HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

編んで着て(ときどき)うろちょろするわたし

ニットデザイナー・三國万里子さんが
日々のあれこれを写真と文章でお届けします。
編みものの話はもちろん、洋服のことや
街で見かけた気になるものなど、テーマはさまざま。
三國さんの目を通して世界をのぞくと、
なんでもないことにたのしさを見いだせたり、
ものづくりへの意欲を呼び起こせたりする‥‥かも?
期間限定、毎週火曜と金曜に更新予定です。

三國万里子さんのプロフィール

2019-01-18

あらまあ。

11月に始めたこの連載も、
今回が17回目で、
もう最終回です。

ほぼ日の渋谷さんに
週に2回原稿を送る、という
約束で進めたコンテンツでしたが、
仕事という感じはしませんでした。
編みものも、洋服も、
うろちょろするのも、
撮ることも、書くことも好き。
遊びながら原稿を作っているうちに
あっという間に
さよならの時が来ちゃった、
という気持ちです。

今週の月曜、火曜はMiknitsの編み会でした。
ほぼ日の社屋の会議室に
たくさんの人たちが集って、
とてもにぎやかな一日でしたよ。
わたしはテーブルをまわって
皆さんとお話ししながら、
不思議な感慨に打たれました。
わたしたち、同じ部屋で編みものしていて、
なんだか話が弾んでるけど
もともとは全然知らない同士なのよね、と。
歳も境遇も違うひとりずつが
こんなにあっさりと出会えるってすごい。
たとえば喫茶店で、
隣に感じの良い人が座って、
なんとなく気が合いそうでも、
そう簡単に話しかけるわけにはいかないのに。

まあ、編みものをする、という理由だけで
いきなり友達になれるわけではないけれど、
同じ手仕事をしているということが
なにはともあれ知らない誰かと
話をするきっかけにはなっている。
わたしたちはそれなりに
「屈託」もある大人だからこそ、
楽しみや興味を共有することが
やり取りを始めるための
助けになってくれることが
ありがたいよね、と思ったのでした。

思ったことがまだあります。
自分で編んだものを着ている人は
チャーミングだ、ということ。
それぞれ持ち前の魅力が
表に出ているというか。
セーターやマフラーに作者の
「人となり」が表れることに加えて
(もちろん表れますよ)、
それを着ることの喜びが
編んだ本人からふわっと出てる。
そして、これもきのう発見したのですが、
ハンドニットは
「若い人が着ると成熟を、
大人が着ると若さを」感じさせるのです。
それがなぜなのかは、今考え中です。

編みもののいいところについて、
もうひとつお話しさせてください。
先日会った友人が、
「たくさん転がるものがいい」
と言うのです。
「展開しながら、変化しながら、
何回も楽しめるようなものごとがいい」、と。
なるほどね、そうだそうだ、
と相槌を打ちながら、
「編みものはうんと転がるよ〜」
と思いました。
既製品のセーターなら、普通は
「買って、着て、出かける。ステキならほめられる」
というような転がり方をしますよね。
便利な世の中での、洋服の楽しみ方はシンプルです。
でもそこに「編む」を足すと、
「デザインを決めて、糸を買って、編んで、着て、出かけて、
会社や学校で今着ているセーターについて話題にする」
というような転がり方になります。
さらにその先は「編みもの仲間を作る」や
「自分でデザインする」という
道にも、つながっているかもしれない。
わたし自身、転がる糸玉を追いかけるようにして
いつの間にかここまで来たけど、
さらにこの先、どんな道が続いているのかわからない。
でもわからないってことが、
わたしには楽しみなのです。

なんだかいつまでも書いてしまいそう。
そろそろやめます。

今日の写真は古着屋さんの
冬のセールで見つけた
シルクのスカーフとブレスレット。
セールが終わっても、
冬はまだまだ続きますね。

連載も終わりますが、
わたしはもちろん「うろちょろ」し続けます。
いつかまた、どこかでみなさんと
お会いできますように。

2019-01-15

「うろちょろ」のコンテンツを始めて
自覚したことなのですが、
わたしのワードローブには
スカートが随分たくさんあります。
パンツよりもバリエーションの展開が
多いアイテムだから、
あれこれ欲しくなって買ううちに
増えていったのだと思います。

