糸井 |
『Say Hello!』と、写真について、
話をもどしてもいいかな?
こう考え直すっていうのはどうだろう。
いい写真かどうかじゃなくて、
あるべき写真か?(笑)
つまり、あったほうがいい写真か、
なくてもいい写真かっていうふうに
分けたらどうだろう?
そう考えると、
ぼく自身は
「あったほうがいい写真」を
撮ることが、できていないんですよ。 |
永江 |
いいものを見れば、目が肥えるとか、
上手くなるとか、よく言うじゃないですか。
ぼくの机の上にはいつも、
石元泰博が撮った桂離宮の、
磯崎新序文のものが
ポコンって置いてあって(笑)、
時々こう見るんだけど。
いくら見たって上手くなりゃしねぇ!
っていうの(笑)。 |
柳瀬 |
ぼく、その感じは、
すごくよくわかるんですよ(笑)。
写真として世界を切り取るっていうのは、
プロの人はやっぱり、
上手いんですよ。うん。 |
糸井 |
どっかの頭の片隅で、
おれたちはそんなものは撮らないで、
「憶えとけ」って。
どっかで思ってんじゃないかと思うんですよね。
仲畑貴志くんが、
『Say Hello!』をすごく
褒めてくれるんだけれど、
やっぱり写真を撮らない人なの。 |
横里 |
あー、なるほど。 |
糸井 |
仲畑くんとおれと、
他のメンバーいっぱいと旅行したときに、
写真を撮るために
列から遅れてくるやつとか
いるんだよ(笑)。
おれと仲畑は、ものすごい怒ってたもん。
また、あいつかぁ! で、アダナがそいつ、
「三脚」とかだったの(笑)。 |
柳瀬 |
かわいそう!(笑) |
糸井 |
この、みんなが楽しんでる旅の中でね、
なんだ? その三脚は、みたいな。
横里編集長はさ、
デジカメを楽しめるんだよね? |
横里 |
はい。たくさん撮って
パソコンに入れると、
ウワーッと並ぶじゃないですか。
それこそパラパラマンガじゃないですけど、
バーッと並ぶのを見てると、
とってもこう、
‥‥切なぁい気持ちになるんですよ。
ちょっと恥ずかしい話なんですけど。
あの、かみさんを撮るんですよ。
ちょっとドライブとかに行って、
撮ったりとかするんですけど。
ま、ちょっと、そんな、
ちょっと照れたりなんかしてるの、
もういいよぉ、とか言ってるのを
無理矢理撮るんですよ。
なんですけど、そうすると、
こう、大事にしようと思うんです、
写真を見ると(笑)。
いや、ほんっと、思うんですよ! |
全員 |
ほーお‥‥ |
糸井 |
‥‥いや、ね? この人ね、
ぼくらの脳みその中で、
そこの部分についてよく見てなかったところを、
ジーッと見てる人なんだよね。 |
柳瀬 |
はははははは! すごいなぁ。 |
糸井 |
ただ、ただ、『Say Hello!』も、
そういう人じゃなかったら
作れなかったんですよ。
で、おれは、さんざんそれを褒めたり、
教授したりする立場ではある。
でも、自分は絶対やらない(笑)。
撮っといてくれた人がいたから、
いいよなぁ、って言ってるわけで。
で、そういうもの(愛情)がないと、
これは成り立たなかったわけでしょう?(笑) |
柳瀬 |
養老孟司さんも、じつは
写真をぜんぜん撮らない人なんですね。
一緒にキャメロンハイランドに行って、
虫を採ってきたときに、
ぼくが写真を撮ったんです。
「養老さんって写真撮らないですよね」
って訊いたら、
「いや、写真とかさ、撮ると、
そこしか写らないじゃん」って。
虫採ってるこの雰囲気っていうのはね、
ぜんぶね、こう、採ったときの感じで
憶えることなんですよ、
写真ないほうがいい、って
養老孟司さんが言うんですよ。 |
糸井 |
うーん。理屈を言えば、
おれもそのタイプさ。 |
柳瀬 |
ええ、なんだか、
それと似てるような感じがしてて。
長年虫採りしてると、
ここには虫がいそうだ、とか、
ここにはいないな、っていうのが
瞬間的にわかってくるんです。
それは、景色だとか湿度とか、
気温とか、いろんな情報なんだけど、
写真にしてしまうと、
情報って、ほんとにひとつだ、
──というような話をされて。
養老さんにとっての写真は、
採った虫そのものなんですね。 |
横里 |
そうですよね。 |
柳瀬 |
それが軸となって、
それを採ったシチュエーションから、
たぶんいろんな記憶がバーッと
よみがえるんでしょう。 |
糸井 |
虫採りの人って、
虫そのものを、保存するわけ? |
柳瀬 |
そうなんですよ。
標本にするわけですよ。 |
糸井 |
現物が記録なんだ。 |
横里 |
それはわかりますよね。でも、糸井さん、
たしか、何にもないんですよね。
若い頃の写真から、資料から。 |
糸井 |
ぼくはね、そういうのから、
遠ざかろう遠ざかろうと
しているんでしょうね。
だから、作品集だとか作るのも
大変でしょうし、
周りの人たちが
やってくれてること以上には、
絶対に何にもないですね。
でもさ‥‥、
坂本龍馬も近藤勇も土方歳三も
写真とかさ、あって良かったよね? |
柳瀬 |
‥‥ですよね? |
糸井 |
あれ1枚あったかないかでさ‥‥、
沖田総司は顔がないんだからね。 |
柳瀬 |
そうですよね、わかんない。
でも、その気持ちと、写真を残さないという
糸井さんの考えって矛盾しません? |
糸井 |
‥‥なんだろう、おれ?
