手紙67 ミスを防ぐために6 薬の管理
こんにちは。
医療機関で起こるミスを防ぐための試みについて
数回に分けてお伝えしてきましたが、
そろそろ終わりにしようと思います。
日本で最近明らかになっている医療事故の中に、
薬の投与量を間違う例がいくつかあるようです。
医師の思い違いや、必要量の計算違いなどで
通常の何倍もの量の薬を処方したり、
必要な投与期間をはるかに超えて処方したりしたために、
患者さんの命にかかわる結果を招いてしまったり、
取り返しのつかない障害を残すことになったという
報道をいろいろと耳にします。
もちろん、誤った処方を書いた医師が
その責任を問われるのは当然なのですが、
わたしがこのようなニュースを聞くときに
いつも不思議なのは、
その場で仕事をしていた薬剤師の責任について
ほとんど触れられていないことです。
例えば、半年ほど前に
研修医が患者さんに通常量の8倍の
抗がん剤を使用してしまって、
その後、患者さんがお亡くなりになった例がありました。
このとき、抗がん剤の処方の指示をもとに
薬が病棟の患者さんに届くまでに
薬剤師の手を一度も経ることがなかった、
つまり、この研修医が自分で薬を倉庫へ取りに行って
そのまま患者さんに投与してしまった、とは
ちょっと考えにくいです。
うっかり、とはとても言い難い失敗をしてしまった
医師の責任は厳しく問われるべきですが、
この病院の薬剤師さんは、
どうして処方をチェックしなかったのかなあ、
確認の電話を一本かければ防げたかもしれないのに、
というのが
この報道を読んだときのわたしの最初の感想でした。
薬の種類や、量、頻度だけでなく
複数の薬を飲んでいる場合の相互作用の問題や、
腎臓や肝臓の機能が落ちている場合の量の加減など、
薬についてわたしたちが
気をつけておかなければならないことはたくさんあります。
病院で働く薬剤師さんたちにとって
医師の出す処方が、薬理学の立場から見て
適切なものであるかどうかをチェックするのも
その大切な役割の一つであるべきなのではないのかな、
と思います。
せっかくの知識と資格を持つ専門職が
ただの薬の倉庫番になってしまうのは、
あまりにもったいない気がします。
しかし、その一方で、
日本の病院で働いているときに見ていた
ひっきりなしに山のように出る、
入院・外来の患者さんたちへの薬の処方に
おおわらわで対応している
薬剤師さんの毎日の仕事ぶりを考えると、
あの人数であの仕事量をこなしながら、
さらに先ほど紹介したような
薬の量や副作用についての
厳しいダブルチェックを行なうのは
物理的に難しいかもしれない、とも思います。
このように人手が足りなくて、
しかも、どうしても増やすことができないときには
人の代わりに働く機械を導入するのも
解決策の一つとなるかもしれません。
ここでも何度かご紹介する機会のあった、
コスト削減が至上命令の
政府管轄の退役軍人病院(VA)では、
患者さんの情報は完全にコンピュータ管理になっていて
薬も検査結果もカルテもすべて
病院内の端末からの操作になっています。
ちょっと長くなりすぎましたので、今日はここまでにして
次回は、VAで見た
コンピュータの助けを借りてミスを防ぐ方法について
お伝えしようと思います。
ミスについてのシリーズは、次回でたぶんおしまいです。
では、みなさまどうぞお元気で。
本田美和子
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