ほぼ日 | 堀越さんが最初に歌舞伎を観たのは、 いつだったんですか? |
堀越 | ずいぶんちいさなころに、 親に連れて行かれたのが最初ですね。 たしかまだ4つか、5つのときで、 ぼくは記憶にはないんですよ。 『忠臣蔵』に高師直(こうのもろなお)っていう、 いやぁなじいさんが出てくるんですけど、 それの真似を延々とやっていたそうです。 子ども心に、 よっぽどおもしろかったんでしょうね。 |
ほぼ日 | それからもうずっと? |
堀越 | ずっとコンスタントに観てたかっていうと、 まあ高校生くらいのころは、 ちょっと歌舞伎から離れていました。 友だちと歌舞伎以外のものを観に行ったりして。 でも結局、歌舞伎に戻ってきましたね。 |
ほぼ日 | はじめて舞台に声を掛けたのは、 やはりおとなになってからでしょうか。 |
堀越 | そうですね、25歳のころです。 すでに故人なのですが、 中村又五郎さんという役者さんが ぼくは大好きだったんですよ。 あるときの舞台で、 その方にぜんぜん 声が掛からないことがあったんです。 もう、やきもきしまして、 えいや! の覚悟で、 「播磨屋(はりまや)!」 |
ほぼ日 | 思わず声が出た。 |
堀越 | それが始まりでした。 |
ほぼ日 | そのころの堀越さんは、 一般のお客さんだったと思うんですが、 誰でも自由に声を掛けていいのですね。 |
堀越 | それを止める権限は誰にもないんです。 ぼく自身もそうやって ひとりで声を掛けていたら、 「あいつ見どころあるから会に入れてやろう」 と誘っていただいたクチなので。 |
ほぼ日 | え? ‥‥スカウトなんですか? |
堀越 | スカウト。 大向うの会に入るのは、 基本的にスカウトです。 |
ほぼ日 | はああ〜、そうなんですか! 堀越さんがスカウトされたときは、 どんな感じだったんでしょう? |
堀越 | ある日ふつうに客席で声を掛けていたら、 休憩時間におじいちゃんが ニコニコしながらこちらにやってきまして、 「声掛けてんの? ぼく、こういうもんだけど。 しょっちゅう来られるんだったら、 うちの会長に一度紹介するから」 っていうふうに言われたんです。 それで、会長さんに会いに行きましたら、 まず最初に言われたんですよ。 「私はまだあなたの声を聞いてないし、 あなたがほんとにしょっちゅう 芝居に通えるのかどうかわかんない。 だからしばらく様子みさせて」と。 会に入ったのは、それから1年後でした。 |
ほぼ日 | 1年。 ずいぶん間があったんですね。 |
堀越 | まあ、試用期間みたいなものだったんでしょう。 |
ほぼ日 | それにしましても、 ずいぶん慎重です。 |
堀越 | そうですね。 でもこちらとしても、 「はいはいどうぞ、すぐお入りください」 と安易に言われるよりは、 安心感がありました。 |
ほぼ日 | そうか、そうですよね。 ‥‥じゃあ、たとえばぼくらでも、 歌舞伎に何度も足を運ぶ覚悟があって、 それを認めてもらえれば、 会に入れるかもしれないわけですか。 |
堀越 | 可能性としては大いにあると思います。 「何度も通えるか」は大切なポイントです。 うちの会長も、 「テクニックはあとから教えてあげられる。 技術うんぬんじゃなくて、 まずはしょっちゅう通って、 みんなとうまくやっていける人じゃないと」 っていうのはおっしゃっていますね。 |
ほぼ日 | なるほど。 でも、会に入れなくても、 声を掛けるのは自由なんですよね。 |
堀越 | それはそうです。 |
ほぼ日 | 実はですね、 「ほぼ日」の何人かで コクーン歌舞伎を観に行ったんですが‥‥。 (コクーン歌舞伎とは渋谷のBunkamura内の劇場、 シアターコクーンで行われる歌舞伎公演です) |
堀越 | いいですよね、シアターコクーン。 ちょっとギュッとした感じが、 昔の芝居小屋みたいな雰囲気で。 声も意外と通るし、 舞台との距離感もいいんですよ。 |
ほぼ日 | はい。 そこでコクーン歌舞伎を観ているときに、 「おれ、行けたかもしれない、 もうちょっとで声を掛けられたかも」 と言い出した者がいたんです。 |
堀越 | ほお、いいですね。 「ほぼ日」のかたが、そう思った。 |
ほぼ日 | はい。 「歌舞伎座だと格式を感じて無理だけど、 コクーンなら行けたかもしれない」と(笑)。 |
堀越 | 歌舞伎座とくらべたら、 やっぱりコクーンは掛けやすいんですよ。 派手ですからね、 実際、多めに声も入っていると思います。 |
ほぼ日 | お祭りみたいに盛り上がって、 ものすごく感動して、 「あと一歩で声を掛けていた!」と。 |
堀越 | 言えそうだったなら、 言ってしまえばよかったのに。 |
ほぼ日 | いやあ、でもそのときは、 ほんとに言っていいのかどうかが わかってなかったので。 ‥‥いいんですね? 言っても。 |
堀越 | はい。 ───とはいえ、 何でもいいわけではないんですが。 |
ほぼ日 | あ、やはり決まりというか、 マナーみたいなものが。 |
堀越 | そうですね、ありますね。 |
(つづきます!) |
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2010-01-18-MON
(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN