PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙63 ミスを防ぐために2
     リストバンド

    
こんにちは。

病院の中に限らず、
あらゆる生活の場で大切なことのひとつに
「相手を間違えないこと」が挙げられると思います。

違う人に電話をかけてしまったり、
人ごみの中で
いきなり知らない人の肩をたたいてしまったり、
カフェラテを頼んだ人に
カプチーノをわたしてしまったり、と
日常生活の中には
いろいろな間違いがあふれています。

病院の中でも
もちろん、あってはならないことなのですが
同じように人違いは起こり得ます。

今日は「相手を間違えない」ための工夫について
ご紹介しようと思います。

現在、日本でもいくつかの病院で
導入されてきているようですが
患者さんにつけてもらう
リストバンド、というのがあります。

これには
名前と患者さんの医療記録番号が書かれていて、
一度腕にはめると
バンドを切らない限りはずすことのできない
特別なスナップがついています。
入院中はお風呂のときもつけたままです。

先日見せてもらった日本の病院の例では
医療記録番号がバーコードで表示してあったり、
血液型まで書いてあったり、と
盛りだくさんの内容でした。

薬を配ったり
検査や手術を行う際に
その人かどうかを確認することは
基本中の基本です。

特に
人がごった返している救急治療室の中や、
検査や手術などで
いつもの病室から移動する場合には、
うっかりすると人を取り違えてしまう危険があります。

もちろん、一番確実なのは
本人に
「あなたは本田美和子さんですよね」と
尋ねることなのですが、
リストバンドの名前を確かめることで
二重の確認をすることになります。

患者さんが手術を受けた場合には
外科医は手術記録を作成します。
日本では自分でワープロや手書きで書きますが、
米国では口述筆記が主流のようです。

患者さんの記録は
病院内のコンピュータで閲覧できるので、
受け持ちの患者さんが
過去にどんな治療を受けたのかを調べるのに
とても便利です。

初めて外科医の手術記録を読んだとき
面白いな、と思ったのは
「……、患者は手術室に入り
 手術台の上でMr. John Smithと確認された」
という文がどの記録にも必ず含まれていることでした。

更に、記録の最後は
「……、すべての手技はわたしの監督の下に
 行なわれた」
で終わっています。

先日、日本の報道機関のサイトで、
昨年日本で起きた
患者さんを間違えて手術をしてしまった
業務上過失傷害をめぐる裁判の初公判の内容を読みました。

6人の被告のうち
4人が無罪を主張しているそうで、
アメリカみたいだなあ、と思いながら読み進んだのですが
その中で、執刀医の証言は
「患者の確認は
 事前に看護婦らが当然しているものと考えていた。
 とり違えてもやむを得ない状況だった」と、
また、麻酔科医の証言は
「疑問を持ったので確認するよう頼んだのに、
 取り上げられなかった」と要約・引用されていました。

わたしはそのときの詳しい事情を知りませんし、
以前このような人に会ってから
ますます新聞やテレビなどの報道内容については
懐疑的になることが多くなりました。

医師の発言の要約がこれで正しいのかを
知るすべはありません。
でも、たぶん証言の大まかな流れは
だいたいこうだったのだろうと思います。

本人かどうか疑問を持ちながら
挿管して人工呼吸器につないでしまう麻酔科医や、
自分が執刀した手術に関する事故について
無罪を主張している外科医が
今後、患者さんの信頼を取り戻すのは
大変だろうな、と思いました。

医療事故で大切なことは
一度起こった不幸な事故を二度と起こさないことです。
おそらくこの病院では
間違いを防ぐための取り組みが
現在行なわれているのだろうと思います。

今後、手術や検査などをお受けになる時には
周りのスタッフに自己紹介をお忘れなく。
医療事故を防ぐ第一歩です。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2000-10-01-SUN

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