永江 |
ただ、流通のことは
要素として大きいんですよ。
糸井さんのところは、
取次(=出版界の問屋みたいなもの)
を通さずに、
書店と直の取引をしていますよね。
だからできることが多いんです。
通常はいくら5万刷っても、
取次が5千しか取ってくれなかったら、
4万5千はもう倉庫で眠るか
断裁するしかなくなっちゃうわけで、
それは、作ったものがすぐ市場に
直結できるっていうことの強みですよ。 |
糸井 |
いや、そこもおんなじだと思いますよ。
つまり、ぼくらがいくら刷ろうが、
各書店が仕入れてくれなければ、
倉庫で眠っちゃうわけで。
そこはたぶんね、同じなんですよ。 |
永江 |
けれども、一般の本の場合は、
書店に仕入れるっていう概念はないので。
あれは取次が配給するんですよ。 |
糸井 |
あ、そっか!
B to Bをやってるわけだ。 |
永江 |
で、取次に、
糸井重里事務所から持っていって、
この本いくら仕入れてくれますか?
っていったら、担当者がこう見て、
まあ、2,500とかって書くわけですよ(笑)。 |
糸井 |
そっか‥‥。 |
永江 |
書店によっては、
欲しいのにあの本は来ないとか、
いらないのに30冊も来たとか、
そういうことになる。
で、それを省いてるのが、
ダイレクト方式の強みですよね。 |
糸井 |
取次を通したら、うちは、
もっと大変になるんじゃないかなと思って
通さなかっただけなんですよ。 |
永江 |
大変になるところと
楽なところとありますよ。
すべての書店との決済は
ぜんぶ取次がやってくれるわけですから。 |
糸井 |
代理店みたいなことですか。 |
永江 |
はい。それはもう、物流含めて、
すごく楽になりますよね。
運輸会社と銀行が
一体化してるようなものですから。 |
横里 |
だからやっぱり、今の出版社が
そのシステムでやってる理由は、
負けない仕事がしやすいんだと思うんですよ。 |
糸井 |
ああ、ああ、ああ。 |
柳瀬 |
そうそう、壊滅的打撃が、
逆にいうと、ない‥‥。 |
横里 |
糸井さんがさっきおっしゃったように、
エンターテイメントとかソフトビジネスって、
1勝9負でも、
その1勝が大きく当たれば
ぜんぜんOKなはずなのに、
出版業界に関して言うと、
負けてるか勝ってるか
わかんないような商品が
10コ並んでるっていうような
状況なんですよね。 |
糸井 |
そうですよね、うんうん。 |
永江 |
出版社、潰れませんから。 |
横里 |
潰れないんですよ。
負けないんですよね。
でも勝てないですよね。
糸井さんは勝とうとしてらっしゃるから
勝負に出る。
見城さんも勝とうとしてるんで
勝負に出る。 |
糸井 |
仕事ってやっぱ、
惚れるのが先じゃないですか。
タレント事務所でも、
この子は売れるぞ、とか、
この子はいい歌唄うから、
っていったら、
その子のために、
いい先生を付けるじゃないですか。
そこそこにやってて、
うまくいったらいい先生をつけよう、
とか、それはないと思うんですよね。
他の業界と本が、そんなにちがうとは
思えないんで。
たとえばの話、
3千部なのか5千部なのか
みたいなレベルで、
みんなが試合してると、
おまえの給料って、
それじゃあ出ないじゃないかっていう、
社長としてね、文句言いたくなるんですよ。
作家はもっと困るよ、と。 |
横里 |
そうです‥‥そうです‥‥。 |
糸井 |
で、そうなったときに、
うちが、たとえば作家とこれから
組んでいくときに、
「惚れたから出しましょう」
っていうことの、
雛形を今作っとかないと、
「先生の言うことじゃ、
しょうがないですね、
引き受けましょう。
で、ちょっとでいいですか?」
みたいなことをやったんじゃ、
面白くないじゃないですか。
そして、取次に払うのなら、
著者印税を上げるとか、
それを誰かがしない限り、
いつまでたっても本についての
シンポジウムばっかり開かれてる(笑)。
それで『Say Hello!』については、
ここまで売りたいんだっていう気持ちが
10万だったんですよ。 |
柳瀬 |
『Say Hello!』は
最初の5千部が、初日で出ましたよね。
ぼくらはいつも紀伊國屋書店を
参考にするんだけど、
紀伊國屋書店ぜんぶの店舗で、
2千部を売るのは、
かなりのヒット商品で、
ひと月で2千部売ったら
10万20万の部数が出る
勢いの本なんですよ。
そうしたときに、サイトで、
瞬時に5千部動いちゃうっていうのは、
もちろんいろんな要素があるんだけど、
力学的に言うとすごく、
ものすごい磁場のちがう
動きがあるわけです。
うん。じゃあネットで
ぜんぶ売りゃあいいのか、
ということではないと
思うんですけどね。 |
糸井 |
ファンクラブに行き渡ったみたいな
考え方もあるし。いろいろだと思う。
紀伊國屋書店で売れるにしても、
一気にいっぱい売れたっていうときと、
動きとしては似てますよね。
だから‥‥あのね、
いちばんぼくが嬉しいのは、
買った人は絶対喜んでくれてるってこと。
だけど、伝えるのは難しいですよね、って。
これは、ぼくらとしては、
これからなんの仕事をしてくにあたっても、
ものすごいいい材料なんですよ。 |
柳瀬 |
うん。 |
糸井 |
たとえば映画っていま、
20万人見ないとね、
ペイしないらしいんですね。
それはもう、雨乞いみたいな話になっちゃう。
本の10万で、引かないぞ! っていうのは、
雨乞いじゃなくって、もう、
担いで売りに行くぐらいのことなんですよね。
でも、映画を20万人に見せるって、
映画館を口説くとこから始まるじゃないですか。
それはちょっとね、雨乞いすぎる(笑)。
『オトナ語の謎』を出したときに、
はたして本屋が扱ってくれるのかどうかさえ、
わかりませんでした。
1軒ずつ電話して、もしもーし、
から始まるわけです。
『Say Hello!』は、その土壌の上にあるから、
あの愉快さが今回はないって
こないだ反省したんですけれど。 |