でもパンツだって好きですし、
それなりにいろいろ持っていますよ。

大学を出てすぐに
古着屋に勤めていたことの影響もあって、
ジーンズなら古着のリーバイスの
大きめのサイズをよくはきます。
その頃、同僚たちの多くが、
浅い色のオーバーサイズの501を
ベルトで絞ってはいていましたっけ。
今も時々古着屋に行っては探し、
たくさん試着してから1、2本買います。
はくうちに膝やお尻の部分に穴があいたら
裏に布を当ててミシンで「叩いて」補修し、
生地が薄くなってしまうまで
大事にはき続けます。
たぶん永遠に好きだから、
なくなってしまったら、とても困る。
だからいい頃合いの中古のリーバイスを
高すぎない値段で売っている古着屋さんは、
わたしにとっては
「内緒にしたいキノコ山」のようなもので、
ずっとあってほしいなー、と願っています。
ーーそうそう、わたし、実は
雑木林に生えている食用キノコを
数種類見分けられるんですよ。
小さい頃、毎年時期になると親に連れられて、
松林でキノコ採りをしたものですから。
余談でした。

というわけで、
今回はyajirobeiのセーターに
ゆったりしたパンツを組み合わせました。
ネイビーのyajirobeiに合わせたのは、
bassikeというオーストラリアのメーカーの
白いコットンパンツ。
ウエストはドローストリングで、ローウエスト。
腿から裾に向かってテーパードしてあります。
上下ともゆったりとして
ボーイズライクな印象ですね。
ここに、わたしは嬉々として
ジュエリーを足すのです。
霰(あられ )の粒のような
ダイヤをゴールドで包んだピアスに、
ヴィクトリア朝のイギリスのリンク・ブレスレット、
そして同じ時代のカメオ・リング。
ネイビーに一番似合う色は
ゴールドではないでしょうか。
海原をあたためる陽光、というイメージです。

シトロンのyajirobeiに合わせたのは
中古のリーバイス501、
34インチです。
セーターとジーンズの「つなぎ」に
白いタキシードシャツを入れて、
少々さわやかにしました。
もちろんジュエリーはしっかりつけますよ、
にぎやかに、生き生きと装いたいから。
まず、鳩をゴールドのラインで
かたどった、大きなピアス。
キャッチについている
尾羽のパーツがモビールのように揺れます。
現代のアメリカのもので、
ピカソのドローイングをベースに
作ってあるのだそうです。
指輪はイギリスの古いカメオですが、
うまく写せずにごめんなさい。
時計は1950年頃のPatek Philippe。
仕事をたくさんして、ほっこりと収入のあった年に
お祝いに買ったものです。
「へび子」さんと名をつけて、
ずっと身につけています。

この冬は暮れまで暖かかったけど、
年を越して、ようやくyajirobeiみたいな
チャンキーなセーターがしっくりくる
寒さになりましたね。

引き続き、編むべし、編むべし!

2019-01-11

ニットにすとんとしたスカート、
という組み合わせが好きです。
たとえば50年代のアメリカ映画で
オフィスガールがツインニットなんかに合わせて
タイトスカートをよくはいていますよね。
襟や耳には塩梅よくアクセサリーを配置して、
足元は5センチくらいのヒール靴。
フェミニンでかわいいいなあ、と、
ストーリーはそっちのけで
衣装に気を取られてしまうことも
よくあります。

わたしもいろんな素材や色の
タイトスカートを持っています。
本当はしっかりと
お尻の厚みや幅がある人がはくと、
シルエットにメリハリがついて
かっこいいと思うのですが、
わたしは残念ながらそういう
ステキな「でっぱり」には恵まれなかった。
なので、こういう形のスカートをはくときには
上半身に量感のあるアイテムを選んで
バランスを取っています。

たとえばボリュームのある
ローゲージのニット、プラス、
タイトスカート。
Miknitsのflagsなら、わたしの
メリハリのない腰もカバーしてくれて、
言うことなしです。
というわけで、今回はflagsの各色に
手持ちのスカートと
アクセサリーを合わせる
おままごとをしてみました。

オフホワイトのflagsに合わせたのは、
Maison Margielaのポリエステル素材のもの。
ただの赤というより「緋色」だし、
SF的とも言えるくらいの光沢があって、
着るのに多少気合いが要ります。
でもそこが、このスカートの、
わたしにとっての存在理由です。
flagsのようなハンドニットは、
リラックスした雰囲気を醸し出してくれる
良さがありますが、
でも今日はあまり「ほっこり」したくないなー、
ということもときにはあって、
(ありますよね?)
そんな日に満を持して登場させます。
合わせるアクセサリーは「おもちゃ」っぽいもの二つ。
まずは口紅を模したパーツで作られたブレスレットで、
アメリカの化粧品メーカー、
エスティ・ローダーのノベルティーです。
もうひとつ、蝶はメタル製で、
翅に鳥の羽毛が貼り付けてあります。
ひとつだけで売られていたので
ブローチかな、と思ったのですが、
裏を見たらイヤリングでした。
片耳に大きな蝶がとまってる様子、
なかなかいいんですよ。

グレーのflagsには、
イタリアのNo.21(ヌメロ・ヴェントゥーノ)という
ブランドの、紺のレース地のスカート。
スリットは腿までのファスナーという仕様で、
好みの高さまで開くことができるのですが、
はいているうちに全開しないように
テープの留め具がついています。
実際にこれをはいて歩くと、
ファスナーと留め具が両方合わさって
「ボンデージ」の構造に
なっていることがわかります。
これも「ほっこり」とは逆の方向性の、
装いに緊張感をもたらしてくれるスカートです。
アクセサリーには「フェイクとリアル」を。
青い布でこしらえた花のコサージュ、
1920年代のフェイクパールのロングネックレス
(ガラスのビーズに太刀魚の鱗で作った塗料を
吹き付けてあるそう)、
同じ時代のダイヤの指輪は、
買った時に「角砂糖」という名をつけたもの。
歩くたびに、ネックレスもスカートのテープも
ブラブラ揺れます。

紺のflagsにはきれいな黄色の
ウールのスカートを合わせました。
これは古着屋さんで最近見つけた、
50年代のSalvatore Ferragamo 。
とても普通、そしてとてもとても、着心地がいい。
裏返してみると、手作業で始末している箇所が多くて
それが優しい感触を生み出しているのだ
ということがわかります。
仕立てのいい服は、着ると
それを作った人に自分が大切に扱われているような、
心地よい安心感に包まれますよね。
作られてから60〜70年という時を超えて、
出会えてよかったスカートです。
合わせるアクセサリーは
「早春」を思わせるものにしました。
若草色のベークライトの3連のブレスレットは、
動きに合わせてかちゃかちゃなる音が楽しい。
襟元のブローチは、スミレの花束。
まだまだ春は遠いけれど、
コートの中に春の息吹を包むような気持ちで、
冬の東京を歩くのです。

2019-01-08

あけましておめでとうございます。
年末年始、皆さんは何か編みましたか?

わたしは実家に帰省していたのですが、
そのあいだずっとセーターを編んでいました。
家事を母がしてくれるのをいいことに、
のびのびと時間を使って編んだら、
なんと、まあ、はかどること!
帰った日にゲージを取るところから始め、
後ろ身頃、前身頃、右袖とするする編み上がり、
6日目に左袖の半ばまで編めたところで
お休みが終わりました。
セーターはわりとシンプルな
デザインだったので、
編みながら両親と世間話をしたり、
紅白歌合戦を観たり(今回のはよかった!)、
一日中テレビの正月映画を観たり
(『ミッション・インポッシブル』シリーズ!)、
十分にお正月も満喫しましたよ。
実家ありがたや、ですね。

さて、今日の写真は
Miknitsのこものたちです。

わたしは自分のニット仕事のキャリアを
こういう帽子やミトンを作りためて
売るところから始めました。
数年のあいだ、来る日も来る日も編んでたなあ。
でも、やりたくないと思うことはありませんでした。
楽しくて、飽きなかった。
そう、飽きなかったのです、毎日やっていても。

楽しく編み続ける秘訣があるとしたら、
一つめはまず
「毎回デザインを変えて編むこと」だと思います。
同じ形の帽子なりを
複数個続けて作ってもいいんだけど、
その場合は、たとえば色を変えてみる。
それだけでも、未知のものの
誕生を待つような気持ちで
作業することができます。
とはいえ、編みものを仕事にでもしない限り、
同じデザインで複数個を作るということは
あまりないかもしれませんから、
「自分の目を楽しませながら作る」という
言い方に変えてもいいでしょうね。

二つ目に大事なことは、
「リズムをキープして編むこと」。
ある程度の集中を保って最後までやりきる、
ということですね。
そのためには
「今日はここまでやる」ということを
決めて取り組むことがカギだと思います。
そして自分の編むペースがわかったところで、
「うまくいけばこの日までに仕上げる」、
という目標も立てる。
編みものに慣れないうちは、
完成するかどうかが、
まず不安になったりするものですからね。
もちろんある程度慣れている人ならば、
最初に完成の期日を決めて、
1日あたりどれくらい、という
計画を立ててもいい。

わたしの実感ですが、
ざっくりとでも作業の目処(めど)が立つと、
心がふわふわとほかの場所に逃げていくことなく、
ハードボイルドに「今日の分の仕事」を
やり遂げることができます。
たとえばお勤めのある人が、なんとか
一週間で帽子を編みあげたいと考えて、
リブに3日、本体に3日、仕上げに1日の
編みもの時間を割り振る。
まあ、そこまできっちり計画しなくても、
だいたい夕食後に4センチ編む、とかでもいい。

とはいえ、思ったようにいかずに
編んだ分をほどいて終わり、
という日もあるかと思います。

そういう時に大事なのは、
めげない、落ち込まないこと。
そう、楽しく編み続ける秘訣の三つ目は、
「失敗した時にあまりがっかりしないこと」です。
わたしもうまくいかない時が
割としょっちゅうあります。
当然、多少は「あ〜あ」って思いますよ。
でもいくつか作品を完成させているうちに、
そういうことってあるよ、と
クールに受け止められるようになりました。
うまくいったことを励みに、
うまくいかない時を乗り切る。
そういうこと全部ひっくるめて、
編みものの醍醐味だと思うんですよ。
年の初めから先輩ぶって、ごめんなさいね。


そうそう、来たる1月14日(月、祝)、1月15日(火)に
今年最初のKNIT ROOM MIKNITSを開催します。
これから編むものや、
編みかけのものを持ち寄って、
みんなでわいわい、いい時間を過ごしましょう。
詳細は「うろちょろ」のインスタグラム
「あみもの友の会」のFacebookでお知らせしますので、
どうかチェックをお願いいたします。

さあ、今年も楽しくやりましょうね!

2018-12-28

巻きものが好きです。

首が寒いとなんだか
動きたくならない、
調子が出ない、ということも
体調上の理由としてあるのですが、
おしゃれのアピールとして
わかりやすく楽しい、
というのがいちばんの理由です。
さらにいうと、首に何かを
「巻きつける」ということが、
人が装う、という行いの原初の形を
思い起こさせるようで、
すてきなスカーフなんかを見ると、
ちょっと挑まれているようにすら感じる。
「巻いたらどうなるの?
わたしに巻ける?
ちょっと巻いてみたい!」っていうような。
皆さんはそんなこと、ないかしら。

そんなわけで、
わたしはなかなかの巻きもの長者です。
(とはいっても、他の方の衣装箪笥を
見ての比較ではないんですよ。
自分でそう思ってるだけ)

今回は自分のお気に入りの中から、
いくつかピクトリアル(絵画的)で主張のある
スカーフやマフラーを、
Miknitsのシンプルなニットに
合わせてみました。

最初はHermes(二つ目のeに
アクセント記号がつきます)のスカーフ。
グラフィックの楽しさ、特に
色使いの巧みさに一目惚れして買ったものです。
この柄にはOn A Summer Day という
名前がついていて、
夏の日の摩天楼を
斜め上から俯瞰した様子が
描かれているようです。
合わせるセーターは、黄色のropes
スカーフにも同じ色が使われているので
相性がよいのです。
シルクの光沢が
マットな質感のウールのセーターに
映えてきれいだな、と思います。

次はスコットランドのスーベニア・スカーフ。
大学生の時に、古着屋で買ったものです。
赤いタータンチェックの縁取りの中に、
スコットランドの街にちなむ紋章や、
観光名所の紹介を
にぎにぎしくとじこめてあり、
じーっと見てると
きりがないくらいに、情報量が多い。
わたしはこの中のグラスゴーの紋章を
ずっと不思議に思っています
(鐘のぶら下がった木の下で
くちばしのついたアザラシみたいな海獣が寝ていて、
それを鳥が見下ろしてるのです)。
きっと何かストーリーがあるのでしょうが、
しかし調べるまでには行かず。
おそらく永久に謎のまま
わたしはこれを巻き続けるのです。
にぎやかな割に、
何にでも合うスカーフなのですが、
今回はネイビーのropesに。

すごく毛足の長い、
しましまのしっぽのようなマフラーは
CHARLOTTE SIMONE というブランドのもの。
ショッキングピンクと深いグリーンと黒、
という取り合わせが、パンキッシュで大好きです。
表はアクリルのフェイクファーですが、
裏地がシルクなので、予想外に
自然な巻きごこちで使いやすい。
これはゆったりしたボリュームのある
snowyと、よく合います。

最後は1930年代の
シルクシフォンのブラウス。
ロンドンのアンティークマーケットで
見つけたのですが、
帰国して2、3回着たら、
なんと脇の下がぺりっと破けてしまった。
でもテキスタイルが夢のようにきれいで、
捨てるなんて考えられないし、
かといってしまっておくだけなんて、
つまらない。
……じゃあ、巻けばいいじゃない!
というわけで、それからはずっと
巻きものとして役に立ってくれています。
これはメンズライクな黒のropesに巻くと、
相反するキャラクターが、
お互いの持ち味を引き立てあって、
いい感じではないでしょうか。

うーむ、満足。
何はともあれ巻いてみる、は、
着るという一人遊びのおもしろさを
深めてくれるみたいです。

2018-12-25

今日はうろちょろ。
妹の家に遊びに行ってきました。

妹は料理家で、
なかしましほといいます。
ほぼ日ではおやつの本を出していたり、
おやつミックス」という
ホットケーキやドーナツなどが作れる
ミックス粉を開発しています。
おやつ作りにからきし能のない姉も、
妹のレシピやミックス粉を使うと
自分でも上出来と感動するくらい
おいしくできるので、
わたしのような
「おやつぶきっちょ」な方たちにこそ、
おすすめです。

その妹なのですが、
一年前に東京から鎌倉に引っ越しました。
何かメールでやり取りしたり、という折には
遊びにおいでよと誘ってくれるし、
もちろん行くさ、と答えてはいたのですが、
いつでもいけると高を括っているうちに時が過ぎ、
ようやく年の暮れに訪問の予定が立ちました。

それで、今朝です。
江ノ電の小さな駅で降り、
妹に指定された場所で待っていると、
こけしのような頭をした女性が乗ったVOLVOが
海街の薄い靄をかき分けて、
こちらに近づいてきます。
ああ、あれは。
なんだかかっこいい登場ですが、
見間違えようもなく、
自分と同じ遺伝子を受け継いだ生き物の
オーラを運転席から発しています。

VOLVOはやはり
わたしの前でキュキュッと止まりました。
おはよう、しーちゃん。
迎えにきてくれてありがとう。
ドアを開けながら妹は、開口一番
「おねさん、おはよう。
そこの角の餅菓子屋に寄って行ってもいい?」
といいます。
妹はお菓子作りを仕事にしている上に、
人の作るお菓子を買って食べることが大好きなのです。
もちろんいいに決まってるので、
道沿いの古びた老舗の和菓子屋に寄って
目当てにしていたらしい
あんこ菓子をひと折り買い、
しかるのち一路、
妹の住む家に向かいました。

あとは大体、写真でおわかりいただけますね。
妹の家は相模湾を見下ろす山の中に建っていて、
斜面を生かした野生的な庭が
その下に広がっています。
竹にヤシの木に夏みかんといった、
妹自身も把握しきれないくらい
たくさんの種類の木が
以前の住人によって植えられていて、
その中を通る散策路の途中に
ハンモックが吊るしてあります。
ここに乗ってゆらゆらと
空を見上げていると、
樹上をリスや鳥が駆け巡っていくのだそうです。

この庭を登ったところにあるリビングで
お昼ご飯をいただきました。
前菜のお皿の右端にある、
オレンジ色の丸いのにご注目。
これはくるみを干し柿で巻いた
韓国のお菓子だそうで、
「ここにブリーチーズを乗せて食べると
おいしいんだよ」と、妹。
そのアドバイスに従っていただくと、
甘くてしょっぱくて濃厚で、
とてもワインの進む味でしたよ。
パスタは鎌倉名産の
しらすとバジルのスパゲティー。
妹の夫、グラフィックデザイナーの
中島基文君が作ってくれました。
これも海と山、両方の香りがして、
しみじみとおいしかった。

妹夫婦は暮れに新潟に帰省しないというので、
今年はこれが、二人の顔の見納め。
たくさんおしゃべりもできたし、
会いに行って本当に、よかったです。

2018-12-21

もう6、7年前に買ったdosaのドレス。
Paradise Projectというシリーズで、
奄美大島に伝わる泥染めの技法で
染められたシルクが使われています。

シルバーとインディゴ、
どちらの色も気に入っていて、
毎年飽きることなく着続けているのですが、
なぜかこれを着たくなるのはいつも寒い季節で、
あらためて「なぜに」と考えると、
このドレスは一枚で着るには
少々ゴージャスで色っぽすぎる。
それで、ふわっとしたセーターやカーディガンを
上に合わせられる季節に登場することが多い、
ということだと気付きました。

今回はこの2枚のドレスと、
Miknitsの「mangekyou」を組み合わせて
着てみよう、という試みです。
mangekyouの中に、ちょうど同じような
紺と淡いグレーが入っているので、
合うんじゃないかな、と思ったのです。

まずはインディゴのドレスとmangekyou。
スカーフにしたのは同じくdosaのインディゴ染めの布。
もともとパレオ(腰に巻く布)として
デザインされたものですが、
わたしは首に巻いて使っています。

合わせるアクセサリーは大人っぽく、
アール・デコのブラックのバングルと、
ほぼ同じくらいの時代にフランスで作られた、
パールとラピスラズリの指輪。

次はシルバーのドレスとmangekyou。
アクセサリーはフレッシュさを
プラスできるといいな。と、
まずは明るいエメラルドグリーンのバングル。
首から上は白でまとめたくて、
アンティークの白い多連のビーズネックレスに、
とても軽い樹脂でできた
白い水仙の形のイヤリングを合わせました。

さて、わたしはこんなコーディネートを
試してみましたが、
皆さんはどう着ていらっしゃるでしょうね、
mangekyou。
編み上がって、もう着てるよー、という方、
ぜひコーディネートのアイディア、教えてくださいね。

2018-12-18

女性は「仕舞う」ということが
好きな生きものではないかしら。
バッグやポーチに
目がない人も多いですしね。
「自分というもの、あるいは
自分が愛するもののエッセンスを
その中に潜ませて、持ち運ぶ」
というコンセプトに
ときめくのだという気がする。
少なくともわたしは、そうです。

コレクションしているわけではないのですが、
少し風変わりな小さな容れものを
いくつか持っています。
ほとんどが骨董屋さんで求めた古いもの。
自分だけがその中を見られる、
という秘密のよろこびを持ちたいがために、
また、こんな小さい容れもの、何を入れるのよ?
という理不尽さに
「わなわな」するのも倒錯的に快く、
いつの間にかそこそこの
集合体を形作るまでになりました。

まずは真鍮製のネズミ。
名前はぷーちゃんといいます
(買った日にすぐ名前をつけました)。
胴体は5.5センチ、尻尾は7センチ。
100年ほど前のイギリスで、
「ある」ものを入れるためにつくられたものです。
なんだかわかりますか?
答えば「マッチ棒」。
首の内側にバネの仕掛けがついていて、
頭部が下にカクンと落ちて、
開くようになっています。
お腹に小判を抱いているようにも見えますが、
おそらくこれは、マッチを擦るための
「やすり」の役目をしていたのでは、と思います。
濃いピンクの革製の耳としっぽが
体の鈍いゴールドに
よく似合っているところも好きで、
日々わたしの目を楽しませるために、
仕事机や本棚のあたりで
ちょろちょろしてもらっています。
ただ、わたしはマッチを使わないし、
かといってちょうどいい中身も思いつかない。
ということで、今のところ、
ぷーちゃんの中に何を仕舞うかは保留中です。

