POMPEII
「ポンペイに学べ」
青柳正規教授と、鼠穴で対談しました。

第2回 リスクを負わないと、育たない

糸井 結局、昔のひとが言っているように、
子どもに魚を与えるよりは、
釣り針と糸を渡すべきだ、みたいなことですよ。
そのほうが、自分でいくらでも取って
食べれるようになるよと。

釣り針と糸のような道具こそが、
これからの時代に、いちばん必要ですよね。
青柳 はい。
糸井 その釣り針と糸のようなものとして、
考える基盤みたいなものに、
この本や「ほぼ日ブックス」というシリーズが
できあがっているといいなあと思うんです。

あとはそれぞれ、これをもとにしながら、
実地でリスクを負って、がんばれよと。
青柳 ハハハ。

そうですそうです。
ギリギリの現実で
必死になるということは
とても大事ですよね。

ぼくの高校の一年先輩の
井出さんという人は、
東大の野球部からプロ野球に入ったんです。
糸井 あ、ぼくの年齢で
野球を好きな人なら知ってるんですけど、
中日の井出コーチですよね?
青柳 そうです。
同じ年に東大に入学したら、
彼は才能を見込まれて
野球部から声をかかってました。
・・・ぼくも声がかかるかと思ったら、
全然かからないんですよ。
糸井 (笑)青柳先生、野球をやっていたんですか。
青柳 ・・・やってた(笑)。
それで、誘われないから
ひねくれて、山岳部に入ったんです。
糸井 わはははは。ひねくれたんだ(笑)。
青柳 その井出さんが、10年か20年前に
中日の選手をやめる時に、
つくづくと言っていたんです。
それが、おもしろかった。

「自分は、筋力や瞬発力では、
 まわりの選手にも劣らないことはわかった。
 でも自分がプロ野球で成功できなったのは、
 ほかのヤツらが、野球エリートとして、
 小学校くらいから全国大会とか県大会とかの
 修羅場ばかりくぐってきたからなんだろうなあ」

井出さんには、幼少の頃からの
野球の修羅場の体験は、なかったですから。
糸井 (笑)修羅場。大事ですね。
青柳 それこそ、プロになる人はみんな、
小学校の頃から、
お山の大将でやってるわけでしょう。
しかもだいたいが、
ギリギリの決勝戦をむかえたりして(笑)。
糸井 10歳くらいから、
カツカツでしょうね(笑)。
小さいときから一国一城のあるじなんだ。
青柳 「その経験があまりにもなかったから
 自分は成功しなかったんだ」
というのを、井出さんは、つくづく言っていました。
本当かどうか知りませんが、なるほどと思いましたね。
糸井 うん。それ、リアリティーがありますよね。
「俺がやらなければだれがやる」
という経験を、
小学校のときからやっているかどうかは、
大きな差につながるでしょうから。
青柳 ですよねえ。
糸井 それはすごい経験ですよね。
・・・その意味ではやっぱりこう、
給料を必ずもらえる社会というのに対して
新しいデザインで対抗するといいかもしれない。
青柳 失敗したら給料を下げるんじゃなくて、
指を1本切るとか?(笑)
糸井 (笑)そりゃ、確かに
ギリギリのたたかいですけど・・・。
青柳 わはははは。
糸井 まあ、とにかくリスクがあっての勝負だから、
リスクのない仕事をいくらやっても、
人の器は、育たないですよね?
青柳 はい。そう思います。
糸井 これから、
「ポンペイに学べ」ということで、
何か、ものを学んだり
ものごとを見たり理解したりすることの
ヒントになるようなことを、
ナマの息づかいや雑談を交えながら、
お聞きしたいと思います。
主要なテーマは、おそらく、
「豊かさ」とか「美」とかに
なっていくでしょう。

・・・じゃあ、はじめていいでしょうか?
青柳 はい、どうぞ。


(つづきます)

2001-09-06-WED

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