ルディー |
日本の製造業って、極めて職人芸で、
だんだん、だんだん極めていきますよね。
それはほんとにすばらしいことだと思うんですけど、
やっぱり、その一方で、
ブランド作りというのを、
ずっとしていかなきゃならないはずで。 |
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糸井 |
うん。 |
ルディー |
たとえばパナソニックや、
ソニーのテレビだとして、
消費者の理解できる技術っていうのは、
もうだいたい、ここまで来たら
終わりだというレベルってあるじゃないですか。
それ以上はやっぱりブランドとか、
ストーリーとか、
そういうのがやっぱり
想像力をかきたてるわけであると。
いくら作ってる本人が、
技術的に、いい、いい、って言ったって、
消費者にわからなければ
しょうがないじゃないか。
そういう世界的消費者調査があったんですけど、
ほんとにそうだと思う。 |
糸井 |
そうですよね。
消費者が社会を動かすっていうことが、
理屈ではもう何年も前から言われています。
学者はさんざん言ってますよね、
消費社会って。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
なのに、それを信じてる人が
ぼくは少ないんだと思うんですよ。 |
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ルディー |
で、企業は「顧客寄り」とか、
「顧客志向」って言うんですけど、
一体何を顧客志向って言ってるのか
ぜんぜんわからないんですよね。 |
糸井 |
そう。作ってる側には、
「ホントに、俺は欲しいのか?」
っていう疑問さえも、ないですよね。
だけどもうちょっとでね、
作り手と消費者の間を留めてる堰がね、
壊れてくれるような気がして。
壊れないうちに、
ぼくらが蓋開けてみたい、
って気がするんだけれど、
なかなか難しいですね。 |
ルディー |
いや、わたしはそこのレベルまで
ぜんぜんいってないです(笑)。 |
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糸井 |
ルディーさんは
エスティ ローダーにいるときには、
そうやって研究なさってることを
実践で試せたわけですよね。
いまは、話したり教えたりする立場ですが、
試す機会っていうのはあるんですか。
「ほらね」っていう。 |
ルディー |
あんまりないんですけど、
例えばプロジェクトの人たちに
話をしてほしいっていうときに、
その人の声を聞きますよね。
そのときに、
「ああそうなんだ、
こういうことで困ってるんだ」と。
それから、教えてるのも、
早稲田は、社会人のMBAなので、
みなさん社会人として、いろいろ問題を抱えている。
そういう人たちの声を聞いたりとか、
現場を感じ取るなかで、
「ほらね」を共有しているかもしれません。
コミュニケーションの中から知る、
という感じですね。 |
糸井 |
自分のことで言うと、
ぼくらはすごく小さな規模だけど、
全部実践できちゃう場所にいるんです。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
「あのときは、普段言ってることと、
ちがうことをやってたな」
っていうものは、必ず失敗するんですよ。
作り手都合で考えたことっていうのが、
もう数字やら反応に、ほんとによく現れる。
しょっちゅう「作り手都合で考えるな」
って言ってるのに、
やっちゃうんだよね、って後で笑うんですけど。
だから、その中で、さらに大胆な実験も
できるんじゃないかとか。
そういうことを、いまは、やりはじめてます。
リスクがあってやることだから、
零細企業としては、大変なんですけど。 |
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ルディー |
はい。 |
糸井 |
でもまぁ、逆に言えば小さい企業だから
たかが知れてるんで、
試してるのはおもしろいですよ。 |
ルディー |
そうだと思います。 |
糸井 |
アメリカにいらしたその短い期間っていうのは、
どんなことをなさっていたんですか。 |
ルディー |
大学の経理部で働いてました(笑)。 |
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糸井 |
へぇ! |
ルディー |
結婚したてのときだったので、
英語もあまりよくわからなくて、
仕事もないし、困ったなと思っていたんです。
亡くなった主人が大学院に行くので、
私も同じ大学の職員の試験を受けたら
いままでの受験生のなかで、いちばん算数が良かったと
採用になりました。
日本人って算数すごいって(笑)。
それだけで経理部に入って、
大学の寄付金なんかの
経理をやってました。 |
糸井 |
はははは。
特に日本で得意だったわけじゃ?
