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増田さんには、
まだお会いしていない時から、
ずいぶん
パクらせていただいているんです。
『情報楽園会社』
(増田宗昭著・徳間書店)
は「助かった」といいますか、
ぼくの後半生の仕事の
きっかけでもありますから。
もともとぼくは
ひとりの職人として動いてきました。
チームの仕事についても
よくわかっていなかったですし、
経営だとか会社だとかいうことにも
興味を持っていない人間です。
でもこの本には興奮してしまいました。
ベンチャー企業のおもしろさといいますか、
読んでいちばん強く感じたのは
「自分で考えた企画を、
自分の作った組織で実行する醍醐味」
でした。
この本の刊行っていつでしたっけ?
(本をめくる)
あぁ、九六年ですか。
ちょうど、ぼくが、
それまでの仕事人生のなかで
いちばんさぼっている時期ですね。
正直にいってそのころはもう
仕事がイヤになっちゃっていまして、
釣りばかりをやっていたころですけれども、
この本は、めんどくさがり屋の
ぼくとしては珍しく、
二度ぐらい読みなおしました。
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のちにぼくが
「ほぼ日刊イトイ新聞」
というものを作った時に
「新聞」という呼びかたにしたことは、
増田さんが
「レコードを扱おうが、
CDを扱おうが、ビデオを扱おうが、
どれも情報を商品にしているのだから、
お客さんから見たら書店だ」
ということでやられた
「蔦屋書店」という名前からなんです。
それから『情報楽園会社』で書かれている
増田さんの
「企画」や「編集」についての考えも、
ぼくはいちいちひとつずつ、
「こういうことをちゃんと本にしてくれて、
ありがたいことだよなぁ」
と思って読んでいました。 |
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ほんとうですか?
ありがとうございます。
けっこう本質的なことを言っていると
自分でも思うのですが、
この本はどうやら、ふつうの人には
あんまり評価がよくないんです。
もちろん、売れなかったですし……。
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そうなんですか?
野心的な若者が
おおぜい読んだんだろうと
思ったのですが。 |
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はい。
本質的な話って、
すごく単純なんです。
単純で、
いつも使う言葉で語られるのが
「本質」ですから、
話の核をききながしてしまう人には、
内容は伝わりません。
たとえば、ぼくはいま
「余っている」
ということに注目しています。
これも本質的なことですよね。 |
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はい。
ぼくもこのところずっと
「情報のローカロリー」
について考えています。 |
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だけど、これも、
きいても意味がわからない人なら、
わからないままで
とおりすぎてしまうような話ですよね。
「余ってる」なんて、
あまりにも単純なことでしょうから。
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この『情報楽園会社』の
うしろのほうには、当時、
増田さんが出資者のひとりとして
本格的にたずさわりはじめた
ディレクTV
(北米、中米、南米を
放送エリアとする
有料衛星放送サービス)の
日本事業の展開の話が大半で、
なんだか、まるで増田さん自身が
火の玉になって
事業につっこんでいるままでの語りで……
増田さん本人の熱さや驚きが
伝わってくるから、
ぼくは、そのことも含めて、
この本が大好きなんです。
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あぁ、ディレクTVの失敗
(ディレクTV社は
日本における事業は撤退した)
は、もうぜひ、きいてください。
あれこそが、ぼくの今を
かたちづくっているものですから。
やっぱりいちばん大事なのは失敗の経験で、
これは経験しないとわかりません。
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おもしろそうだなぁ。
あとでじっくりきかせてください……
いまはまず最初に、
増田さんの特徴をうかがいますね。
増田さんは、ご自分では
どんな社長だと思いますか?
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ぼくの才能は、
相手の目線で自分を見ることが
できることです。
すてきな女性がいたら、その女性が
ぼくを見ている感じがつかめるから
どのタイミングで
何をいえばいいかがわかるし、
あるいはものすごい経営者の人がいても
その人が目の前にいるぼくを
どう見ているのかがわかります。
社員と話しても
その人の目には
なにが見えていて
なにがきこえていて
なにが心地よくて
なにが不安なのかがよく見えます。
店を作る時はかならず
現場にいって歩くんですが、
その時はお客さんの気持ちに
ワープするわけです。
ここにはこんな照明があったほうが
かっこいいとか、
ここにはこういうテーブルがほしいとか、
他の経営者とぼくとの
いちばんのちがいはその
「相手の気持ちに入っていく能力」
だと思います。
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人が感動していたらうつるというのは、
宗教家としての
最大の資質だといわれるんですよね。
自分もそういうところがあるから
わかりますが、
不機嫌な人に会うというのは
ほんとうにもう
それだけでイヤじゃないですか?
