ルールを原始的に。 ルディー和子さんと、お金と性と消費の話。
 
第3回 行動経済学よりずっと前に。
ルディー 不安の時代って、
ある意味では、消費者の側の気持ち、
消費者の不安な気持ちを
考えなきゃいけないけれども、
でも、不安な消費者と一緒になっていると、
経営ってできないんですね。
糸井 うん。
ルディー それで、すごくいい企業だなと思ったのが、
「進研ゼミ」ってありますよね。
糸井 はいはい。ベネッセ。
ルディー そのマーケティングの担当の方が言ってたのは、
受験生というのはもともと不安であると。
糸井 なるほど。
ルディー 普通でも第一志望、第二志望で
迷って不安なのに、
経済危機で両親お金がない、
浪人できないから、よけい迷う。
そのときに、マーケティングの人が、
「迷っている、不安な人間を
 優しく励ましてもダメだ」と言うんです。
こういうときは強く言ったほうがいいんだよと。
「攻め」と表現していたんですけれど。
糸井 ほうほう。
ルディー ウェブサイトを見ると書いてあったのが、
迷ってないか、流されてないか、
もっと強気で宣言しろ、と。
もう決めなさい、と。
第一志望の大学に行くと
みんなの前で言っちゃいなさい、と。
そういうふうに強く言ったほうが、
不安な受験生はかえって安心して、
「もう決めちゃったんだから迷わず勉強しよう」
っていう感じになって、いいんだそうです。
糸井 うんうん。
ルディー 不確実な時代とか、
不安な時代っていうのは、
やっぱり、消費者の気持ちがわかった上で、
それに同調するんじゃなくて、反対に、
強く、命令した方がいいんだなと、
ちょっと思ったりしたんです。
糸井 それは、無意識でぼくらもやってますね。
いろんな人がいるからって言って、
いろんなものをメニューに出しちゃうと、
結局のところ一緒に迷うだけになっちゃう。
何食うんだ、っていうときと同じで、
あれもいいね、これもいいねじゃなくて、
オレは蕎麦に行くぞ、って言うしかない。
絞って、ぶつけるみたいにしないと。
それはちょっと実感しますね。
ルディー 通信販売というのは
注文してもらわないと成り立たないので、
コピーの書き方とか、特典とか、
いろいろテストをするんです。で、
そういったテストの結果、
わかっていたことって、
行動経済学などの論文にあることと
似ているんですよ。
選択肢は少なくてもいけないけど
多すぎてもいけないとか。
糸井 いま行動経済学って流行っちゃってるから、
最先端に聞こえるんだけれど、
大昔から、そうですよね(笑)。
ルディー そうなんです。
行動経済学の論文は、
2002年にノーベル経済学賞(*)を
もらってますけど、
通信販売の人たちって
100年以上その理論を実践してやってるんですよね。

*ダニエル・カーネマンが
 アルフレッド・ノーベル記念経済学
 スウェーデン国立銀行賞を受賞。

糸井 とっくに(笑)。
ルディー それをちゃんと論文に書いて、
きちんとしたジャーナルに出してたら、
賞をもらえたのにね、って。
糸井 うんうん。
大学で教えないジャンルの学問っていうのは、
異端児みたいに扱われちゃうんですよね。
でも、アメリカは、ましですよ。
日本がいちばんやっぱり、
大学の教科に合わせた論文しか求めてないから、
「それはおもしろいなぁ!」
「そうに決まってるじゃないか!」
っていうのが、出てこないですよね。
ルディー そうですよねぇ。
大学って、新しいことは
教えちゃいけないような感じです。
これだけ新しく、
脳の仕組みがわかってきてるのに、
それを売ることにつなげて教える人って、
全然いないんですよね。
それこそ異端児になっちゃいます。
糸井 ルディーさんもそうですか。
ルディー いや、わたしは非常勤ですから、
異端児でも、全然平気。
糸井 異端児でスタートできるんですか。
ルディー できるんです。
もしもわたしがほんとに
大学の組織に入っていたら、きっと、
すごくたいへんだと思います。
糸井 ぼくは、自分が広告をやってきた人間だから、
大学の先生が言ってる広告の理論だとか、
教えてることっていうのが
どのくらいとんちんかんかっていうことは、
リアルにわかります。
それを学生が勉強していくから、
えらい迷惑ですよね。
だったら、どっかで女の子に
ひとつフラれてこいですよね。
ルディー ああ、そうです。
映画をよく見るとか。
糸井 一本見ろ、ですよね。
ルディー 本読むとか。
糸井 そうすれば、
「みんなそうだ」ってわかりますよね。
いま、じれったくてしょうがないんです。
もうちょっとで、
男の、生産に立っていた側の人たちも、
あるブリッジがかかって、
ドドドッと橋が
行き来できるようになるかもしれないのに。
いま、そんなところに、
立っているような気がして。
歳とっちゃったなぁとも思うんだけれど、
もうちょっとなんだよなぁ、
って毎日思いながら生きてます。
ルディー うーん。
糸井 で、ルディーさんの本は
売れたろうと思ったら、
そんなでもないって。
ちっきしょーと思って(笑)。
そうとう力入れて書いてますよね。
ルディー っていうか、好きでした。
糸井 好きで!
ルディー もうこの話、すごく好きでした。
糸井 (スタッフに)おもしろかったでしょ。
オレが言ってることとかと
重なるんだよ。
── おもしろかったです。
すっごくわかりやすかったですし。
ブログもおもしろかったです。
糸井 ルディーさんのブログもおもしろい。
偶然なんですけど、
ちょうど、ぼくが
本田宗一郎さんのことを書いたとき、
ルディーさんも本田宗一郎さんのことを
お書きになっていて。
ルディー はい(笑)。
わたしも拝見しました。
糸井 iCarのときはiCarで。
わぁーと思っちゃった。
興味の持ち方がたぶん、近いんですね。
ルディー はい、ありがとうございます。
糸井 本田さんに行き着いたときなんか、
ぼくは全然ちがうところ、
うろうろしてたんです。
本田さん、いいですよね。
あれは、行動経済学ですよね。
ルディー はい。ああいうことを、
日本の企業は
もっと発信してほしいと思います。
わたし、エスティ ローダーで
PR部に最初いたんでわかるんですけど、
ブランド企業って広告とPRとが
だいたい同じ地位にあるんです。
そして、PRのすることって
ストーリー作りなんですよ。
糸井 うんうん!
ルディー エスティ ローダーは当時、
エスティ ローダー夫人が生きていましたから、
もう目一杯そのストーリーを売るし、
必ず新しいストーリーを作って
それを発信していきました。
日本の企業も、本田さんみたいな創業者がいたら、
その人のストーリーを
もっと積極的に何かにつけて
発信していくべきじゃないか、
と思うんですよね。
糸井 たぶん本田さんの言ってることを
前近代と思いたがる秀才たちが、
いるのかもしれないですね。
サイエンスっていう言葉がすごく悪く使われて。
彼らは「誰でもが再現できることかどうか」
っていうのをいつでも言うじゃないですか。
ルディー はい。
糸井 そうすると本田宗一郎っていう、
再現性の少ない、
非常に属人的な才能を持った人によって
作られた物を、
本田宗一郎ほど個性的でなくっても、
80点ずつ再現していけるようにすれば
いいじゃないかっていう会社に、
たぶん、なったんだと思うんですよね。
ルディー うん。
糸井 でも、いま、ほしいのは
もっと化け物ですよね。
ルディー そうです。
そうですよね。
糸井 本田さんが昔、
それこそ、お金に火をつけて
下駄を探した的な話も
全部、あれ、OKですよね。
ほんとだったらね。
ルディー はい。
糸井 隠されちゃってますよね。
ルディー はい。
わたし、本田さんのことを調べるときに、
ホンダのホームページを見たんですけど、
企業の歴史を探すのがたいへんで。
検索してもなかなか出てこないんですよ。
なんでこんなややこしいことしてるのか、
もっとパッと読めるようにしてほしい。
糸井 隠したんだよ(笑)。
ああいうこう、あの人だけのもの、
っていうのは語り合わないように、
ストーリーを消していくのが
秀才の仕事だったのかもしれないね。
 
  (つづきます)
2010-07-14-WED
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