手紙132 家庭内暴力・3 統計的な事実
こんにちは。
家庭内の暴力についてのお話の3回目です。
前回も少し触れましたが、
家庭内の暴力についての大きな問題のひとつは、
その事実がなかなか明らかにならないことです。
いろいろな国や公的な機関などが
これについての研究や統計を発表していますが、
いずれも
「実際にはもっとたくさん起きているはずなのですが」
という但し書きがついています。
できるだけ公平で、現実に近い形の調査がないかな、と
いろいろ探してみたのですが、
日本では
地方自治体が行ったものがいくつかありましたが、
全国規模の統計をうまく探し出すことができませんでした。
また、日本の地方自治体での調査結果も
全体の傾向としては
WHO(世界保健機構)や
アメリカの医療機関が発表しているものと
大きな違いはなかったので、
今回はこちらの統計を主にご紹介することにします。
1・家庭内の暴力は
すべての(主に)女性に対して起こりうる。
人種、文化的なバックグラウンドの違いや
宗教、学歴、社会的な階層の差などはまったく関係なく、
どんな人でも被害者になり得ます。
2・たくさんの女性が、
ごく親しい男性(夫や恋人)から暴力を受けている。
米国の統計では年間400万人。
これは18歳以上の女性25人にひとりの割合です。
また、成人女性の3分の1が、生涯を通じて少なくとも1回
夫や恋人から暴力をふるわれている、
という報告があります。
3・男性も暴力の被害者となることがある。
米国では1993年に57万5千人の男性が
女性に暴力をふるった罪で逮捕されている一方で、
男性に対する暴力行為で逮捕された女性は
4万9千人いました。
4・でも、圧倒的に多いのは女性。
家庭内の暴力行為の被害者の90-95%は女性です。
5・暴力行為は何回も同じ相手によって繰り返される。
暴力をふるう傾向のある男性は
少なくとも年に3回以上、
相手の女性に
暴力をふるっていることがわかっています。
6・子供も大きな影響を受ける。
米国では、年間約300万人の子供が
家庭内の暴力にさらされている、という統計があります。
また、司法省の調査によると
妻が夫から暴力をふるわれている家庭の子供は
そうでない家庭の子供と比べて
虐待を受ける可能性は1500倍も増えるんだそうです。
7・家庭内の暴力の被害者は
病院での治療が必要なほどのけがをすることが多いが、
本人がその原因を明らかにしてくれないことが多い。
米国では、突然のけがの場合は
救急外来・ERを受診するのですが、
そこで、けがの原因が
家庭内の暴力であることが明らかになるのは
わずかに3%しかない、という報告がありました。
また、別の研究グループは
このような暴力を見逃さないような
特別のプログラムを作って実施したERでは
その結果、暴力の発見率が5%から30%に増えた、と
報告しています。
1回目にご紹介した、『Talk to me』のバッジは
家庭内での暴力の被害者が
ご自分の状態について話をしてくれるきっかけになるよう、
外来で働く医師が胸につけたものでした。
8・最悪の結末として、死を迎える女性もいる。
米国の殺人事件に巻きこまれた女性の30%は
夫・元夫・恋人によって殺されているのだそうです。
いろいろ調べているうちに気が滅入ってきました。
これは主に米国の調査結果なので
「外国の話でしょ?」と
考えることもできるかもしれません。
日本の公的な機関の調査としては
3年ほど前に、当時の総理府が
全国から無作為に選んだ4500人に対して行った
家庭内の暴力行為についての意識調査があります。
その中で、女性の7人にひとりは
何らかの身体的な暴力を受けたことがあり、
約半数の女性は言葉で威嚇された経験がありました。
家庭内の暴力行為、というのは
ほんとうに身近な問題だと思います。
では、今日はこの辺にして
次回は典型的な暴力行為の例を
ご紹介することにします。
みなさまどうぞお元気で。
本田美和子
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