お医者さんと患者さん。 「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。 |
手紙212 日本のHIV・感染に年齢制限はありません。 こんにちは。 先日いただいたメールで、 60代の女性の方が 数年前にHIVの検査を受けたときのことを 教えてくださいました。 結果が陰性で良かったなあと思いながら読んだのですが、 このメールを転送してくれた「ほぼ日」編集部の担当の方は 「このメールにはちょっとびっくりした」と おっしゃっていました。 一般に、HIV感染症というのは 性的接触への興味が高く、その機会も多い 20代前後の方に多い、と思われがちですから 60代の方がHIVの検査を受けたなんて、という 彼の感想も、ごく普通の反応なのだろうと思います。 でも、実際は少し違います。 今わたしが働いている病院では HIVに感染している患者さんが だいたい2000人を少し越えるくらい通っています。 そのうちの2割は50才以上です。 とても効果的なHIVの治療薬ができて 患者さんは元気に長生きできるようになったので、 感染がわかったときには30代、40代だった方が 年を重ねて50才を越えてきた、という場合もあります。 しかし、HIVに感染しているのが初めてわかったのが すでに50代、60代、70代だった、 という方々の方が多いのです。 実際、わたしの病院では 82才のときに別の病気の手術を受けることになって、 手術前の精密検査でHIV感染がわかった、と 紹介されてきた方もいらっしゃいます。 一般に高齢者、と呼ばれる世代は 65才以上であることが多いですが、 HIVの世界では、50才以上の方々を 「age over 50」と呼んで高齢者として扱います。 定義、としてそうなので、 50才から64才の方々は どうぞ気を悪くなさらないでください。 この世代で、今懸念されていることのひとつは 女性の感染の増加です。 HIV感染を防ぐための有効な方法のひとつが 性的な接触の際に、コンドームをきちんと使う、 ということであるのは、みなさまご存知の通りです。 ところが、日本の場合 コンドームは 「望まない妊娠を避けるため」の手段という側面が 「性行為感染症の感染を防ぐため」という側面よりも 遙かに大きくとらえられています。 女性はある年齢になると、 卵巣や子宮の機能が少しずつ低下して 閉経を迎えます。 そうすると、妊娠の可能性がなくなるので 「もうコンドームは不要」と互いが思って、 これまで使っていたコンドームを 使わなくなってしまうことが多いようなのです。 閉経を迎えることで、 膣などの粘膜はすこし乾燥気味となり、 傷がつきやすくなることがあります。 これは、HIVやその他の感染症の病原体が その傷を入り口として 若い頃よりも容易に体の中に入りやすくなってしまう、 という危険をもっているのです。 しかも、ご自身も、周囲も、医療関係者も、 「まさか、HIVに感染しているなんて」と 思いがちなので、 検査をすることがあまりありませんし、 何か症状が出たときも 診断になかなか結びつかないことが多いのです。 HIV感染症に年齢制限はありません。 生まれる前からお母さんの体を通じて HIVに感染している場合もありますし、 83才のお誕生日の数日前に HIV感染が明らかになる場合もあるのです。 ですから、冒頭でご紹介した60代の女性が 機会をみつけてHIVの検査を受けてくださった、 というのを わたしは本当にうれしく読みました。 一度でも、どなたかとの 性的接触の経験のある場合は、 HIVの検査を受ける、十分な理由があります。 ぜひ一度、検査を受けてみることを 考えていただけたら、と思います。 では今日はこの辺で。 みなさま、どうぞお元気で。 本田美和子 |
2006-10-06-FRI
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