本の勉強。
『Say Hello!』をツールに出版を学ぼう。


■第8回■
  誰が出版社のトップになるべきか。

糸井 出版の仕掛けとしてはあり得ないけど、
糸井事務所の仕掛けとしてはOK、
ということはいっぱいあるんです。
考えてわかることが、本ってけっこうあって。
なんで今まで出版社はそれを
してこなかったんだろう?
っていうようなことばっかりなんですね。
柳瀬さんとかは仕掛けてますよね。
柳瀬 いや、もう、あのね、もうほんっとにね、
それでなんだ? っていう話なんですけど、
結局、ぼくが今限界を感じてるのは、
ぜんぶリンクして動かないと、
ほんとはダメなんですね、ビジネスだから。
糸井 そうですよね。
柳瀬 アメリカの話なんですが。
物を作ってるトップのやつが
ビジネスを考えさせる仕組みっていうのが、
いちばんいいというんです。
要するに、その商品を誰にどう売りたくて、
どんなもんかってわかってるやつを
トップに置けと。
コンテンツを作っている人間そのものが、
じつはビジネスの主体に
なんなきゃいけないっていうカルチャーで
あるべきだと。
同じ論理で出版のことをいえば
ひとつひとつの本をつくった編集者が
その本の「経営者」になって、
中身はもちろん、売り方から広告の仕方まで
考え、ひとを動かさないといけない。
編集者じゃなく
「経営」の立場にいらっしゃる方ですが、
幻冬舎の見城さんはそれを実践されている
ようにぼくには見えます。
糸井 やってるわけだ。
柳瀬 やってるんです。
すごく自覚的にやってる。
糸井 ご自身が出版社の看板でもあるしね。
永江 唯一残ってるの、
レーベルっていう考え方ですよね。
だから筑摩だと、ちくま文庫を作るとか、
「ちくまプリマーブックス」を作ったけど、
あれは時代がもう終わったから
「ちくまプリマー新書」をつくる、
みたいな。
岩波だったら岩波新書や、
岩波文庫っていうのは、編集者が替わっても、
ずっと同じエンジンで動き続けますよね。
糸井 ああ、なるほどね。
遺伝子の残し方があるわけだ。
永江 それはレーベルってかたちで
残っていくんですよね。
柳瀬 ですよね。出版社の名前とレーベルが、
やっぱり切符になる部分っていうのは、
すごく大きいですね。
短期間にそこをぶち壊そうとやってたのが、
まさに見城さんであったりする。
横里 でも、どうなんですかね、
レーベル自体もうこれだけ数が多くなって、
書店の棚を取るのも難しくなってくると、
どんどんその、こう、細ってますよね。
そうなってったときに、やっぱり編集者にこう、
スキルとかは蓄積はされるんですけど‥‥。
永江 レーベルがブランドイメージをどこまで確立して、
内容を保証できるか次第ですよね。
やっぱり岩波文庫って強力じゃないですか。
岩波文庫に何が入るかっていうのが、
ひとつの関心事になり得るわけで。
横里 ぼくはどっちかっていうと、編集者が、
スキルを蓄えていくのが
いいことだと思うんですよ。
アップルシード・エージェンシーっていう、
エージェントの組織があるんですけど、
──鬼塚忠さんですね。
もともとアメリカのほうで、
翻訳権の売買かなんかをやってた人が、
日本の出版界に来て、3年くらいですよね、
作家のエージェントになって、
出版社に売り込んで本を作っていくっていう。
糸井 日本の作家の?
横里 日本の作家です。作家や企画とかの
エージェントになって。すごい作ってますよね。
90冊ぐらい作って、
ベストセラー10冊ぐらい出してるんですよ。
柳瀬 『考具』っていう本なんかが、確かそうですね。
横里 あと、三浦しをんさんを発掘した
ボイルドエッグズとかね。
永江 ボイルドエッグズはもう、
作家を集めるとこからしてるよね。
ネットで網かけて。
横里 で、鬼塚さんも、あれですよ、
なんか聞いた話ですけど、
ぼく、ご本人とお会いしてないんですけど、
あの、お金取って企画をぜんぶ見るんですって。
だからボイルドエッグズといっしょなんですよ。
ほんっとにいい企画だと思うんだったら、
こっちはプロの視点で、
ちゃんとフィードバックするから、
金払って売り込みに来いと。
叩いて叩いていいものにして、
それを出版社に売り込んでやっていく。
そういう人たちが増えてくると、
日本の出版界って欧米みたいな
エージェント制って、
ぜんぜんまだないんですけど、
個人の編集者がエージェントとして
作家と出版社を繋いでいく、
っていうようなものが、
もっと活発になっていくと思います。
糸井 出版社が単なる工場、
代理店になるわけですね。
横里 そうですね。そうすると出版社は出版社で
焦りますから。もっと自分たちが
作家を育てないと、とか、
外注も使うけど、やっぱり、
内製もしていかなきゃっていうので、
健全な競争が行われると思うんですよね。
柳瀬 日本の場合、
出版社がアメリカの出版エージェント
みたいな機能を負ってましたよね。
そもそも文藝春秋なんかも、
作家によるエージェントシステムとして
スタートしたわけだし(笑)
おんなじような日本の出版社、
けっこうあるような気が(笑)。
横里 そうですよね。
糸井 菊池寛がね、小説を書く人にメシを食わせる
仕組みを作ったっていうことですよね。
その当時は、本のかたちで
ものがたりを作る人たちっていうのは、
本を出す人たちっていうふうに
ニアリーイコールだったけど、
今は、本っていうお皿の上に、
どんな料理がのっかるのかっていうのは、
もうわかんなくなっちゃったんだから、
占い本からさ、写真から、
何から何まであるんですよね。
で、その時代用に出版社ができてないって
いうことですね。
柳瀬 ない。そうです。うん。考えてみると、
書店っていう業態だって、それに‥‥。
糸井 うん、なってないですよね。
柳瀬 売る場所が対応し切れてない
感じはすごくしますよね。
糸井 そうだよなー。あ、頑張りたくなるね。
ちょっとファイトが湧くね。

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2005-04-20-WED


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