糸井 |
「葉っぱビジネス」のことは
たくさん取材を受けてきたでしょうから、
「真似したけどだめでした」
というような報告もそろそろ
耳に入ったりしてるんじゃないでしょうか。
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横石 |
そうですねえ‥‥。
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糸井 |
そうか、すみません。
ご自分の口から答えるのは
なかなか難しい質問ですよね。
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横石 |
まあ、たくさんの人に
見学には、来ていただきました。
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糸井 |
「ほんとうのことを教えてくれない」
って思ってる人も多いと思うんですよ。
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横石 |
うーん、そうですね、
「肝心なところを言わないんじゃないか」
ということは、よく言われます。
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糸井 |
やっぱり。
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横石 |
そんなことはないんですけど。
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糸井 |
横石さんは、なんて答えますか?
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横石 |
「そんなことはないですよ」と、
「ちゃんとお話ししてます」って。
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糸井 |
言ってますよね?
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横石 |
言ってるんです、ほんとうに。
隠し事なんかはしてないんです。
ただやっぱり、
「コツコツ積み重ねることが大切なんです」
っていうのは伝わりにくいですね。
ホームランを打つようなかたちでは、
結果があらわれないんですよ。
そこのところが、なかなか‥‥。
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糸井 |
あの‥‥山登りの例えなんですけどね。
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横石 |
山登り。
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糸井 |
このところなぜか、
山登りについてずっと考えてたんです。
で、最近、大発見したことがあるんですよ。
‥‥ぼくの話をする場所じゃないんだけど、
まあ、いいや、
横石さんとは久しぶりなので話させてください。
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横石 |
ええ、ぜひ。
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糸井 |
この前、展覧会で
江戸時代の人が描いた富士山の絵を観たんです。
それは細川家のお殿様が、
おかかえの絵師に命じて
描かせたものなんですね。
ものすごい大作で、
遠くからみた富士山はもちろん、
登山の途中の様子が描かれているんです。
どんどん、どんどん登っていくと、
上のほうに掘っ立て小屋があったり、
崖のような山道を
わらじみたいな履き物で登っていたり。
江戸時代ですからね、
絵師はたいへんだったはずなんです。
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横石 |
聞いているだけでも、たいへんです。
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糸井 |
山頂の絵もあるんですよ。
それが大巻物になってるんです。
こりゃあ、たいへんだと。
──その絵を観たときの気持ちを、
ぼくは覚えておこうと思ったんです。
実際に登った人と、
描かせた絵を見た人の違いというのを、
覚えておこうと。
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横石 |
あぁー、なるほど。
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糸井 |
今でいうならぼくは、
富士山の火口は、その写真を見ています。
もっと言えば、エベレストの山頂から
「頂上ですー!」っていうテレビの放送も、
見たことがあるんですよね。
なんだか、気持ちのどこかで、
「おれ、そこに行ったことあるよ」
に近い感じになっていたんです、自分で。
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横石 |
はい。
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糸井 |
実際のエベレスト登山の撮影では、
途中で「おれはここでリタイアする」とか、
「無理だと思ったけどなんとか行けた」
みたいなことがあったりするんでしょうけど、
それは、
登った人以外は知らないんですよね。
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横石 |
そうですね。
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糸井 |
登ったことのある人が、
「皆さんに」って言いながら、
映像を見せてくれたり、写真を見せてくれたり、
苦労話を聞かせてくれたりすると、
ぼくらはあたかも
エベレストに登った経験があるように
思ってしまうんです。
本当に登った人じゃないと、わからないでしょう?
ヘリコプターで登った人もそうです。
歩いて登った、その途中はわからない。
つまり、どう言ったらいいでしょう‥‥
ヘリコプターで登っちゃった人は、
やっぱり「得てない」んですよ。
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横石 |
わかります。
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糸井 |
「いろどり」の話も、
マーケティングの専門家が、
「ここをこうしてこうしましょう」
「この時期にはこうします」
「おばあちゃんとはこんな具合に接しましょう」
「ここは効率的に」
っていうマニュアルみたいなのを書いて、
それをポンと渡されて、
その通りにやればいいかというと‥‥。
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横石 |
ぜったいに違いますね。
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糸井 |
それはやっぱり、
ヘリコプターで山に登ることですよね?
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横石 |
おっしゃるとおりです。
ですから、上勝にたくさんの方が
視察にいらっしゃいましたが、
そのまま同じことをやろうとしても
なかなかうまくいかないんだと思います。
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糸井 |
視察に来た、たくさんの人たちは、
なにをやるべきかというと、
上勝の真似をしないことなんですよね?
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横石 |
そうです。
「自分のところにも葉っぱはある」
と思ってしまうと‥‥。
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糸井 |
間違えちゃう。
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横石 |
葉っぱはあるんです、どこにでも。
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糸井 |
ありますね。
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横石 |
ないところはないです。
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糸井 |
うーん‥‥。
1から考えるっていうのは今、
人がいちばん苦手なことなのかもしれない。
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横石 |
ああ‥‥。
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糸井 |
「8合目までヘリで行かせてください」
って言っちゃうんですよ。
正直を言うと、
ぼくもそれをやったことがあるんです。
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横石 |
そうなんですか。
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糸井 |
8合目まで誰かに助けてもらったことは、
たいていの場合、うまくいってませんね。
で、逆に自分ではっきり1からやったことは、
ほとんどうまくいってます。
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横石 |
なるほど。
‥‥うん、そうですね、
まったく、そういうものだと思います。 |
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(つづきます) |