PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙251 大貫妙子さんとHIV(5)
現実を知る、ということ。



こんにちは。
今日は大貫さんが
今、HIVに関して何が必要なのか、ということについて
お話ししてくださいました。

大貫 以前のエイズコンサートでは、
「みんなでもっとエイズのことを知ろうよ!」
あるいは、
手を繋いだりしても、うつりません、
というようなことを言っていたと思うんですが。
具体的ではないし、
多分勉強不足だったのではないかと思います。

今回、本田さんがおっしゃったようなことは
全然インフォメーションできていないと思います。

わたしはそのときに思ったんですけど・・・・。
あっ、思い出した。
ストップエイズキャンペーンのコンサートに
誘われたけれど、出なかった理由を。

確か、自分の曲は歌わないのが条件・・・。
だったように思うんですけれど、
違っていたらごめんなさい。
本田 それっていつごろのことですか?
大貫 90年代のはじめだと思いますが。
音楽を仕事にしている私たちは、
チャリーティーなどを含めて、
数々のイヴェントへの参加をたのまれます。
現在は、環境イヴェント、
癌撲滅キャンペーンなども始まっていますから。

私も、年々そういったコンサートへの
参加が増えています。

昨年アース・デイのコンサートが全世界であり
そのDVDが発売になったので見ましたが
海外のアーティストは、そのイヴェントが、
何のために行われているかをよく理解して、
自分の言葉で、そのためのメッセージを
誰もがちゃんと言っているんですね。

ですが、日本のものは、音楽中心で、
なかなかストレートな発言はないように思います。
あっても、
「これからも一緒に、
この問題を考えたいと思います」のようなものが、
まだまだ多いですね。

音楽を仕事にしている人も、
この社会の一員で、
現在おこっているすべての問題に
つねに目を向けていることは
当然だと思っていますから。
シンプルな言葉でいいと思うので、
それを聞きたいですね。

本田さんがお話しして下さったこと。
たとえば、
た〜くさん薬をのまなきゃいけないんだ、
副作用でどんどんやせちゃったりするし、
気持ちが悪くなったりもする。
おなかが痛くなったりする。
というような、
HIVに感染したらどんなに辛いのか、
ということ。

生きていくために
薬とその副作用たるや、
大変なんだ、っていうことを
付け加えた方がいいのではないかと思いますね。

こうして今、聞いてきただけでも
「あー大変だぁ」と思いますもの。

たとえば、「差別をなくそう」とか
「みんな仲良くしよう」とか、
そういうことも大切だけれど、
現実にHIVにかかった場合のリスクは
伝える必要があると思いますね。

日々の治療に関する病気としての側面と
それをかかえて生きていく、という精神的な面は
別のケアが必要だと思うんですね。
そのふたつを一緒にして伝えようとするから
オブラートに包まれたようなものの言い方に
なってしまうんだと思います。

患者さんの心情的な話を聞く機会は
たくさんありますが、
もし、自分が感染したら、本当は何が起こるのか。
何が辛いのか。
ふだんは普通に生活しているように見える方達も
いちど感染してしまったら
本当はこんなに大変なんだと言うことも
知ってもらうことが大切なんじゃないかしら。

そのようなものがあったら私も
読んでみたいと思いますし。
本田 患者さんがそれを読んだときに
どんな風にお受け取りになるかなと思うと、
ついトーンダウンしてしまうことは、
実際のところ、あるんです。
大貫 癌の告知のようにですか?
しかし、たとえば、癌の患者さんが
薬による副作用で髪が全部抜けてしまったとか。
末期癌患者でありながら、生きる姿は実際
いくつも報道されていますよね。

HIVは感染するものであって、
癌はそうではないからという理由だけでしょうか。
同じHIVでも、
性的交渉によるものと、
血液製剤による感染では
人からの理解のされ方が違うから
ということでしょうか。

でも現実に大変苦しんでいる方が
いらっしゃるんでしょう?
それを知ることがわたしたちにとって
絶対必要なことだと思いますね。
本田 そうですね。
大貫 そういう私も、未だ検査を受けていませんし
実際に患者の立場で
ものが言えるわけではありません。
本来は、そういう方の中から
現実の声として届けられることが
いちばん説得力を持つと思うのですが。
やはり、受け取る側の準備が
まだ、足りていないと感じる時はあります。

かりに私がHIVポジティブであった場合を
想像して考えてみても
その病気と闘うので精一杯で
世の中に向けて、発信しようという気力まで
持ち合わすかどうかわかりませんから。
本田 今回東京FMのイベントでとりあげられた
患者さんの手記を読むということは
この病気のことを知ってもらう
取りかかりのひとつにはなるんだろうと思います。

患者さんがああいった形で
自分のお気持ちを吐露なさるのと並行して、
現実問題としてはこうだ、ということを
別の立場からお伝えするということには
意味があるだろうと、
今お話を伺っていて改めて思いました。
大貫 そうですね。
本田 さっき申し上げたように、(前回参照)
患者さんに必要な医療費というのは
ほとんど税金で負担しているので、
月に20万円、1年では240万円、
40年間薬を飲んだら
ひとりにつき1億円必要となる治療費を
結局は、国民みんなで払っているのだ、
という現実があって、
しかも、この病気は防げる、という
厳然たる事実があるんです。
ほんとにもったいないことだと思っています。
この病気は予防できるのに。

わたしたちの社会保障のためのお金は有限で、
政府は毎年2200億円ずつ4年間にわたって
社会保障費を削減することを
すでに決定しています。
それは、本当にわたしたちが望んでいることなのか
個人的にはすごく疑問に思ってます。
ちょっと話がずれちゃいますけど。

少しおおげさかもしれませんが、
限りあるお金を国民が有効に使うためにも
HIV感染の広がりを防ぐことが必要だと
強く思っています。
大貫 患者さんの意思というより
本田さんの意思の問題かもしれませんね‥‥
医師としてHIVに
長く関わってきたにもかかわらず
その数が増えている、というのでは
やはり、医師の立場からの
心情の入らないレポートが必要だと思いますね。
とくに若い子の感染を防ぐ手だては、
「やっぱり自分に辛いとか苦しいことが起こる、
 というのは嫌でしょう?」
「現実はこうなっちゃうのよ?」
っていうのが、声として届かないとね。

HIVにかかったら、
それを体から完全に駆逐することは
現在できなくて、
生涯治療を続けることになるけれども
確実に「老後」と呼ばれる生活を
送れると見込まれるようになった、と
ご本にも書いていらっしゃいますが
「な〜んだ、すぐ死んじゃうんじゃないんだ」
では、困るんですよね。

その間にも、
いろいろな病気を併発するリスクまで伝えないと。
出版されている
「エイズ感染爆発と
SAFE SEXについて話します」を、
もっともっと広く
読んでもらえるようにしましょうよ。
分かりやすいし、
でも、かなり怖いなと思いますもの。

疾患について
何を伝えるか、どう伝えるか、ということは
別にHIVに限ったことではなくて、
臨床医がいつも直面している問題です。

何をお伝えすればいいのか、ということを
大貫さんから伺って、
改めてこのことをしみじみと考えました。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2008-02-22-FRI

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