その不機嫌さが自分にもうつるから。
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(笑)そうです!
ぼくもそうですし、
経営者にとっての最大のストレスは、
やっぱり社員と気持ちが通じない、
ってことじゃないかなぁ。
社員の退職とかは
いちばんイヤな話ですもん。
だからぼくにとって
人を採用するときの基本は、
「裏切らない人、ダマさない人」
なんです。
うちは企画を生む会社です。
企画を生みだす源は情報です。
インプットがないと
アウトプットがないですから。
そうすると情報は
企画を作るチーム全体で
共有しなければいけません。
ぼくの持つ情報も
共有してゆくわけですから、
信頼関係がなかったらなりたちません。
「あいつに渡すのはちょっと不安だから
この情報は出さない」となると
情報の階層ができてしまって、
内部の企画力が
ぜんぜん育たなくなりますからね。
だから一緒に働く人の大前提は
「情報共有をしてもだいじょうぶな人」
なんです。
「信頼できる人なら
横にいて話をきいていたらいいじゃない。
ただし、なにをするかは
あなたが考えなさいよ」と。
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増田さんご本人が
企画を生みだすプロセスというのは、
どういうものですか?
たとえば「蔦屋書店」に
しようと思ったきっかけとか……。
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単純です。
お客さんの気分にワープすれば
「マルチメディア」という看板は
わからんわなと思うじゃないですか。
「レンタル」と書いてあったら
アダルトに見えるよなと。
どうしたらお客さんの自分は
そこに足を入れるだろうかと考えると、
当時のぼくには
紀伊國屋書店さんとか
旭屋書店さんとかいうのって、
かっこよくって信頼感があって、
そこに入って出てくることで
賢くなれたり
偉くなれるような気がしたんです。
プランニングをする時は
ぜんぶそういう気分で考えるんです。
会社を作る時は、社員が出社する時に
道を歩いている気分になるんです。
オフィスを決める時も、
どんな環境で仕事をしたいか、
こんなところはイヤで
こんなところを歩きたいよなぁ、
という絵が
ブワーッと見えてくるんです。
「蔦屋書店」と考えた時点で、
どういう床材か、どういう器具か、
ぜんぶビジュアルで
イメージがわいてくるんです……
そして、これが、
ぼくの企画のすべてなんです。
この便箋。
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「出していい企業秘密」を
どんどん出してくださる!(笑)
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企画はちっちゃく生んで
おおきく育てるものだから、
とにかく書くところから
はじまっています。
だから便箋とペンで
情報を作ることが企画の原点ですし、
十何年前の時点で
どこの部屋にもぜんぶ
ホワイトボードがありましたし、
情報の管理は徹底しました。
会議の後の
みんなの感想文やレポートは
ぜんぶ残しましたし、
日々いろいろな人に会った感想も、
ぼくはビデオにしゃべって
ふきこんで保存しています。
携帯電話がこんなにおおきい時から
みんなに持たせましたし、
企画会社のものの考えかたを
社員に伝える冊子も作りました。
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そういう方針を
いちばん思いつくのは、
だいたいいつの時間帯ですか?
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極端な話、講演しながらでも
アイデアが湧くでしょう?
そうすると
講演しながらメモをとるんです。
しゃべりながら……
あるいは運転しながら、
ハンドルの前でメモを書くんです。
アイデアの特徴は
浮かんだらすぐに消えることです。
だからもうぼくの家の枕元には
たくさんメモ帳がおいてあって、
それもぜんぶフォーマット化されているんです。
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(笑)おもしろいですね。
「枕元のメモ帳が
フォーマット化されている」って。 |
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(社員の人に)今日渡したメモ、ある?
あぁ、これです。
今朝起きた時にメモしたもので……。
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それぞれのメモには
2穴が打ってあって
ファイリングできる。
すべてにかならず日付を打つんです。
どんどんメモが出てくるから、
整理しやすくするためにね。 |
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すごいわ。
日付を打つっていうのは、
そのためのスタンプも
持ってるっていうことですか? |
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秘書に渡すんです。
この2穴のメモが
そこらじゅうにおいてあるんですね。
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それ、
マネしようかなぁとさえ思います……
こんな実用的な話に展開するとは!
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