小倉充子さんと、江戸のきもの。江戸型染作家の小倉充子(おぐら・みつこ)さん。
型染という手法で、江戸の風俗を、浴衣や、
下駄の鼻緒、手ぬぐいなどに描きだします。
小倉さんの描く江戸は、
まるで「いま、ちょっとそこで見てきた」みたいで、
しかも、ほかにはないオリジナル。
小倉さんの浴衣を着て下駄を履き、夏の東京を歩くと、
「ああ、ここは、江戸とつながってるんだなぁ」
なんて思ったりして。
もしかしたら小倉さんって、江戸と行き来できる
からくり下駄を持っているのかもしれません。

5月9日から大橋歩さんの
「イオグラフィックギャラリー」で開かれる個展を前に、
小倉さんの工房におじゃましてきました。
型染のこと、神保町の実家のこと、
そして、大好きな江戸のこと、
いろいろ、聞いてきましたよ。

第五回 いま、やりたいこと。これからやりたいこと。


数回にわたって
レポートさせてもらった小倉充子さん。
決して多作な作家ではありませんが、
今年は5月に個展が開かれます。
一体、どんな作品が並ぶんでしょうか?!
現在の彼女の想いを訊ねてみました。


パッチワーク? いろは歌?

『小倉充子さんの浴衣展』が
2009年5月、東京・世田谷にある、
イオグラフィックギャラリーにて開催されます。

「今回は、浴衣、鼻緒、手ぬぐいを展示し、
 浴衣は10点くらいの新作を
 発表する予定でいます」

新作は、どんな感じになるんでしょう?

「古典柄の手ぬぐいのパターンを使って、
 パッチワーク状に見立てて、
 染め上げようと考えています。
 私、『かまわぬ』とか『吉原つなぎ』などの
 いわゆる定番の江戸柄って、とても好きなんですが、
 それをそのままつくることはしていないんです。
 でも、いろいろ私なりの工夫でやってみたいなぁって、
 試行錯誤をしているところです」

なるほど、パッチワークの手ぬぐい柄。
何だか、聞いているだけで、
いろいろなイメージが頭に浮かんできて、
楽しい気持ちになってきます。
さらにこの取材をした龍ヶ崎のアトリエで、
「ほぼ日」乗組員一行が見つけたのは、
何やら物語が感じられる柄の浴衣でした。
文字と、柄が、絡み合っているようで、
パッと見ただけでは、
なかなかその意味が思い浮かばない。
でも、よくよく目をこらしてみると、
「ああ、なるほど!」と
合点のいくカラクリが仕掛けられている。

「そう、これは『判じ絵』です」

判じ絵というのは
文字と絵の組み合わせの謎をとく、
江戸の、同音異義語の遊びです。

「これは、『ゑひもせす』という
 いろは歌にモチーフを取った柄です。
 『ゑ』は、『海老で鯛を釣る』
 『ひ』は、『瓢箪から駒』
 『も』は、『持ったが病の三道楽』
 『せ』は、『背に腹は代えられず』
 『す』は、『雀百まで踊り忘れず』です」

なるほど!
その図案の構図も、ダイナミック。
ちなみに、もとになっている文字は、
橘流寄席文字書家の橘右門さんが書いたものです。
右門さんと小倉さんは、
2年前からコラボ作品をつくっているんです。

そんな小倉さんの最新作が、
いろいろ見られるというのは、
何とも楽しみです。

この小倉さんの江戸型染の個展では、
作品を購入することができます。
価格は、浴衣なら、生地と染めにもよりますが
反物で7〜8万円程度、
それに2万円ほど、仕立て代がかかります。
展示作品は、ほとんどが一点ものです。
追加生産は、小倉さんが制作できる分だけ、
注文を受け付けます。
「基本的にひとりでつくっていますから、
 数に限りがあって‥‥」
何年待ってもいいから、と
おっしゃってくださる方もいるそうですが、
お断りをせざるをえないことも。
基本的には小倉さんが在廊して接客にあたりますので、
遠慮なくお声掛けしてほしいとのことでした。


とにかく浮いていればいい

最後に、小倉さんに、今後のことについて、
聞いてみたいと思います。
小倉さん、夢や今後の抱負なんて、ありますか?

「そうですねぇ。
 夢としては、決して叶いませんけど、
 葛飾北斎先生に自分の作品を見てもらいたい、
 ほめてもらいたい、というのはありますよね。
 江戸時代に生きていたら、
 絶対に見せに訪ねてました。
 で、将来の抱負かぁ、難しいなぁ‥‥。
 『瓢箪の川流れ』っていうのがあるでしょ?
 とりあえず浮いていれば、
 きっとどこかにたどり着くんだろうな。
 そんな風に思ってるかな」

何とも‥‥江戸っ子らしいとしか言いようがないです。
もしかしたら、「ウェットな諦め」って、
小倉さんの感覚の中心に
あるものなのかもしれないですね。
どうも、ありがとうございました!

text by SUZUKI Takafumi + TAKEI Yoshiaki


2009-05-12-TUE

前の回へ
トップへ

(C)hobo nikkan itoi shinbun