── |
それではあらためまして、
小田社長に、取材させていただけますか。 |
小田社長 |
いいですよ。 |
── |
場所は‥‥。 |
小田社長 |
どこでもけっこうです。 |
── |
社長室的な場所ですと、いかがですか。 |
小田社長 |
いいですよ。(後ろを振り向き)ここだけど。 |
── |
あ、社長室というより「社長の席」的な。 |
|
振り向けばそこに「社長の席」が。 |
|
小田社長 |
うん、社長室ってのはないから、うちには。 |
── |
そうなんですか。 |
小田社長 |
うん、なんかイヤなんです。 |
── |
イヤ。 |
小田社長 |
ひとりだけ、別のところにいるのがイヤで。
ここで他の連中といっしょに仕事してます。 |
── |
うち(糸井事務所)と同じですね。 |
小田社長 |
あ、そうなんだ。 |
── |
はい、社長室もあるんですけど、
ぼくらと同じ部屋にも、糸井の席があるんです。 |
小田社長 |
そっちのほうがおもしろいよね。
社員をからかったりできて(笑)。 |
── |
それじゃ、あらためて経緯を申し上げます。 |
小田社長 |
ようするに何が訊きたいのか、というのを
事前に、うかがってましたけど。 |
── |
はい。 |
小田社長 |
これまで、何度も取材を受けてきたんですが、
ああ訊かれたのは、はじめてなんですよ。 |
── |
なぜ六花亭のお菓子は人気があるのか‥‥と? |
小田社長 |
うん、そういう取材は、なかったですね。
そこまでズバッと、真正面から訊かれたのは。 |
── |
そうなんですか。 |
小田社長 |
今までは、六花亭の「経営方針」だとか、
「地域企業」としてのあり方だとか。 |
── |
た、単純な質問すぎましたでしょうか‥‥? |
小田社長 |
いや、その逆でね。単純だけに、むずかしい。
今日の『六輪』って社内新聞にも
書いたんですけど、うまく答えられるかなぁと。 |
── |
あ、その『六輪』というのは、
さっきの「一人一日一情報」をまとめて
日刊で出してらっしゃる社内新聞のことですね。 |
小田社長 |
そう、そこのコラムに、書いたんですよ。
ええと、今日の『六輪』は‥‥あった。 |
|
── |
ほんとだ! |
小田社長 |
‥‥そういえば、さっきトイレに行ったらさ、
今日の『六輪』が置いてあったぞ、トイレに。
あれ、ヤマモトだろう? え?(笑) |
ヤマモト
さん |
ぼくじゃないです(笑)。 |
── |
でも、そうお聞きするには理由がありまして、
ちょっと前のデータなのですが、
2008年に「ほぼ日」で
「はたらくこと」についてのアンケートを
とったことがあるんです。 |
小田社長 |
ええ。 |
── |
学生の「人気企業ランキング」の
上位100社のなかから
社会人の読者に
「いま、あらためて入りたい企業」を
選んでもらったんです。 |
小田社長 |
おもしろいねえ。 |
── |
で、100位以内に入りたい企業がない場合には
具体的な企業名を自由回答してもらったんです。 |
小田社長 |
うん、うん。 |
── |
その自由回答のランキングが、これなんですけど‥‥。 |
Nikkei Business Online・ほぼ日刊イトイ新聞合同調査
社会人がえらぶ人気企業アンケートより抜粋 |
小田社長 |
ほほー‥‥。 |
── |
いわゆるリーマンショック以前のデータですし、
ちょっと古い感じは否めませんが、
ともかく、
上位は「カタカナ」ばっかりのところに‥‥。 |
小田社長 |
グーグルだ、アップルだとね。 |
── |
17位に、ぽんっと六花亭さんが。 |
小田社長 |
ほんとだ。うちのサクラか?(笑) |
── |
いえ(笑)、あの、いわゆる欧米のグローバル金融や
日本の大きな会社、
ベンチャーっぽいIT企業が並ぶなか、
北海道の地域企業である六花亭さんが、ぽんっと。 |
小田社長 |
うれしいですね。 |
── |
つまり、お菓子の人気が高いのと同じように、
「はたらく場所」としても
人気なんだなぁって、そのとき思ったんです。 |
小田社長 |
そういえば、たまたまこの前、
「ブランド・ジャパン2009」というところの
ランキングが出てたんですけどね。 |
── |
ええ、はい。 |
小田社長 |
なにか「心酔」ポイントとかって言って‥‥。
ああ、これこれ、これ。資料としてあげます。 |
── |
ありがとうございます‥‥あ、すごい、12位。
何というか、任天堂より上。 |
|
小田社長 |
他にもいろんな観点からランキングしてて
総合順位はもっと下なんだけど、
「心酔ポイント」というジャンルでは、
こういう結果になったみたいなんですよね。 |
── |
つまりこれは、
「ファンが、どれだけ大ファンか」をくらべた
ランキングなわけですね。 |
小田社長 |
ぼくもビックリしちゃって。ありがたいことです。 |
── |
