── |
たんなる印象でしかないのですが‥‥。 |
小田社長 |
はい。 |
── |
今回の取材に備えていろいろ調べていたら、
お菓子屋さんって、
「互いにリスペクトしあってる感じ」が
ちょっとしたんですけれど。 |
小田社長 |
やっぱり、おいしいものは、おいしいからね。 |
── |
「小川軒のレイズン・ウィッチ」のお話も、
「ウエストのホットケーキ」のお話も、
まずは「尊敬」が、あるわけじゃないですか。 |
小田社長 |
ええ、それは、そうですよね。
「うわ、これ、いいなぁ」‥‥というね。 |
── |
ええ、ええ。 |
小田社長 |
全国を見てみれば、
まだまだすごいお菓子がたくさんありますよ。 |
── |
たとえば‥‥。 |
小田社長 |
佐賀の北島さんの「丸ぼうろ」とか。 |
|
── |
ああ、あのサクっとしてて、ほんのり甘い‥‥。 |
小田社長 |
うん、知ってる? |
── |
ええ、知ってますけど、
社長が「すごいお菓子」とおっしゃるので、
もっと派手な、というか‥‥
なんと言いますか、ちょっと意外でした。 |
小田社長 |
けっして華やかな感じはしないけど、
ぼくは、素朴で、すごくいいお菓子だと思う。 |
── |
他には、ございますか? |
小田社長 |
信州の竹風堂さんの、一連の栗菓子。
あのあたりなんか、いいですよ。 |
── |
栗きんとんの「栗かの子」で有名な老舗ですね。 |
|
小田社長 |
柳月さんのバウムクーヘンとかね。 |
── |
ああ、六花亭とライバルのように言われている、
同じ帯広のお菓子屋さんですね。 |
|
小田社長 |
カステラなら、九州の福砂屋さん。 |
── |
はい、あの、しっとりした口当たりの‥‥。 |
|
小田社長 |
京都の満月さんの「阿闍梨餅」も好きだし。
土佐の「君よ知るや南の国」という会社の
フルーツゼリーは、
うちじゃとうてい真似のできないお菓子だから、
六花亭の店に置かせてもらってます。 |
── |
え、他のお菓子屋さんの商品を
仕入れて売っているんですか? |
小田社長 |
うん、あのゼリーは、うちじゃムリだから。 |
── |
はー、おもしろいですねぇ。
お菓子やさん同士のお付き合いとかも
あるんでしょうか? |
小田社長 |
いろいろ、情報交換はしていますよ。
たとえば、このあいだも
竹風堂さんの新しいお菓子ができたんで、
「食べて意見くれない?」なんて。 |
── |
そんなこともあるんですね。 |
小田社長 |
やっぱり「持ちつ持たれつ」なんですよ。
以前、竹風堂さんには、
わたしどもの「どら焼き」を教えて差し上げた。
そしたら、お得意の「栗のつぶあん」が入った
どら焼きをお作りになって。
非常に好評のようで、よかったんですけれども。 |
── |
ええ、ええ。 |
小田社長 |
逆にね、竹風堂さんには「栗おこわ」がある。
とってもいい品だなあって思っていたから、
六花亭でも、何とか
北海道らしい「おこわ」を作れないかなあと
思ってたんですよ。 |
── |
はい。 |
小田社長 |
それで、試行錯誤して、豆のたくさん入った
「十勝強飯」ってのをつくった。
で、竹風堂さんにお送りしてみたんです。
そしたら
「小田さん、ここはもうちょっと
こうしたほうがいいんじゃない?」なんて
アドバイスをくださったり。 |
── |
やっぱり、
互いに尊敬がないとできないことですね。 |
|
小田社長 |
まぁ、お菓子にたいする考えかたとか
価値観を共有できる人とは
お付き合いが深くなっていきますよね。 |
── |
そう言えば、以前、糸井と松山に行ったとき、
「一六タルト」の玉置泰社長が
六花亭のことを
「知れば知るほど、いい会社なので、
よーくお話を聞いてきてください」って。 |
小田社長 |
ありがたいことです。 |
── |
で、そのとき、
六花亭で、息子さんが働いていたって言ってました。 |
小田社長 |
ええ、いらっしゃいましたよ。 |
── |
それは、つまり、武者修行と言うか‥‥。 |
小田社長 |
うちには、しょっちゅう、いらっしゃいますよ。 |
── |
他にも、お菓子屋さんの息子さんが? |
小田社長 |
最近だけでも、5〜6人いたかなあ。 |
── |
そんなに。 |
小田社長 |
成田山の「なごみの米屋」からも来てたし‥‥。 |
── |
羊羹で有名な老舗ですね。 |
小田社長 |
それから、金沢の「うら田」という
和菓子屋さんからも来てたし、
柿羊羹で有名な
岐阜・大垣の「つちや」の息子さんもいたしね。 |
── |
みなさん、何年かこちらで修行されて? |
小田社長 |
帰って、家業を継がれるんです。 |
── |
そういう関係って、すごくいいですね。 |
小田社長 |
ぼく自身も、大学を出たあと、
六花亭に入る前に
京都の「鶴屋吉信」でお世話になってました。 |
── |
そうなんですか。 |
小田社長 |
だから、逆に言えば、
よほど自分たちで切磋琢磨していないとね。
そういうお付き合いも、
させていただけなくなりますから。 |
── |
ああ、そうか、なるほど。 |
小田社長 |
全国のお菓子屋さんから来てくださるのは、
今、さいわいにも
六花亭には「魅力のあるお菓子」があると
同業さまから、
思ってもらえてるってことですからね。 |
── |
では、社長が誰かを修行に出すとしたら、
どの会社に、出したいですか? |
小田社長 |
うーん‥‥(少し間)、むずかしいなぁ。 |
── |
では、理想のお菓子屋さん、でもいいです。 |
小田社長 |
それなら‥‥やっぱり、黒川さんのところかなぁ。 |
── |
黒川さん? |
小田社長 |
「とらや」さん。 |
|
── |
はー‥‥それは、どういう理由ですか? |
小田社長 |
いちばんの理由は「続いてる」ということ。 |
── |
続いてるというのは、お店が? |
小田社長 |
とらやさんの創業って、1500年代でしょう? |
── |
たしか室町時代ですよね。 |
小田社長 |
つまり、500年くらい続いてるわけです。
これだけですごいし、別格ですから。 |
── |
なぜ「続いていること」が、すごいんですか。 |
小田社長 |
今、空前の大不況だとか言われていて、
会社がバタバタ潰れているでしょう。 |
── |
ええ。 |
小田社長 |
さっきも言いましたけど、
うちだって例に漏れず、売上が落ちているんです。 |
── |
よく聞く表現だと「100年に一度の大不況」だと。 |
小田社長 |
そう、だから、今の「むずかしい時代」が
「100年に一回」なんだとしたら、
とらやさんは
「こういう時代」をすでに
「4回も5回も乗り越えてきてる」わけですよ。 |
── |
ああー‥‥。 |
小田社長 |
当然、たんなる経済の不況だけじゃなくて、
その間には、飢饉だって、
大地震だって、戦争だってあったんですよ。 |
── |
そうですよね。 |
小田社長 |
とらやの500年の「厚み」っていうのは、
想像できないほど、すさまじいですよ。 |
── |
企業の目的は「存続」である‥‥とは
「ビジネス格言」的に、
よく言われると思うんですが、
とらやさんの「500年」って
ものすごい重みがありますね‥‥そう考えると。 |
小田社長 |
六花亭だって、今でこそ整理はついてるけど
売り上げに右往左往する時代もありましたよ。
一喜一憂していた時代がね。 |
── |
はい。 |
小田社長 |
先日、お菓子屋の集まりのときに、
とらやさんが、おっしゃったんですって、
みなさんの前で。
「うちも今、売上が1割落ちてます」って。 |
── |
ええ、ええ。 |
小田社長 |
でもね、その口調が、
非常に淡々としてたらしいんです。 |
── |
500年もやってれば、
こんなこともありますから‥‥みたいに。 |
小田社長 |
だから、お菓子のことで言うなら、
六花亭も、
一時のファッションで終わることのない、
時の試練に耐えうるお菓子をつくりたい。 |
── |
なるほど。 |
|
小田社長 |
六花亭のお菓子のパッケージなどに
絵を使わせていただいている
北海道の画家・坂本直行さんの記念館を
「六花の森」という原生林に建てたんですが、
この事業なんかは、そういう考え。 |
── |
と、おっしゃいますと? |
小田社長 |
六花亭のパッケージに描かれた草花で
いっぱいに満たされた森をつくる構想なんですが、
草花が根付くまでに、
まだ10年以上は、かかるんです。 |
── |
はー‥‥そんなに。 |
小田社長 |
つまり、ぼくの時代では完成しないわけです。
そういうようなものに
視点の置ける会社になりたいなと思ってます。 |
── |
でも、歴史が深い一方で、
六本木のミッドタウンに出店したりとか、
とらやさんて
おしゃれなイメージもありますよね。 |
小田社長 |
そうそう、そうなんですよ。 |
── |
たしか、今のパッケージデザインや広告、
お店のディスプレーなどの
クリエイティブディレクターをつとめているのは
サン・アドの葛西薫さんですし。 |
小田社長 |
あの‥‥とらやさんには
ゴルフボールのかたちをした最中があってね。 |
── |
ええ、はい、ありますね。
たしか「ホールインワン」という名前で。 |
|
小田社長 |
あれが作られたの、大正時代なんですよ。 |
── |
えっ、そんなに昔なんですか?
すごくモダンな感じがしますが‥‥。 |
小田社長 |
ようするに、まだ「ゴルフ」というものが
ほとんど世に知られてないときに、
あんなデザインの最中をつくっているわけ。
そういう「進取の精神」も兼ね備えてる。 |
── |
当時は、かなり斬新な見た目の
お菓子だったんでしょうね。 |
小田社長 |
しかも、それが今でも、
何十年も続いてるわけですよ。 |
── |
ああー‥‥。 |
小田社長 |
斬新なデザインを
数百年という「厚み」が支えているからこそ、
一時の流行に終わらせずに
廃れず、何十年も、続けていけるんですよ。 |
── |
なるほど、なるほど。 |
小田社長 |
だから、ぼくが「自問自答」するときの
ひとつの座標軸として
「とらやさんだったら、こんなことするかなあ」
というのがあるんです。 |
── |
ええ。 |
小田社長 |
「ああ、しない、しない。
やっぱりやめとこう」って(笑)。 |
── |
へぇー‥‥。 |
小田社長 |
時間に耐えうるものと、ファッション性と、
その両軸のバランスのよさ‥‥ですよね。
とらやさんが500年も続けてこられたのには、
続けてこられただけの、理由があると思う。
<つづきます> |