手紙173 医療制度のしくみ・10
病院へたどりくまでの手間・accessibility
こんにちは。
このページの下の方には
「いままでのタイトル」として
これまでのシリーズが並べてあるのですが、
この「医療制度のしくみ」は
昨年の12月に始めていたんだ、ということに
今、気がつきました。
遅々として進まず、とは
まさにこのことだ、と呆れてしまいますが、
ともかく、次のお話を。
以前ご紹介したように、公衆衛生の分野では
自国だけでなく、
同じような問題を抱える
他国の事情はどうかな、という感じで
いろいろな国の比較をすることがよくあります。
その公衆衛生のクラスにいた医師の大多数は
米国で生まれ育った米国人でしたが、
カナダ、ヨーロッパ、日本出身の者もいたので、
先生は講義の途中で
それぞれ「で、実際のところはどうなの?」と
意見を求めることもよくありました。
各国の医療資源について考えているときに、
病院や医師の数について話が及んだことがありました。
以前も少しご紹介しましたが、
米国の人は、平均すると
1年に3回くらい医師の外来を受診してるのに対し、
日本の人は年平均8回くらい受診しています。
また、人口1000人あたりの医師の数は
米国が2.7人、日本は1.9人なので、
単純に比較すれば
日本の医師は
外来でより多くの患者さんに会っていることになります。
医療費の自己負担はないけれど
医師の診察を受けるためには予約が必要で、
しかもその予約は何ヶ月も先になりかねないカナダや、
基本的に、急に具合が悪くなっても
かかりつけの医師に予約がとれなければ、
(当日の予約をとるのは、とても、とても、難しいです)
ERと呼ばれる
救急外来を受診するしかない米国と比べれば、
当日の診療時間内に受け付けさえすれば、
何科であっても、その日のうちに
必ず医師が診察をする日本の制度は、
「患者さんにとって受診するのが簡単」
つまり、病院へたどりつくまでの手間や時間が
他の国と比べるととても少ない、
ということができそうです。
この「患者さんにとって受診するのが簡単」な状態を
公衆衛生の分野では
「accessibilityが良い」と呼んでいます。
医療の質(quality)と
医療にかかる費用(cost)と
医療へたどりつくまでの手間や時間(accessibility)は
医療全体について考えるときに
中心となる、3つの大きな柱になります。
この3つのバランスがうまくとれるような
医療システムを作ることが、
医療政策にとって、とても重要になるのですが、
このことについては、今後ご紹介していこうと思います。
「では、日本では
受診したい患者さんをすべて
当日中に診察する、ということですね。
じゃあ、たとえば、風邪のシーズンなどで
予約枠を大きく上回る患者さんが来たら、
どうするのですか?」
一人の医師が質問をしました。
一般的な米国での内科医の診療は、
ひとりの患者さんにつき、
初診であれば30分、
再診であれば15分くらいの予約枠を用意して
その日のスケジュールを埋めていきます。
もちろん、もっと忙しく働いている
米国の医師もいるとは思うのですが、
わたしが一緒に働いていた上司たちは
1日に20人以上の患者さんを診ることは、
ほとんどありませんでした。
そのような医師を見ながら
トレーニングを受けているレジデントたちにとって
「患者さんが病院に来る限り、診察をする」という
システムで働くことは、どうも想像できないことのようでした。
「今回は日本の人もいるから、聞いてみましょうか。」と
先生はわたしの方を見ておっしゃいました。
「先生のお話は、事実です。」
何年経っても、大勢の前で話をするのは苦手ですが
しかたありません。
わたしは日本の医療制度の弁護人にでもなったような気分で
話を始めました。
この後の話はちょっと長くなりそうなので
次回にさせてください。
では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
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