PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙94 ニアミス・カンファレンス再び。
     1・降ってわいた災難


こんにちは。

今年の2月、急用ができたので
4月に予定していた休暇を繰り上げて
日本へ帰りました。

休暇を変更する、と決めてからの数日は
仕事のシフトを代わってもらったり、
外来患者さんの予約をキャンセルして
同僚に診てもらうよう頼んだり、と
方々への連絡に追われて慌しく過ごしていました。

そんな時、チーフレジデントのオフィスから
ポケベルで呼ばれました。
何の用事かな、と電話をすると
朝のカンファレンスをまとめているチーフが出てきました。

「来月のニアミス・カンファレンスに
 美和子が年末に担当した患者さんを出したいんだけど。
 MHさん。」

以前、ここでもご紹介しましたが、
ニアミス・カンファレンスというのは
病院の中で起こった、または起こりそうになった
患者さんの不利益となる出来事を、
今後どのようにしたら防いでいけるのかを
話し合う会議です。

「MHさん?肺炎の?」

「そう。」

病棟で入院患者さんを担当している時には
4週間でだいたい60人前後の
患者さんのお世話をすることになります。

その患者さんの名前は、覚えていました。
でも、なんでその方が
ニアミス・カンファレンスに出てくるのか
とっさに理解できませんでした。

「え?どうして?」

「ま、詳しいことはオフィスで話そう。
で、来月の1週目の水曜日の朝なんだけど、
大丈夫だよね。」

ラッキー。
その週はつい先日繰り上げた休暇の第1週で、
わたしは日本にいる予定です。

「すごーく残念なんですが、
わたしはその週は休暇でいないんです。
3週目の始めには帰って来ますが。」

担当のレジデントがいなければ
カンファレンスは成立しません。
翌月の分に変更になるかな、と思いながらそう告げると、
彼女は、「じゃあ、ちょっと待ってて。
倫理委員会の人たちや、プログラム・ディレクター、
外科や放射線科のスタッフと相談してまた連絡する。」
と言って電話を切りました。

倫理委員会の担当の医師は
ニアミス・カンファレンスには必ず出席しています。
でも、外科や放射線科の医師まで出てくる、というのは
稀です。

不吉な予感がしました。

1時間後、再び彼女から呼ばれました。

「大丈夫だった。安心して。
先生方のスケジュールを変更してもらったよ。
カンファレンスは美和子の休暇の予定にあわせて
3週目になりました。準備をよろしくね。」

全然、大丈夫じゃないです。

いつものニアミス・カンファレンスは
月一回、1時間に2つから3つのケースについて
話し合っています。

たいてい内科の偉い先生方が数人、
倫理委員会の先生が一人、
あとは、内科のレジデントたち、というのが
いつもの参加メンバーです。

でも、今回のカンファレンスは
わたしのケースだけで1時間持たせるつもりらしく、
また、内科だけではなく、
他科の偉い先生たちもやってきます。
しかも、わたしの休暇の予定に合わせて
日程までずらして開催する、というこの状況は
降ってわいた災難としか言いようがありませんでした。

さらに、その患者さんのことを思い出してみても
自分が、1時間ぶっ通しで「ミスだ!」と糾弾されるほど
とんでもないことをした、という覚えがなかったのです。

ミスに気づかないミス、というのは最悪だ、と思いながら
超ブルーな気持ちで
わたしは、チーフのオフィスに向かいました。

この続きは、次回に。

みなさまどうぞお元気で。
本田美和子

2001-05-07-MON

BACK
戻る