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第25回 例外的な時間

母親が編みものをしている横で、
子どもが毛糸の球を転がして遊んでいるような、
あたたかくて稀な自由さこそが、創造の原点だ・・・
そういう言葉が、古来から残されています。
似た言葉としては、他にも例えば、
「中学生の頃の友情が、実は楽しさの極みだ」
というような話も、けっこうよくききます。

楽しいときというのは、かなり貴重なものでして。
その「楽しいとき」ということに関して、
「それは、不意に訪れる例外的な時間なんだ」
みたいに言っていたひとも、いるのです。

「今じぶんの持っているものではないものに渇いて、
 それを求めるような時間がある。
 エネルギーや創造力がなくて、
 新しいことをじぶんから引き出せないひとにでも、
 やがてくるものに対して、感動や苦痛といった
 新しい知らせをもたらしてくれるのを望む、
 そういう例外的な時間があるんだ。
 
 それは、幸せのなかで静まっているはずの気持ちを、
 たとえ荒っぽい手で弦を切られようとも 
 誰かにかき鳴らしてほしいと思うような時間。
 
 それは、すごい困難を征服したあとに、
 やっと欲望や傷心に身を任せられるはずなのに、
 たとえ残酷なものであろうとも、
 何か起きるかわからない事件の渦中に
 じぶんをゆだねたくなるような時間なんだ」

こういうことを言っていた作家は、
フランス人のプルースト(1871〜1922)です。
特別であぶないところなのだけども、
おもわず入りこんで成り行きにまかせたくなるような、
そんな時間こそがよろこびだよ、というのは、
何だかわかるような気がしません?

時間と感情について、
まあいろいろと考えてるひとなのです。
そんなこのひとの言葉を、今回は紹介いたします。

「恋をすると、ぼくたちは
 ある意味で異常な状態に入りこむ。
 だから、そのときには、
 単純な出来事ですらも重大なように感じるが、
 その平凡なイベントそのものというのは
 実は、気分にとって、あんまり重要じゃあない。

 ぼくたちをハッピーにするのは、
 心のなかにある、何か不安定なものの存在なんだ。
 そんな不安定なものを支えるために、
 ぼくたちはたえまなく気をつかっている。
 そんな不安定さは、普段は気づかれないのだけれど。

 実際には、恋のなかには絶え間のない苦しみがある。
 よろこびがその苦しみを中和して隠すだけなんだ」

感情そのものがとっても不安定なものなので、
だからこそ、たまには楽しいときというのが、
本道に対しての例外のように表れるのかもしれない。
このひとの文章を読んでいると、
ぼくは、何となくそうやって感じました。

たとえほとんど似たような化粧と
似たような格好で目の前にあらわれたひとでも、
こちらの感情によっては、全然違う生き物に見えます。

プルーストはそうゆうのに突っこむのが大好きだから、
以前すごくどきどきしていた相手に対して
「冷めてしまって、いかに醜く見えるようになったか」
などについても綿々と書くんですけど、
まあうしろむきよりは前向きにとゆうことで、
ここでは、気持ちが乗りまくっているときの、
相手がすっごく素敵に見えるときの表現を、どーぞ。

「ぼくたちが愛するひとを眺めるときの
 探求的な、気がかりな、要求の多い態度、
 明日会えるかどうかがかかっている言葉への期待、
 かわるがわる浮かんでくる想像と絶望・・・、
 ぼくたちはあまりにも動揺しているので、
 そんなときの注意力では、
 ひとをはっきり見ることなんて、できない。
 ・・・・ぼくはほほえみだけしか思い出せない」

江戸っ子ならば、てやんでぃとでも
言いたくなるような言葉でしょうが、何かいいよね?
あまりにも盛り上がっていると、
客観的な姿を見失っちゃうのだろうけど、
でも実は、それでいいのかもしれないです。
例外的で消えてしまうような時間だとしても、
そーゆうのが一瞬でもあれば、
もう、たぶん、それでいいよなーっ。

[今日の2行]
持っていないものに渇いて求めるような時間がある。
新しい知らせを望む、そんな例外的な時間があるんだ。
                  (プルースト)

[今日のぼくの質問]
思っていることは常にその時々のことなので、
客観的にはとらえられないぞ、みたいなメッセージが、
割とすんなり体に入ってくるときがあります。
そんなときに、ぼくはプルーストをいいなと思う。

「誰もが、じぶんで
 そう思っているほどにアンハッピーではないし、
 そう思っているほどにハッピーなわけでもない」

このひとの書いたこんな言葉も、地味ながら好き。
例外的で感情的なものだとしても、
いいなあと思えれば、いいんだろうなあ。

あなたにとっての
「例外的な時間」や「感情的な楽しさ」
などについてのメールをくださるとうれしく思います。

mail→ postman@1101.com

2000-05-25-THU

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