糸井 |
政治をおこなうための思想的基盤や
憲法的基盤は、どういうものだったのですか? |
青柳 |
いろいろあります。
例えばもうそれこそギリシャの時代の
プラトンなどが共和国論の指針を出しています。
それはもうギリシャのギリシャたるゆえんで、
素晴らしい理念はあるだろうけど応用がないから、
使いようのないほどに粗いものなんです。
ギリシャ人たちはそのまま使おうとするから
がたがたになっちゃったのですが、
ローマ人たちはそれをうまいこと翻訳して使う。
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糸井 |
カスタマイズするわけですね。 |
青柳 |
ギリシア人たちは理念をちゃんとわかっていたし、
現実を分析してはいたのですが。
ローマではそれをどう適応するかということを、
キケロにしてもさまざまに考察して
それを皇帝たちがうまく活用していくわけです。
皇帝たちのまわりに知恵をつけるシンクタンクが
ちゃんと存在してるんです。シンクタンク内には
ギリシャ系の解放奴隷という当時で言うと
最高の知識人たちも入っていました。 |
糸井 |
今で言うとシンクタンクって
どのようなジャンルのものなんですか? |
青柳 |
やっぱり一番活躍したのはおそらく
経済面の若いひとたちでしょうね。 |
糸井 |
エコノミストですか。 |
青柳 |
そうです。あとはギリシャの残した文化を
易しい言葉で皇帝たちに教えられるひとです。 |
糸井 |
情報的な、メディア戦略家ですね。 |
青柳 |
当時、ギリシャ語は国際語だったんですね。
だからギリシャ語を知る解放奴隷たちはまさに
情報の仲介者であって、そういうひとたちを
当時の皇帝はちゃんとうしろに持っていたんです。
しかも解放奴隷としての身分が明確なので、
その知識人たちはそれ以上の身分になって
皇帝を脅かすような出世をすることはできない。
騎士階級にも元老院にも上がれないんです。
だから皇帝も安心してそばにおいておける。 |
糸井 |
奴隷から最高でどこまで行けるんですか? |
青柳 |
最高になると今で言う大蔵大臣くらいです。
だけど大蔵大臣から首相にはなれないんです。 |
糸井 |
当時のひとって現世的な富を
蓄積することはできたのですか? |
青柳 |
はい。国の富よりも個人の持つ富のほうが
多い、なんて噂話もあったくらいですから。 |
糸井 |
それはエコノミストたちの富? |
青柳 |
そうです。 |
糸井 |
それは堺屋太一さんだなあ。 |
青柳 |
(笑)そういう環境にあって、
だからある意味でとてもいい政治環境があった。
政治の天才がでるのはだからなのでしょう。 |
糸井 |
答えられないといけないような
問題の出されかただったんですね。 |
青柳 |
常に決断を迫られていましたね。 |
糸井 |
構造的に肥沃な大地があって商業はまかなえる。
貿易がある。それに経済を支えていた奴隷という
大きな階級、このあたりが生産力の源ですよね。
その人口配分はどういうものだったんですか? |
青柳 |
ポンペイで1万5000人という総人口だとすると、
おそらく4〜5000人は固かったでしょうね。 |
糸井 |
3分の1。 |
青柳 |
そういうひとたちに労働のインセンティブを
どうやって与えるかがポイントなんですよね。
そのためには、奴隷に出世の飴を与える。
そして、奴隷の所有者であったとしても
理由なく殴ったり殺したりしてはいけない
といった法律がきちんと存在していたんですね。 |
糸井 |
奴隷は所有をされはするものの、
大事な生産力であり生きものだと。
経済現地からそうとらえられていたのですか?
それとも倫理原理から来るものなのでしょうか。 |
青柳 |
古代人というのは神さまに敬虔であると同時に
他方では我々からは想像できないくらいの
違う意味での残虐さを持っていたのですから、
もともとは経済原理からだと思いますね。
経済原理内でのよさが証明されていくので
社会的な倫理観のなかに組みこんだ、と。 |
糸井 |
思えば、他の倫理もみんな
そういうものなのかもしれないですね。 |
青柳 |
そうなんですよ。だいたいのことは。
例えば紀元後1世紀のはじめごろまでは
外で侵略戦争をしかければ、そこで捕虜たちを
がばっと連れて来ることができたんですね。
だけどそのうちに、もう国が広がっちゃったので
そういうことができなくなっちゃったんですよね。
すると国の中にいる奴隷に子供を産んでもらって
奴隷の再生産をやってもらわなければならない。
そこで「子供を産んだほうが得だよ」という
インセンティブを与えないといけなくなります。
その奴隷たちはかつかつのお金で生きのびれるし、
子供を産んで育てることはできるのですが、
でも財産はない、そういうシステムでしたね。 |
糸井 |
それはもう見事に「現代」ですね。
ハリウッドの左翼的な考えで撮った古代の映画は
やまほどあるんですけど、アメとムチで言うと、
ムチだけで奴隷制度が補われていたと
信じこんでますよね。あれを変えたいですよね。 |
青柳 |
そうですね。無理なシステムだったら
そんなに長く継続しないんですよね。 |
糸井 |
非常にフィルターのかかった左翼思想で
歴史が伝えられてきたというのがあったので、
「人間を牛馬のごとく使う時代が長かった」
という認識を変えさせるというのは、
ほんとにむつかしいものですよね。 |
青柳 |
だからおそらく為政者としてはその国民に
たくさん収入を与えるかわりに義務も与えるか、
あるいは収入も義務も少しずつにするか、の
どっちかだと思うんですね。
奴隷は少し与えて少ししかとらない、
そういうシステムだったんじゃないかなあ。 |
糸井 |
今、日本なんかだと妻帯者の「妻」で
婦人労働をおぎなったりさせていますよね。
今後60万人の労働者が足りなくなるそうですね。 |
青柳 |
大問題です。まだ深刻化していないけど
せまっているという、大変な問題ですよね。 |
糸井 |
労働力が足りなくなると、
子孫にお金を残せるかもしれないひとの
労働時間が倍になったりするわけですよね。
働き手はもう休めなくなってしまった。
アメリカ映画を観てるようになってきている。
このシステムが最高でないことは確かですよね。 |
青柳 |
アメリカでも10年以上も前ですけど
性差をはじめいろいろな差別を撤廃させて、
労働者を年齢で区別してはいけなくした。
表面的にはかっこいいんですけど、
これはむしろ良質的な労働者というのは
社会的に使い尽くそう、ということですよね。 |