手紙178 WHO・1 「3 by 5」
こんにちは。
基本的には
病院の外来や入院病棟で
患者さんを相手に働いているのですが、
ときどき、病院以外の場所に行くことがあります。
日本に戻ってきてから、
時折、海外の医療機関の人たちと一緒に
仕事をする機会を得るようになりました。
これまでの仕事は
日本の首都圏と米国東海岸の大都市に限られていたので、
わたしにとって、とても新しい、
得難い経験となっています。
今、わたしはHIV治療を専門としている
医療機関で働いているので、仕事の対象は
HIVかそれに関わることに限られるのですが、
最近、HIV感染はどこの国でも大問題で、
どこの国の医師も、増え続ける患者さんを前に
どうすればいいのか、悩んでいます。
HIV感染者は、信じられない規模と速さで
全世界に広がっています。
報道される場合は、なぜか
「アフリカのHIV」とか
「アジアのHIV」などが強調されて、
日本でテレビや新聞のニュースを見る限りでは
「HIVって途上国の病気」というような
印象を受けることさえありますが、
本当は日本でも、ものすごく増えています。
日本のHIVの話を始めると、
「次は、WHOの人たちと仕事をしたときのことについて」
と書いた約束を守れずに
果てしなく書き連ねてしまうので、
このことについては
別の機会にゆっくりご紹介させてください。
ともかく、
HIVに感染しないよう
予防策について広く知ってもらうこと、
そして、残念ながら感染してしまった人には
必要に応じて、有効な治療を確実に届けること、が
HIV対策の基本の柱です。
WHOは2003年に
HIV治療を必要とする感染者の推定数と、
実際にHIV治療薬を服用している人の数との
統計を発表しました。
この統計は地域ごとにまとめてあり、
南北アメリカでは、
HIV治療が必要な人の84%が
実際に薬をのんでいるのに対し、
アフリカでは2%、
アジアでは5%しか治療を受けておらず、
世界全体では、
治療を必要とするHIV感染者が590万人いるのに、
そのうちの7%しか治療を受けていない、ということが
この統計では推定されました。
この現実に対して、
WHOとUNAIDS(国連エイズ計画)は
2003年の世界エイズデーに、
「2005年末までに、300万人を治療しよう」、という
計画を提唱しました。
これを英語で言うと、
「Treat 3 million people by 2005.」となり、
縮めて「3 by 5 計画」と呼ばれています。
このような計画をばーんと発表するのは
とてもかっこいいですが、
実際にはいろいろな解決しなければならない
大切な問題が山積みでした。
薬を買うお金はどうやって工面するのか、
どのように治療薬を患者さんのもとへ届けるのか、
規則正しく服用しなければ効果がなく、
しかも副作用がつらいHIVの薬を
どうやって続けてのんでもらうか、
HIV治療のできる医師や看護師を
どのように養成するのか‥‥
その地域での医療体制をそれぞれ整えることが
何よりも急務でした。
わたしは幸運なことに、
医療体制を整えていく様子の一部を
わずかな期間でしたが
現場で見ることができました。
次回はその時のことについて
ご紹介してみようと思います。
では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子 |