葉っぱを お金に変えた人。  「いろどり」の横石知二さんから、グッドニュース。
第5回 登った人以外は、山を知らない。
糸井 「葉っぱビジネス」のことは
たくさん取材を受けてきたでしょうから、
「真似したけどだめでした」
というような報告もそろそろ
耳に入ったりしてるんじゃないでしょうか。
横石 そうですねえ‥‥。
糸井 そうか、すみません。
ご自分の口から答えるのは
なかなか難しい質問ですよね。
横石 まあ、たくさんの人に
見学には、来ていただきました。
糸井 「ほんとうのことを教えてくれない」
って思ってる人も多いと思うんですよ。
横石 うーん、そうですね、
「肝心なところを言わないんじゃないか」
ということは、よく言われます。
糸井 やっぱり。
横石 そんなことはないんですけど。
糸井 横石さんは、なんて答えますか?
横石 「そんなことはないですよ」と、
「ちゃんとお話ししてます」って。
糸井 言ってますよね?
横石 言ってるんです、ほんとうに。
隠し事なんかはしてないんです。
ただやっぱり、
「コツコツ積み重ねることが大切なんです」
っていうのは伝わりにくいですね。
ホームランを打つようなかたちでは、
結果があらわれないんですよ。
そこのところが、なかなか‥‥。
糸井 あの‥‥山登りの例えなんですけどね。
横石 山登り。
糸井 このところなぜか、
山登りについてずっと考えてたんです。
で、最近、大発見したことがあるんですよ。
‥‥ぼくの話をする場所じゃないんだけど、
まあ、いいや、
横石さんとは久しぶりなので話させてください。
横石 ええ、ぜひ。
糸井 この前、展覧会で
江戸時代の人が描いた富士山の絵を観たんです。
それは細川家のお殿様が、
おかかえの絵師に命じて
描かせたものなんですね。
ものすごい大作で、
遠くからみた富士山はもちろん、
登山の途中の様子が描かれているんです。
どんどん、どんどん登っていくと、
上のほうに掘っ立て小屋があったり、
崖のような山道を
わらじみたいな履き物で登っていたり。
江戸時代ですからね、
絵師はたいへんだったはずなんです。
横石 聞いているだけでも、たいへんです。
糸井 山頂の絵もあるんですよ。
それが大巻物になってるんです。
こりゃあ、たいへんだと。
──その絵を観たときの気持ちを、
ぼくは覚えておこうと思ったんです。
実際に登った人と、
描かせた絵を見た人の違いというのを、
覚えておこうと。
横石 あぁー、なるほど。
糸井 今でいうならぼくは、
富士山の火口は、その写真を見ています。
もっと言えば、エベレストの山頂から
「頂上ですー!」っていうテレビの放送も、
見たことがあるんですよね。
なんだか、気持ちのどこかで、
「おれ、そこに行ったことあるよ」
に近い感じになっていたんです、自分で。
横石 はい。
糸井 実際のエベレスト登山の撮影では、
途中で「おれはここでリタイアする」とか、
「無理だと思ったけどなんとか行けた」
みたいなことがあったりするんでしょうけど、
それは、
登った人以外は知らないんですよね。
横石 そうですね。
糸井 登ったことのある人が、
「皆さんに」って言いながら、
映像を見せてくれたり、写真を見せてくれたり、
苦労話を聞かせてくれたりすると、
ぼくらはあたかも
エベレストに登った経験があるように
思ってしまうんです。
本当に登った人じゃないと、わからないでしょう?
ヘリコプターで登った人もそうです。
歩いて登った、その途中はわからない。
つまり、どう言ったらいいでしょう‥‥
ヘリコプターで登っちゃった人は、
やっぱり「得てない」んですよ。
横石 わかります。
糸井 「いろどり」の話も、
マーケティングの専門家が、
「ここをこうしてこうしましょう」
「この時期にはこうします」
「おばあちゃんとはこんな具合に接しましょう」
「ここは効率的に」
っていうマニュアルみたいなのを書いて、
それをポンと渡されて、
その通りにやればいいかというと‥‥。
横石 ぜったいに違いますね。
糸井 それはやっぱり、
ヘリコプターで山に登ることですよね?
横石 おっしゃるとおりです。
ですから、上勝にたくさんの方が
視察にいらっしゃいましたが、
そのまま同じことをやろうとしても
なかなかうまくいかないんだと思います。
糸井 視察に来た、たくさんの人たちは、
なにをやるべきかというと、
上勝の真似をしないことなんですよね?
横石 そうです。
「自分のところにも葉っぱはある」
と思ってしまうと‥‥。
糸井 間違えちゃう。
横石 葉っぱはあるんです、どこにでも。
糸井 ありますね。
横石 ないところはないです。
糸井 うーん‥‥。
1から考えるっていうのは今、
人がいちばん苦手なことなのかもしれない。
横石 ああ‥‥。
糸井 「8合目までヘリで行かせてください」
って言っちゃうんですよ。
正直を言うと、
ぼくもそれをやったことがあるんです。
横石 そうなんですか。
糸井 8合目まで誰かに助けてもらったことは、
たいていの場合、うまくいってませんね。
で、逆に自分ではっきり1からやったことは、
ほとんどうまくいってます。
横石 なるほど。
‥‥うん、そうですね、
まったく、そういうものだと思います。
  (つづきます)
2010-06-16-WED
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