あの会社のお仕事。 気になる会社に 素朴な疑問をどんどんぶつける。  六花亭製菓 編
 
第2回  「おやつ屋さん」であること。
 
小田社長 じゃあ次‥‥ああ、これは難しいんだわ。
奥野さんね、これは地味だけど難しいの。
── ショートケーキ‥‥ですよね。
小田社長 うん、お菓子屋さんならどこでもやってる
ショートケーキだけど、
問題は「スポンジ」なんです、この場合。
── スポンジ。
小田社長 「スポンジを焼く技術」については、
けっこう高いと思ってるんです、うちは。
── 日本一といっていい技術を持っている‥‥と
どこかで読んだ覚えがあります。
小田社長 焼き過ぎてもダメだし、生っぽすぎてもダメ。

ころあいがすごくピンポイントなんだけど、
そうそう‥‥こんな感じだな。
── これは、いい状況なんですか?
小田社長 うん、すごくいい。どうぞ。
── いただきます! ‥‥ふわふわです!
小田社長 マモル、ここ、覚えとけよ。
マモルさん はい。
── じゃあ、これも新商品として‥‥。
小田社長 いやいや、これはふつうのショートケーキ。
ふだん、お店で売ってるやつです。
── あ、そうなんですか。
小田社長 こうやって再確認してんの、ちょいちょい。
── むずかしいというのは‥‥。
小田社長 スポンジって、出来のよしあしが
焼いた直後にはわからないんです、実は。

生クリームを挟んでみて初めて、わかる。
── ははぁ。
小田社長 つまり、生クリームの水分を吸うわけです、
カステラ部分がね。
── はい、はい。
小田社長 そのときに、カサカサだったお肌が
みずみずしくなるっていうの?

そういう感じになったら、成功。

こういうふうに言えば、
女性ならわかるかな、スギエさん?
スギエ あ、それ、すごくよくわかります!
小田社長 逆に、下地の出来が良くなかったら、
なんぼやってもダメなのね。

うまく化粧がのってこないんですよ。
スギエ ああ〜。よぅくわかります(しみじみと)。
小田社長 もちろん、添加物を入れれば簡単なんです。
そうすれば誰にでも焼けちゃいますから。
── ええ。
小田社長 ただ、それはやっぱり、
いささか「イズム」が許さないわけですよ、
六花亭のね。
── なるほど。
小田社長 このへんは、ヘンタイに近いんだけど。
マモルさん くすっ(笑)。
小田社長 マモルが笑ってるよ‥‥(笑)。
ユアサさん 最後に、クリスマス用の商品です。
小田社長 ‥‥これで売る気?
ユアサさん いえ、これはあくまで試作ですので、
実際はもう少し小さく‥‥。
マモルさん このままだと価格もあがってしまうので‥‥。
小田社長 いや、そういう問題じゃなくてさ、
まず「デザイン」を持ってこなきゃダメだっての。
いろいろ乗っける前にさ。
ユアサさん はい。
小田社長 写真でわかるんだから。
マモルさん はい。
小田社長 これじゃダメ。ぜんぜんダメです。

先にデザインを打ち合わせてからじゃないと
時間だけがロスだ。終わり!
── あのう、今のは‥‥。
小田社長 今年(2009年)のクリスマスケーキなんだけど、
うち、デザインがヘタなの。ほんとに。
── でも、かわいいお鍋のかたちをした
「ひとつなべ」とか、
個性的なお菓子も多いと思いますが‥‥。

お鍋型のもなかに、小さなおもちがふたつ入り。
十勝開拓の祖・依田勉三さんが詠んだ句
「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」に由来する。
小田社長 いや、あれはいいんだけど、ケーキについてはね、
専門店さんにくらべたら、ほんとにお化粧がヘタ。

