本の勉強。
『Say Hello!』をツールに出版を学ぼう。
どうやら「ほぼ日」の本のつくりかた、売り方は、
ほかとちょっと違うらしいのです。
たしかに(出版業界での)常識とはちがうことを
やってるのかもしれないけれど、
ぼくらは、そんなに妙なこととは、思っていないのですよ。
だから思い切って「出版のプロ」たちに
聞いてみることにしました。
『Say Hello! あのこによろしく。』を軸にして、
いま「本」をつくるってどういうことなのか。
そして、「本」というメディアの未来についてを。
(全9回更新でお届けします!)

永江 朗
フリーライター
近刊に『メディア異人列伝
―1993→2004』など。


横里 隆
「ダ・ヴィンチ」編集長


糸井重里

柳瀬博一
日経BP社・書籍編集者



■最終回■
  愛情が成り立たせるものって
なんだろう?
養老孟司さんと写真、そして
「生きていけること」への確信!

糸井 『Say Hello!』と、写真について、
話をもどしてもいいかな?
こう考え直すっていうのはどうだろう。
いい写真かどうかじゃなくて、
あるべき写真か?(笑)
つまり、あったほうがいい写真か、
なくてもいい写真かっていうふうに
分けたらどうだろう?
そう考えると、
ぼく自身は
「あったほうがいい写真」を
撮ることが、できていないんですよ。
永江 いいものを見れば、目が肥えるとか、
上手くなるとか、よく言うじゃないですか。
ぼくの机の上にはいつも、
石元泰博が撮った桂離宮の、
磯崎新序文のものが
ポコンって置いてあって(笑)、
時々こう見るんだけど。
いくら見たって上手くなりゃしねぇ!
っていうの(笑)。
柳瀬 ぼく、その感じは、
すごくよくわかるんですよ(笑)。
写真として世界を切り取るっていうのは、
プロの人はやっぱり、
上手いんですよ。うん。
糸井 どっかの頭の片隅で、
おれたちはそんなものは撮らないで、
「憶えとけ」って。
どっかで思ってんじゃないかと思うんですよね。
仲畑貴志くんが、
『Say Hello!』をすごく
褒めてくれるんだけれど、
やっぱり写真を撮らない人なの。
横里 あー、なるほど。
糸井 仲畑くんとおれと、
他のメンバーいっぱいと旅行したときに、
写真を撮るために
列から遅れてくるやつとか
いるんだよ(笑)。
おれと仲畑は、ものすごい怒ってたもん。
また、あいつかぁ! で、アダナがそいつ、
「三脚」とかだったの(笑)。
柳瀬 かわいそう!(笑)
糸井 この、みんなが楽しんでる旅の中でね、
なんだ? その三脚は、みたいな。
横里編集長はさ、
デジカメを楽しめるんだよね?
横里 はい。たくさん撮って
パソコンに入れると、
ウワーッと並ぶじゃないですか。
それこそパラパラマンガじゃないですけど、
バーッと並ぶのを見てると、
とってもこう、
‥‥切なぁい気持ちになるんですよ。
ちょっと恥ずかしい話なんですけど。
あの、かみさんを撮るんですよ。
ちょっとドライブとかに行って、
撮ったりとかするんですけど。
ま、ちょっと、そんな、
ちょっと照れたりなんかしてるの、
もういいよぉ、とか言ってるのを
無理矢理撮るんですよ。
なんですけど、そうすると、
こう、大事にしようと思うんです、
写真を見ると(笑)。
いや、ほんっと、思うんですよ!
全員 ほーお‥‥
糸井 ‥‥いや、ね? この人ね、
ぼくらの脳みその中で、
そこの部分についてよく見てなかったところを、
ジーッと見てる人なんだよね。
柳瀬 はははははは! すごいなぁ。
糸井 ただ、ただ、『Say Hello!』も、
そういう人じゃなかったら
作れなかったんですよ。
で、おれは、さんざんそれを褒めたり、
教授したりする立場ではある。
でも、自分は絶対やらない(笑)。
撮っといてくれた人がいたから、
いいよなぁ、って言ってるわけで。
で、そういうもの(愛情)がないと、
これは成り立たなかったわけでしょう?(笑)
柳瀬 養老孟司さんも、じつは
写真をぜんぜん撮らない人なんですね。
一緒にキャメロンハイランドに行って、
虫を採ってきたときに、
ぼくが写真を撮ったんです。
「養老さんって写真撮らないですよね」
って訊いたら、
「いや、写真とかさ、撮ると、
 そこしか写らないじゃん」って。
虫採ってるこの雰囲気っていうのはね、
ぜんぶね、こう、採ったときの感じで
憶えることなんですよ、
写真ないほうがいい、って
養老孟司さんが言うんですよ。
糸井 うーん。理屈を言えば、
おれもそのタイプさ。
柳瀬 ええ、なんだか、
それと似てるような感じがしてて。
長年虫採りしてると、
ここには虫がいそうだ、とか、
ここにはいないな、っていうのが
瞬間的にわかってくるんです。
それは、景色だとか湿度とか、
気温とか、いろんな情報なんだけど、
写真にしてしまうと、
情報って、ほんとにひとつだ、
──というような話をされて。
養老さんにとっての写真は、
採った虫そのものなんですね。
横里 そうですよね。
柳瀬 それが軸となって、
それを採ったシチュエーションから、
たぶんいろんな記憶がバーッと
よみがえるんでしょう。
糸井 虫採りの人って、
虫そのものを、保存するわけ?
柳瀬 そうなんですよ。
標本にするわけですよ。
糸井 現物が記録なんだ。
横里 それはわかりますよね。でも、糸井さん、
たしか、何にもないんですよね。
若い頃の写真から、資料から。
糸井 ぼくはね、そういうのから、
遠ざかろう遠ざかろうと
しているんでしょうね。
だから、作品集だとか作るのも
大変でしょうし、
周りの人たちが
やってくれてること以上には、
絶対に何にもないですね。
でもさ‥‥、
坂本龍馬も近藤勇も土方歳三も
写真とかさ、あって良かったよね?
柳瀬 ‥‥ですよね?
糸井 あれ1枚あったかないかでさ‥‥、
沖田総司は顔がないんだからね。
柳瀬 そうですよね、わかんない。
でも、その気持ちと、写真を残さないという
糸井さんの考えって矛盾しません?
糸井 ‥‥なんだろう、おれ?
自分がなんか、
今ちょっと不安になっちゃった(笑)。
永江 (笑)『Say Hello!』って、こういうふうに、
関係ないことをいろいろ
しゃべりたくなる本ですよね(笑)。
糸井 それはそうだ。そう!
読者もみんなそうなんです。
この本1冊、目の前に置いといたら、
いっくらでもしゃべれるね。
永江 こないだ「ダ・ヴィンチ」の取材で
糸井さんに『Say Hello!』のことを伺ったときも、
うちの隣に老いた犬がいてね、
ペペといいまして、って、
去年の5月28日に死んじゃったんですよ、
って話をまずしてからじゃないと
ぼくのほうが本題に入れなかった(笑)。
それがこの本の不思議な効果ですよね。
きっと、あらゆる家庭で、
『Say Hello!』がある場所で、
そういう現象が起きてるんですよ(笑)。
みんな自分の、大事だったものの話とか、
なんか、いろいろしてるんでしょうね。
糸井 「お母さんに久しぶりに電話しました」
的なメールを、いただくんです。
おれ、その気持ちはぜんぶわかるんですよ。
で、それもこれも、
イワサキさんが、犬がかわいいと思って
写真に撮っといてくれたおかげなんですよね。
柳瀬 そうですよね、そう。これ読んだあと、
ぼくの知り合いの編集者の方が、
娘がかわいくてしょうがなくなったと(笑)。
幼稚園から帰ってくるとね、
帰ってきた‥‥っていう話を。
普段そういうことをおっしゃる
タイプの方じゃないんですが(笑)。
横里 あははははははははは。
糸井 いや、わかるよ(笑)。
柳瀬 そういうことをね、
ウルウルしながら言うんですよ、
オッサンが(笑)。うん。
糸井 こうして話していて、
内容そのものに、
絶対触れられないかっていうとね、
おれ、思えば触れたことは何回かあるんです。
つまり、
「生きていけるに決まってる」
っていう、この仔犬たちのあり方が、
すっごい気持ちがいいんですよ。
柳瀬 うん、うん。
糸井 つまり、これからの時代は
どうやって生きていくか、とかさ(笑)、
こうなったらどうするの? とかね、
年金がどうだとか、
こうやって裏道マップがあって、
会社を辞めるなら31日です、
っていうようなことばっかり、
それを憶えてるだけで日が暮れるんだよね、
っていうときに、この仔犬たちを見てると、
もう上に乗っかったり下に乗っかって、
ムギュウっていってればいいし、
噛みつかれたら噛みつき返せばいいし、
‥‥なんていうの、
生きることに
「策略」がないじゃないですか(笑)。
柳瀬 ない。まさにそれでスクスク
育ってるんですよね(笑)。
糸井 そうそうそうそう(笑)。
で、無邪気に育ったわけですよ。
で、こんなに大きくなって、
また会いました(笑)。
いいんじゃん、これで、って。
柳瀬 うん、いいんじゃん、これで。
糸井 これが気持ちがいいんです。
子どもの寝顔なんかもそうなんですけどね。
今日も明日も、もうそのとおり、みたいな。
これが『Say Hello!』の内容について、
ぼくのした話ですね。
それを本っていうかたちで出して、
配ること、その気持ちはね、自分の持ってる、
年金がどうのこうのみたいなことに対する、
ちょっとした心の揺れ?(笑)
柳瀬 ははははは!
糸井 なんかよくわかってないんだけどさ。
その、会社をやってくにはね、
こういう戦略があってとかさ、
あるじゃないですか。
で、そのほうが、なぜいいんだっけ?
みたいなところを
思い出させてくれるんですよね。
横里 あ〜。
柳瀬 うんうんうんうん。根っこですもんね。
糸井 これはね、おれにとって
『北の国から』だから。

 登 場 し た 本、 関 連 す る 本。 
 
  考具
加藤昌治
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ティビーエスブリタニカ
ISBN: 4484032058
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  格闘する者に○(まる)
三浦しをん
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新潮社文庫
ISBN: 4101167516
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幻冬舎
ISBN: 4344006542
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  金持ち父さん 貧乏父さん
ロバートキヨサキ
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筑摩書房
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  五体不満足
乙武洋匡
価格: ¥1,680 (税込)
講談社
ISBN: 4062091542
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  very berry cherry coke
おおたうに
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ブルームブックス
ソニー・マガジンズ
ISBN: 4789723062
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  センチメンタルな旅・冬の旅
荒木 経惟
価格: ¥3,150 (税込)
新潮社
ISBN: 4103800011
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  Say Hello! あのこによろしく。
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東京糸井重里事務所
ISBN: 4902516020
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  ダ・ヴィンチ(5月号)
価格:¥450 (税込)
メディアファクトリー
ISBN: B00080SALI
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2005-04-22-FRI

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