手紙138 家庭内暴力・9 ドキュメンタリー映画
こんにちは。
思いがけず、だんだん長くなってしまっていますが
家庭内暴力についての話の9回目です。
このシリーズを始めて間もなく、
新聞で家庭内暴力についての
ドキュメンタリー映画の批評を読みました。
Frederick Wisemanという
これまでたくさんのドキュメンタリー映画を
作ってきた監督の32作目となるこの作品については
この新聞だけでなく、雑誌にも好意的に取り上げられていて
読んでいるうちに、見に行きたくなりました。
上映中の映画館は
わたしにはあまり馴染みのない
(たぶん)おしゃれな街、
ソーホーに隣接したところにあって
大手の映画配給会社とは無関係に
スタッフが選んだ作品を紹介する、
非営利団体が運営しているところです。
上映期間は2週間と短かったのですが、
ちょうど都合よく、週末に見に行くことができました。
映画館に着いたのは
日曜日の1回目が始まる直前でした。
もう既に、客席はいっぱいで、
係の人に案内してもらってようやく座ることができましたが
その後に来た人は立ち見になったみたいでした。
客席を見渡すと、
どちらかといえば年配の女性が多いような印象でしたが
もちろん男性や若い人もたくさん来ていました。
映画はフロリダ州タンパでの
ある一日、といった感じで始まります。
体中が血まみれになるほどの暴力を受けた女性が
警察に保護され、
救急隊員からの手当てを受けつつ
警官から事情聴取を受ける様子や、
妻に暴力をふるったことで
警察に身柄を拘束された夫が
ものすごい悪態をつきながら
パトカーに乗せられていく様子などが、
淡々と、しかもたたみかけるように
次々と紹介されていきました。
映画はさまざまな場所を舞台に続いて行きます。
被害者を守るシェルターでは
シェルター内での生活の様子が細かく紹介されています。
入所した女性へのオリエンテーション、
ソーシャルワーカーとの面談、
被害者が連れてきた子供たちへのケアや教育、
被害者が集まって、これまでの経験や
これからの生活について語り合うセッションなどについて、
まるで自分がその場にいるかのような距離感で
見ることができる、というのは
たぶん、この監督の手法の見事さなのだろうと思いました。
また、緊急連絡のためのホットラインセンターでは
次々とかかってくる電話と、それに対応する係の人の
多忙な一日を垣間見ることができます。
それぞれのエピソードの間には
タンパの街の高速道路の映像が挟み込まれます。
アメリカのありふれた風景を織り込むことで
これが、この街での特異的な出来事ではない、ということを
言いたいのかなあ、と思いながら
いかにも暑そうなフロリダの道路を眺めていました。
映画は、一日の終わりに
警官のチームが、暴力の通報があった家庭に急行して
双方から事情を聞くシーンで終わります。
いかにも喧嘩っ早くて、すでに十分怒っていて、
パートナーに「今すぐ俺の家から出て行け」と
怒鳴っている男性と
「とにかく、今日は疲れていて何もできないから
明日の朝まで待って」という女性の間に立った警官の、
落ち着いたやり取りは、とても印象的でした。
3時間を超える、この長いドキュメンタリー映画では
いろいろな仕事の人が、さまざまな立場から
家庭内暴力の被害者のために
働いている姿が紹介されていますが、
なかでも大きな役割を果たしているのは、
警察なのかもしれない、と思いました。
市民生活の安全を守るため
常に第一線にいる職業としての警官は、
本当に大変な仕事だと思いますが、
自分の身を守る術のない人にとっては
最も頼りになる存在であってほしいし、
そのような助けが必要な人を
できるだけ早く見つける、という意味で
医者ができることも、あるよねー、と思いながら
帰ってきました。
この映画が日本で上映される予定が
あるのかどうかはわかりませんが、
映画館が作った映画の紹介や、
新聞や雑誌で取り上げられた批評については
英語ですが、webで読むことができます。
映画館のサイトは
http://www.filmforum.com/domestic.html
ニューヨークタイムズの批評は
(無料ですが登録が必要です)
http://www.nytimes.com/2002/01/30/movies/30VIOL.html
ビレッジボイスの批評は
http://www.villagevoice.com/issues/0205/hoberman.php
http://www.villagevoice.com/issues/0205/winter.php
ニューヨークマガジンの批評は
http://www.nymag.com/page.cfm?page_id=5627
です。
では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。
本田美和子
|