あの会社のお仕事。 気になる会社に 素朴な疑問をどんどんぶつける。  六花亭製菓 編
 
第3回  なぜ六花亭は人気があるのか。
 
── それではあらためまして、
小田社長に、取材させていただけますか。
小田社長 いいですよ。
── 場所は‥‥。
小田社長 どこでもけっこうです。
── 社長室的な場所ですと、いかがですか。
小田社長 いいですよ。(後ろを振り向き)ここだけど。
── あ、社長室というより「社長の席」的な。
振り向けばそこに「社長の席」が。
小田社長 うん、社長室ってのはないから、うちには。
── そうなんですか。
小田社長 うん、なんかイヤなんです。
── イヤ。
小田社長 ひとりだけ、別のところにいるのがイヤで。
ここで他の連中といっしょに仕事してます。
── うち(糸井事務所)と同じですね。
小田社長 あ、そうなんだ。
── はい、社長室もあるんですけど、
ぼくらと同じ部屋にも、糸井の席があるんです。
小田社長 そっちのほうがおもしろいよね。
社員をからかったりできて(笑)。
── それじゃ、あらためて経緯を申し上げます。
小田社長 ようするに何が訊きたいのか、というのを
事前に、うかがってましたけど。
── はい。
小田社長 これまで、何度も取材を受けてきたんですが、
ああ訊かれたのは、はじめてなんですよ。
── なぜ六花亭のお菓子は人気があるのか‥‥と?
小田社長 うん、そういう取材は、なかったですね。
そこまでズバッと、真正面から訊かれたのは。
── そうなんですか。
小田社長 今までは、六花亭の「経営方針」だとか、
「地域企業」としてのあり方だとか。
── た、単純な質問すぎましたでしょうか‥‥?
小田社長 いや、その逆でね。単純だけに、むずかしい。

今日の『六輪』って社内新聞にも
書いたんですけど、うまく答えられるかなぁと。
── あ、その『六輪』というのは、
さっきの「一人一日一情報」をまとめて
日刊で出してらっしゃる社内新聞のことですね。
小田社長 そう、そこのコラムに、書いたんですよ。
ええと、今日の『六輪』は‥‥あった。
── ほんとだ!
小田社長 ‥‥そういえば、さっきトイレに行ったらさ、
今日の『六輪』が置いてあったぞ、トイレに。

あれ、ヤマモトだろう? え?(笑)
ヤマモト
さん
ぼくじゃないです(笑)。
── でも、そうお聞きするには理由がありまして、
ちょっと前のデータなのですが、
2008年に「ほぼ日」で
「はたらくこと」についてのアンケートを
とったことがあるんです。
小田社長 ええ。
── 学生の「人気企業ランキング」の
上位100社のなかから
社会人の読者に
「いま、あらためて入りたい企業」を
選んでもらったんです。
小田社長 おもしろいねえ。
── で、100位以内に入りたい企業がない場合には
具体的な企業名を自由回答してもらったんです。
小田社長 うん、うん。
── その自由回答のランキングが、これなんですけど‥‥。

Nikkei Business Online・ほぼ日刊イトイ新聞合同調査
社会人がえらぶ人気企業アンケートより抜粋
小田社長 ほほー‥‥。
── いわゆるリーマンショック以前のデータですし、
ちょっと古い感じは否めませんが、
ともかく、
上位は「カタカナ」ばっかりのところに‥‥。
小田社長 グーグルだ、アップルだとね。
── 17位に、ぽんっと六花亭さんが。
小田社長 ほんとだ。うちのサクラか?(笑)
── いえ(笑)、あの、いわゆる欧米のグローバル金融や
日本の大きな会社、
ベンチャーっぽいIT企業が並ぶなか、
北海道の地域企業である六花亭さんが、ぽんっと。
小田社長 うれしいですね。
── つまり、お菓子の人気が高いのと同じように、
「はたらく場所」としても
人気なんだなぁって、そのとき思ったんです。
小田社長 そういえば、たまたまこの前、
「ブランド・ジャパン2009」というところの
ランキングが出てたんですけどね。
── ええ、はい。
小田社長 なにか「心酔」ポイントとかって言って‥‥。
ああ、これこれ、これ。資料としてあげます。
── ありがとうございます‥‥あ、すごい、12位。
何というか、任天堂より上。
小田社長 他にもいろんな観点からランキングしてて
総合順位はもっと下なんだけど、
「心酔ポイント」というジャンルでは、
こういう結果になったみたいなんですよね。
── つまりこれは、
「ファンが、どれだけ大ファンか」をくらべた
ランキングなわけですね。
小田社長 ぼくもビックリしちゃって。ありがたいことです。
── あの‥‥あたりまえかもしれませんが、
六花亭の人気が高いのは、
何よりまず「お菓子が、おいしい」ということだと
思うんです。
小田社長 ありがとうございます。
── 今日、ここにおうかがいしているのは、
弊社のなかでも「六花亭好き」の3人なんですが、
事前に「十勝日誌」という
六花亭のお菓子の詰め合わせを取り寄せて、
40種類くらい一気に食べたんです。
現実に存在する『十勝日誌』という本から
表紙などを複製した、お菓子の詰め合わせセット。
われわれは「42個入り」を注文しました。
小田社長 ええ。
── ‥‥たのしい仕事でした。
小田社長 よかったねぇ(笑)。
── で、あらためて六花亭のお菓子はおいしいなと
思ったんですが、
もっとおどろいたのは、
こんなに食べたのに
「ハズレがない!」ということだったんです。
小田社長 ああ、それは、
六花亭にとって最高の褒め言葉ですね。

その「ハズレがない」というのは。
── 「おいしい」よりも?
小田社長 それもね、もちろんうれしいんですよ。

でも、「ハズレがない」っていうのは、
ぼくらの「究極の目標」なんです。
── そうなんですか。
小田社長 つまり、新商品を開発するのも当然大切ですが、
いま現在、販売している商品を
つねに「もっともっと、よいお菓子にするんだ」って
改良を重ねていくことで、
お客さまの信頼を得ることができるわけだから。
── さっきのショートケーキみたいに。
小田社長 そう、たとえば六花亭の喫茶のメニューに
「ホットケーキ」ってのがあってね。
── はい。
小田社長 これ、昭和30年代からやってることもあって、
ぼくらも、相当自信を持ってたんです。

まあ、くわしくは言えないんですけど、
いくつか仕掛けもあるし、
他店との差別化もできてましたからね。

「うちのホットケーキはちがうよ?」‥‥と。
── ええ、ええ。
小田社長 ところが先だって、雑誌の『藝術新潮』にね、
「ウエスト」さんのホットケーキが
紹介されてたんですよ。
── 東京の喫茶店の「ウエスト」ですか?
小田社長 そう、青山の。
── ええ、はい。
小田社長 それが、すごくキレイなホットケーキでね‥‥
ほんとビックリしちゃった。
── へえー‥‥。
小田社長 もう、ぼく、すぐに食べに行ったんです。
そしたら‥‥もう、まいった。
── まいりましたか。
小田社長 見事。
── おいしかったんですか。
小田社長 味もよかったけど、やはり「見た目」が素晴らしい。
── 見た目。
小田社長 もう、見れば見るほど、あまりにキレイで。
上には上がいるなぁと思ったですね。
── キレイと言うのは、具体的には‥‥。
小田社長 ウエストさんのは、なにしろ「焼き色」がすごい。

ぼくらの40年以上やってきたホットケーキも、
今までの作りかたじゃ
絶対ダメだっていうことが、すぐわかりました。
── ははー‥‥。
小田社長 それで、帯広に帰ってくるなりね、
うちのホットケーキを、もっとよいものにするために
ああでもない、こうでもないって‥‥。
── 見た目の改良に取り組んだんですね。
小田社長 最初は、なかなかうまくいかなかったんだけど、
「ちょっとあれ、やってみよう」って
ふと思いついたことを試したら、これがズバリ。
── それは?
小田社長 それはね‥‥いやいや、言えないよ!(笑)
── そうですよね(笑)。
小田社長 それで、つい最近、新しくなったんです。
── じゃ、伝統のホットケーキに「メス」が。
小田社長 うん‥‥ずーっと通ってくださってる
昔からのお客さまにとっては、
「青春の味」だったりするんですよ。

だから、不評だったら
ぼくが責任をとるつもりで、変えました。
── そこまでの覚悟で。
小田社長 でも「マルセイバター」だって変わってますからね。
── えっ? マルセイバターサンドも?
小田社長 この春先にも変えてますよ。
── ほんとですか?
小田社長 小さなことですが、変わってます。
── 気付かなかった‥‥。
小田社長 お客さまの声が、いろいろ聞こえるんです。

