手紙96 ニアミス・カンファレンス再び。
3・作戦会議
こんにちは。
わたしがニアミスカンファレンスの
俎上にのせられてしまったときのお話の続きです。
患者さんの入院時の様子を思い返しながら、
チーフレジデントのオフィスへようやくたどりつきました。
内科のレジデントは約120人で、
その上に3人のチーフレジデントがいます。
1年目にはなかなか足を踏み入れにくかった
チーフのオフィスも
だんだん敷居が低くなってきていましたが、
それでもやはり、今日はちょっと入りにくい感じです。
わたしを呼んだチーフは部屋にいました。
「今回のケースは、どのレジデントにとっても
とても身近で、いつでも起こりうる、
とてもいいケースだと思うの。」
「スタッフの先生たちがたくさん来るけど、
あなただけが集中砲火を浴びるようなことはないから。」
そんなこと言ったって、
発表をするのはわたしで、
質問を受けるのもわたしです。
ま、今更そんなことを言ってもしようがないので、
「ありがとう。よろしくね。」と
形ばかりのお礼を言って、本題に入りました。
彼女の机には、患者さんのカルテのコピーがありました。
よく目を通してある証拠に、いくつかの書きこみがあり、
そのサマリーも添えられていました。
「このケースで挙げたいことのひとつは、
入院期間をもっと短くすることはできなかったか、
ということなの。」
アメリカの病院で働くようになって
日本との違いに驚いたことのひとつに、
入院期間の短さ、があります。
昨年のわたしの病院の平均入院日数は5〜6日です。
日本で担当していた患者さんの多くは
病気にもよりますが、平均数週間、
人によっては数ヶ月も入院することが、
珍しくありませんでした。
この在院日数の短さについては
医療コスト、医療保険のあり方、
医師・患者さん・社会それぞれの
医療に関する考え方の違い、などが
背景にあると思うのですが、
そのことについては、
今後の機会に(もしあるとすれば)
譲ることにしたいと思います。
また、今回は外来で肺炎を一度治療していながら
良くならずに入院となってしまったのですが、
もともと健康な成人男性がかかりやすい肺炎の
原因となる細菌に有効な抗生物質の選択についても
1・外来での薬の選択、2・入院後の薬の選択 の是非を
もう一度振り返ってみることにしました。
更に、前回少し触れましたが、
放射線科の医師との交渉(での敗北)が
診断の遅れにつながり、
それが入院を長引かせる結果となった可能性も
挙げる必要がありそうです。
入院患者さんを担当している時は
4日に一度の当直を4週間続けるのですが、
週末の休息を確保するために
互いのチームをカバーしあいます。
自分たちが休んでいる間に働いてくれていたチームへの
患者さんの情報の引継ぎは十分だったかどうか、
ということも
もう一度見直してもよさそうです。
また、肺にたまる液体とその分類や治療について
文献を当たってまとめてみることも必要かもしれません。
ちょっとすねた感じで始めた彼女との話し合いは、
思いがけず、とても有意義でした。
「じゃあ、こんなところを強調しながら
ケースのまとめをお願いね。」
休暇で日本に帰っている間にやってしまおう、と
資料とコンピュータを持って帰ったのですが、
慌しさに取り紛れて
結局、大した進展もなく
フィラデルフィアへ戻ることになりました。
発表まで、30時間くらい。
そのくらい追いこまれたほうが、仕事がはかどる、
というのは単なる言い訳です。
ともかく、発表の朝を迎えました。
では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
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