── |
六花亭は、北海道から出ていかないんですか? |
小田社長 |
ええ、その予定はないですね。 |
── |
広告も北海道でしか打ってない‥‥ですよね? |
小田社長 |
ええ、打ってません。
今はインターネットの通信販売があるけど、
基本的に、
六花亭のお店は北海道以外にはないから。 |
── |
どうして出ていかないんですか?
原料などの問題はあるでしょうけど‥‥。 |
小田社長 |
お菓子の品質をキープして行くためには、
原料ももちろん大切ですが、
それよりも「人材」の問題が大きいです。 |
── |
人材。 |
|
小田社長 |
工場につとめる人たちもそうだし
お店の販売員もそうだし‥‥。
ぼくが言うのもなんなんだけど、
うちの社員は、
みんな、気持ちよく仕事してくれるんです。 |
── |
外から見ても、そんな感じがします。 |
小田社長 |
ああいうチームを、
ここ以外で組織するのは至難の業だと思う。 |
── |
何がちがうんでしょうか? |
小田社長 |
うーん‥‥あえていえば「素朴さ」とかね、
そういう「帯広の人や風土」が
六花亭のお菓子に、合ってるんでしょうね。
だから、うちの工場の作り手のチームを
別の地域で組織しようと思っても、
すごく、むずかしいと思う。 |
── |
それが「北海道から出ない理由」ですか。 |
小田社長 |
うん、だから「今、この帯広にいる」ことが、
ひとつの「値打ち」だと思っています。 |
── |
社長は、1300人いる社員全員の名前を
覚えてらっしゃるというし、
仲間を大事にしている会社なんだなとは
思っていたのですが、
北海道から出ない理由もそこに関係があるとは、
すごいなと思いました。 |
小田社長 |
もちろん、
初めからわかってたわけじゃないですよ。
結果論というか、後追い講釈なんだけど、
「やっぱり帯広でよかったな」って
ことあるごとに、思うものですからね。 |
── |
帯広で、よかった。 |
小田社長 |
六花亭のお菓子が評価してもらえるのであれば
それは、
この帯広十勝という経済圏で育った
若い作り手たちの「質」が
同時に評価されているのだと、ぼくは思います。 |
── |
北海道には、販売員さんの接客のていねいさから
「嫁にするなら六花亭」
‥‥みたいな言い回しもあると聞きました。 |
小田社長 |
昔、しつけ、しつけって言ってた時代に
できた言葉なんだと思うけど‥‥
この会社の、そういう基礎の部分は、
父の代に、しっかりと築かれたものですよね。 |
── |
社長から見て、初代社長の小田豊四郎さんは
どんなかただったですか? |
小田社長 |
お菓子に人生をかけた男、ですね。 |
── |
たしか、伝記的な絵本が出ていましたね。 |
小田社長 |
『お菓子の街をつくった男』というね。
あれは、上条さなえさんって童話作家が
どうしても父の本を書きたいって。 |
── |
読ませていただきましたが、
まさに「お菓子にかけた人生」だと思いました。 |
小田社長 |
当然、お菓子に関しても、
父が今の六花亭の基礎をつくってくれたんです。
ぼくらは、
その上に乗っかってるだけというかな‥‥。 |
── |
お父さまのお菓子と、社長さんのお菓子って
どこか、ちがいはあると思いますか? |
小田社長 |
ないですね。
父の流儀を踏襲しているわけですから。
ま、親父のお菓子のほうが
はるかに優れてるっていうだけで。 |
── |
そう思われます? |
小田社長 |
うん、だからまだまだ、ですね。
追いつきたいとは思ってるんだけど(笑)。 |
── |
そうですか。 |
|
小田社長 |
そのためにも、まずは
「マルセイバターサンド」と同じくらい、
みなさんに
好きになってもらえるお菓子を
もっともっと、開発していきたいですね。 |
── |
今、売上でいうと、
マルセイバターサンドの次に来るのは‥‥? |
小田社長 |
「ストロベリーチョコレート」かな。 |
── |
ああ、あまいホワイトチョコレートのなかに
酸味の効いた
フリーズドライのイチゴが入ってるお菓子ですね。 |
|
|
あのお菓子も、本当においしいなと思うんですが、
さしつかえなければ、具体的な金額を‥‥。 |
小田社長 |
13億円くらい。 |
── |
たしかに
マルセイバターサンドの80億円にくらべると
金額に開きがありますね。 |
小田社長 |
あるいは「霜だたみ」とか‥‥。 |
── |
ああ、サクサクのチョコレートパイで
モカっぽいクリームを挟んだ‥‥あれも大好きです。 |
|
小田社長 |
「雪やこんこ」なんかも‥‥。 |
── |
ココア味のビスケットに
ホワイトチョコレートをはさんだお菓子ですね。
これから派生した「雪こんチーズ」も
すごく、おいしかったです。
直営店でしか手に入らない
「賞味期間2時間」のお菓子ですから、
ここに来る前に、本店によって食べてきました。 |
|
小田社長 |
‥‥ともかく、
その「霜だたみ」や「雪やこんこ」も
それくらいの売上になってきてるんだけど、
やっぱまだ
