど、
ひとつ引いて考えると、
どうやってんのっていうところありますよね。
糸井 いや、恐ろしいですよ。
ひとつ部品なくなっただけで
やっぱり機械って動かなくなっちゃうわけで、
(お芝居は)もしその部品が壊れても、
だれか補うわけでしょう?
さっきの水没マイクみたいな(笑)。
それはねえ、とくに今チームプレーで
やってることについては、
みんな興味あるんじゃないですか。
染五郎 そうでしょうねえ。
糸井 ひとりで語りきれないものは
やっぱり面白いですよ。
染五郎 すべてゼロからですからね。
糸井 そうですよ。そうですよ。
染五郎 なぜ古田さんの髪型が
こうなったのかっていう(笑)、
それひとつだけでもなかなか深いものがあると。
糸井 何かのスケッチがあって
人に伝達しなければダメですよね。
染五郎 ええ、ええ。
糸井 それをひとりずつやってんですよね(笑)。
とんでもないことですよね。
単純に、セリフしゃべってないときの
人の顔が見えてるだけでも面白いですからね。
染五郎 以前のDVDには確かにありました。
僕もけっこう人が芝居してるとき
休んでたりするので、
その顔を拾われてるとこありましたね。
糸井 ああ、そうですか。
でも、それはお客さんからすると、
拾えた面白さありますけどね。それはそれで。
染五郎 まあ、このDVDでないと
わからないはずなんですよ。
実際舞台見てると、
やっぱり芝居のほうに目は絶対行ってるはずなんで、
そのときは狙って一息ついてます、舞台に立ってても。
糸井 それ、わかりにくいような
表情の仕方とかがあるわけでしょう?
染五郎 ありますね、けっこう。
糸井 休んでるのがわかりにくい顔。
つまり、授業中寝ててもわかりにくい
肘のつき方みたいな(笑)。
染五郎 ありますね(笑)。

糸井 でも、それはパターン化しちゃうから
バレますよね。
染五郎 バレますねえ。
で、これだけ(カメラにズームで)寄られれば、
バレバレになるんですよね。
糸井 面白いなあ。暗い場面の暗さも映ってるしなあ。
染五郎 稽古のときはどうしようもなく古田さんがおかしくて、
何かしてもおかしいんですけど、
しなきゃしないでおかしいんですよ。
「あ、何もしない」っていうおかしさだったり(笑)、
「何か絶対するんじゃないか」
っていうおかしさだったり、
もう先乗りで笑っちゃったりするんですけど‥‥
糸井 あるあるあるある。
染五郎 秋山菜津子さんは絶対笑わないですね。
何があっても笑わないです。
「おかしかったよね」ってあとで言うんですけど。
糸井 一般的に女性ってふかないでしょ。
染五郎 ああ、そうですねえ。
糸井 女性って没頭しますよね、いろんな場面で。
染五郎 あ、それあるかも。
真木よう子さんも最初のほうのシーンで
村木仁さんのやってること、
僕は後ろを向いているので
まともに笑っちゃったりしたんです。
真木さんは客席に向いてるんで
絶対笑ったらバレるんです‥‥けど、
笑ってないですね。
糸井 それはね、何かあると思うんですよね。
つまり‥‥どう言ったらいいでしょうかね。
男と女で人に見られては困るような場面で、
もし泥棒がガタガタッといったときに、
男は気づきますよね。
そういう動物なんでしょうね。
染五郎 ああ‥‥。
糸井 集中しないとダメなんですよ、女は。
ふいちゃうっていうのはやっぱり、
何か夢中になってるときに
もうひとつ警戒信号を
持ってるせいなんですよ、きっと。
染五郎 何か持ってんですかねえ。
糸井 だから、ふいちゃうタイプの女の人って
男っぽい人でしょ?
染五郎 ああ、そうですかね。
糸井 うん。俺は、それはそう思うなあ。
女らしい人はふかないですよ。
染五郎 なるほどねえ。
糸井 って俺が決め付けていいのかどうか
知りませんけどね。
お笑いに入っていく人とかって、
やっぱり男の感性持ってる人が多いですよね。
客観的に何が面白いのかみたいな。
でも、女の人の特性は
やっぱり没頭できるって面白さですから。
染五郎 できる。いや、もう秋山さんなんて最たる人ですね。
まったくですね。
で、おかしかったのはおかしいと思ってるんですよ。
あとで言ったりするんですよ。
糸井 「あのときそうでしょ?」
みたいなことは言えるわけでしょ?
染五郎 「おかしかったよね。もう、たまんないよね」
とかって言われたりするんですけど、
なんで平気な顔で
芝居できるんだっていう気がして。
糸井 危ないようなとこ飛び降りなさいっていうのでも、
男だと「どのぐらいの角度で降りたら大丈夫かな」
とかってものすごい考えても、
女の人だったらポンと行っちゃうような
気がするんですよ。
「飛び降りる役だから」みたいな。
やっぱり染五郎さんって
一番いっぱい考えるタイプの‥‥
染五郎 けっこういろんなこと考えますね。
糸井 うん、だから、表情の中に、
何ていうんだろうな、
ちょっと笑いが含んでるみたいな感じっていうのは、
そのいっぱい考えるっていう
表情なんだと思うんだよね(笑)。
それはちょっと楽しいですね、
そういう人が主役やってるときっていうのは。
あんまり夢中に一途な顔されても、
つまんないんですよね、広がりがなくて(笑)。
染五郎 ああ、なるほどねえ。
糸井 僕はいくつか染五郎さんの舞台見てるけど、
この人の天性の含み笑いな感じっていうのは(笑)、
僕はファンですね。
古田さんもそうじゃないですか。
多分それは色気にも通じるし。
染五郎 そうですね。
糸井 女の人でそれがあると不気味ですよね。
含み笑いのある真剣な女なんていないですよね。
もっと一途で来てほしいですね、ピュアで。
染五郎 ああ、なるほどね、そうですね。
糸井 ちょっと笑ってんだよねえ、目が(笑)。
そういう人が今、なんかわりに
大事にされてるような気が、僕はするなあ。
染五郎 うんうんうんうん。
糸井 何ていうんだろう、
客観性を含んでる、批評的な芝居っていうのかな。
「間違ってるかもしれないけど、
 俺はこれを選んだんだよ」みたいな。
それはもう文章なんかでもそうだし、
ムキになって一途になって原理主義的になっちゃうと、
入っていきようがない(笑)。
染五郎 そうですね。確かにそういう
何となく隙間、隙っていうか、
あったほうに魅力を感じるかもしれない。
糸井 一緒に楽しみましょうっていうかね(笑)。
真剣ですよ、女性は。
染五郎 (画面に真木よう子さんが出てくる)
真木さんですね、真木さん。
カッコいいんですよね。
すごい小柄で、もう本当にちっちゃい。
顔なんかメチャクチャちっちゃいんですけど、
鋭いんですよね。シャープですよね。
糸井 このキャスティングを振った目はいいですねえ。
キャスティングした人。
染五郎 いやあ、すごいですね。
本当にそれはいつも思いますね、
新感線のお芝居って。
糸井 あ、そうですね。
染五郎 あ、こういう人いたんだっていうような感じで。
ういのうえさんのお芝居って
カッコいい女性っていう役が多いんで、
そういう意味ではいつも楽しみですよね。
糸井 男の脆さよりも女の演じる脆さみたいな、
強くて鋭くて脆いみたいな人は
女が演じてますよね。
それ逆ですよね、一般的にはね。
染五郎 そうですね。
もうすぐ1幕が終わりに近づいてまいりました。
糸井 そうか。
もう聞いておくことはなかったかな(笑)。
いや、稽古場とか裏方の話を
いっぱい聞けたのが面白かったです。
染五郎 本当に、本当にやっぱり総合的に、
もうそれぞれいろんなパートからの集結作品ですね。
糸井 そうですね。あ、終わる、本当に。
染五郎 終わりますねえ。
これで休憩に入るんですけど、
このあと支度があるので
僕はほとんど休憩時間ないんですよね。
糸井 ほう。最後の力を今1回振り絞ってますよね。
うわあ。‥‥舌と剣がつながっているっていうのも
面白いよね。
剣に動かされていたはずなのに
上手になっていくみたいな。
ウソにフィットしていくわけですよね。
染五郎 これも殺陣の方に付けていただいたんですけど、
なかなかね、難しいです。
糸井 それは役者としてはやりがいあったでしょう。
染五郎 やりがい、ありましたね。
すごい難しいですけど、
それができればと思ってやってまいりました‥‥
さあ、これで1幕が終わりまして、
本当に糸井さん、1幕の副音声ということで、
ほんとうにどうもありがとうございました。
糸井 お邪魔しました。
歌舞伎の人は体が丈夫だと思うけど、
染五郎さん、こんなたいへんなお芝居が
できるんだから、やっぱり丈夫ですね。
染五郎 (笑)はい。





2008-01-15-TUE

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN