第13回 笑いかける相手
みなさん、いつもメールをありがとうございます。
想像以上のメールの量と切実さにどきどきしています。
読んだあと立ちどまる機会も多くなっているよ。
メールをくださったかたの今いる状況とかを思うと、
どうしても読むのがゆっくりにならざるをえなくて。
メールの端々からそのひとの横顔が見えるようで、
直に触れあったうれしい気持ちがわいてくるのです。
そしてじっくり何度も丁寧に読んでみると、
メールをくれたかたの生活に加わったような
リアルな気分を味わったりもしています。
今回はそんなメールからはじめます。
>はじめまして、そして
>あけましておめでとうございます。
>
>コンビニ哲学発売中を初めて読み、そして
>年明け早々にマンゴスティンさんの投稿にぶちあたり、
>これってやっぱり考えさせられますね。
>
>私は今チェコ共和国の首都プラハに住んでいます。
>どうしてプラハに?と訊かれるたびに答えに窮します。
>
>昭和初期という時代に興味があります。
>もちろんこの時代は
>太平洋戦争への助走ともいえる時代で、
>簡単に「好きだ」と言うには
>はばかられるものがありますが、
>それはまた違う話なので今はわきにおいておきます。
>私が初めてプラハを訪れたのは民主革命の翌年です。
>崩壊したとはいえ、まだまだ共産体質の淀むその国で、
>ネガティブな思いにとらわれたはずなのに、
>どういうわけか、まだこの国には
>小さなことで人間が幸せになれる隙が残っている、
>そんな思いだけが後に残りました。
>
>日本をしばらく脱出してプラハに行こうと決めた時、
>もっと他に行くべき所があるんじゃないか
>という人もいました。
>例えばアジアの山奥とかアフリカとか。
>でも私には新幹線じゃなくて
>市電、電話の普及率が50%以下という
>そのくらいの技術(文明?)が
>ちょうどいいような気がしたのです。
>そこに昭和初期という時代に
>繋がるものを感じたのかもしれません。
>
>そして昨年、民主化後10年を迎え、
>私はこうしてネットを通じて、
>こんなことを書いています。
>技術の進歩を、まるで時間がコマ回しで
>遅れたり進んだりするように感じてきました。
>もはや、この国の人を簡単に幸せにすることは
>難しくなってしまったけれど、それだって、
>技術のもたらす幸福度の方が
>彼等にとっては大きいに違いないんですよね。
>
>shino
どうもありがとう。
いろいろ思っていたので、
こんな風にお返事を書くのすら
1か月くらいかかってしまいました。
ごめんなさい。どうもそうなっちゃう。
あなたのやさしさや自立心や少しのさみしさが
さらっとした文体のあいまに流れ出しているから、
ぼくはずいぶん考えさせられてしまいました。
プラハは今、すごく寒いのですか?
革命のつぎの年にプラハを訪れたとき、
日本から「脱出して」行こうと決めたとき、
小さなことでひとびとが幸せになれる隙、
簡単に幸せにはできない現状、などなどを、
ぜんぶ文面の通り受けとめてじっとしていました。
アジアの山奥でもアフリカでもなく、
電話の普及率が半分程度がいいと思われた気持ち、
ぼくなりにですが何となくわかるような気がします。
知らないうちに流される生活からは脱出したくて、
でも、かと言って武者修行みたいにハードさに挑戦して
何か悟りのようなものを見出したいわけでもないし、
ただ、今とはちがうところでやりたいようにやりたい、
そんななかで自然にひらめいたのがプラハなのかな?
ぼくはそんな風に思い浮かべたりしてました。
相当まちがっているかもしれないけれど。
チェコに関わって9年くらいたった今、
shinoさんは何を思って暮らしているのかな?
とか、考えはじめるとこれはきりがありません。
みなさんのメールを読んでいると、
かなりのかたがいろいろな意味での
わかれ道にさしかかっているみたいですね。
ひとりで考えざるを得ない問題が多いみたい。
今の経済とかがそういう自立のようなものを
ひとに迫っているからかもしれないけれど、
ただ、とにかく一生懸命何かしようとして
今もがいていたり考えたりしているかたは、
ちょっと素敵だなあ、とメールを見て思います。
ある哲学者が友人に宛てた手紙に、
こんなのがあります。
「ここには話相手がひとりもいない。
いいことでもあるが、ある意味では困る。
ときどき打ち解けて話しあえる相手がいれば、
ありがたいんだがね。いや、話すまででもない。
たまに笑いかけられるひとさえいればいいんだ」
ぼくはメールの大部分に対しては
ただゆっくり読むことしかできませんが、
ここでのたまに笑いかけられるひとのように
メールをいただければ嬉しいなあと思っています。
[今日の2行]
ネガティブな思いにとらわれたはずなのに、なぜか
まだこの国には人間が幸せになれる隙が残っている。
(shino)
[今日のぼくの感想]
「幸せになれる隙」ってせつなくていいですね。
ひとりでふと「あれ?」って思うひとどうしで
通じあいみたいなものを交わすことができると
あたたかくなる、ぼくはやはりそれが好きで
みなさんのメールを読んでいるのでしょうね。
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