糸井 |
出版の仕掛けとしてはあり得ないけど、
糸井事務所の仕掛けとしてはOK、
ということはいっぱいあるんです。
考えてわかることが、本ってけっこうあって。
なんで今まで出版社はそれを
してこなかったんだろう?
っていうようなことばっかりなんですね。
柳瀬さんとかは仕掛けてますよね。 |
柳瀬 |
いや、もう、あのね、もうほんっとにね、
それでなんだ? っていう話なんですけど、
結局、ぼくが今限界を感じてるのは、
ぜんぶリンクして動かないと、
ほんとはダメなんですね、ビジネスだから。 |
糸井 |
そうですよね。 |
柳瀬 |
アメリカの話なんですが。
物を作ってるトップのやつが
ビジネスを考えさせる仕組みっていうのが、
いちばんいいというんです。
要するに、その商品を誰にどう売りたくて、
どんなもんかってわかってるやつを
トップに置けと。
コンテンツを作っている人間そのものが、
じつはビジネスの主体に
なんなきゃいけないっていうカルチャーで
あるべきだと。
同じ論理で出版のことをいえば
ひとつひとつの本をつくった編集者が
その本の「経営者」になって、
中身はもちろん、売り方から広告の仕方まで
考え、ひとを動かさないといけない。
編集者じゃなく
「経営」の立場にいらっしゃる方ですが、
幻冬舎の見城さんはそれを実践されている
ようにぼくには見えます。 |
糸井 |
やってるわけだ。 |
柳瀬 |
やってるんです。
すごく自覚的にやってる。 |
糸井 |
ご自身が出版社の看板でもあるしね。 |
永江 |
唯一残ってるの、
レーベルっていう考え方ですよね。
だから筑摩だと、ちくま文庫を作るとか、
「ちくまプリマーブックス」を作ったけど、
あれは時代がもう終わったから
「ちくまプリマー新書」をつくる、
みたいな。
岩波だったら岩波新書や、
岩波文庫っていうのは、編集者が替わっても、
ずっと同じエンジンで動き続けますよね。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。
遺伝子の残し方があるわけだ。 |
永江 |
それはレーベルってかたちで
残っていくんですよね。 |
柳瀬 |
ですよね。出版社の名前とレーベルが、
やっぱり切符になる部分っていうのは、
すごく大きいですね。
短期間にそこをぶち壊そうとやってたのが、
まさに見城さんであったりする。 |
横里 |
でも、どうなんですかね、
レーベル自体もうこれだけ数が多くなって、
書店の棚を取るのも難しくなってくると、
どんどんその、こう、細ってますよね。
そうなってったときに、やっぱり編集者にこう、
スキルとかは蓄積はされるんですけど‥‥。 |
永江 |
レーベルがブランドイメージをどこまで確立して、
内容を保証できるか次第ですよね。
やっぱり岩波文庫って強力じゃないですか。
岩波文庫に何が入るかっていうのが、
ひとつの関心事になり得るわけで。 |
横里 |
ぼくはどっちかっていうと、編集者が、
スキルを蓄えていくのが
いいことだと思うんですよ。
アップルシード・エージェンシーっていう、
エージェントの組織があるんですけど、
──鬼塚忠さんですね。
もともとアメリカのほうで、
翻訳権の売買かなんかをやってた人が、
日本の出版界に来て、3年くらいですよね、
作家のエージェントになって、
出版社に売り込んで本を作っていくっていう。 |
糸井 |
日本の作家の? |
横里 |
日本の作家です。作家や企画とかの
エージェントになって。すごい作ってますよね。
90冊ぐらい作って、
ベストセラー10冊ぐらい出してるんですよ。 |
柳瀬 |
『考具』っていう本なんかが、確かそうですね。 |
横里 |
あと、三浦しをんさんを発掘した
ボイルドエッグズとかね。 |
永江 |
ボイルドエッグズはもう、
作家を集めるとこからしてるよね。
ネットで網かけて。 |
横里 |
で、鬼塚さんも、あれですよ、
なんか聞いた話ですけど、
ぼく、ご本人とお会いしてないんですけど、
あの、お金取って企画をぜんぶ見るんですって。
だからボイルドエッグズといっしょなんですよ。
ほんっとにいい企画だと思うんだったら、
こっちはプロの視点で、
ちゃんとフィードバックするから、
金払って売り込みに来いと。
叩いて叩いていいものにして、
それを出版社に売り込んでやっていく。
そういう人たちが増えてくると、
日本の出版界って欧米みたいな
エージェント制って、
ぜんぜんまだないんですけど、
個人の編集者がエージェントとして
作家と出版社を繋いでいく、
っていうようなものが、
もっと活発になっていくと思います。 |
糸井 |
出版社が単なる工場、
代理店になるわけですね。 |
横里 |
そうですね。そうすると出版社は出版社で
焦りますから。もっと自分たちが
作家を育てないと、とか、
外注も使うけど、やっぱり、
内製もしていかなきゃっていうので、
健全な競争が行われると思うんですよね。 |
柳瀬 |
日本の場合、
出版社がアメリカの出版エージェント
みたいな機能を負ってましたよね。
そもそも文藝春秋なんかも、
作家によるエージェントシステムとして
スタートしたわけだし(笑)
おんなじような日本の出版社、
けっこうあるような気が(笑)。 |
横里 |
そうですよね。 |
糸井 |
菊池寛がね、小説を書く人にメシを食わせる
仕組みを作ったっていうことですよね。
その当時は、本のかたちで
ものがたりを作る人たちっていうのは、
本を出す人たちっていうふうに
ニアリーイコールだったけど、
今は、本っていうお皿の上に、
どんな料理がのっかるのかっていうのは、
もうわかんなくなっちゃったんだから、
占い本からさ、写真から、
何から何まであるんですよね。
で、その時代用に出版社ができてないって
いうことですね。 |
柳瀬 |
ない。そうです。うん。考えてみると、
書店っていう業態だって、それに‥‥。 |
糸井 |
うん、なってないですよね。 |
柳瀬 |
売る場所が対応し切れてない
感じはすごくしますよね。 |
糸井 |
そうだよなー。あ、頑張りたくなるね。
ちょっとファイトが湧くね。 |