沖さんの案内で、「沖さんぽ」へ出かけた
浅生鴨さんと、わたくし(ほぼ日・ゆーないと)。
どうしてあんな写真が撮れちゃうのか、
いろいろなお話しを伺いました。
- 鴨さん
- 沖さんが、寝そべって撮るのは、
やっぱりネコの目線に合わせてるってことなんですか?
- 沖さん
- そうですね。
「ネコがネコのスナップを撮ってます」
ということをやっています。
向こうが、ぼくの存在に気づかないくらいだと、
自然な写真が撮れるので。
- 鴨さん
- 写真は独学ですか?
- 沖さん
- そうです。前職で使うようになって。
婦人服のアパレルに勤めてたんですけど、
店舗もやるし、ネット通販にも力を入れてる
会社だったんです。
写真にきびしい社長で。 - 鴨さん
- ほうほう。
- 沖さん
- でもぼく、カメラが大嫌いで。
とにかく撮られるのが嫌いだったんですよ。
だから、カメラから離れて生きてたんです。 - ゆーないと
- カメラから離れて生きるって‥‥?
- 沖さん
- カメラを持ってる人に近づいて、
「撮ってあげるよ」って撮ると、
「お礼に撮るよ」と言われるじゃないですか。
あれが、嫌で。
- 鴨さん
- だから、できるだけ近づかないんだ。
- 沖さん
- そう。でも、仕事でカメラをやることになって。
- ゆーないと
- 洋服の写真を撮っていたと。
- 鴨さん
- 洋服を着てる人を撮ってたんですか?
- 沖さん
- そうですね。主に社長が服を着て、それを。
- 鴨さん
- え! 社長って、女性ですか!
勝手に男性の社長だと思いこんでいたから、
びっくりした~。
男性が婦人服を着て、ネット通販してるのかと。 - 沖さん
- ち、ちがいますよー!(笑)
- ゆーないと
- それはぜんぜんちがうストーリーが
始まっちゃいますよ。 - 鴨さん
- すみません。
- 沖さん
- それで、商品撮影とか、着用写真を撮影していたら、
だんだん慣れてきて。
きれいに撮れるのがうれしくて、
仕事で使ってるのと同じカメラとレンズを
自分で買いました。
そのときに撮ってたのが、
スカイツリーとか、街の景色とか。
いろいろ撮ってた中に、ネコもいました。
SNSに出したら、ネコの「いいね」の数が
圧倒的に多くて。 - ゆーないと
- みんなネコ好きですもんね。
- 沖さん
- そうなんですよ。
その「いいね」がうれしくって。 - ゆーないと
- それは、何年くらい前ですか?
- 沖さん
- 2014年の1月頃でしたね。
そのあとに、本格的に写真での表現の勉強がしたくて
写真教室に通いました。
教室に行き始めたのは‥‥
春か‥‥夏か、秋‥‥。 - 鴨さん
- 春か、夏か、秋って、だいたいそうですよ!(笑)
- 沖さん
- そうか(笑)。
冬‥‥ではない、っていう。
あ、夏、かなぁ。 - 鴨さん
- それは
「犯人は、男か、女か。
20代か30代か40代か、あるいはそれ以上の可能性」
って言ってるような感じですよ。 - ゆーないと
- ほんとうだ。
あ、見て見て、いい髪型のネコちゃんいたよ~。
- 鴨さん
- あ、七三の「七さん」だね。
髪の毛見せて~。
- 
- ゆーないと
- いいねいいねー。
- 鴨さん
- これは、最先端のヘアスタイルですね。
- 沖さん
- こ、この人たち、おかしい‥‥。
- ゆーないと
- 失礼しました。みんな自由ですね。
その後、沖さんのはじめての書籍『ぶさにゃん』が
出版されたんですか? - 沖さん
- そうですね。
2015年です。 - 鴨さん
- アパレル会社はいつまで勤めてたんですか?
- 沖さん
- 15年の4月にやめました。
その頃から、ネコ写真のイベントに参加したり、
色んな出会いがあって。
いまでも参加したりはしているんですけど。 - 鴨さん
- ネコや犬と暮らしたことはあるんですか?
- 沖さん
- 一緒に暮らしたことはないんですよ。
母が実家でずっとネコを飼っていて、
こどもの頃から、
「ネコって、どんくさいんだよね」話しを
よく聞いていたんです。 - 鴨さん
- どういう?
- 沖さん
- ネコが急にダッシュして、木にのぼったと思ったら
夕方になっても降りてこなくて、
実は降りれなくなってしょんぼりしてたのを、
「毎回、助けてたのよ~」とかね。 - 鴨さん
- じゃあ、もう入り口が「だめなネコ」だったんだ。
「かわいいネコ」じゃなくて。 - ゆーないと
- なるほど!
だからああいう写真を。
©masayuki oki
©masayuki oki
- 沖さん
- そうかもしれません。
どんくさい、でもそこが愛おしいなぁと思ってますし。
「どうしてあんなひもに、いつまでも夢中になれるんやろ」
とかね。 - 鴨さん
- 安いものほど、夢中になったりしますよね。
- ゆーないと
- そうなんですよ!
買ったものより、タダでゲットしたヒモが
一番のお気に入りになったりして。 - 鴨さん
- 高級なねずみ型のおもちゃより、丸めたティッシュとかさ。
- 沖さん
- 中身より、箱とかね。しれっと。
- ゆーないと
- そうそう。
- 鴨さん
- 沖さんがネコを撮るときに、一番気をつけてることって
なんですか? - 沖さん
- じゃまにならないことですね。
ネコにも、ひとにも。
こんなでかいのが、そのへんに寝転んで撮ってたら、
色んなじゃまになるじゃないですか。
ネコにも、ちょっかいはかけないです。
撮るときと、撮らないときのメリハリをつけつつ。 - ゆーないと
- じゃあ、はじめはカメラを構えないんですか?
- 沖さん
- そうです。
見てる時間が多いですね。
かまってしまうと、ネコが意識してきたりするので、
撮るときは、まとめてカカカッと撮って。
静かに見てる時間のほうが長いかもしれません。
ネコがテンションあがる時以外は、撮らないですね。 - ゆーないと
- そうか、テンションがあがったときを、
狙ってるんですね。 - 沖さん
- そうですね。
あとは、「こんなところで寝るか!?」みたいなのとか。 - 鴨さん
- じゃあ、もう割り切ってるんだ。
- 沖さん
- そうです。ネコって誰が撮っても、
かわいいじゃないですか。
じゃあ、自分らしいものを表現したい、と思うと、
「ネコがいます」はあまり撮らないようにしてます。 - 鴨さん
- ドコノコって、自分もそうなんだけど、
撮る方がテンションあがっちゃうんですよね。
自然でいいのに、つい、
「はい、こっち向いてー!ほら、はい!こっち向きなさい」
って。その感じが出ちゃう。
そういう意味でも、沖さんがさっきおっしゃていた
「いない」をできると、いいんだろうなぁ。 - ゆーないと
- むずかしいなぁ。
つい、カメラ目線にしたくて、
ヒモをレンズの横に持ってったりしちゃうもんなぁ。
そういう、お互い力が入った写真も好きですけどね。 - 沖さん
- ぼくは、自然であればあるほど、いいと思ってます。
町の人も、ぼくがいることが自然になればいいなって。
だから、町の人ともお話して。
異質なものだと、ずっと異質なままで、
自然じゃないんですよね。
おばちゃんに話しかけられたら、撮影は中断してもいい。 - 鴨さん
- うん。さっきもね、話しかけられましたもんね。
すぐにまた、寝転がってたけど。(笑) - 沖さん
- おばちゃんと話すことで、
おばちゃんのことを好きなネコは、
「あ、こいつはこの人と仲いいんだ。
じゃ、わたしも許そう」
って思ってくれるんですよね。関係を見てる。
ネコ同士も、そうで、
「あいつが心許すんだったら、おれも許してやろう」
とか。
通えば、受け入れてくれる空気感だから。
さっきの茶トラなんか、はじめは
ぜんぜんなつかなかったんですよ。 - 鴨さん
- いまはもう、ゴロンゴロンで、メロメロだったもん。
- 沖さん
- 近すぎて、撮れないくらいですよ。
尻尾じゃま!みたいな。 - 鴨さん
- 「ネコがいる町の一部になる」ってことなんですね。
- 沖さん
- そうです。
たまに、ネコにお花乗せちゃったり、
自分がしゃしゃり出ちゃうときがあるんですけど、
「季節感じたいから、入れちゃおう」って。
でも、基本は、
もう自然であればあるほどいいと思ってます。
そのままの姿で。 - 鴨さん
- テクニカルなことは
そんなに意識してないですか? - 沖さん
- そうですね。感じたまま撮ってることが多いです。
だから、教えることってなかなかできないんですよ。
1回教えたからって、うまく撮れるようなことでもないし。
一番は「通うこと」だし。
光の入り方とかも、だんだんわかってくることだし。 - ゆーないと
- やっぱりはじめて行く場所だと、むずかしいですか?
- 沖さん
- そうです。
だから、はじめての場所は、
見てる時間が長いかな。ガマンして見る。
そのコが、何をするのが好き、何をされるのが好き、
どのコが好き、何がキライっていうのが、
見てると、だんだん見えてくる。
時間がたつと、別のコが近づいてきて、
「あ、何かが始まるな」って、待つ。
あとは、
「このコは、いつも会うあのコに似てるな」
とか分析して、
「じゃあ、これが好きかな~?」
ってやってみるとか。
ここが好きなら、ここも好きだろうなーとか。
ここがイヤなら、あ、やっぱりここもイヤか。とか。 - ゆーないと
- 分析するんですか!すごいなぁ。
1回嫌われたら、挽回できますか? - 沖さん
- ケンカの仲裁をしたこともあるんですけど、
片方は、「わたしのために」と思って、
もう片方は「あいつのために」と思うみたいで、
「あいつのために」って思われちゃうと、
とうぶん嫌われちゃいます。
でも、あるとき、ケロッとするんですけどね。 - 鴨さん
- ネコって、恨み続けたりしないですよね。
そこにいない人のことを、
いつまでも悪く思い続けることもないと思う。 - 沖さん
- そうですね。
- ゆーないと
- お家にネコを飼おうとは思わないんですか?
- 沖さん
- 飼ってしまったら、もうそのコを溺愛しちゃうと思うんで。
SNSとかまったくやれなくなっちゃうと思う。
ずっと家にいて、ネコをさわって一日を過ごす。
もともと、インドアだったんで。またそうなります。 - ゆーないと
- そうかー。
いまネコを撮ってる時間って、
それまでは何に使ってたんですか? - 沖さん
- 仕事ですね。
お休みは、疲れきってたくさん寝て、
次の日、仕事行っての繰り返し。
写真を撮るようになってから、
「ちょっと仕事を早く終えて、ネコ撮りに行こう」
とか、
「かわいいスイーツを撮りに行こう」
とか。
休みの日に出かけるようになりましたね。
いまは、もっぱらネコだけを撮って暮らしています。 - ゆーないと
- 沖さんのお気に入りの、「ぶさにゃん先輩」のこと、
教えてもらえますか?
©masayuki oki
- 沖さん
- はいはい。
仕事の休憩中によく行く、近くの公園に
アメショっぽい、野良っぽくない、
ふっくらした、その場にそぐわないネコがいたんです。
「あいつ撮りたいなぁ~」と思って、
次の日、カメラを持って、行ったんですよね。 - ゆーないと
- モデルハンティングだ。
- 沖さん
- 先輩は、とにかくいつも寝てたから、
あんまり撮る機会はなかったんですけど。
「撮りたい!」ってすごく思ったコなんですよね。
そこから、インスタにアップするために、
休みの日にその公園で1日過ごして、写真を撮ってました。
そこから、先輩をはじめ、
いろんなネコとの出会いがあって。
はじめての写真のグループ展の1週間前だったかな?
先輩にごあいさつに行ったんです。
そしたら、いなくて。 - 鴨さん
- え?
- 沖さん
- 次の日も、その次の日も、いなくて。
ぼく、写真展どころじゃなくなっちゃって。
ずっとそわそわして、過ごしました。
いないいないって。
写真展が終わってからもいないし。
もともと、体がじょうぶじゃなかったんですよ。
雨の次の日なんかは、あきらかに体調悪そうで、
ぐじゅぐじゅになってたから。 - ゆーないと
- 心配‥‥。
- 沖さん
- その後も、先輩を探しつつ、
公園に通って写真を撮ってました。
ある日、おばちゃんに声をかけられたんです。
「あなた、ぶさいくなネコ撮ってる人よね?」
って。 - 鴨さん
- 町でも、話題になっちゃってたんだ。
あのへんなネコばっかり撮ってるやつ!って。
©masayuki oki
- 沖さん
- 先輩への情熱の傾け方が、尋常じゃなかったんですよ。
どうやら飼ってたネコを亡くされた
年配のご夫婦がいたみたいで、
また飼いたいけど、年齢も年齢だし‥‥って思ってたら、
公園に成猫がいるという噂を聞きつけて、
見に来たんですって。 - ゆーないと
- おお。
- 沖さん
- 会ったらやっぱり、ぶさにゃん先輩の魅力に気づいて、
ご夫婦ふたりで、捕まえようとしたんですって。
いつもは走っても、スキップみたいに動く、
にぶい先輩が、逃げ切ったみたいで。
成猫だと、なかなか捕まえるのも大変ですからね。
別の日に、若い人を連れてまたご夫婦が来て。 - 鴨さん
- ご夫婦の本気を感じますね。
- 沖さん
- さすがに捕まったみたいで、
そのまま家のネコになったんだ。
という話しを聞いて、安心しました。
会えなくなったのはすごくさみしいけど、
外が合ってるとも思えないコだったし。 - 鴨さん
- でもまさか、自分ちのネコが、
写真集になっているとは気づいてないのかなー?
本屋さんで
「うちのコや!」ってなりそうですけどね。 - 沖さん
- 会いたいけど、元気でいてくれてるのなら、
それでいいです。 - ゆーないと
- 先輩、会ってみたかったなぁ。
- 沖さん
- かわいいですよ。
まあでも、外で暮らすネコたちは、
ボランティアさんたちがお世話をしてくれているので
そのうち、いなくなるんだろうなって思ってますし、
いなくなったったら、幸せですよね。
いるのも風景としては、いいけど。
やっぱり、外の環境は過酷ですからね。 - ゆーないと
- そうですね。
そしたら、沖さんは何を撮るんだろう?
きっとまたおもしろいものを見つけるでしょうね。
その後、喫茶店で、『必死すぎるネコ』を
見せていただきました。
ページをめくるごとに、いろんな感想と
ツッコミが飛びます。
「ぜったい無理なのに!」
「バカだなぁ~~~」
「かわいいーーーー」
「なんでこんなことするの?」
「どうしたいんだよ!」
「ネコって、何でも手を出しちゃうんですかね?」
「見てると、ヘビは大好きで、
スズメバチとかは気をつけてるっぽいですよ」
「家にいるネコでは見れない姿だから、
新鮮だなー!」
「脇、こちょこちょしたいなぁ」
「これ、あきらかに面会っぽいなー」
あぁ、たのしい。
ひとりで見るのもたのしいけど、
みんなで見るのも、たのしい。
こんなおふたりのトークイベントが、
10月21日(土)15時より、
TOBICHI2にてありますので、
よろしければ、遊びにいらしてください。
沖さん、鴨さん、ありがとうございました!
(沖さんぽ、おしまい。)