うちには「4番バッター」がひとりだけ。
この状況を、
今後、どうにか変えていかないと。 |
── |
新製品というのは、
どれくらいの頻度で出ていくものなんですか? |
小田社長 |
それは、わからないですね。
ポポーンと次々にいけるときもあるし、
挫折して、寝てるやつもいるし。
しばらく寝かしといたら、
また思いがけないヒントが見つかったり‥‥
もう、それぞれですよ。 |
── |
先ほど、とらやさんの「進取の精神」という
話が出ましたけど
そういうときに
六花亭が「ファッション性」を追うことも
あるんでしょうか。 |
小田社長 |
それは、ありますよ。 |
── |
たとえば‥‥。 |
小田社長 |
最近で言うと‥‥何だろうな。
ああ、よく「かわいーっ!」という種類のお菓子って
あるじゃないですか。
ぼく、あんまり好きじゃないんだけど。 |
── |
女の子っぽい「かわいーっ!」ですか? |
小田社長 |
そう、で、その一方で、六花亭のお菓子に
「大平原」というマドレーヌがある。 |
── |
はい、ございますね。
袋を開けた瞬間に、
バターの香りがパァーっとひろがる、あの‥‥。 |
|
小田社長 |
40年以上前、私の父、つまり先代の社長が
2年もの歳月をかけて、作りあげたお菓子なんです。
で、ぼくも好きで、よく食べるんですが、
われわれが思ってるほど
お客さまから、評価されてないんですよ。 |
── |
「大平原」が? それは意外です。 |
小田社長 |
どうしたらいいかなぁって思案してるときに
たまたま百貨店を歩いてたら
何かこう、小さい、ポロポロっとしたものが‥‥。 |
── |
ポロポロっとしたもの? |
小田社長 |
いやね、ともかくも、
小さくて「かわいーっ!」って感じのお菓子が
袋詰めになってるのを見て、
待てよ、「大平原」をひとくちサイズに小さくしたら
どうなるだろうと思って、作ってみたら‥‥。 |
── |
ええ、ええ。 |
小田社長 |
日ハムがパ・リーグ優勝したときに
百貨店に記念品を頼まれたんで、
そのときに作ったら、
ぶわーっと売れちゃったんです。 |
── |
ちっちゃい「大平原」が。 |
小田社長 |
小袋に入れた「大平原ミニ」って言うんですけど。
で、うちの社員たちもね、
「うわあ、かわいーっ!」て食いつくんですよ。 |
|
── |
大成功だったわけですね。 |
小田社長 |
でもね、あれは、
お菓子としては一切妥協してないんだけど、
「売りかた」としては
すこーし、
流行にたいして媚びがあったかなあ‥‥ってね。
もちろん、許される範囲だろうなと思って
やったことなんですけどね。 |
── |
でも、お客さんが喜んでくれるんだったら、
よかったんじゃないんですか? |
小田社長 |
いや、でもね、
「大平原」みたいなマドレーヌってのは
本来は「手で割って」食べるべきお菓子だと
思うんですよ。 |
── |
ひとくちで、ぱくっといくよりも。 |
小田社長 |
理屈から言ってもね、
小さいやつより、大きいほうがおいしいはず。 |
── |
はー‥‥そういうものですか? |
小田社長 |
だって、大きいほうがムックリ焼ける。 |
── |
ムックリ? |
小田社長 |
何というか、大きければじっくり火が通せるから
より風味豊かに焼けるんです。 |
── |
なるほど。 |
小田社長 |
小さい場合は、すぐ火が入っちゃうから、
大きいのに比べたら、しっとりしないはずなんだ。 |
── |
なるほど‥‥。 |
小田社長 |
もちろん「大平原ミニ」それ自体については
100%、納得して出していますけどね。
今のはあくまで、比較したときの話ですから。 |
── |
今日は「なぜ六花亭は人気があるのか」を知りたくて
おうかがいしたのですが、
こうして、
小田社長の「お菓子のお話」を聞いていると
なんとなく、その理由がわかったような気がします。 |
小田社長 |
そうですか? |
── |
読んでくれている人にも、
うまく伝えられると、いいんですが。 |
小田社長 |
まぁ、ぼくも、未だに親父のてのひらの中で
泳がせてもらってる、そんな感じですからね。
おもしろい話が、できたかどうか。 |
|
── |
いや、すごっく、おもしろかったです。
お菓子の街の、お菓子屋さんのお話。
今日は、ありがとうございました。 |
小田社長 |
ならよかったけど。‥‥ああ、マモル、マモル。 |
マモルさん |
はい。 |
小田社長 |
リンゴだろうな。
さっきのクリスマスケーキだけど、
リンゴでどうするかだよ。 |
マモルさん |
リンゴですか。 |
小田社長 |
蒸しちゃダメだね。
きれいなジャムをかけたのがいいねえ。 |
マモルさん |
はい。 |
小田社長 |
この時期だから、
ジャムを召し上がってほしいでしょう。 |
マモルさん |
そうですね。 |
小田社長 |
いまの時期しか食べられないジャムだから、な。 |
マモル |
わかりました。 |
小田社長 |
あれを活かしたケーキにしようよ。
それとさぁ、真駒内のコンサートに出す用の
お菓子なんだけどさ‥‥。
|