香りでおちつけ 麻布香雅堂と作る、ほぼ日の「おちつけ」香袋。 香りでおちつけ 麻布香雅堂と作る、ほぼ日の「おちつけ」香袋。
ほぼ日の「おちつけ」に新商品ができました。
こんどのアイテムは、香りです。

インド産の白檀と天然素材の漢薬をブレンドし、
「おちつけ」の香りを追求した香袋(こうぶくろ)。
鼻を近づければ、穏やかな香りがふわり。
袋には石川九楊さんの書を、織りで表現しています。

ほぼ日の「おちつけ」が持つイメージから
独自の配合をされた麻布香雅堂の山田悠介さんに、
香袋ができるまで、香袋ができてからの
2回にわたってインタビューをしました。
[完成編]わたしに届く「おちつけ」の香り
──
前回の打ち合わせから約半年、
サンプルのやりとりを重ねて
ほぼ日の「おちつけ」香袋が完成しました!
山田
いやあ、できましたねえ!
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──
提案いただいた香りを嗅き比べて、
イメージに合う方向を選んで絞り込みました。
ウェブでお買い物するかたにとって
香りは想像しづらいと思うので、
改めて山田さんに解説をお願いしたいです。
山田
はい、かしこまりました。
ほぼ日さんからいただいた要望の中でも
「自ら香りを嗅ぎにいく」と
おっしゃっていたのが特に印象的で、
普段わたしたちが作る匂い袋と役割が違うんですよ。
一般的な匂い袋の場合は、
もっと広い範囲まで香らせるのが前提にあって、
香りも相対的に強くなります。
けれど、ほぼ日さんがイメージする用途ですと、
お守りのように手に収まる大きさになりますし、
中に入れている原料を見ても納得感があります。
──
袋の中に入っている香木や漢薬は、
天然の原料100%になりましたよね。
まずベースは「白檀(びゃくだん)」。
山田
インド産の白檀を使用しています。
匂い袋、香り袋づくりでは馴染み深い香木ですね。
今回の場合、白檀は全体の3割ぐらいです。
白檀の香りを端的に言うと、
和の香りの中で一番「いい香り」と
言ってしまってもいいかもしれません。
単体で香りを嗅いでも心地よく、ぼくらの分類では
「香木」と「その他のスパイス」と分けるぐらい。
エッセンシャルオイルを抽出したり、
希釈したりしなくても単体でいい香りがします。
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──
お寺や神社のおちつく香りは、
まさにこの白檀の香り。
山田
お寺の本堂や神社の境内、
いずれかで焚いているお香の香りが
みなさんが想像する香りのイメージだと思います。
白檀はお線香のベースとしても使われますし。
──
白檀をベースに、あとはスパイスとして
漢薬を混ぜていったわけですよね。
山田
香袋を作るときは、いくつかのジャンルに分けられます。
香道的、伝統的、現代的、革新的など、
香料には種類がたくさんあるので、
「おちつけ」の香りを作るにあたって、
ほぼ日さんがお持ちのイメージが、
いい意味での制約となって絞れていきました。
最初に提案させていただいたものが、
香木と漢薬だけの香りか、
そこにエッセンシャルオイルを加えた香りか。
あまり決めつけてもよくないので、
どういうふうにお考えかなとお聞きしながら、
香木と漢薬のみの伝統的なほうを選ばれました。



ジャンルが決まってくると解像度が高くなって、
使うときのシーンに合わせられるようになります。
この香料は使うべきだとか、
逆にこれは使うべきではないだとか、
お話を伺いながらどんどん絞っていくんです。
それでもまだ言葉で表現できない認識の幅があって、
我々が解釈したサンプルを試していただきました。
──
鼻先に近づけたときに、
ふんわりと香ってくるような強さという
リクエストをしましたよね。
嗅ぎ比べてみて、オイルを使うものよりも
香木と漢薬のみのほうがしっくりきました。
山田
精油は揮発性が高いので、
同じ量だとしても香りは強くなりますね。
一方で、香木と漢薬のみのブレンドは揮発性が低いです。
その分、ずっと香るんじゃないでしょうか。
すこしは弱まるでしょうが、かなり緩やかです。
強く香らせたいときには、袋を揉んであげれば
空気が循環して香りがフワッとして、
何度でも何度でも蘇る印象です。
買い替えなくても結構いけちゃうはずです。
──
長く使えるのはうれしいですね。
今回のブレンドに使われている漢薬の
特徴を教えていただけますか。
山田
今回のブレンドで使った名前を挙げると、
「白檀」「桂皮」「山奈」「安息香」
「藿香」「大茴香」「薄荷」です。



まず、「桂皮(けいひ)」はシナモン。
シナモンティーなどお料理に使われるので、
身近で想像しやすい香りじゃないでしょうか。
「山奈(さんな)」は生姜に近いですね。
根っこの部分なんかはそっくり。
山奈は香りをたのしむ目的もありますが、
防虫効果が高いんです。
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──
聞き慣れない名前でしたが、
たしかにスライスした生姜のようです。
山田
次に「安息香(あんそくこう)」ですね。
安まる息の香りという文字からも
リラックスできそうな名前ですよね。
エゴノキ科の樹木から
分泌される樹脂分を使用しています。
──
安息香、おちつきそうな名前です。
山田
「藿香(かっこう)」は
シソ科の植物の葉っぱを乾燥させたもので、
土や墨汁みたいな香りがします。
洋風の名前では「パチュリ」と呼ばれて、
精油としても使われます。
つづいて「大茴香(だいういきょう)」。
これは、豚の角煮にも使われる「八角」ですね。
漢薬はお料理に使うものが多かったりします。
大茴香は香りが強いので、ちょっと少なめ。
あとはみなさんご存知の「薄荷(ハッカ)」です。
──
ありがとうございます。
ブレンドの鍵になったのはどれでしょう。
山田
今回のポイントは「藿香」や「薄荷」ですね。
これらをやや多めに入れることで、
基本的に優しくなるんです。
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──
香りが優しくなる?
山田
「薄荷」ってスーッとする香りをイメージしますよね。
アメとかガムのハッカ味だと、
むしろ強い印象になるかもしれません。
でも、和の香りで使う漢薬って、
薄荷以上にもっともっと強いんですよ。
逆に、強い香りの「龍脳」という葉っぱを入れたら
気持ちを切り替えるという効果もあるかな、
とも思ったんです。
でも、最初に3種類のサンプルを作った中で、
ただひとつ「龍脳」を使わなかったものを
ほぼ日さんはお選びになったんです。
じつは、そこが大きな別れ道でした。
──
そうだったのですね。
ただ、一般的な匂い袋だったら
龍脳の香りを使うことも普通なんですよね。
山田
はい、よく使われます。
特有の甘さを出してくれるんです。
──
「おちつけ」というテーマで香りを作ったことは、
これまでにもありましたか。
山田
「おちつく香りを作りたい」というご依頼は、
今までにないかもしれません。
部分的には入っているかもしれませんが、
通常はもうちょっと一般的というか、
幅広いターゲットを意識してつくることが多いんです。
たとえば、旅館やリゾートホテルの
エントランスで焚き続けるお香ですとか。
──
空間で香りを印象づける感じですね。
山田
あとは、時計ブランドで
それぞれのラインからイメージした香りや、
お化粧品として、和の香りを作るなど。
それぞれに「おちつけ」という要素は
含まれているのかもしれませんが、
これだけ全面的に「おちつくこと」だけを
目的にしたオーダーは珍しいですよ。
じつにほぼ日さんらしい、
かなり尖ったオーダーと言えます。
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──
具体的ななものがあるわけではなく、
「おちつけ」という言葉ですもんね。
山田
それから、仮に「おちつけ」の香りを
作りたいかたが他にいたとしても、
意外とかぶらないんじゃないかと思います。
ぼくたちが香りを作るときって、
いろんな情報を元にして香料に反映するので。
当然「おちつけ」の書から第一印象を受けますが、
その他にも、サイトにある富士山の写真や、
掲載されているコンテンツなどから影響を受けます。
仮に、まったく違うブランドから
「おちつく香りを作りたい」と依頼されたとしても、
全然違った香りになると思います。
──
たとえば、わたしたちが情報を持っていなくて、
ぼんやりとしたイメージで依頼していたら
困難な課題になったかもしれないですね。
山田
そうです、そうです。
抽象度合いが高くなるほど、
「『おちつけ』って言われてもわからない」
となってしまったんじゃないでしょうか。
サンプルをたくさん作ればイメージに近づくので、
作ることはできるのですが、
非常にたいへんな作業になるでしょうね。
──
これまで続けてきたことが
香りのイメージ作りにも役立っていたんですね。
あとは、自分だけに香ってくるぐらいの強さも、
調整いただきました。
山田
この香袋は本当に「自分だけの香り」という感じです。
カバンに入れておいて
周りの人が「おちつけ」の香りを感じるかというと、
おそらく感じないと思います。
ジャケットの内ポケットに入れていたら、
鼻に近いので、空気の流れでふわ~っと
香ることはあるかもしれません。
ただ、それでも香りが強すぎるわけではないです。
これが普通の匂い袋だったら、
香りが強すぎて周りにも影響があると思いますが。