だから、見栄えのいい「お化粧のお手本」を
他のところの商品から、
勉強しなきゃダメだって、いつも言ってるの。
── ははぁ‥‥。
小田社長 たとえばさ、A社のいいところと
B社のいいところ、
両方をうまく活かしたデザインにしてみようとか、
そういう、カタチにする前の
基本設定の打ち合わせがなってないって、
いま、文句言ったんです。
── なるほど、ええ。
小田社長 そのためには、ケーキについては
うちなんかよりも
デザインの上手いお店がたくさんあるんだから、
そこから、見つけてこようよと。
つまり「探す手間」を、惜しむなと。

そういうことを、言ったんです。
── あのう‥‥おかしな質問でしたらすみません。
何の世界でも
「オリジナリティが大事である」とかって
よく言われると思うんですが‥‥。
小田社長 うちのケーキの価格レンジ、知ってる?
── はい、ここに来る前に、
六花亭さんの本店に寄ってきたんですけど、
都内では500円とかしそうな
ケーキひときれが
120円とか、高くても200円でした。
小田社長 そういう価格帯なんです。
だから、省けるコストは、なるべく省く。
── つまり、デザインに「コストはかけない」と
積極的に決めてる‥‥んですね?
小田社長 洋菓子専門店のオーナーシェフだとか、
そりゃあ見事だ、腕がね。

でも、ぼくらは、その「お化粧」よりも
もっと本質的な部分を重視したいんです。
── 本質的な部分と言うのは‥‥。
小田社長 六花亭は「おやつ屋さん」だということ。

大切にしていることがあるなら、これなんです。
見た目のオリジナリティうんぬんよりも。
── おやつ屋さん。
小田社長 お値段のする贈答用のお菓子を売るような
「おみやげ屋さん」じゃないからね。
── なるほど。
小田社長 ひときれ500円もしたら、
もう「おやつ」じゃないでしょう、それは。

そんな値段したら、お父さんが
そんなひんぱんに買って帰れないんですよ。
── 月に一度のお楽しみ、になっちゃいますね。
小田社長 六花亭のお菓子は「おやつ」だと思ってます。

マルセイバターサンドの認知度が高いので
「おみやげ屋さん」みたいに
思われてしまうことが多いんですけど、
本当はそうじゃなくて、
誰でも買える「おやつ屋さん」で
ありたいと思ってるんです。
── それが、六花亭の「本質」なんですね。
小田社長 そのためには、
お化粧にあたる「デザイン」については、
コストは必要最小限に抑える。
── そのぶん、ケーキとしての「おいしさ」や
おやつとしての「価格」に、注力すると。
小田社長 そうです。
── 1個120円から200円だったら
家族3人分のケーキが
500円前後で買えますもんね。
小田社長 もちろん、可能な限り美しくしたいんですよ。
── はい。
小田社長 過剰なコストはかけられないんだけど、
「用と美」を兼ね備えたお菓子。
── 「用と美」ですか。
小田社長 手間ひまかけて美しくしすぎると、
こんどは、デコラティブになっていきます。
華美なお化粧にね。

すると、うちの「本質」が見えにくくなる。
── つまり「おやつ屋さん」という本質が。
小田社長 必要最小限のよそおいで
なるほど、いいねと言ってもらうのが難しい。
── なるほど。
小田社長 さいわい、味はできてますから。
── 差し支えなければ、でいいんですけど、
120円で利益はあるんですか?
小田社長 聞いたことないですね。
── ‥‥昔からあのお値段で?
小田社長 まぁ、新聞の感覚だよね。
── あ、それなら「毎日」買えますね。
小田社長 週刊誌だって350円くらいでしょ、いま。

だから200円は越えないようにしようねって
そういう感覚で決めてるから、
ケーキに関しては、
原価計算して
「幾ら幾らだから、幾らにしよう」というのは
やってないんですよ。
── つまり、お客さんに還元する商品だと。
小田社長 いや、「還元」という言いかたをすると
ちょっとちがうと思うんだけど、
みなさんに食べてもらいたい商品だから、
ケーキは「買いやすい値段」に設定してます。

ありがたいことに、
うちには「マルセイバターサンド」をはじめ
利益の出ている商品で
経営を支えることができてますからね。
── 120円なら、小学生でも買えますもんね。
小田社長 ぼくたちにしたら、
お客さまがお店に来てくださることが
うれしいことなんです。

お客さまの来てくれない店なんて‥‥、
読んでもらえない
ホームページとおんなじでさ(笑)。
── あはは‥‥さみしいですね。
小田社長 そうでしょう。
── はい。
小田社長 そう考えると、ケーキが買いやすいおかげで
「お店に来てもらえる」のは、
ぼくたちにとっての、よろこびだと思ってる。
── なるほど。
小田社長 ‥‥ミツハシ、このあいだもらってきた
お菓子屋さんのパンフレットあっただろ?

あれ、ユアサとマモルにやっといて。
ミツハシ
さん
はい。
小田社長 こんなとこで、今日の会議は終わりだな。

‥‥イトイ新聞のみなさん、他にご質問は?

<つづきます>
 

02 中札内美術村

帯広空港に降り立って、こんな風景の中を進むと‥‥。


きれいに撮れたので、
クリックすると大きくなることにしました。

14万5000平方メートル‥‥という
実感としてまったく分からないほど広大な敷地に
3つの美術館をはじめ、
ギャラリーやレストラン、ショップが点在する
「中札内(なかさつない)美術村」が、見えてきます。

ごぞんじのかたも多いかと思いますが、
この美術村、六花亭がつくって、運営しているんです。

ま、言葉で説明するより、うまく伝わると思うので、
写真メインで、ご紹介しましょう。

こんな道をすすんでいくと‥‥美術館があらわれたりとか。
歩道は廃線となった「国鉄広尾線」のまくら木。
あの「愛国から幸福行きキップ」で有名になった路線です。

クラシック音楽の演奏会も開かれる「北の大地美術館」。

ふと足を止めると、木の杭の先っぽに、ちいさな人が。

あ、キノコ。

一枚ガラスの向こうの自然は、
季節によって変わる大きな絵のようでした。
この「北の大地美術館」の室内空間は
弦楽器がよく響くそうで、
世界的バイオリニストの久保陽子さんも
ここでレコーディングしたとか。

この林、どこまで続くんだろう‥‥と思うと
なんだかこころがぞわぞわしてきます。

日本画家の小泉淳作さんの美術館にて、
京都・建仁寺の天井画の原画。
実際の天井画は「畳108畳」の大きさ。
「畳108畳」とは
「バスケットコート1枚分」とほぼ同じ面積だそうです。


小泉淳作さん。

冬季の閉村中に、特別に入れていただいたこともあり、
すこし黙っていると、
空気の音(?)以外、なーんの音もしません。
それがドキドキして、つい、黙っていたくなります。

この美術村のなかに立っていると
「自然」も美術作品のひとつだなと感じました。

それらが、人間の手でつくった「美しいもの」と調和した、
とてもすてきな空間。
夏の季節に、もういちど行ってみたいなと思いました。

ことしは4月24日からオープンするみたいなので、
みなさんも、足を運んでみては、いかがでしょうか。

最後に、ちょっとしたクイズをひとつ。

すごく味わい深いというか、おしゃれな雰囲気のこの建物。

北海道の名山や欧州の風景画をのこした画家
相原求一朗さんの美術館なのですが、
帯広市内にあった「ある建築物」を移築したそう。

昭和8年に建てられたもので、
当時としては、かなりモダンなデザインだったとか。

その建物、もとはいったい、何だったでしょう?
ヒントは‥‥「入り口」に注目、です。


ひろびろとした館内には、相原求一朗さんの作品がずらり。

さーて、わかりましたか? 駅? ホテル? 銀行か何か?

答えは、 この美術村を案内してくださった
ダンディな岩崎さんの写真をクリックしてみてくださいね!



帯広という地名は「川がいくつにも別れた場所」を意味する アイヌ語「オベリベリ」がもとになっているんですって。 次なる探訪地も、引き続き岩崎さんと。

中札内美術村

所在地 北海道帯広市河西郡中札内村栄東5線
問合先 0155-68-3003 詳しくはこちら
2010年の開館日 4月24日(土) ※冬季は閉館

 
2010-04-13-TUE
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN