本の勉強。
『Say Hello!』をツールに出版を学ぼう。


■第7回■
  取次と組むということ。
取次と組まないということ。

永江 ただ、流通のことは
要素として大きいんですよ。
糸井さんのところは、
取次(=出版界の問屋みたいなもの)
を通さずに、
書店と直の取引をしていますよね。
だからできることが多いんです。
通常はいくら5万刷っても、
取次が5千しか取ってくれなかったら、
4万5千はもう倉庫で眠るか
断裁するしかなくなっちゃうわけで、
それは、作ったものがすぐ市場に
直結できるっていうことの強みですよ。
糸井 いや、そこもおんなじだと思いますよ。
つまり、ぼくらがいくら刷ろうが、
各書店が仕入れてくれなければ、
倉庫で眠っちゃうわけで。
そこはたぶんね、同じなんですよ。
永江 けれども、一般の本の場合は、
書店に仕入れるっていう概念はないので。
あれは取次が配給するんですよ。
糸井 あ、そっか!
B to Bをやってるわけだ。
永江 で、取次に、
糸井重里事務所から持っていって、
この本いくら仕入れてくれますか?
っていったら、担当者がこう見て、
まあ、2,500とかって書くわけですよ(笑)。
糸井 そっか‥‥。
永江 書店によっては、
欲しいのにあの本は来ないとか、
いらないのに30冊も来たとか、
そういうことになる。
で、それを省いてるのが、
ダイレクト方式の強みですよね。
糸井 取次を通したら、うちは、
もっと大変になるんじゃないかなと思って
通さなかっただけなんですよ。
永江 大変になるところと
楽なところとありますよ。
すべての書店との決済は
ぜんぶ取次がやってくれるわけですから。
糸井 代理店みたいなことですか。
永江 はい。それはもう、物流含めて、
すごく楽になりますよね。
運輸会社と銀行が
一体化してるようなものですから。
横里 だからやっぱり、今の出版社が
そのシステムでやってる理由は、
負けない仕事がしやすいんだと思うんですよ。
糸井 ああ、ああ、ああ。
柳瀬 そうそう、壊滅的打撃が、
逆にいうと、ない‥‥。
横里 糸井さんがさっきおっしゃったように、
エンターテイメントとかソフトビジネスって、
1勝9負でも、
その1勝が大きく当たれば
ぜんぜんOKなはずなのに、
出版業界に関して言うと、
負けてるか勝ってるか
わかんないような商品が
10コ並んでるっていうような
状況なんですよね。
糸井 そうですよね、うんうん。
永江 出版社、潰れませんから。
横里 潰れないんですよ。
負けないんですよね。
でも勝てないですよね。
糸井さんは勝とうとしてらっしゃるから
勝負に出る。
見城さんも勝とうとしてるんで
勝負に出る。
糸井 仕事ってやっぱ、
惚れるのが先じゃないですか。
タレント事務所でも、
この子は売れるぞ、とか、
この子はいい歌唄うから、
っていったら、
その子のために、
いい先生を付けるじゃないですか。
そこそこにやってて、
うまくいったらいい先生をつけよう、
とか、それはないと思うんですよね。
他の業界と本が、そんなにちがうとは
思えないんで。
たとえばの話、
3千部なのか5千部なのか
みたいなレベルで、
みんなが試合してると、
おまえの給料って、
それじゃあ出ないじゃないかっていう、
社長としてね、文句言いたくなるんですよ。
作家はもっと困るよ、と。
横里 そうです‥‥そうです‥‥。
糸井 で、そうなったときに、
うちが、たとえば作家とこれから
組んでいくときに、
「惚れたから出しましょう」
っていうことの、
雛形を今作っとかないと、
「先生の言うことじゃ、
 しょうがないですね、
 引き受けましょう。
 で、ちょっとでいいですか?」
みたいなことをやったんじゃ、
面白くないじゃないですか。
そして、取次に払うのなら、
著者印税を上げるとか、
それを誰かがしない限り、
いつまでたっても本についての
シンポジウムばっかり開かれてる(笑)。
それで『Say Hello!』については、
ここまで売りたいんだっていう気持ちが
10万だったんですよ。
柳瀬 『Say Hello!』は
最初の5千部が、初日で出ましたよね。
ぼくらはいつも紀伊國屋書店を
参考にするんだけど、
紀伊國屋書店ぜんぶの店舗で、
2千部を売るのは、
かなりのヒット商品で、
ひと月で2千部売ったら
10万20万の部数が出る
勢いの本なんですよ。
そうしたときに、サイトで、
瞬時に5千部動いちゃうっていうのは、
もちろんいろんな要素があるんだけど、
力学的に言うとすごく、
ものすごい磁場のちがう
動きがあるわけです。
うん。じゃあネットで
ぜんぶ売りゃあいいのか、
ということではないと
思うんですけどね。
糸井 ファンクラブに行き渡ったみたいな
考え方もあるし。いろいろだと思う。
紀伊國屋書店で売れるにしても、
一気にいっぱい売れたっていうときと、
動きとしては似てますよね。
だから‥‥あのね、
いちばんぼくが嬉しいのは、
買った人は絶対喜んでくれてるってこと。
だけど、伝えるのは難しいですよね、って。
これは、ぼくらとしては、
これからなんの仕事をしてくにあたっても、
ものすごいいい材料なんですよ。
柳瀬 うん。
糸井 たとえば映画っていま、
20万人見ないとね、
ペイしないらしいんですね。
それはもう、雨乞いみたいな話になっちゃう。
本の10万で、引かないぞ! っていうのは、
雨乞いじゃなくって、もう、
担いで売りに行くぐらいのことなんですよね。
でも、映画を20万人に見せるって、
映画館を口説くとこから始まるじゃないですか。
それはちょっとね、雨乞いすぎる(笑)。
『オトナ語の謎』を出したときに、
はたして本屋が扱ってくれるのかどうかさえ、
わかりませんでした。
1軒ずつ電話して、もしもーし、
から始まるわけです。
『Say Hello!』は、その土壌の上にあるから、
あの愉快さが今回はないって
こないだ反省したんですけれど。

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2005-04-18-MON


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