横里 |
ぼくは、『Say Hello!』を読んでいて、
すごく何かに似てるなと思ったんです。
これ、持ってきたんですけど、
荒木経惟さんの
『センチメンタルな旅 冬の旅』に、
すごく似てるなと思ったんですよ。 |
糸井 |
あー、はいはいはい!! |
横里 |
写真的な意味も、もちろんあるんでしょうけど、
構成として、似ているなと思ったんです。
陽子さんと出会って、愛が始まる。
日常の、楽しい一時、猫と戯れる一時とかが
描かれていて。
で、そのあと悲しい別れがあって‥‥
っていう構成がすごい似てるなと思ったんですね。
この構成は、イワサキユキオさんは
もちろん意図してないんですけど、
この名作と、すごくシンクロしてて。
『センチメンタルな旅』は
再会がなくて、悲しいまま終わって、
もう、泣いちゃうだけなんですけど、
『Say Hello!』は再会が入るじゃないですか。 |
糸井 |
出会いと別れのものがたり、なんですよ。
再会は、「救い」みたいにしたかったんです。
本をつくろうと決めたときから、
最後を再会編にしようと思ってました。
ほんとに会わせたかったんですよ、
犬たちの誕生日に。
もともと、1歳の誕生日は
みんなで会おうねっていうような
心積もりがイワサキさんにあって。
実現、ぜんぜんできることなんで、
じゃあ、っていって、そのときに‥‥。
あ、あと、本の構成の打合せの中で、
ぼくが、妙なセリフなんだけど、
「その後、彼は弁護士になって」
っていうの、やりたいなって言ったんだ。
「アメリカングラフィティ」や
「スタンド・バイ・ミー」のような。 |
柳瀬 |
いいアメリカ映画のエンドロール。 |
糸井 |
「なんとかくんは、妻を殺して服役してる」
とかね。そういうのを、見せてみたいなと思って、
時間の中にこう、
それぞれの人の思いを入れてみたり。
犬って成長が早いんで、
10年後に弁護士になるっていうよりは、
1年経ったときに、
もうちがう人みたいなんですよ(笑)。
そうすると、ものすごい縮尺というか。
人間の10年のものがたりを、
一年で撮れちゃうわけですよね。 |
横里 |
お母さんと区別がつかなくなってますよね(笑)。 |
柳瀬 |
ひょっとするともう、
次の子どもが産まれたりしてますよね。 |
糸井 |
永江さんがこうやってパラパラやると、
犬の成長のパラパラマンガが
できるって言ったね(笑)。 |
永江 |
そう、どんどん立ち上がる。
ぐんぐん育つ。
時間の伸び縮みはやっぱり、
本ならできるっていうのは、
これで発見した感じがしましたよね。
めくるスピードを変えることで、
読者の都合に合わせて、
伸ばしたり縮んだりしているのはね。 |
糸井 |
読者がすごく犬の成長の時間に
関われるっていうことですよね。 |
柳瀬 |
そうですね、確かに。 |
糸井 |
そうか。ウエブだと、
それをやれなかったですね。
つまり、1日1枚から数枚の画像を見せたから、
「今日配るぶんをお食べください」ですよね。 |
永江 |
リニアな(ひとつながりの)時間に、
支配されちゃいますよね。
ということは、すごく
写真の本質ではあると思います。
荒木経惟さんが
「なんで写真撮るの?」って訊かれると、
「写真に撮っとかないと
忘れてしまうこともあるから」
っていう言い方をするんです。 |
糸井 |
あ‥‥ |
柳瀬 |
ああ‥‥
(一同、ジワジワとやられる) |
横里 |
いいですよね。なんかね、最近思うんですけど、
やっぱ「別れ」だと思うんですね、
『Say Hello!』のテーマ。
「出会いと別れ」って
糸井さんはおっしゃったけど、
ぼくは「別れ」だと思っていて。
だから『センチメンタルな旅』と、
この旅の別れともシンクロするんですけど。
‥‥ぼくはもう、
「思い出にすがって生きてけばいいや」
と思うことが、多くて(笑)。 |
糸井 |
おおお〜!(笑)おお! |
横里 |
いろいろ過去のことを
思い出す機会があって、考えたんです。
思い出が力になるし、エネルギーになると。
『Say Hello!』を読んだときに、
あ、かわいい本だなっていうふうに
思うかもしれないですけど、
なんかこう、思い出ぎっしりっていうか、
このイワサキさんが、
思い出をすごい大事にパッケージした、
っていう感じがして。
3ヶ月後に別れるっていうのはわかってる。
そこから溢れでてくるものが、すごい良くて。
ああ、もう、思い出大事にしよう、
みたいな(笑)、そんな感じを受けましたね。 |
糸井 |
で、その、見ているときによって、
またその、ちがうことを考えてたんでしょう? |
横里 |
そうですね、そうですね。 |
糸井 |
そのあたりがぼく、自分でも不思議なんですよね。
今日見てるのと、1年前に見てるのと、
ぜんぜんちがうんですよね。
で、その理由は、ひとつは、
人を写さなかったことですよね。 |
横里 |
あー、なるほど。 |
糸井 |
つまり、舞台で、
男と女が恋愛をしていますって劇を
作ってるんじゃなくって、
映像的に一人称。
「ワタシは」っていうのを、
カメラ目線で撮っている。 |
横里 |
なるほど。あ〜、なるほど‥‥。 |
糸井 |
けっこうね、普遍化できる理由って、
無意識だからだと思うんだよ、仕掛けが。 |
横里 |
そうですね。 |