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──
香りが強いと、香水みたいになりそうですね。
この香袋のブレンドは、
どんなときに嗅ぐといいのでしょうか。
山田
まさしく「おちつけ」がほしいときに。
ベースとして使われてる白檀は、
鎮静効果をもつといわれています。
もうひとつ、古くから伝わるお香の効能をまとめた
「香十徳(こうじっとく)」という教えがありまして。
──
香十徳。
山田
お香には10個のいいことがあるという漢詩を、
一休さんが日本に伝えたといわれています。
その香十徳の中に
「感覚を研ぎ澄ませる」効能があるんですよ。
ブレンドされた漢薬のどれがというより、
お香全般が持っている、
昔から信じられてきた効能のひとつです。
さらに言えば、香十徳の中には
「よく眠りを覚ます」というものもあります。
たしかにおちつくんだけれど、眠くなるというより、
どちらかというと気分がパッと切り替わるような。
──
はじめてお香を持つ方でも、
香りの癖が強すぎない分、
持ちやすいかもしれませんね。
山田
たしかに、和の香りを作っている中でも、
この香袋はいい意味で変わっているんです。
「おちつけ」の香袋をいい香りだと感じても、
一般的な香袋は別物に感じるかもしれません。
ぼくの中では、この香袋は
かなりストイックなんですよ。
──
ストイック?
山田
というのも、一般的な香袋では、
甘味料みたいなものをしっかり入れることで、
親しみやすく、心地よく感じるんです。
「おちつけ」の香袋の場合はまた別のベクトルで、
親しみにくいわけではないんですけど、
甘くもないし、天然素材100%ですし、
とても真面目で、純粋な印象が強いです。
そこがすごく、ほぼ日さんらしいと思いますね。
「おちつけ」というコンセプトはもちろんありつつ、
ほぼ日が作るとこうなるんだなっていうのは、
ぼくが思うブランドイメージと合っていました。
「香袋」っていう言葉選びをされたのも、
お土産物屋さんで買う甘い香りの匂い袋とは
違った印象としてうまくはまっていると思います。
ほぼ日さんらしいという香り。
絶対にこんな香りは売ってないです。
──
あ、ほかにはない香りですか。
山田
絶対、それはもうお約束します。
どのお店に行っても、
こういうタイプの香袋は売っていないです。
個人的な趣味で作るかたはいるかもしれませんが、
お店で、ビジネスとして作られる匂い袋には、
絶対こういう香りはありません。
すっごい特別な、ストイックな香りです。
甘さ少なめ、少なめっていうかほぼないぐらい。
でもそこが、今回のコンセプトに合っています。
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──
いや、自信を持っておすすめできそうです。
これからの時期、贈り物にもよさそうです。
山田
この香袋は贈り物にしたときに、
好みを選ばないと思うんですよね。
相手の好きな香りを知っていれば
癖の強いタイプでも構わないのですが、
「おちつけ」の香袋でしたら、
刺激が少ない分、苦手だなって思われにくいんです。
これが精油を使ったものだと、
どうしても香りの癖が強く出るので、
好きな人はすっごい好きなんですが、
贈り物としてはあまり選びにくいのかなと。
──
香りが強いと好みがわかれますもんね。
これから緊張する場面を控えた方への
プレゼントにもよさそうです。
山田
たしかに、応援になりそうです。
ぼくも大事なプレゼンを控えた友達に
今度贈ってみます。
あとは天然素材100%のものなので、
化学的な香料を気にされる方でも
喜んでいただけるかもしれませんね。
──
この香りを嗅いだみなさんが、
どんな反応をされるかたのしみです。
山田
反応、とても聞きたいです。
機会があれば教えてください。
──
ほぼ日ストアと、ほぼ日のTOBICHI、
それから麻布香雅堂さんの店頭での限定販売です。
発売を、ぜひおたのしみに!
(おわります)
2021-12-14-TUE
ほぼ日の「おちつけ」香袋、
12月15日(水)
午前11時より発売です。
ほぼ日の「おちつけ」グッズの新アイテム
「おちつけ」香袋は、12月15日より
ほぼ日ストアとTOBICHI、
麻布香雅堂の店頭で発売になります。

眠気を覚まし、感覚を研ぎ澄ませると
古来から信じられてきた香木を
麻布香雅堂との独自配合でブレンド。
お使いのポーチやカバンに入れておき、
鼻先に近づければ、穏やかな香りがふわり。

袋は石川九楊さんによる「おちつけ」の書を
生地の織りによって細部まで表現しました。
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ほぼ日の「おちつけ」香袋

1,760円(税込・配送手数料別)
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