次はマザー・オブ・パールという、
真珠を生み出す貝を素材にした
幅6センチ弱の小さなバッグ。
妖精ならちょうどいいかも、というサイズです。
これはボタンのお店CO-さんで見つけたものですが、
店主の小坂さんによると、
教会に礼拝をしに行くときの必需品、
「ロザリオ」を入れるためのものだそう。
わたしは真珠の指輪とピアスをセットにして
ここに仕舞っています。

続いてフランスでつくられた、靴の形の容器。
つま先からかかとまで8センチという、
これも妖精の足ならば、というサイズ。
タブのついた蓋を片側から持ち上げて開閉します。
刻みタバコを入れるためのもので、
中が湿気ないように、
柘植(つげ)という密度の高い木で
つくられているのだそうです。
これもまだ、自分にとってぴったりの
中身が見つからず、待機中。
ネズミのマッチ入れと二つポケットに忍ばせて
用途通りに使えば
好きな時に優雅にパイプを
楽しむことができるのでしょうが、
わたしにはそんな奥ゆかしい趣味はないのです。

その次は、直径3センチの丸い蓋もの。
イギリスのジョージ王朝期、
なんと200年前に作られたものだそう。
ベースの素材はセイウチの牙で、
蓋の最上部を覆うガラスの下には
野原に佇む子羊が、
金細工の花飾りとともに描かれています。
この3センチの丸の中の世界、
くらっとするほど細密で、
じっと見ているうちに羊のいる野原に
行けそうな気持ちになります。
ここにわたしが入れているのは、
幅1.6センチ、高さ1.2センチの、
イギリス製のバッグの形のペンダント。
そうです、これも容れもので、
小さなつまみを持ち上げると、蓋が開きます。
このペンダント、わたしのお気に入りで、
もうずいぶん長い間身につけているのですが、
まだ中に何かを入れたことはありません。
いつか、大事な誰かが、
ここに入れたくなるような、
小さな小さな手紙をくれることも
あるんじゃないかしら、と夢見ているんですよ。

最後に登場するのは、
我らがMiknitsの黒猫のポーチ
中には編みものに使う目数、段数リングや
ニードルキャップをまとめて入れています。
ファスナーを開けると、
わちゃーっと動物が詰まってて、
まるで赤ずきんちゃんに出てくる
悪いオオカミのようですが、そこがいいんです。
長年のMiknitsの歩みを一目で見渡せるのもうれしい。
このポーチは残念ながら販売が完了していますが、
中の動物たちは、まだ買えるものもあります。
よかったらMiknitsのページで見てみてくださいね。

2018-12-14

わたしの住むマンションから20分ほどのところに
広い池を囲む、森のような公園があります。
わたしはじぶん一人でそこを
「リトル尾瀬」と呼んでいるのですが、
野生の水鳥の種類が多く、
運が良ければ手のひらほどの大きさの
メタリックな青いカワセミが、
池に差し伸べられた枝の上で
すましている姿も見られます。
休日はこれらの鳥を撮影に訪れる人々で
池を囲む細い木道がいっぱいになることもありますが、
平日は程よく静か。
池の端のメタセコイヤの下にイーゼルを並べ、
対岸の弁天堂を描く人々に混じり、
わたしもベンチに腰をかけて編みものをします。
持参した魔法瓶のコーヒーをカップに移し、
西荻窪の焼き菓子屋さんで買った
レモングレーズケーキを少しずつかじるのも楽しみです。

今日は「アランのケーブルキャップ」のような
ニット小物に使えそうなパターンを、
古い編みもの本から拾い出して
スワッチを編みましたよ。
こんな日に着るのは、
のびのびと動けて仕事がしやすく、
たくさんのケーブル柄が暖かい空気の層を作ってくれる、
Miknitsのropes
ボトムはAKANE UTSUNOMIYAの、
黄色と黒の対比が目を引く
ガンクラブチェックの
ウールスカートにしました。
このスカートは
ポケットの生地がヘリンボーン柄に
切り替わっているのが楽しく、
すっきりとした形もきれい。
はいているとよく誉められる、
びじんさんです。

今日のアクセサリーは、少し風変わりな蝶のペンダント。
購入した骨董屋さんによると、
ヴィエナ・ブロンズ(ウイーン発祥の
ブロンズ細工の工芸品)というもので、
現し身(うつしみ)では儚いモンシロチョウも、
ほぼ、100年以上昔に作られたという
当時のままの姿をとどめています。
そもそもは職人が「リアルさ」を
追求してこの姿になったのでしょうが、
そこに経年によって寂びた落ち着きが加わり、
今はおそらく、新品の時より身につけやすい。
ただこの蝶々、背中のみならず、
お腹の方もばっちりとリアルに作られていて、
虫が苦手な方には「おっとっと」、
という感じかもしれません。

モンシロチョウはさなぎの姿で越冬するとか。
「リトル尾瀬」の周りには、地区特産の大根畑も広がっているので、
今頃きっとたくさんの蝶が、深い眠りの中にいることでしょう。
彼らはどんな夢を見るのでしょうね。

2018-12-11

突然ですが、今回のコーディネートのテーマは
「忘年会に向かう現代の魔女」です。
ライトな「ゴスのコスプレ」でもありますね。
ひたひたと日常を生きるわたしたちにも、
時にはなりきりプレイ(演劇)をする
シチュエーションがあるといいと思うんですよ。
年の暮れ、電飾に彩られた魔都、東京の夜に
こんなカラスみたいな格好をして出かけて行く。
忘年会で待ち合わせる相手は
古馴染みの友達だから、
まあ理解はせずとも
おもしろがってくれることでしょう。

今回はケープ(写真2枚目の上衣)とパンツが黒のため、
iPhoneのカラーモードで写真を撮ったら
色が潰れてぺったりしてしまったのですが、
試しにモノトーンモードにしたら
質感や「おうとつ」がはっきりと出ました。
ちゃんとしたカメラは、わたし、
全く扱えないんですけどね。
iPhoneXは、優秀です。

さて個々のアイテムについて簡単にご説明します。
今回の主役は先述したウール地の黒いケープ。
100年ほど昔のフランスのものです。
巧みなフリルの使い方と、
(ヨーロッパ人の中では比較的小柄な)
フランス人女性の上半身をきゅっと抱きしめるような
立体的なカッティングの妙があいまって、
とてもドラマティックで美しい。
アートピースと言っていいような、
たまに取り出しては飽かずに眺める、大好きな服です。

上半身のベースに着たのは、
ケープと同時代のフランスのブラウス。
きめの細かいコットン地で襟はスタンドカラー、
写真には写っていませんが、
身頃におそろしく繊細なピンタックが施されています。
その上にmiknitsのフェアアイル編みのベスト、「tie」。
蝶ネクタイの柄のニット地が、
モノトーンの布帛の組み合わせに
愛嬌を添えてくれます。
ボトムは同じくフランスのブランド、
Chloe(クロエ、eの上にアクセント記号がつきます)の
ハーレムパンツで、上半身と
ボリュームのバランスをとります。

襟元につけたブローチは、
イギリスのジョージ王朝時代に作られた
銀の小さなネズミ。
このコーディネートでは魔女の「使い魔」という設定です。
体長4.5センチ、うちしっぽは2.5センチで、
胴体には直径0.2センチほどのペーストグラスが
一面に爪留めされています。
目もガラス製で、(写真には写っていませんが)
右目だけなぜか深い赤色なのは、
魔女の心をさっと読み取り、
自分たちの道行きに潜む小さな障害を
先回りして取り除いてゆくために
違いありません。

足元は、これもフランスのブランド、
Isabel Marant のレースアップのぺたんこ靴。
ハトメから差し込む光が作る影が美しくて、
いつもは本棚に飾って満足しているのですが、
忘年会のときくらいは履くことにしましょう。

そう。忘年会ですもの、
持ち物はiPhone と財布だけと決めて、
ポートランドのヴィンテージショップで買った
ビーズの小さなパーティーバッグを肩に下げ、
仕上げにロンドンの
ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアムで買った
フェイクファーのピルボックス・ハットをかぶります。

書いているうちに気分が盛り上がってきました。
何はともあれ、友達を忘年会に誘わなきゃ。