その声をヒントにして、
少しづつ「味の手直し」を続けています。

六花亭という会社には
「売り上げ目標」というものがないんですけど、
お菓子の「質」については
つねに‥‥何というか、挑戦しているんですよ。
── つまり「ハズレがない」のために。
小田社長 究極の目標である「ハズレがない」のために。
その仕事は、エンドレスです。

<つづきます>
 

03 六花の森 坂本直行記念館

前回の中札内美術村から、自動車で10分ほど。

引き続き、六花亭の岩崎さんに案内していただいて
六花亭の包装紙のイラストで有名な
坂本直行さんの記念館がある「六花の森」に到着。


こちらが、坂本直行さん。
いま熱い坂本龍馬は「祖父の叔父さん」。

ひろびろとした敷地内には‥‥。

小川がせせらぎ‥‥。

「十勝六花」に数えられる
ハマナスやカタクリが、植えられていました。


訪れたのは11月初頭。
赤く色づいているのは、ハマナスの実。

白樺の林のなかに建物が点在し、
ちょっとひみつめいた雰囲気のする中札内美術村とは
またちがい、
ひらけて、日当たりが良くって、気持ちの良い場所。

六花亭の花柄包装紙に描かれた草花でいっぱいの
坂本直行さんの世界を再現しようと、
構想10年を経て、
2007年9月にオープンしたそうです。

さっそく、坂本さんの作品を見てみましょう。


受付棟は、小田社長がクロアチアから移築した木造家屋。
休憩もできます。

十勝六花です。

十勝六花とは、ハマナス、エゾリュウキンカ、
エゾリンドウ、カタクリ、シラネアオイ、
オオバナノエンレイソウ、のこと。


6月くらいから夏にかけて花を咲かせる、ハマナス。

やや見えづらいですが、下はアイスクリームのイラスト。

‥‥え、六花亭の「アイスクリーム」ってあるの!?
残念ながら、今は製造していないとか。
食べたかった‥‥。

坂本直行さんのイラストは、お菓子の包装紙だけでなく、
六花亭が、もう50年間(!)も発行している
無料の児童詩誌『サイロ』の表紙も、飾り続けています。

第1号の発行は昭和35年。月に1回、発行し続け、
今まで一度も休刊したことがないとか。
今年2010年1月号で、その数なんと600号に!

谷川俊太郎さんが、
50周年記念の詩を寄せてらっしゃいました。


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なお、この「六花の森」も、このときすでに閉園中。
ぼくらのほかには誰もいないという、
とてもぜいたくな時間を過ごさせていただきました。

ちなみに、この森が、
つまり坂本直行さんの世界が完成するまでには、
さらに花を植え、それが根付き‥‥
ゆうに10年以上は、かかるんだそうですよ。

2010年のオープンは4月29日(木)の予定とか。
そろそろ、ですね。

岩崎 ‥‥そうそう、あの丘のうえのオブジェ、
何かに似ていると思いません?
── んー、なんだろう?
岩崎 じゃあ、ちょっとこっちの方向から
近づいてみましょうか。
── あ、背中‥‥というか、後ろ姿?
岩崎 誰の後ろ姿?
── 誰の? 誰かの後ろ姿なんですか?
岩崎 さて、誰でしょう?
── んー‥‥あ、スギエさんスギエさん。

あそこの彫刻「何に似てるでしょう?」って
岩崎さんから、またクイズが。
スギエ えー‥‥。
── なんか、誰かの後ろ姿らしい‥‥。
スギエ カリントウですか?
岩崎 えっ‥‥。
スギエ カリントウですか?
── いや、すみません、そんなわけないですよね!
岩崎 ははははは‥‥。
── すみません、この人、悪気はないんです!
たぶん遠くから見てるからだと思います‥‥。
スギエ す、すみません。
岩崎 いえいえ、ちょっと遠すぎて
わかりにくかったかもしれませんね(笑)。
── 本当に、すみません。
‥‥スギエさん、誰かの後ろ姿らしいです。
岩崎 こたえは‥‥。
スギエ あ、わかった!
── あの、おスギさん、発言にはくれぐれも‥‥。
スギエ 考える人! ‥‥の後ろ姿。かな?
岩崎 ご名答!
── おおー!(ホッ)

板東優さんの「考える人(ロダンから)」という作品。
正面側(?)にまわって見るとこんな感じ&サイズ感。

六花の森

所在地  北海道河西郡中札内村 常盤西3線 249-6
問合先  0120-012-666(六花亭お客様相談室)
     詳しくはこちら
2010年の開館日 4月29日(木) ※冬季は閉館

 
2010-04-14-WED
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN