POMPEII
「ポンペイに学べ」
青柳正規教授と、鼠穴で対談しました。

第1回 いいものは売れるのか
    

[今回のみどころ]
今日からスタートするのは、
現在品川駅前の品川インターシティで開催中の
展示会「ポンペイ展」をきっかけにした対談です。
イタリアの歴史を専門に持つ青柳正規東大教授は、
異例に長い会期6か月の展示会「ポンペイ展」を企画。
darlingはこの展示会を見てかなり驚いたみたいだよ。
「ポンペイに未来がある!」
歴史を通してソフトの未来を語るという対談は、
そんな予感のなかではじめられることになりました。
今回は第1回。まずはポンペイ展の評判についてです。
ポンペイ展はその高品質と親しみやすさにも関わらず、
現在、観客動員数ではどうやら苦戦中のもようです。

糸井 今回のポンペイ展の苦戦というのは、
やはり場所がむつかしかったんでしょうか?
青柳 それがひとつと、もうひとつは
口こみでどうにかなるだろうと思っていたので
媒体を色々と使わなかった結果だと思います。
それが大きかったのでしょうね。
今日は、いい商品が必ずしも
売れないという点も含めて
話題にしてもいいと思うんです。
糸井 そうですね。わかります。
ぼくは今、ソフトって何?
というのにいちばん興味があるんです。
ソフト社会だとかこんなに言われてはいるけど、
ほんとにソフトが語られていることって、ない。
ざっくりとソフト会社を買いつけたとか言って
マーチャダイジングみたいな発想で話されてるけど、
ソフトってそんなにできるもんじゃないし
いいソフトってないし、あるとしても
それを伝えるお皿がないとどうしようもない。
みんなそこを見くびりすぎているんじゃないか?
ぼくは最近ソフト欠乏時代のソフト社会という
視点でいろいろなものを見つめているんです。
この展覧会にはソフトの現状の
典型的なものが出ていると思います。
ソフトがあるのに場所のキャスティングが
間違っているからお客さんに届かない、とか。
このポンペイ展に来たひとが
みんな満足しているのは事実だし。

ぼくはこの展覧会がおもしろくなければ
ここで伝えるつもりもないのですが、
でも、ああいう体験ってはじめてなんです。
遺跡に行ってその場に立つ感慨に似ているし、
いろいろな楽しみ方ができた。
だからぼくは、これつくったひとたちは
ねらってやっているな、と思ったんです。
「ディズニーランドとかに近いような
 体全体で楽しむという今回のコンセプトが
 もしひとに届いていなかったとしたら、
 どうすればいいんだろう?」
というときに、これからぼくたちが
考えるべきことが見えると思うんです。
今は、ソフトが欠乏しているところで
「みんなにアンケートをとって」
「こうしたら絶対ひとが来る」
という風に考えてソフトをつくるような
やりかたからは変えていく時期だと思います。
ポンペイ展のようなものがこれからも
今のお客さんの数で終わってしまうのなら
壮大なる実験失敗のままになると思うんだけど、
そうじゃないところがありうるなら、
ぼくは悪あがきしたいんだよね。
青柳 ソフトなきソフト時代とおっしゃったのですが
ソフトというのは「箱もの」ソフトなんですね。
テレビというハードの枠の中でマッチしている。
映画用に撮った景色をテレビにそのまま
景色だけで流しても、これはソフトではない。

展覧会もある意味でソフトなのですが、
ハードとしての美術館という場所の
限定のなかでソフトとして生きていくんです。
だからその限定をのりこえたものは
なかなか展覧会としては認められない。
期間にしても1か月2か月に区切ると
「終わっちゃうから」と行こうと思うけど、
6か月だとアウトオブスケールになってしまって、
やはり従来型のソフトではなくなってしまう。
糸井 惹かれなくなってしまうんですね。
ただ、この間もおききしたんですけど、
6か月にしたおかげでコストをかけられたという
それはぼく、発明だと思ったんですよ。
青柳 そうなんですよ。
「しめたー!」
って思ったんですけど。
糸井 1か月の展覧会の6倍の費用は
かけられないんですよね
青柳 そうです。今回は3億4000万円かかっています。
糸井 たいした額ですね。
青柳 普通どんなに凝った展覧会でも
3000万円がいいところです。
とんでもなく入りそうな見込みがあるときに
8000万円くらいかける。その4倍ということで、
その意味ではかなりのお金のかけかたですよね。
糸井 そこまでのところで
非常に斬新なアイデアもあって、
ある種の経営感覚もあってスタートできたという
その意味ではぼくも大拍手だったわけですよ。
そのへんのところを裸で出しちゃったほうが
今回の対談には意味があると思っています。
その期間限定じゃないという目論見が
逆に悪い作用をしちゃったこともあるのですが、
もっと大きい部分としてぼくが思うのは、
ポンペイ展の噂をどこでもきかなかった点です。

テレビ局とタイアップした場合には
絶えず向こうから飛びこんでくる情報になって、
例えば典型的な例では彫刻の森美術館があって、
鎌倉の大仏みたいに名物になっていますよね。
あれの後援を仮に新聞社がやったとしたら
どこかにたまに広告を出していたとしても
名物にはならなかったと思うんですよ。
そこの点がまずはテレビの掲示効果というか、
ここのところでまず第一歩、
朝日新聞とTBSいう立派で大きい主催者が
ついたおかげで、逆に動きにくくなったのかな。
青柳 テレビの集客力はすごい、
と今回は感じたのですけど。

[第1回のひとくぎり]

展覧会もハードとしての美術館という限定のなかで、
ソフトとして生きていくものなんですね。
会期限定を破る斬新なポンペイ展だったのですが、
テレビ媒体のなさ・口こみに頼りすぎたなどなど
さまざまな要因があって今は苦戦しているみたい。


(つづく)

2000-02-01-TUE

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