糸井 |
さっきも話しましたけど、
上勝のおばあちゃんたちは、
ほんとにニコニコしてお金をつかってますよね。
|
|
横石 |
ええ。
|
糸井 |
そのあたりがちょっと、
もしかしたらヒントかなぁと思ってるんです。
|
横石 |
ヒント‥‥。
なんのヒントでしょう?
|
糸井 |
「歌とお金」っていうのを、
ぼくは今年のテーマにしてるんです。
|
横石 |
「お金」のほかに、
「歌」もテーマなんですね。
|
糸井 |
ええ。
昔は歌うための歌、
「歌う歌」がいっぱいあったでしょう?
とくにぼくがいま肩入れしているのが、
クールファイブなんです。
前川清さんの歌。
|
横石 |
前川清さん。
|
糸井 |
大好きで。
あの人が歌ってる歌って、
今の時代にスピーカーで流して
詩を噛みしめたりしたら、
けっこう恥ずかしい歌なんですよ。
人前で言えないような
恋愛が語られていますから。
|
横石 |
ああー、そうでしたねえ。
|
糸井 |
「これきり」と言いかけた
唇が唇にふさがれる 北ホテル
今どき言えないでしょ、そんなの?
|
横石 |
(笑)
|
|
糸井 |
そういう歌だらけなんです。
嘘と涙の しみついた
どうせ私は 噂の女
とか、
あなたのそばで 暮らせるならば
つらくわないわ この東京砂漠
とかね。
つまり、事情を抱えた男と女が
「下半身つきの愛情」を持ってるんですよ。
その物語が歌われてるわけだから、
今の人から見たら清潔感がないですよね。
|
横石 |
はい、はい。
|
糸井 |
今だってそういう物語は当然あるはずなのに、
「夢に向かって走って、あなたが支えてくれた」
みたいな歌ばっかりになっちゃってる。
なんだか「自然」と「歌」が、
断ち切られちゃってるんですよ。
ぜんぶ舗装された
コンクリートの上の恋愛になっちゃった。
「下半身は歌うの、なしね」って。
「自然」が失われた歌っていうのは、
やっぱり感じないんですよねえ。
|
|
横石 |
なるほど。
|
糸井 |
で、お金に対する価値っていうのも
そうなってきてるんです。
「自然」と断ち切られちゃってる。
つまり、もう、
お金に下半身がないんです、足腰が。
|
横石 |
ああー、はい。
|
糸井 |
上勝のおばあちゃんが持ってるお金は、
やっぱり下半身があるというか、
自然とつながってるというか‥‥。
そういうことじゃないかな、と。
|
横石 |
そうですね、そうだと思います。
|
糸井 |
ねぇ。
うーん‥‥横石さんとお話ししたおかげで、
「歌とお金」を組み合わせて
ひとつのテーマにした理由が、
ようやく自分でわかりました、いま。
|
横石 |
あ、そうですか。
|
糸井 |
いや、ありがとうございます(笑)。
|
横石 |
いえいえ(笑)。
|
糸井 |
だってね、ついでにしゃべりますけど、
いまの女性たちが、20代の子も含めて
『天城越え』を歌いたがるんですよ?
|
横石 |
『天城越え』、
うちの若い子も歌います。
|
糸井 |
あ、やっぱり。
『天城越え』、なんですか、あれは?
|
横石 |
(笑)
|
糸井 |
誰かに盗られる くらいなら
あなたを殺していいですか
殺人事件の歌ですよ?!
|
横石 |
大好きです、うちの子は(笑)。
|
|
糸井 |
でしょう?
やっぱりこういうものの中に、
人が歌いたい何かがあるんです。
すばらしいですよ、『天城越え』。
|
横石 |
ほんとね、すごい歌やね。
|
糸井 |
もっと言うと、
百人一首の中にはそういうのが
いっぱいありますからね。
「忍んで行って、えらいこっちゃ」
みたいな歌が。
|
横石 |
ああー(笑)。
|
糸井 |
そういう時代のお金っていうものは、
自然や暮らしと1枚の絵の中に
いっしょにあったはずなんです。
抽象絵画じゃなかったんですよ。
「お金の抽象化」っていうのは、
「歌の抽象化」というものと、
やっぱり時代をひとつにしてるなぁと、
そんなふうに思えますねぇ。
|
横石 |
なるほど。
|
糸井 |
ある時代には、
「俺、100億あるんだ」っていうやつが
山ほどいたわけで。
おかしいですよね? 100億円って。
そのお金を具体的には見てないでしょう?
抽象画なんですよ。
|
横石 |
うーん。そうですね。
|
糸井 |
上勝ではたらきたいと思った
1500人の若者っていうのは、
目を閉じれば絵に描けるじゃないですか。
「ちゃんと目に見える価値からはじめる」
っていうのは、
「いろどり」から
ぼくが学んだことのひとつですねえ。 |
|
|
(つづきます) |