本の勉強。
『Say Hello!』をツールに出版を学ぼう。

☆はじめに☆

『Say Hello! あのこによろしく。』
についての話を聞きに、
ライターの永江朗さんが明るいビルにいらしたのは
ことしの1月のこと。
短い時間でしたが、糸井重里とかわした会話のなかから、
つくったぼくらも気づいていなかったことが、
たくさん、あることを知りました。
これまでに4冊の本を「自社出版」している
東京糸井重里事務所は、つまり、
ちいさな出版社だと言うことができるんですけど、
一般的な出版社とちがうところがいくつかあるらしい。
たとえば、出版界の「問屋さん」の役割をはたしてくれる
「取次」(とりつぎ)というシステムをつかわずに
書店さんと直接取引をしていることとか、
編集と営業、みたいな、仕事の明確な分担がなくって
(それは少人数だからしかたないっていう
 理由もあるんですが)
とにかく全員で一所懸命考えて、
ひとつひとつ智慧を絞って、
つくって、宣伝して、売っていることとか。
そういう方法って、いまの日本の出版業界で、
「あんまり、ない」ことだというのです。
それで、出版業界(硬い言い方ですけど)で
活躍している3人に集まっていただいて、
ちょうど手近にあった『Say Hello!』を真ん中において、
糸井重里が、聞きました。
うちのやりかたって、どうなのかな?
『Say Hello!』を、どう思いますか?
「本」ってこれから、どうなっていくんだろう?
そんな、座談会です。


■第1回■
  写真にしておかないと、
忘れてしまうことがあるんだ。
そして、思い出は力になる。

横里 ぼくは、『Say Hello!』を読んでいて、
すごく何かに似てるなと思ったんです。
これ、持ってきたんですけど、
荒木経惟さんの
『センチメンタルな旅 冬の旅』に、
すごく似てるなと思ったんですよ。
糸井 あー、はいはいはい!!
横里 写真的な意味も、もちろんあるんでしょうけど、
構成として、似ているなと思ったんです。
陽子さんと出会って、愛が始まる。
日常の、楽しい一時、猫と戯れる一時とかが
描かれていて。
で、そのあと悲しい別れがあって‥‥
っていう構成がすごい似てるなと思ったんですね。
この構成は、イワサキユキオさんは
もちろん意図してないんですけど、
この名作と、すごくシンクロしてて。
『センチメンタルな旅』は
再会がなくて、悲しいまま終わって、
もう、泣いちゃうだけなんですけど、
『Say Hello!』は再会が入るじゃないですか。
糸井 出会いと別れのものがたり、なんですよ。
再会は、「救い」みたいにしたかったんです。
本をつくろうと決めたときから、
最後を再会編にしようと思ってました。
ほんとに会わせたかったんですよ、
犬たちの誕生日に。
もともと、1歳の誕生日は
みんなで会おうねっていうような
心積もりがイワサキさんにあって。
実現、ぜんぜんできることなんで、
じゃあ、っていって、そのときに‥‥。
あ、あと、本の構成の打合せの中で、
ぼくが、妙なセリフなんだけど、
「その後、彼は弁護士になって」
っていうの、やりたいなって言ったんだ。
「アメリカングラフィティ」や
「スタンド・バイ・ミー」のような。
柳瀬 いいアメリカ映画のエンドロール。
糸井 「なんとかくんは、妻を殺して服役してる」
とかね。そういうのを、見せてみたいなと思って、
時間の中にこう、
それぞれの人の思いを入れてみたり。
犬って成長が早いんで、
10年後に弁護士になるっていうよりは、
1年経ったときに、
もうちがう人みたいなんですよ(笑)。
そうすると、ものすごい縮尺というか。
人間の10年のものがたりを、
一年で撮れちゃうわけですよね。
横里 お母さんと区別がつかなくなってますよね(笑)。
柳瀬 ひょっとするともう、
次の子どもが産まれたりしてますよね。
糸井 永江さんがこうやってパラパラやると、
犬の成長のパラパラマンガが
できるって言ったね(笑)。
永江 そう、どんどん立ち上がる。
ぐんぐん育つ。
時間の伸び縮みはやっぱり、
本ならできるっていうのは、
これで発見した感じがしましたよね。
めくるスピードを変えることで、
読者の都合に合わせて、
伸ばしたり縮んだりしているのはね。
糸井 読者がすごく犬の成長の時間に
関われるっていうことですよね。
柳瀬 そうですね、確かに。
糸井 そうか。ウエブだと、
それをやれなかったですね。
つまり、1日1枚から数枚の画像を見せたから、
「今日配るぶんをお食べください」ですよね。
永江 リニアな(ひとつながりの)時間に、
支配されちゃいますよね。
ということは、すごく
写真の本質ではあると思います。
荒木経惟さんが
「なんで写真撮るの?」って訊かれると、
「写真に撮っとかないと
 忘れてしまうこともあるから」
っていう言い方をするんです。
糸井 あ‥‥
柳瀬 ああ‥‥
(一同、ジワジワとやられる)
横里 いいですよね。なんかね、最近思うんですけど、
やっぱ「別れ」だと思うんですね、
『Say Hello!』のテーマ。
「出会いと別れ」って
糸井さんはおっしゃったけど、
ぼくは「別れ」だと思っていて。
だから『センチメンタルな旅』と、
この旅の別れともシンクロするんですけど。
‥‥ぼくはもう、
「思い出にすがって生きてけばいいや」
と思うことが、多くて(笑)。
糸井 おおお〜!(笑)おお!
横里 いろいろ過去のことを
思い出す機会があって、考えたんです。
思い出が力になるし、エネルギーになると。
『Say Hello!』を読んだときに、
あ、かわいい本だなっていうふうに
思うかもしれないですけど、
なんかこう、思い出ぎっしりっていうか、
このイワサキさんが、
思い出をすごい大事にパッケージした、
っていう感じがして。
3ヶ月後に別れるっていうのはわかってる。
そこから溢れでてくるものが、すごい良くて。
ああ、もう、思い出大事にしよう、
みたいな(笑)、そんな感じを受けましたね。
糸井 で、その、見ているときによって、
またその、ちがうことを考えてたんでしょう?
横里 そうですね、そうですね。
糸井 そのあたりがぼく、自分でも不思議なんですよね。
今日見てるのと、1年前に見てるのと、
ぜんぜんちがうんですよね。
で、その理由は、ひとつは、
人を写さなかったことですよね。
横里 あー、なるほど。
糸井 つまり、舞台で、
男と女が恋愛をしていますって劇を
作ってるんじゃなくって、
映像的に一人称。
「ワタシは」っていうのを、
カメラ目線で撮っている。
横里 なるほど。あ〜、なるほど‥‥。
糸井 けっこうね、普遍化できる理由って、
無意識だからだと思うんだよ、仕掛けが。
横里 そうですね。

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2005-04-04-MON


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