自分がなんか、
今ちょっと不安になっちゃった(笑)。 |
永江 |
(笑)『Say Hello!』って、こういうふうに、
関係ないことをいろいろ
しゃべりたくなる本ですよね(笑)。 |
糸井 |
それはそうだ。そう!
読者もみんなそうなんです。
この本1冊、目の前に置いといたら、
いっくらでもしゃべれるね。 |
永江 |
こないだ「ダ・ヴィンチ」の取材で
糸井さんに『Say Hello!』のことを伺ったときも、
うちの隣に老いた犬がいてね、
ペペといいまして、って、
去年の5月28日に死んじゃったんですよ、
って話をまずしてからじゃないと
ぼくのほうが本題に入れなかった(笑)。
それがこの本の不思議な効果ですよね。
きっと、あらゆる家庭で、
『Say Hello!』がある場所で、
そういう現象が起きてるんですよ(笑)。
みんな自分の、大事だったものの話とか、
なんか、いろいろしてるんでしょうね。 |
糸井 |
「お母さんに久しぶりに電話しました」
的なメールを、いただくんです。
おれ、その気持ちはぜんぶわかるんですよ。
で、それもこれも、
イワサキさんが、犬がかわいいと思って
写真に撮っといてくれたおかげなんですよね。 |
柳瀬 |
そうですよね、そう。これ読んだあと、
ぼくの知り合いの編集者の方が、
娘がかわいくてしょうがなくなったと(笑)。
幼稚園から帰ってくるとね、
帰ってきた‥‥っていう話を。
普段そういうことをおっしゃる
タイプの方じゃないんですが(笑)。 |
横里 |
あははははははははは。 |
糸井 |
いや、わかるよ(笑)。 |
柳瀬 |
そういうことをね、
ウルウルしながら言うんですよ、
オッサンが(笑)。うん。 |
糸井 |
こうして話していて、
内容そのものに、
絶対触れられないかっていうとね、
おれ、思えば触れたことは何回かあるんです。
つまり、
「生きていけるに決まってる」
っていう、この仔犬たちのあり方が、
すっごい気持ちがいいんですよ。 |
柳瀬 |
うん、うん。 |
糸井 |
つまり、これからの時代は
どうやって生きていくか、とかさ(笑)、
こうなったらどうするの? とかね、
年金がどうだとか、
こうやって裏道マップがあって、
会社を辞めるなら31日です、
っていうようなことばっかり、
それを憶えてるだけで日が暮れるんだよね、
っていうときに、この仔犬たちを見てると、
もう上に乗っかったり下に乗っかって、
ムギュウっていってればいいし、
噛みつかれたら噛みつき返せばいいし、
‥‥なんていうの、
生きることに
「策略」がないじゃないですか(笑)。 |
柳瀬 |
ない。まさにそれでスクスク
育ってるんですよね(笑)。 |
糸井 |
そうそうそうそう(笑)。
で、無邪気に育ったわけですよ。
で、こんなに大きくなって、
また会いました(笑)。
いいんじゃん、これで、って。 |
柳瀬 |
うん、いいんじゃん、これで。 |
糸井 |
これが気持ちがいいんです。
子どもの寝顔なんかもそうなんですけどね。
今日も明日も、もうそのとおり、みたいな。
これが『Say Hello!』の内容について、
ぼくのした話ですね。
それを本っていうかたちで出して、
配ること、その気持ちはね、自分の持ってる、
年金がどうのこうのみたいなことに対する、
ちょっとした心の揺れ?(笑) |
柳瀬 |
ははははは! |
糸井 |
なんかよくわかってないんだけどさ。
その、会社をやってくにはね、
こういう戦略があってとかさ、
あるじゃないですか。
で、そのほうが、なぜいいんだっけ?
みたいなところを
思い出させてくれるんですよね。 |
横里 |
あ〜。 |
柳瀬 |
うんうんうんうん。根っこですもんね。 |
糸井 |
これはね、おれにとって
『北の国から』だから。
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