数学の勉強をなさっていたんですか。 |
ルディー |
算数は、まぁまぁですけど。
それこそ、ほんとに暗算が
上手だったんだと思うんですよね。
幾何とか、全然わかりませんから。 |
糸井 |
ははは。
もともと何の勉強なさってたんですか。 |
ルディー |
最初はドイツ文学なんですよ。
いやいやもう、脳天気な学生で。 |
糸井 |
全然ちがうんだ! |
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ルディー |
それで、日本に帰ってきて働きはじめてから、
やっぱり、資格がないといけないと思って、
大学に行って経済をやって。 |
糸井 |
おもしろーい。
生きるために身につけたことなんですか、
あとで勉強したことは。 |
ルディー |
そうですね。働くためですね。
働きはじめて、これじゃ、
ちょっと上に上がれないなと。 |
糸井 |
ちょっとおもしろいですね、その辺。
興味のあることをやるのが好きで、
もう一個は食うために働かなきゃなんないし。
この二本立てですね。 |
ルディー |
ただ、マーケティングはやっぱり好きです。
買い物が好きな消費者なんです。
ほんとに目一杯消費者だったので、
マーケティングは人間研究って感じで、
とにかく好きだった。
それに、当時のことですから、
女性で仕事である程度、っていうと、
マーケティングがいちばんよかったんです。
エスティ ローダーの試験に通れたのは、
やっぱり、女性だったからだと思います。
化粧品会社ですから(笑)。
それでもう、マーケティング一筋、
っていうふうになったんですけど。 |
糸井 |
いや、そのこと自体がおもしろい。
ご主人はどんなことをなさっていたんだろう。 |
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ルディー |
もともとは、人類学です。
ほんとは、大学で博士号を取ろう、
ってぐらいだったんですけど、
日本に来ていろいろやってたら、
仕事がおもしろいからといって、
自分で会社作ったりして。
たぶんそのとき、主人から人類学を
聞きかじっていたことが、
この本を書くにあたって、出てきたかな。
乗り移られたかなって感じも、
ちょっとするんですけども。 |
糸井 |
すっごく総合的ですね。
もともとドイツ文学だったって聞いて、
それはそれで、納得できますね。
マーケティングもなにも、
ものすごく大きいくくりで言うと哲学ですもんね。 |
ルディー |
そうですね。
人間のことを考えるってことなんで。 |
糸井 |
自分とは何か、だし、
人間とは何か、だし。
そこで、道具として
いろんなものが現れてくるだけで。 |
ルディー |
自分でもいろいろ文献を読んで、
周りの人間を見てみると、
「ああ、あの人ほんとに、
全然、いわゆる衝動とかなんかを、
コントロールする
論理的思考のない人だったんだ」とか、
「やっぱりいるんだ、そういう人、いっぱい」
とか思えてきて、
余計おもしろくなっちゃって。 |
糸井 |
おさる同士ですよね。
ぼくはそれをもうちょっと、
おさるじゃない状態で、
よく例えで考えたのは、
中学校の教室なんですよ。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
中学校の教室で、
どんな場所で、どんな顔してたかっていうの、
その人を見るとだいたい
わかるじゃないですか。 |
ルディー |
はいはいはい。 |
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糸井 |
「どうせそんなやつなんだよ」って思うと、
その後に博士になろうが大臣になろうが、
中学校の教室でガリ勉の場所に
いたやつが多いんですよ。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
そうすると、
すっごい楽なんですよ。
それは、おさるで見るのとおんなじですよね。 |
ルディー |
おなじですね。
基本的に、ほんとに、
お金のことなんか、
まさに、ほんとに、変わってませんね、全然。 |
糸井 |
この話って、絶対お金の話の周辺ですから。
力のやりとりっていうのが、
人間と人間との関係性ですから。
弱い力も、強い力も、
力のやりとりですから、
そのときに、お金という力のやりとりを
してるんだよねっていうことを、
ぼくは、ルディーさんの本を、
ああ、興味あるのはその辺なんだろうな、
この人は、って思いながら
読んでたんです。
ということで、お金の話に入りましょうか。
(つづきます) |