PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙117 ニューヨーク家探し・2 Village Voice

こんにちは。

途中で、すごい事件が起きたりして
だいぶ間が空いてしまいましたが、
引越しの話の2回目です。

1回目でお話ししましたように
仕事が始まる7月の直前になって、
「秋の終わりまでは無理かも」、
しかも
「宿舎に空きが出るまで待てないようなら、
自分でアパートを探すように」と
病院の宿舎係に言われたわたしは
途方にくれてしまいました。

途方にくれながらも、
「格安で病院の隣に住める可能性が残されているのに、
 家賃の高い民間のアパートを
 しかも、こんなに間際になって慌てて探すのは、いやだ」
という気持ちだけは、確かでした。

要するに、けち、ということなんですが、
いくらレジデンシーが終わって少し増えたとはいえ、
トレーニング中の医師の給料というのは
とても安いので、
「永遠の研修医」と揶揄される暮らしを続けていると
貧乏性がからだに染みついてしまうのです。

給料の半分以上を家賃に払うのは、
どう考えてもばかげている、と思えました。
また、不動産屋を通してアパートを探すと、
手数料として
1年分の家賃の15%を支払わなければなりません。
しかも、多くのアパートは入居者の基準として
最低の収入、というのを定めているのですが、
レジデントやフェローのお給料は
たいていそれを下回っています。

職場の人たちは
「去年も9月には入居できていたから、
今年も大丈夫なんじゃないの」と
楽観的です。

まあ、その言葉を信じて
老人科の同僚とふたり、宿舎の空きを待つことにしました。

とはいえ、宿舎が空くまでの間
身を寄せるところが必要です。

ほんとうにありがたいことなのですが、
何人かの友達が、
「もしよければ、宿舎が決まるまで
家に泊まってれば?」と
声をかけてくれました。

実際、お言葉に甘えて
幾晩かずつは泊めてもらったりしたのですが、
いつになるかわからない宿舎の空きがでるまで、
ずっとその好意に甘えつづけることはできません。

6月までフィラデルフィアの同じ病院で働いていて、
今度もまた同じ病院へ移ることになった
チーフレジデントの友達も
わたしと同じように、「待て」と言われて
結構腹を立てていました。

「こんな最悪な始まり方をするなんて、
 思ってもみなかった。
 仕方がないからサブレットでも探してみるよ」

サブレットというのは、アパートの又貸しです。
長期間アパートを留守にする人たちが
その間の家賃を浮かせるために、
第三者へ家財道具をそのままに貸し出す仕組みなのですが、
とくに夏休みのシーズンはその数も増えます。

「サブレットって、どうやって探すの?」と聞くと、
彼は
「道端やバス停に貼ってあったりもするけど、
Village Voiceのサイトには
物件がたくさんあって探しやすいよ。
僕はここで探すつもり」と
親切に教えてくれました。

Village Voiceというのは
ニューヨークの地元紙のひとつです。

インターネットで探した知らない人の家に泊まる、
というのは
怪しさ満点、という気もしましたが
そのほかにはとくに思いつく案もなく、
教えてもらったサイトを見に行き
病院の近く、とおぼしきアパートをいくつか見つけて
電話をかけてみました。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2001-10-03-WED

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