糸井 大橋さんは、とんでもない派手な服とか
着たいっていう気持ち、ないですか?
大橋 うーん‥‥。
ありますよね、やっぱり。
鶴田 変化を求めて?
大橋 そうですね。自分自身の背中を押すっていうか、
普通の毎日の自分じゃない場所に
自分を持って行きたいみたいなこともありますよね。
わたし、ほどんど、今はそんなにないですけど。
でも、自信がないんですけどね、
それを着る自信とか。
糸井 買うこともないですか、服?
大橋 そう‥‥、わたしは、誰かの評価みたいなものを
どこかで気にしてるかも。
だから、例えば、おもしろい服があったとしますよね。
なかなかそこに手を伸ばせない。
けれども、ふっとこう、周りで
「あ、あの人、あの服のこと、いいって言ってたな」
みたいなことがあると、
買っちゃおうかなみたいなことはある。
頑張ってないと、どんどんコンサバ的なほうに
流れるのは嫌だしみたいな、それはありますね。
やっぱり表現っていうか、
それを着ることで
自分が変わることは確かですよね。

いまつくっている服は、
年齢が上の人のため、
っていうふうに言っているんですけども、
若い人が着てくれて、
「あ、すごく似合う」っていう時、
また別な「よかったな」があります。
服っていうのは着る人によって変わり、
年齢に関係ないなぁっていうのは、
作ってみないとわからなかったです。
いま2年目ですが、
だんだんと自分が作りたいというものに
近づいていければいいな、
と思ってはいるんですね。
そして、誰か着てくださった人が、
すごく似合ったら、すごく嬉しいだろうなって。
今、わたしも試行錯誤で、着てくださる人もなんか、
「うん?」っていうみたいなところがあると、
なかなか、服作りはむずかしいなと思う。
今はめげないと思って頑張ろうと思ってますけどもね。
むずかしいです。

糸井 いいのを見つけましたねぇ。
おもしろいでしょ、きっと(笑)。
大橋 それなりに、縫製とか一応全部チェックしてますので、
それなりの値段で買っていただいて、
着ていただければ、また次、頑張りますので、
よろしくおねがいします、
みたいなことなんですけどね。
なんだか、すみません(笑)。
糸井 大橋さん、イラストレーションが立ち上がった、
っていう感じに、僕は見てる。
大橋 いえ、そこら辺、よく自分でわかってないと思います。
糸井 素材が変わっただけで、
イラストレーターが作るものなんだっていうことは、
もう覚悟しちゃっていいと思ってたんです。
大橋 そうですか。
糸井 他の洋服屋さんと同じタイプの競争をするつもり、
全然ないわけだから。
大橋 それは全然ないですよ。
糸井 こういう絵ができたのっていうのと、
こういう絵ができたのっていうのと、
いい悪いないわけだから。
それで、なんかあとは、
着る人と仲良くやれるかどうかだけだと思う。
田村 それから、あれですよね、
着る人だけじゃなくて、
他の人が作った服とも合わせやすいわけですよね。
大橋 そうです、そうです。
田村 だって、こんなに飾りを排したものは
作る人いないんですから。
大橋 着てもらって似合うっていう人が、
またお店に来てくださると、
もうすっごい嬉しくて(笑)。
「あ、この人、似合ってる、似合ってるね」
って思って、もうそれはすごく励みになります。
ちょっとむずかしいなっていう人も、
気に入ってくださると買ってくださる。
なんとかその人らしく
服が育ってくれればいいなと思っています。
着るものっていうのは、本当にね、
女の人の着るものはむずかしい。
わたしは、本当に男になりたかったです。
それで、『平凡パンチ』の、
あの絵を描き始めたっていうか。
男の子はいいな、
カッコいいなと思っていたので(笑)。
糸井 仕事をしてきた人か、してる人かっていったら、
受け入れますよね、きっと。
さっきの、旦那さんの気に入るように、
っていうものじゃないものですよ。
古い旦那さんが、奥さんがこういうのを着ると、
自分のタガが外れたみたいで、怖いんじゃないかな。
あいつ、出てっちゃうんじゃないか、
みたいなところあるんじゃないですか。
自立しちゃうんじゃないかとか。
大橋 そこまで行かないですけど(笑)。
鶴田さんの同世代のお友達は、
みんな鶴田さんみたいな
シンプルで着心地のいい服に
だんだんと行ってる感じですか?
鶴田 わたしの通っていた学校は、
──わたしたちの学年が
特にそうだというのもあるんですけど、
昔からシンプルな服を好んでいましたね。
糸井 役で服装を与えられた時に、
性格が悪いっていう設定を演じるのは嫌じゃないけど、
この服を着せられるの嫌だっていうような
気持ちになったことないですか?
大橋 そうね、それ聞きたい!
鶴田 (笑)あるかもしれないですね。
服でテンションが落ちるってありますね。
糸井 絶対あると思う。
つまり、悪女であろうが、
すっごい世知辛い嫌なやつであろうが、
それは演技としての仕事だけど、
その服で演じたくないっていうのはあると思う。
鶴田 あぁ、あるかもしれません!
糸井 あぁ、よかった。嬉しい。
俺は素人なのに、そういうところに出させられた時に、
「これ着てみてください」って言われた時、
やっぱり引き受けるんじゃなかったって思うわけ。
鶴田 ちょっと悲しい気持ちになりますね(笑)。
大橋 あぁ、なるほど。
糸井 なんていうんだろう、
落ちてるものを食べさせられたみたいな気がする。
そのくらい嫌だ。
服ってすごいですね。
糸井

すごい。だから、そういう時は、
「あ、俺、服、嫌いじゃないんだ」って思う(笑)。

鶴田 何でもいいわけじゃないっていう。
糸井 自分で驚くんですよね。
特にスーツが多いんですよ、男の衣装って。
グレーで、「このネクタイですから」みたいな、
本当に雑に「これ着てください」っていうのが来ると、
丈が合っていようが、サイズがあっていようが、
「嫌だぁ」って思う。
だから、知り合いの時には、
「ちょっと自分の持って来ていい?」と。
そんな変なことさせないでって思う。
鶴田 身にまとってるものですからね。
皮膚に付いてるっていうことは、
そういう生理的な好き嫌いって絶対生まれてきますよね。
おしゃれとかおしゃれじゃないとか、そういうこと以前に。
大橋 それ、すごくよくわかる気がするな。
いや、いかに大事かわかりました。
大橋 いや、本当にね、服は大事ですよね。
‥‥きょうはお話しさせていただけて、
よかったです。
田村さん、鶴田さん、糸井さん、
ありがとうございました。
鶴田 こちらこそありがとうございました。
とっても楽しかったです。
田村 お役に立てたらうれしいです。
ありがとうございました。
(了)
2011-11-22 TUE