あの‥‥あたりまえかもしれませんが、
六花亭の人気が高いのは、
何よりまず「お菓子が、おいしい」ということだと
思うんです。 |
小田社長 |
ありがとうございます。 |
── |
今日、ここにおうかがいしているのは、
弊社のなかでも「六花亭好き」の3人なんですが、
事前に「十勝日誌」という
六花亭のお菓子の詰め合わせを取り寄せて、
40種類くらい一気に食べたんです。 |
|
現実に存在する『十勝日誌』という本から
表紙などを複製した、お菓子の詰め合わせセット。
われわれは「42個入り」を注文しました。 |
|
小田社長 |
ええ。 |
── |
‥‥たのしい仕事でした。 |
小田社長 |
よかったねぇ(笑)。 |
── |
で、あらためて六花亭のお菓子はおいしいなと
思ったんですが、
もっとおどろいたのは、
こんなに食べたのに
「ハズレがない!」ということだったんです。 |
小田社長 |
ああ、それは、
六花亭にとって最高の褒め言葉ですね。
その「ハズレがない」というのは。 |
── |
「おいしい」よりも? |
小田社長 |
それもね、もちろんうれしいんですよ。
でも、「ハズレがない」っていうのは、
ぼくらの「究極の目標」なんです。 |
── |
そうなんですか。 |
小田社長 |
つまり、新商品を開発するのも当然大切ですが、
いま現在、販売している商品を
つねに「もっともっと、よいお菓子にするんだ」って
改良を重ねていくことで、
お客さまの信頼を得ることができるわけだから。 |
── |
さっきのショートケーキみたいに。 |
小田社長 |
そう、たとえば六花亭の喫茶のメニューに
「ホットケーキ」ってのがあってね。 |
── |
はい。 |
小田社長 |
これ、昭和30年代からやってることもあって、
ぼくらも、相当自信を持ってたんです。
まあ、くわしくは言えないんですけど、
いくつか仕掛けもあるし、
他店との差別化もできてましたからね。
「うちのホットケーキはちがうよ?」‥‥と。 |
── |
ええ、ええ。 |
小田社長 |
ところが先だって、雑誌の『藝術新潮』にね、
「ウエスト」さんのホットケーキが
紹介されてたんですよ。 |
── |
東京の喫茶店の「ウエスト」ですか? |
小田社長 |
そう、青山の。 |
── |
ええ、はい。 |
小田社長 |
それが、すごくキレイなホットケーキでね‥‥
ほんとビックリしちゃった。 |
── |
へえー‥‥。 |
|
小田社長 |
もう、ぼく、すぐに食べに行ったんです。
そしたら‥‥もう、まいった。 |
── |
まいりましたか。 |
小田社長 |
見事。 |
── |
おいしかったんですか。 |
小田社長 |
味もよかったけど、やはり「見た目」が素晴らしい。 |
── |
見た目。 |
小田社長 |
もう、見れば見るほど、あまりにキレイで。
上には上がいるなぁと思ったですね。 |
── |
キレイと言うのは、具体的には‥‥。 |
小田社長 |
ウエストさんのは、なにしろ「焼き色」がすごい。
ぼくらの40年以上やってきたホットケーキも、
今までの作りかたじゃ
絶対ダメだっていうことが、すぐわかりました。 |
── |
ははー‥‥。 |
|
小田社長 |
それで、帯広に帰ってくるなりね、
うちのホットケーキを、もっとよいものにするために
ああでもない、こうでもないって‥‥。 |
── |
見た目の改良に取り組んだんですね。 |
小田社長 |
最初は、なかなかうまくいかなかったんだけど、
「ちょっとあれ、やってみよう」って
ふと思いついたことを試したら、これがズバリ。 |
── |
それは? |
小田社長 |
それはね‥‥いやいや、言えないよ!(笑) |
── |
そうですよね(笑)。 |
小田社長 |
それで、つい最近、新しくなったんです。 |
── |
じゃ、伝統のホットケーキに「メス」が。 |
小田社長 |
うん‥‥ずーっと通ってくださってる
昔からのお客さまにとっては、
「青春の味」だったりするんですよ。
だから、不評だったら
ぼくが責任をとるつもりで、変えました。 |
── |
そこまでの覚悟で。 |
小田社長 |
でも「マルセイバター」だって変わってますからね。 |
── |
えっ? マルセイバターサンドも? |
小田社長 |
この春先にも変えてますよ。 |
── |
ほんとですか? |
小田社長 |
小さなことですが、変わってます。 |
── |
気付かなかった‥‥。 |
小田社長 |
お客さまの声が、いろいろ聞こえるんです。
その声をヒントにして、
少しづつ「味の手直し」を続けています。
六花亭という会社には
「売り上げ目標」というものがないんですけど、
お菓子の「質」については
つねに‥‥何というか、挑戦しているんですよ。 |
── |
つまり「ハズレがない」のために。 |
小田社長 |
究極の目標である「ハズレがない」のために。
その仕事は、エンドレスです。
<つづきます> |