河原 |
野球型の人でも、
ひとつひとつのプレーで立ち止まる時間を
自分の間として持っている人は、
名人ですね。
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糸井 |
自分の間。
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河原 |
そう、自分の間になると、
なべを持つのも、
スープを器に入れるのも、
動きのひとつひとつがピシッピシッて、
決まるんですよ。
そのひとつひとつの動きがきれいだから、
お客さんも見るんですよね。
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糸井 |
ああー、なるほど。
たしかに、野球型の名人には
見とれてしまいますね。
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河原 |
あと、安心感がありますよね。
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糸井 |
うん、安心してみてられます。
で、この逆をいくのが関西のオヤジ。
関西でお好み焼きがおいしいって
評判のところに行くと、
お客さんが心配になるほど、
店のオヤジがお好み焼きをほっとくんですよね。
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河原 |
気が気じゃない(笑)。
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糸井 |
オヤジに「これ大丈夫?」って聞いても、
「ああ、すまんな、ほっといて」って。
わざとディフェンスを空けてるんですよね。
で、もう焦げちゃってる部分と、
生っぽい部分のばらつきを必ず作りますよね。
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河原 |
わざと隙をつくってますね。
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糸井 |
あれはね、関西のおっさんたちの
「ディフェンスがら空き作戦」です(笑)。
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河原 |
ははははは。
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糸井 |
ラーメンには、ないですかね?
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河原 |
ディフェンスがら空きラーメン、ですか(笑)。
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糸井 |
はい(笑)
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河原 |
そうですね‥‥。
横浜の「吉村家」さんが
それに近いのかもしれません。
ただでみかんをくれるとか、
ゆで卵が1円とか、
行くと、何かそういうのがあるんです。
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糸井 |
ただとか、1円。
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河原 |
ラーメンももちろんおいしいんですよ、
大繁盛店、大行列店です。
ただ、オヤジの決まり事のように、
だいたい店に何かあるんです。
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糸井 |
行くと、何かある。
それはちょっとわくわくしますね。
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河原 |
うーん、でも、
ディフェンスがら空きってわけじゃないのかな。
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糸井 |
そうですねぇ‥‥、
ただ、型にはまってないのはたしかですね。
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河原 |
うん、型にはまってませんね。
型にはまった店の動きっていうのもあるけど、
大きい隙を作ってますよね。
人気のラーメンが食べたくて行列に並んで、
やっと店内に入たら、ゆで卵1円って書いてある。
「今日、ゆで卵1円なの?」
とか、お客さんがいうと、
「あるだけしかねぇから食ってけ」とか
いうんですよ。
なんか、ガクガクっとくるじゃないですか。
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糸井 |
ガクガクっ(笑)。
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河原 |
みかんはね、
「今日みかんが着いたから食っていいよ」とか、
「持って帰れ」とかオヤジにいわれるんですよ。
そしたらお客さんと、さらにふみ込んだ、
あるいは、ふみ込まれた一体感が‥‥。
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糸井 |
激しい親しさが生まれますね。
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河原 |
そう、そうなんです。
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糸井 |
今の話で思い出したんですけど、
矢沢永吉さんって、ライブの舞台に
ガードマンを引き連れて上がってくるんですよ。
今はもう、やってないかもしれないですが。
お客さんは、待ちに待って、
「永ちゃん、永ちゃん」ってコールしてるときに
客席の方はぜんぜん見ないで、
ガードマンとしゃべりながらお尻向けて出てきて、
パンッと振り向いて歌い出す。
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河原 |
前に永ちゃんのライブに行ったとき、
たしかに屈強な男たちを
6、7人連れて出てきましたね。
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糸井 |
金髪の美女か
屈強なガードマンなんです(笑)。
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河原 |
ははは(笑)。
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糸井 |
ぼくは、あれで、
「俺んちにお前らが来た」って
感じになると思うんです。
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河原 |
ああー!
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糸井 |
みなさんようこそ、じゃなくて、
俺んちに来てるからくつろいでって。
1円のゆで卵も、同じですよね。
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河原 |
そうだそうだ、一緒だ。
「俺んち作戦」ですね。
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糸井 |
「何をやろうが、俺の勝手なんだ。」
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河原 |
「何を言おうが、俺の勝手なんだ。」
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糸井 |
ぼくは、
「一風堂」に同じものを感じていますよ。
少なくとも、新製品に関しては
「俺んち作戦」ですよね。
「あなたの口には合わないかもしれないけど、
俺が作りたいのは、これなんだ」
って姿勢に見えるんです。
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河原 |
あ、まさに俺、
そう思ってやってるんですもん。
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糸井 |
やってます(笑)。
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河原 |
「俺が作りたい」って。
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糸井 |
俺んち作戦ですねー(笑)。
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河原 |
あのですね、ちょっといやらしい話だけど、
店1軒だったら、
俺、もうぜーったいに繁盛させます。
店が複数になってくると、作り方を伝えるのが、
自分ではなくて、ほかの人になるから、
うまくいかなかったりするんですけど。
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糸井 |
うん、うん。
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河原 |
最初に糸井さんが
「味をはずさない」といってくれたの
すごくうれしかったんですけど、
俺、味は絶対にはずさないんです。
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糸井 |
絶対に、はずさない。
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河原 |
「俺の味」があるんですよ。
こっからここまでっていうラインが。
なので、いろんな商品を展開しても、
ラインがしっかりしてるから、味ははずしてない。
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糸井 |
はぁーー。
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河原 |
「商売」って言葉でいうといやらしいけども、
ようするに、
人様が「おいしい」っていって、
よろこんでもらうのが大好きなんですよ。
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糸井 |
ぼくが以前「今日のダーリン」に
「一風堂」のことを書いたとき、
自分の失ってるものが、
ここにはあるなぁと思ったんです。
「まずやりたいことがあるんだからやる」
っていう姿勢が、ぼくの中では
ちょっと減ってるなと思ったんです。
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河原 |
いやー、
そんなことないでしょう。
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糸井 |
うーん、ある、ある方なんだけど、
やっぱりセーブしてるなと思ったんですよ。
だって、蕎麦をあのかたちで出すって‥‥
なかなかですよ。
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河原 |
そうですかね(笑)。
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糸井 |
もう、前書きから
「お前ら、いいから読め」って感じで(笑)。
で、そこに、
これはラーメン屋がつくった蕎麦だって、
書いてあるんです。
これね、この前書きを読んだ以上は、
思っていた蕎麦と違ってもしょうがないですよ。
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河原 |
あ、そうか。
これ、俺んち作戦だな(笑)。 |
糸井 |
そうそう、俺んちなんです。
ぼくもそうやって、
まずやりたいことをやってきたはずなんだけど、
あ、この人には負けたな、と思ったんです。
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河原 |
いやいや、ありがとうございます。
(つづきます) |