PLANET
網の目のある惑星。
おーい、
と呼びかけてみよう。

Vol.13 「アルヒ、ボクハ、ココニ、イタ。」<その1>

*snow fields*


実はね、
ほら穴(ちなみに横)掘りましてね、
その中でぬくぬくして、
秋にたくさん集めておいた木の実をぽりぽり食べながら、
しばらく「冬眠」しちゃってたんですけれども、
...もちろん、ウソですけどね、
まぁまぁ、あっと言う間に、
ここのページを担当させていただくようになって、
1年が過ぎていました。

えっと、あらためまして、ご挨拶を。

このページを読んで下さるみなさま、
メールを下さるみなさま、
記事に御協力くださったみなさま、
いつもありがとうございます。
早いもんですねぇ。と個人的な感慨にふけっております。
ま、特別なにがあるワケではないのですが、
これからも「惑星探査」で出会った素敵なヒト
/サイトたちを御紹介していきますね。

さて、
この1年、インターネットというネットワークを使って、
さまざまな「出会い」をしてきたわけですが、
そんな中、ひとつのスタンスとして、
インターネット上に「もうひとつの世界」を見る、
という考え方に出会ったりします。
程度の差はさまざまですが、
たとえば、
現実じゃない「別リアル」をつくりだそう、って世界です。
惑星探査していると、
ときどき、そんな「迷宮」に迷い込むコトがあります。

今回迷い込んだのは、
「真っ白な世界」でそれをやってみようというサイト。
いつもとは、ちょっとちがった
「ひっそり」系のサイトです。

雪国生まれなのに「雪がきらい」だけど、
“雪まつり”が開催される地域に住む、みうらさんも
きっと気に入ってくれると思うよ。


目の前に広がるのは、
地図とテキストのみの世界「*snow fields*」。

この「*snow fields*」は、

art-bag.net
というナイスなサイトの中にある、
ひとつのコンテンツです。

まず、「the story」へとびましょう。
すると、「地図」があらわれます。
その地図上の自分が気になる場所をクリックすると、
あるストーリーがあらわれます。
「*snow fields*」の世界は、
インターネット上で、
いろんなヒトビトによって描き出された「物語」なのです。

世界のだれかが書き残した、
「*snow fields*」というフィクション。
このページのプランナーは、
このフィクションを「インターネットのソープオペラ」と
呼んでいます。
奥様の退屈な昼下がりの時間をうめてくれる、
そう、そんな「メロドラマ」チックなハナシを
みんなで書いてください、
ってとこでしょうか。

地図、という画像と、
書き込まれた英文、のテキスト・データ。
たったそれだけのソースから生まれた「想像するチカラ」。
それがどんどんひろがって、
やがて「*snow fields*」が
リアルな世界に変わっていく錯覚があります。
1997年にスタートし、
今なお増殖している「*snow fields*」プロジェクト。
今日もちがった物語が展開されていることでしょう。

春を待ってる間、
そんな「別世界リアル」の書き手をたのしんでみる、
なんて“遊び”、いかがですか?

...と、
実は、そんなに単純なハナシじゃないんですよ、奥さん。
この「みんなで物語をつくっちゃおうシステム」、
とんでもないコトになっているのだ!
じゃ、この「*snow fields*」を立ち上げたひとは、
一体どんなコトを考えているのでしょうか?

残念ながら、インタビューはとれなかったのですが、
彼らがコンテンツ中で語っていたアレコレを
もうすこし「深く」御紹介したいと思います。

そのあたりは、また次回。

2000-03-01-WED

Vol.13 「アルヒ、ボクハ、ココニ、イタ。」<その2>

*snow fields*


ヨノナカには、ひとつのコトを「深く深く」思考する
ヒトたちがいて、たまには、そういうヒトたちの
「思考道楽」につきあってみるのも
なかなか楽しいもんです。

今回御紹介した「*snow fields*」プロジェクトも
一見シンプルなつくりですが、
まぁとにかく「深く深く」考えていらっしゃる。
deep-deeper-deepestなこと、ウケアイです。

この*snow fields*プランナーによる解説の全文は、
こちらにあります。
(また、その一部をざっと訳したものはこちら
 あまりにも「読みにくい」ニホンゴ、御了承のほど。)

・*snow fields*という宇宙

最初、このサイトをみた時、
「へぇ、みんなで“お話リレー”ができるわけね。」
というくらいにしか思いませんでした。
が、
つくったヒトたちの野望は壮大なものだったようです。

と、
ここで、ひとりの偉大な文学者が登場します。
アルゼンチンの作家で、
ホルへ・ルイス・ボルヘスというひと。

彼が書いた代表作『バベルの図書館』は、
まさに「文字がうみだした宇宙みたいに果てしない世界」。

その中の一部。
「バベルの図書館」に所蔵された書物を
“永遠を超えて”存在する図書館に所蔵される、
ありとあらゆる書物は
「多数であるが、無限ではない」
と説明してます。

その部分を引用して、*snow fields*のプランナーたちは、
 
「この*snow fields*に、
 だれもかれもがあらゆるコトを書き込んでも、
 ま、たかが知れてるんじゃない?」

なんて考えてるらしい。

そう、ボルヘスが「その粋な希望」とか言ってたこと。

「今、モニターの前の“孤独な”あなたが書いたコトもさ、
 結局、昔か未来かに誰かが書いてるコトだったりしてさ、
 まぁ、そんな風に“つながっちゃってる”んじゃない?
 でね、インターネットで可能な“ハイパーテキスト”の
 リンクでそれが実感できるわけよ。」

ってなコトでしょうか。

なかなか「こころにくい」ですぜ。

こうやって、
世界中で、ある個人が書いた「コトバ」たちは、
このシステムにどんどんアーカイブされてゆくわけです。

それらは、ある「塊/clusters」となってゆきます。
で、どーなっちゃうのか?と思ったら、
ここで「オートメイション」というチカラが働きます。
なにがすごいって、
この「オートメイション」さんは、
“自動的に”これらの「塊/clusters」を組み立てちゃう。
つまり、なにが飛び出すか、だれにもわからない!
現実は、小説より奇なり。
そうさ!
現実だって、突拍子もないコトの連続なのだから。

・*snow fields* を「読む」のか「書く」のか

いよいよコムズカシくなってきましたよ。

ま、どうでもいいよ、と見切らないでくださいましな。

「書く」作業っていうのは、
ある程度「ジブンとしては納得」って部分がないと
成立しないですよね。

が、さっきも書いたとおり、
*snow fields*の世界では、
「納得」を超えたところに「物語」が始まる。
「書き手」でありながら、瞬間に「読み手」になっちゃう。

これは、ややこしいことになりましたぜ。

とにかく、目の前にあらわれた「ソープオペラ」は、
「わたし」が書いたモノなんだけど、「だれか」が書いた
モノである可能性もあり、でも、それを「わたし」は
読んで、「だれか」もまたそれを読む、で、「わたし」は
また違うストーリーを書きはじめ、それをホストサーバに
送り込み、「わたし」を超えたところで新しい時間が
物語の中で始まる、
というコトになっておりますのですよ。

じゃぁ、「書かれた」「読まれた」テキストって何?

書かれた内容、が重要?
誰が書いたか、が重要?
どこからか立ち現われたナニカが、重要?
「わたし」が「わたし」のテキストを書くこと、が重要?
「書く」という作業において、
ナニモノからも自由であること、が重要?
...うわー!この記号の連なりは、一体なんなのさー!!
文字がいっぱい集まると、何がうまれるっていうのさー??

あぁ、とんでもないトコロまで来てしまいましたね。

ということで、
あなたが発した「コトバ」たちは、
「*snow fields*」の闇の奥深くへと、
つぎつぎにのみ込まれていってしまったのでした。
その「コトバ」たちは、
やがて「わたし」たちの予想だにしなかったモノへと
生まれ変わっていくのです。

「*snow fields*」の真っ白な世界には、
ナニモ ナイのではなく、
ナニモカモ ガ アルのかもしれません。

アナタ ハ イマ ドコニ イマスカ?
ワタシ ハ
コノ マヨイコンダ フカイアナ ノ ナカデ、
スッカリ マイゴ ニ ナッテシマイマシタ...。

...文字のチカラ、おっそるべし!
ふぅ。

さて、次回は「リアル社会に復帰」しますよっ。

なにが飛び出すかは、みてのおたのしみです。

では。

___________________________________おまけ

*『バベルの図書館』 
アルゼンチンの作家、Jorge Luis Borges/J.L.ボルヘス
が1944年に書いた短編集『伝奇集』のなかに所収。
鼓直氏訳による岩波文庫版があり。
こんな図書館、想像の中でしか存在しえない
シロモノだけに、興味はつきません。
建築家の鈴木了二さんは
「物質試行 39 Biblioteca」という作品で
この図書館の構造の立体化を試みています。

さらに、
今回御紹介した「*snow fields*」をみて、
わたしの担当、goodmanさんは、
「手触りの印象ですが、」という前置きをして
村上春樹さんの
『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』新潮文庫
をあげてくれました。

すみません、先輩、これ読んだことないっす、
ってことで、今読んでいますが、引きこまれてます。
地図がでてくるところなど、似てます。
ま、そんな単純なコトではなく、
ここにあるのは、まさに「文字にしかつくりえない世界」、
“文学”の醍醐味を気づかせてくれる作品です。

そして、
わたしからも一冊、勝手にrecommendしたいと思います。
「現実-リアル-」と「虚構」の間で、
アタマがグラングランしちゃうような、
ついには「物語」の中で迷ってしまうメタフィクション、
いとうせいこうさんの『波の上の甲虫』幻冬社文庫です。
最後の一文に、しびれましたぁ。
おっもしろいですよ。

2000-03-16-THU

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