社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。 シリーズ第9弾 「博多 一風堂」店主 河原成美×糸井重里  一風堂のラーメン進化論
 

第5回 俺んち作戦。
河原 野球型の人でも、
ひとつひとつのプレーで立ち止まる時間を
自分の間として持っている人は、
名人ですね。
糸井 自分の間。
河原 そう、自分の間になると、
なべを持つのも、
スープを器に入れるのも、
動きのひとつひとつがピシッピシッて、
決まるんですよ。
そのひとつひとつの動きがきれいだから、
お客さんも見るんですよね。
糸井 ああー、なるほど。
たしかに、野球型の名人には
見とれてしまいますね。
河原 あと、安心感がありますよね。
糸井 うん、安心してみてられます。
で、この逆をいくのが関西のオヤジ。
関西でお好み焼きがおいしいって
評判のところに行くと、
お客さんが心配になるほど、
店のオヤジがお好み焼きをほっとくんですよね。
河原 気が気じゃない(笑)。
糸井 オヤジに「これ大丈夫?」って聞いても、
「ああ、すまんな、ほっといて」って。
わざとディフェンスを空けてるんですよね。
で、もう焦げちゃってる部分と、
生っぽい部分のばらつきを必ず作りますよね。
河原 わざと隙をつくってますね。
糸井 あれはね、関西のおっさんたちの
「ディフェンスがら空き作戦」です(笑)。
河原 ははははは。
糸井 ラーメンには、ないですかね?
河原 ディフェンスがら空きラーメン、ですか(笑)。
糸井 はい(笑)
河原 そうですね‥‥。
横浜の「吉村家」さん
それに近いのかもしれません。
ただでみかんをくれるとか、
ゆで卵が1円とか、
行くと、何かそういうのがあるんです。
糸井 ただとか、1円。
河原 ラーメンももちろんおいしいんですよ、
大繁盛店、大行列店です。
ただ、オヤジの決まり事のように、
だいたい店に何かあるんです。
糸井 行くと、何かある。
それはちょっとわくわくしますね。
河原 うーん、でも、
ディフェンスがら空きってわけじゃないのかな。
糸井 そうですねぇ‥‥、
ただ、型にはまってないのはたしかですね。
河原 うん、型にはまってませんね。
型にはまった店の動きっていうのもあるけど、
大きい隙を作ってますよね。
人気のラーメンが食べたくて行列に並んで、
やっと店内に入たら、ゆで卵1円って書いてある。
「今日、ゆで卵1円なの?」
とか、お客さんがいうと、
「あるだけしかねぇから食ってけ」とか
いうんですよ。
なんか、ガクガクっとくるじゃないですか。
糸井 ガクガクっ(笑)。
河原 みかんはね、
「今日みかんが着いたから食っていいよ」とか、
「持って帰れ」とかオヤジにいわれるんですよ。
そしたらお客さんと、さらにふみ込んだ、
あるいは、ふみ込まれた一体感が‥‥。
糸井 激しい親しさが生まれますね。
河原 そう、そうなんです。
糸井 今の話で思い出したんですけど、
矢沢永吉さんって、ライブの舞台に
ガードマンを引き連れて上がってくるんですよ。
今はもう、やってないかもしれないですが。
お客さんは、待ちに待って、
「永ちゃん、永ちゃん」ってコールしてるときに
客席の方はぜんぜん見ないで、
ガードマンとしゃべりながらお尻向けて出てきて、
パンッと振り向いて歌い出す。
河原 前に永ちゃんのライブに行ったとき、
たしかに屈強な男たちを
6、7人連れて出てきましたね。
糸井 金髪の美女か
屈強なガードマンなんです(笑)。
河原 ははは(笑)。
糸井 ぼくは、あれで、
「俺んちにお前らが来た」って
感じになると思うんです。
河原 ああー!
糸井 みなさんようこそ、じゃなくて、
俺んちに来てるからくつろいでって。
1円のゆで卵も、同じですよね。
河原 そうだそうだ、一緒だ。
「俺んち作戦」ですね。
糸井 「何をやろうが、俺の勝手なんだ。」
河原 「何を言おうが、俺の勝手なんだ。」
糸井 ぼくは、
「一風堂」に同じものを感じていますよ。
少なくとも、新製品に関しては
「俺んち作戦」ですよね。
「あなたの口には合わないかもしれないけど、
 俺が作りたいのは、これなんだ」
って姿勢に見えるんです。
河原 あ、まさに俺、
そう思ってやってるんですもん。
糸井 やってます(笑)。
河原 「俺が作りたい」って。
糸井 俺んち作戦ですねー(笑)。
河原 あのですね、ちょっといやらしい話だけど、
店1軒だったら、
俺、もうぜーったいに繁盛させます。
店が複数になってくると、作り方を伝えるのが、
自分ではなくて、ほかの人になるから、
うまくいかなかったりするんですけど。
糸井 うん、うん。
河原 最初に糸井さんが
「味をはずさない」といってくれたの
すごくうれしかったんですけど、
俺、味は絶対にはずさないんです。
糸井 絶対に、はずさない。
河原 「俺の味」があるんですよ。
こっからここまでっていうラインが。
なので、いろんな商品を展開しても、
ラインがしっかりしてるから、味ははずしてない。
糸井 はぁーー。
河原 「商売」って言葉でいうといやらしいけども、
ようするに、
人様が「おいしい」っていって、
よろこんでもらうのが大好きなんですよ。
糸井 ぼくが以前「今日のダーリン」に
「一風堂」のことを書いたとき、
自分の失ってるものが、
ここにはあるなぁと思ったんです。
「まずやりたいことがあるんだからやる」
っていう姿勢が、ぼくの中では
ちょっと減ってるなと思ったんです。
河原 いやー、
そんなことないでしょう。
糸井 うーん、ある、ある方なんだけど、
やっぱりセーブしてるなと思ったんですよ。
だって、蕎麦をあのかたちで出すって‥‥
なかなかですよ。
河原 そうですかね(笑)。
糸井 もう、前書きから
「お前ら、いいから読め」って感じで(笑)。
で、そこに、
これはラーメン屋がつくった蕎麦だって、
書いてあるんです。
これね、この前書きを読んだ以上は、
思っていた蕎麦と違ってもしょうがないですよ。

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河原 あ、そうか。
これ、俺んち作戦だな(笑)。
糸井 そうそう、俺んちなんです。
ぼくもそうやって、
まずやりたいことをやってきたはずなんだけど、
あ、この人には負けたな、と思ったんです。
河原 いやいや、ありがとうございます。

(つづきます)
2012-05-07-MON
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