あの会社のお仕事。 気になる会社に 素朴な疑問をどんどんぶつける。  六花亭製菓 編
 
第6回  お菓子の街の、お菓子屋さん。
 
── 六花亭は、北海道から出ていかないんですか?
小田社長 ええ、その予定はないですね。
── 広告も北海道でしか打ってない‥‥ですよね?
小田社長 ええ、打ってません。

今はインターネットの通信販売があるけど、
基本的に、
六花亭のお店は北海道以外にはないから。
── どうして出ていかないんですか?
原料などの問題はあるでしょうけど‥‥。
小田社長 お菓子の品質をキープして行くためには、
原料ももちろん大切ですが、
それよりも「人材」の問題が大きいです。
── 人材。
小田社長 工場につとめる人たちもそうだし
お店の販売員もそうだし‥‥。

ぼくが言うのもなんなんだけど、
うちの社員は、
みんな、気持ちよく仕事してくれるんです。
── 外から見ても、そんな感じがします。
小田社長 ああいうチームを、
ここ以外で組織するのは至難の業だと思う。
── 何がちがうんでしょうか?
小田社長 うーん‥‥あえていえば「素朴さ」とかね、
そういう「帯広の人や風土」が
六花亭のお菓子に、合ってるんでしょうね。

だから、うちの工場の作り手のチームを
別の地域で組織しようと思っても、
すごく、むずかしいと思う。
── それが「北海道から出ない理由」ですか。
小田社長 うん、だから「今、この帯広にいる」ことが、
ひとつの「値打ち」だと思っています。
── 社長は、1300人いる社員全員の名前を
覚えてらっしゃるというし、
仲間を大事にしている会社なんだなとは
思っていたのですが、
北海道から出ない理由もそこに関係があるとは、
すごいなと思いました。
小田社長 もちろん、
初めからわかってたわけじゃないですよ。

結果論というか、後追い講釈なんだけど、
「やっぱり帯広でよかったな」って
ことあるごとに、思うものですからね。
── 帯広で、よかった。
小田社長 六花亭のお菓子が評価してもらえるのであれば
それは、
この帯広十勝という経済圏で育った
若い作り手たちの「質」が
同時に評価されているのだと、ぼくは思います。
── 北海道には、販売員さんの接客のていねいさから
「嫁にするなら六花亭」
‥‥みたいな言い回しもあると聞きました。
小田社長 昔、しつけ、しつけって言ってた時代に
できた言葉なんだと思うけど‥‥
この会社の、そういう基礎の部分は、
父の代に、しっかりと築かれたものですよね。
── 社長から見て、初代社長の小田豊四郎さんは
どんなかただったですか?
小田社長 お菓子に人生をかけた男、ですね。
── たしか、伝記的な絵本が出ていましたね。
小田社長 『お菓子の街をつくった男』というね。

あれは、上条さなえさんって童話作家が
どうしても父の本を書きたいって。
── 読ませていただきましたが、
まさに「お菓子にかけた人生」だと思いました。
小田社長 当然、お菓子に関しても、
父が今の六花亭の基礎をつくってくれたんです。

ぼくらは、
その上に乗っかってるだけというかな‥‥。
── お父さまのお菓子と、社長さんのお菓子って
どこか、ちがいはあると思いますか?
小田社長 ないですね。
父の流儀を踏襲しているわけですから。

ま、親父のお菓子のほうが
はるかに優れてるっていうだけで。
── そう思われます?
小田社長 うん、だからまだまだ、ですね。
追いつきたいとは思ってるんだけど(笑)。
── そうですか。
小田社長 そのためにも、まずは
「マルセイバターサンド」と同じくらい、
みなさんに
好きになってもらえるお菓子を
もっともっと、開発していきたいですね。
── 今、売上でいうと、
マルセイバターサンドの次に来るのは‥‥?
小田社長 「ストロベリーチョコレート」かな。
── ああ、あまいホワイトチョコレートのなかに
酸味の効いた
フリーズドライのイチゴが入ってるお菓子ですね。
  あのお菓子も、本当においしいなと思うんですが、
さしつかえなければ、具体的な金額を‥‥。
小田社長 13億円くらい。
── たしかに
マルセイバターサンドの80億円にくらべると
金額に開きがありますね。
小田社長 あるいは「霜だたみ」とか‥‥。
── ああ、サクサクのチョコレートパイで
モカっぽいクリームを挟んだ‥‥あれも大好きです。
小田社長 「雪やこんこ」なんかも‥‥。
── ココア味のビスケットに
ホワイトチョコレートをはさんだお菓子ですね。

これから派生した「雪こんチーズ」も
すごく、おいしかったです。

直営店でしか手に入らない
「賞味期間2時間」のお菓子ですから、
ここに来る前に、本店によって食べてきました。
小田社長 ‥‥ともかく、
その「霜だたみ」や「雪やこんこ」も
それくらいの売上になってきてるんだけど、
やっぱまだ
うちには「4番バッター」がひとりだけ。

この状況を、
今後、どうにか変えていかないと。
── 新製品というのは、
どれくらいの頻度で出ていくものなんですか?
小田社長 それは、わからないですね。

ポポーンと次々にいけるときもあるし、
挫折して、寝てるやつもいるし。

しばらく寝かしといたら、
また思いがけないヒントが見つかったり‥‥
もう、それぞれですよ。
── 先ほど、とらやさんの「進取の精神」という
話が出ましたけど
そういうときに
六花亭が「ファッション性」を追うことも
あるんでしょうか。
小田社長 それは、ありますよ。
── たとえば‥‥。
小田社長 最近で言うと‥‥何だろうな。

ああ、よく「かわいーっ!」という種類のお菓子って
あるじゃないですか。

ぼく、あんまり好きじゃないんだけど。
── 女の子っぽい「かわいーっ!」ですか?
小田社長 そう、で、その一方で、六花亭のお菓子に
「大平原」というマドレーヌがある。
── はい、ございますね。

袋を開けた瞬間に、
バターの香りがパァーっとひろがる、あの‥‥。
小田社長 40年以上前、私の父、つまり先代の社長が
2年もの歳月をかけて、作りあげたお菓子なんです。

で、ぼくも好きで、よく食べるんですが、
われわれが思ってるほど
お客さまから、評価されてないんですよ。
── 「大平原」が? それは意外です。
小田社長 どうしたらいいかなぁって思案してるときに
たまたま百貨店を歩いてたら
何かこう、小さい、ポロポロっとしたものが‥‥。
── ポロポロっとしたもの?
小田社長 いやね、ともかくも、
小さくて「かわいーっ!」って感じのお菓子が
袋詰めになってるのを見て、
待てよ、「大平原」をひとくちサイズに小さくしたら
どうなるだろうと思って、作ってみたら‥‥。
── ええ、ええ。
小田社長 日ハムがパ・リーグ優勝したときに
百貨店に記念品を頼まれたんで、
そのときに作ったら、
ぶわーっと売れちゃったんです。
── ちっちゃい「大平原」が。
小田社長 小袋に入れた「大平原ミニ」って言うんですけど。

で、うちの社員たちもね、
「うわあ、かわいーっ!」て食いつくんですよ。
── 大成功だったわけですね。
小田社長 でもね、あれは、
お菓子としては一切妥協してないんだけど、
「売りかた」としては
すこーし、
流行にたいして媚びがあったかなあ‥‥ってね。

もちろん、許される範囲だろうなと思って
やったことなんですけどね。
── でも、お客さんが喜んでくれるんだったら、
よかったんじゃないんですか?
小田社長 いや、でもね、
「大平原」みたいなマドレーヌってのは
本来は「手で割って」食べるべきお菓子だと
思うんですよ。
── ひとくちで、ぱくっといくよりも。
小田社長 理屈から言ってもね、
小さいやつより、大きいほうがおいしいはず。
── はー‥‥そういうものですか?
小田社長 だって、大きいほうがムックリ焼ける。
── ムックリ?
小田社長 何というか、大きければじっくり火が通せるから
より風味豊かに焼けるんです。
── なるほど。
小田社長 小さい場合は、すぐ火が入っちゃうから、
大きいのに比べたら、しっとりしないはずなんだ。
── なるほど‥‥。
小田社長 もちろん「大平原ミニ」それ自体については
100%、納得して出していますけどね。

今のはあくまで、比較したときの話ですから。
── 今日は「なぜ六花亭は人気があるのか」を知りたくて
おうかがいしたのですが、
こうして、
小田社長の「お菓子のお話」を聞いていると
なんとなく、その理由がわかったような気がします。
小田社長 そうですか?
── 読んでくれている人にも、
うまく伝えられると、いいんですが。
小田社長 まぁ、ぼくも、未だに親父のてのひらの中で
泳がせてもらってる、そんな感じですからね。

おもしろい話が、できたかどうか。
── いや、すごっく、おもしろかったです。
お菓子の街の、お菓子屋さんのお話。

今日は、ありがとうございました。
小田社長 ならよかったけど。‥‥ああ、マモル、マモル。
マモルさん はい。
小田社長 リンゴだろうな。

さっきのクリスマスケーキだけど、
リンゴでどうするかだよ。
マモルさん リンゴですか。
小田社長 蒸しちゃダメだね。
きれいなジャムをかけたのがいいねえ。
マモルさん はい。
小田社長 この時期だから、
ジャムを召し上がってほしいでしょう。
マモルさん そうですね。
小田社長 いまの時期しか食べられないジャムだから、な。
マモル わかりました。
小田社長 あれを活かしたケーキにしようよ。

それとさぁ、真駒内のコンサートに出す用の
お菓子なんだけどさ‥‥。
 

06 国鉄広尾線・幸福駅より

帯広・札幌をぐるーっとめぐって
いろんな六花亭を取材してきた旅も、もう終点です。

最後、国鉄広尾線の幸福駅へ立ち寄りました。

ああ、ここが、かの幸福きっぷで有名な‥‥。
顔出し看板があったので、記念撮影。パシャリ。


弊社のナンバーワン幸福顔・スギエが幸福駅でパシャリ。

「愛国から幸福行き」のきっぷも、もちろん購入。
220円。

このような機械で日付を刻印します。ばちん。

幸福行きのきっぷ、手に入れました! やったー。

‥‥さて、取材に来るまえは
お菓子のことしか知りませんでしたが、
パワフルな小田豊社長、
「村」規模の美術プロジェクトの運営や
コンサートなどの文化活動、
育児休業中のおかあさん社員が
保育士の資格をとって作っちゃった保育園‥‥と
六花亭の、いろんな「顔」を知れました。

意外だったんですが、軟式野球部もかなり強くて、
2009年の新潟国体では、
なんと「ベスト4」まで勝ち上がったとか。

「社員の人が、
 楽しそうにはたらいていそうだな」という
事前の印象は、そのとおりでした。
でも、こんなにもエネルギーに満ちあふれた会社だとは
思っていませんでした。

なぜ、六花亭のお菓子は人気があるのか。

そのことを知りたくて、やってきた取材ですが
その理由が、少しわかった気がしています。
みなさんにも、
なんとなく、伝わったらいいなぁって思います。
そしてなにより、じつに楽しい取材でした。

六花亭のみなさん、本当にありがとうございました!

よかったら、小田社長や六花亭のみなさんに
ご意見やご感想など、ぜひぜひ、お送りくださいね。

 
2010-04-19-MON
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN