ルディー |
不安の時代って、
ある意味では、消費者の側の気持ち、
消費者の不安な気持ちを
考えなきゃいけないけれども、
でも、不安な消費者と一緒になっていると、
経営ってできないんですね。 |
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糸井 |
うん。 |
ルディー |
それで、すごくいい企業だなと思ったのが、
「進研ゼミ」ってありますよね。 |
糸井 |
はいはい。ベネッセ。 |
ルディー |
そのマーケティングの担当の方が言ってたのは、
受験生というのはもともと不安であると。 |
糸井 |
なるほど。 |
ルディー |
普通でも第一志望、第二志望で
迷って不安なのに、
経済危機で両親お金がない、
浪人できないから、よけい迷う。
そのときに、マーケティングの人が、
「迷っている、不安な人間を
優しく励ましてもダメだ」と言うんです。
こういうときは強く言ったほうがいいんだよと。
「攻め」と表現していたんですけれど。 |
糸井 |
ほうほう。 |
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ルディー |
ウェブサイトを見ると書いてあったのが、
迷ってないか、流されてないか、
もっと強気で宣言しろ、と。
もう決めなさい、と。
第一志望の大学に行くと
みんなの前で言っちゃいなさい、と。
そういうふうに強く言ったほうが、
不安な受験生はかえって安心して、
「もう決めちゃったんだから迷わず勉強しよう」
っていう感じになって、いいんだそうです。 |
糸井 |
うんうん。 |
ルディー |
不確実な時代とか、
不安な時代っていうのは、
やっぱり、消費者の気持ちがわかった上で、
それに同調するんじゃなくて、反対に、
強く、命令した方がいいんだなと、
ちょっと思ったりしたんです。 |
糸井 |
それは、無意識でぼくらもやってますね。
いろんな人がいるからって言って、
いろんなものをメニューに出しちゃうと、
結局のところ一緒に迷うだけになっちゃう。
何食うんだ、っていうときと同じで、
あれもいいね、これもいいねじゃなくて、
オレは蕎麦に行くぞ、って言うしかない。
絞って、ぶつけるみたいにしないと。
それはちょっと実感しますね。 |
ルディー |
通信販売というのは
注文してもらわないと成り立たないので、
コピーの書き方とか、特典とか、
いろいろテストをするんです。で、
そういったテストの結果、
わかっていたことって、
行動経済学などの論文にあることと
似ているんですよ。
選択肢は少なくてもいけないけど
多すぎてもいけないとか。 |
糸井 |
いま行動経済学って流行っちゃってるから、
最先端に聞こえるんだけれど、
大昔から、そうですよね(笑)。 |
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ルディー |
そうなんです。
行動経済学の論文は、
2002年にノーベル経済学賞(*)を
もらってますけど、
通信販売の人たちって
100年以上その理論を実践してやってるんですよね。
*ダニエル・カーネマンが
アルフレッド・ノーベル記念経済学
スウェーデン国立銀行賞を受賞。 |
糸井 |
とっくに(笑)。 |
ルディー |
それをちゃんと論文に書いて、
きちんとしたジャーナルに出してたら、
賞をもらえたのにね、って。 |
糸井 |
うんうん。
大学で教えないジャンルの学問っていうのは、
異端児みたいに扱われちゃうんですよね。
でも、アメリカは、ましですよ。
日本がいちばんやっぱり、
大学の教科に合わせた論文しか求めてないから、
「それはおもしろいなぁ!」
「そうに決まってるじゃないか!」
っていうのが、出てこないですよね。 |
ルディー |
そうですよねぇ。
大学って、新しいことは
教えちゃいけないような感じです。
これだけ新しく、
脳の仕組みがわかってきてるのに、
それを売ることにつなげて教える人って、
全然いないんですよね。
それこそ異端児になっちゃいます。 |
糸井 |
ルディーさんもそうですか。 |
ルディー |
いや、わたしは非常勤ですから、
異端児でも、全然平気。 |
糸井 |
異端児でスタートできるんですか。 |
ルディー |
できるんです。
もしもわたしがほんとに
大学の組織に入っていたら、きっと、
すごくたいへんだと思います。 |
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糸井 |
ぼくは、自分が広告をやってきた人間だから、
大学の先生が言ってる広告の理論だとか、
教えてることっていうのが
どのくらいとんちんかんかっていうことは、
リアルにわかります。
それを学生が勉強していくから、
えらい迷惑ですよね。
だったら、どっかで女の子に
ひとつフラれてこいですよね。 |
ルディー |
ああ、そうです。
映画をよく見るとか。 |
糸井 |
一本見ろ、ですよね。 |
ルディー |
本読むとか。 |
糸井 |
そうすれば、
「みんなそうだ」ってわかりますよね。
いま、じれったくてしょうがないんです。
もうちょっとで、
男の、生産に立っていた側の人たちも、
あるブリッジがかかって、
ドドドッと橋が
行き来できるようになるかもしれないのに。
いま、そんなところに、
立っているような気がして。
歳とっちゃったなぁとも思うんだけれど、
もうちょっとなんだよなぁ、
って毎日思いながら生きてます。 |
ルディー |
うーん。 |
糸井 |
で、ルディーさんの本は
売れたろうと思ったら、
そんなでもないって。
ちっきしょーと思って(笑)。
そうとう力入れて書いてますよね。 |
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ルディー |
っていうか、好きでした。 |
糸井 |
好きで! |
ルディー |
もうこの話、すごく好きでした。 |
糸井 |
(スタッフに)おもしろかったでしょ。
オレが言ってることとかと
重なるんだよ。 |
── |
おもしろかったです。
すっごくわかりやすかったですし。
ブログもおもしろかったです。 |
糸井 |
ルディーさんのブログもおもしろい。
偶然なんですけど、
ちょうど、ぼくが
本田宗一郎さんのことを書いたとき、
ルディーさんも本田宗一郎さんのことを
お書きになっていて。 |
ルディー |
はい(笑)。
わたしも拝見しました。 |
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糸井 |
iCarのときはiCarで。
わぁーと思っちゃった。
興味の持ち方がたぶん、近いんですね。 |
ルディー |
はい、ありがとうございます。 |
糸井 |
本田さんに行き着いたときなんか、
ぼくは全然ちがうところ、
うろうろしてたんです。
本田さん、いいですよね。
あれは、行動経済学ですよね。 |
ルディー |
はい。ああいうことを、
日本の企業は
もっと発信してほしいと思います。
わたし、エスティ ローダーで
PR部に最初いたんでわかるんですけど、
ブランド企業って広告とPRとが
だいたい同じ地位にあるんです。
そして、PRのすることって
ストーリー作りなんですよ。 |
糸井 |
うんうん! |
ルディー |
エスティ ローダーは当時、
エスティ ローダー夫人が生きていましたから、
もう目一杯そのストーリーを売るし、
必ず新しいストーリーを作って
それを発信していきました。
日本の企業も、本田さんみたいな創業者がいたら、
その人のストーリーを
もっと積極的に何かにつけて
発信していくべきじゃないか、
と思うんですよね。 |
糸井 |
たぶん本田さんの言ってることを
前近代と思いたがる秀才たちが、
いるのかもしれないですね。
サイエンスっていう言葉がすごく悪く使われて。
彼らは「誰でもが再現できることかどうか」
っていうのをいつでも言うじゃないですか。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
そうすると本田宗一郎っていう、
再現性の少ない、
非常に属人的な才能を持った人によって
作られた物を、
本田宗一郎ほど個性的でなくっても、
80点ずつ再現していけるようにすれば
いいじゃないかっていう会社に、
たぶん、なったんだと思うんですよね。 |
ルディー |
うん。 |
糸井 |
でも、いま、ほしいのは
もっと化け物ですよね。 |
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ルディー |
そうです。
そうですよね。 |
糸井 |
本田さんが昔、
それこそ、お金に火をつけて
下駄を探した的な話も
全部、あれ、OKですよね。
ほんとだったらね。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
隠されちゃってますよね。 |
ルディー |
はい。
わたし、本田さんのことを調べるときに、
ホンダのホームページを見たんですけど、
企業の歴史を探すのがたいへんで。
検索してもなかなか出てこないんですよ。
なんでこんなややこしいことしてるのか、
もっとパッと読めるようにしてほしい。 |
糸井 |
隠したんだよ(笑)。
ああいうこう、あの人だけのもの、
っていうのは語り合わないように、
ストーリーを消していくのが
秀才の仕事だったのかもしれないね。 |
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(つづきます) |