アグラの駅で、
なんだか貴重な時間をすごした気がする我々は、
もうそれ以上は何も考えず、
むだな口もきかず、
朝を迎えるまで
目を開くことはありませんでした。
ですから、夜行列車は、
記憶史のうえでは、あっという間に
ガンジス川の流れる
聖都バラーナシに到着したことになります。

到着前の風景が、
ちょっぴり田島風のような気がしましたが、
そんなほっこりおっとりした空気は
ここにはあるはずもないのでした。





さて、コーラの売り場も目に入りましたし、
番長、早朝の駅に降り立ちましょう。



「あれ?
 ここも、駅が動物園だよ」





やっぱり、どこに行ってもそうなんですね。
サル、牛、そして
お約束どおりのいっぱいの人間が‥‥。



では、さっそく
街に向かう車に乗り込みましょう。

なんだか、前の座席の人口密度が
増えてませんか?
急に3人がけになってますね。
(ほんらいは、ふたりがけ)
交通ルールはどのようになっておるのでしょうか。
しかも、心なしか、
ガイドのジャスミートさんと運転手さんのそぶりが
わりとざっくばらんになっているのですが‥‥

「バラーナシ・モードだな。
 ところで、さっきから車が
 1ミリも動かないんだけど」

今日は、ヒンズー教のお祭りにあたるらしく、
バラーナシの街は、
混雑しているようです。
しかし「お祭りなどで混雑する日」が
年に何度もあるそうなので、
今日が特別であるかというと、そうでもない、
というような日だそうです。



「ちょっと、空気が
 いままでとちがう?」

車窓から、瞬時に処理できない街のようすが
次々に飛び込みますね。
なんだか昨夜、
ジャスミートさんのおっしゃったことが
わかる気がします。
ここはほんもののインドです。

「来たねぇ!」



「あのさ、さっきから道の両端に
 ほわんほわんになった物体があるんだけど、
 あれは、全部ゴミなのね?」

そのようですね。

「で、そのほわんほわんを製造しているのは
 あれなのね?」

‥‥。あ、そのようですね。
ブタがゴミを噛み砕いて、個体感をなくし、
ほわんほわんにまとめている、と。

「よくできてるねー」

ちょっとキノコを思い出しますね。
植物が吸収しやすいように
キノコが有機物を無機物に分解する、ってやつです。
つまり、回収しやすいように
ブタがゴミを分解して‥‥

「ちょっともうね、
 ヒャハハハ、
 すごいという言葉すら
 ありふれてて、出てこないね」

もはや、ときをすごすだけで
精一杯になってます。

「うん。ホントにそうだね。
 あとは、日本でつちかわれたオレの
 自己内ギャグが、
 ガンジスに対応できるかどうかだな」

ギャグを‥‥つちかってきたんですか。

「多分そう」

そうだったんですか。
自己内の。
(ミュージシャンでありながらも‥‥)

「さあ、心を躍らせようか!」

急にどうしたんですか。

「オレにとってのゼロは、
 開いた口がふさがらないほどの
 エネルギーの入口だったってことよ!
 もう、インドのエネルギーが
 どんどん入ってきちゃってきています。
 まいってしまいそうだけど、
 まいってらんない!
 そんな感じだな、
 ガハハハハハハハ」

圧倒されるけど、圧倒されっぱなしではない、
びっくりするけど、無理のある感じはしない。
インドの風に対して、
そのギリギリを、いま我々は進行中です。

そうです、少々自分を見失っておりました。
よし、勝っていきましょう。
六四の割合で、勝ちにいきましょう。

「その調子!」

ああ、番長、
橋の下にガンジス川が見えてきました。

「すげえな!
 あのこまかいのは、
 みんな、人?」

そのようですね、すごいことになってますね。
ちょっと、ちょっとだけ、
あそこ、怖くないですか。

「怖いな」

人数の規模感が、
経験値を軽く超えてませんか。

「見たことねぇな」

いよいよ我々も、
ガンジス川に向かうときが
来たようです。
さぁ、車を降りましょう。

「いざ!」

「うわ、
 なんじゃこりゃあああ!
 これはパレードですか!」


どうやらふつうの道のようです。
ものすごいことになってます。
クラクションやら自転車のベルやら
人の声やらよくわからん音楽やらで、
耳もめちゃくちゃになってます。
番長、
いまは五分五分ですか(叫び声)!

「いま、八三で負けてます(叫び声)!
 あ、足もと、牛、牛!」



左にもジッとたたずむ牛!



なんかわかりませんが、
人だかりがあちこちに。

「ひゃあああ」

こんな人数、見たことないですね。

この喧騒に、勝つとか負けるとか
もうそういう問題ではありません。
動画でごらんいただくのが
いちばんです。どうぞ。



「こんなところが
 世界にあるなんて
 いままで生きてて、ホントに
 気づきもしませんでした」



さあ、この階段を下りると
ガンジス川です。
ところで番長、いま何対何で?

ん‥‥いま、マイナスです。
自分がマイナス40くらいまで
来ちゃってます。

ははは、だめだ!

「負けだ!
 負けだあぁぁぁぁー!
 ッハハハハハハ!」

(つづきます)

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