「聞く、ほぼ日。」は、ほぼ日が取り組む
オーディオコンテンツのプロジェクトです。
その第一弾としてリリースされるのが、
『ボールのようなことば。』のオーディオブック。
製作を手掛けてくださった
オトバンクの代表を務める久保田裕也さんに、
「耳で聞くコンテンツ」についてうかがいました。
まだ聞いたことがないという人にとっては、
最適の「オーディオコンテンツ入門」になるはず!
- ──
- 『ボールのようなことば。』を
オーディオブックにする過程がとてもおもしろく、
勉強になる部分が多かったので、
今日はそのあたりのお話を
じっくりお聞きできればと思います。
- 久保田
- 『ボールのようなことば。』のオーディオブック、
完成してよかったです。
はじめてお会いしてから、ずいぶん経ちましたよね。
- ──
- 正直、こんなに時間がかかると思ってませんでした。
オーディオブックって
「本を音声データに置き換える」
ぐらいのイメージだったのですが、
完全に新しいコンテンツを生み出すという
熱量で取り組んでいただいて。
- 久保田
- はじめてぼくらとオーディオブックの仕事をした方は、
みなさんそうおっしゃるんです。
「文字を音に置き換えるだけじゃないんですね」って。
置き換えるというよりは
「つくる」という言葉の方が近いかもしれないですね。
- ──
- ああ、「つくる」。
- 久保田
- 取り掛かるまえだと
「誰かいい声の人に読ませれば終わるでしょう」
っていうくらいに、みなさん思ってるんですよ。
でも、いざつくり始めると
「よくこんな面倒なことやってますね」
と言われます(笑)。
- ──
- 録音現場に付き添いながら、
これはたいへんなことだなあと思いました。
- 久保田
- ぼくたちがオトバンクを立ち上げた同時期に
いろんな会社さんがオーディオブックに参入してきたんです。
でも、制作がめちゃくちゃたいへんなことに気づいたのか、
1、2年で、ほとんどの会社が撤退しました。
残ったぼくらは、まあ、物好きなんでしょうね。
- ──
- まず、誰が読むかを決めることから
簡単じゃなかったですよね。
当初、『ボールのようなことば。』は、
糸井本人が読むか、声が近い男性に読んでもらうか、
ということを当然考えたんですけど、
実際にいくつかサンプルを聞いてみたら、
「あれ?」と違和感がありました。
- 久保田
- これがおもしろくてですね、
たとえば本の作者に読んでいただくと、
聞く側がストレスを感じることが、
けっこうあるんですよ。
本人が読んでるんだけど「なんか違うぞ」っていう。
- ──
- 生き生きしないというか。
- 久保田
- 本人が書いたものを本人が読んでるのに、
本人じゃない感じがするという、
不思議な感覚ですよね。
- ──
- なるほど、なるほど。
今回は糸井本人の朗読を
実際に試したわけではないですが、
それはよくわかる気がします。
- 久保田
- たくさんオーディオブックを
つくってきてわかったんですが、
書いた本人だとしても
「これを読んで」と指示されて読むと、
窮屈な感じが声に表れるんですよ。
身体性がなくなるというか。
- ──
- 身体性っていうのは、
声がのびのびと出ているかどうか、
みたいなことでしょうか?
- 久保田
- それもあると思います。
でも、じゃあ、演技に慣れている
役者さんがやればうまくいくのかといえば、
必ずしもそうではなくて。
やってみないとわからないところもあるので、
「この声だとどうだろう?」って
確認しながら進める感じですね。
- ──
- 『ボールのようなことば。』はけっきょく、
アナウンサーの渡辺真理さんと
俳優の河内大和さんにお願いして、
「男女が交互に読む」という形を取ったのですが、
それがすごくしっくりきたんですよね。
- 久保田
- そうですね。
「本をそのまま音声化する」って感覚だと、
糸井さんが書かれた本を
男女ふたりが読むという発想には
なかなかならないと思います。
おもしろいですね。
- ──
- 本を読んだときとは、
また違った印象を受けますよね。
だから、その本やコンテンツを好きな人ほど、
オーディオ化したものを聞いたら
あらためてたのしんで
もらえるんじゃないかと思うんです。
- 久保田
- 「その本、さんざん読んだよ」って人が
オーディオブックを聞くことで、
新しい視点が得られるかもしれませんね。
味わいがまた変わるというか。
それがオーディオブックの魅力のひとつだと思います。
(つづきます)
2022-04-18-MON
(C) HOBONICHI