本の勉強。
『Say Hello!』をツールに出版を学ぼう。


■第4回■
  表現することのよろこびを
信じている人たちの
時代がやってくる。

柳瀬 『Say Hello!』が見せてくれた
出版の可能性ってけっこう
大きいと思うんです。
もともと日本は、
アメリカに比べると出版に関しては
ある意味で自由度が高いんですよ。
アメリカは、出版における
プロとアマの障壁がずっと高い。
素人がいきなり本を出すなんてまずありえないし、
出版社を立ち上げるのだって大変です。
マーケティングがしっかりして資金がないと
なかなか出版事業ができない。
その意味でヒエラルキーがしっかりある。
そんな日本の出版市場の潜在力を
『Say Hello!』は、
はっきり見せてくれたように思います。
その意味では、
アメリカより日本の出版のほうが、
可能性としては、
じつは面白いんです。
横里 そうですよねぇ。
糸井 それ、欽ちゃんのゴールデンゴールズと、
おんなじものを語ってる気がするんですよ。
今、野球選手が、
大リーグに行きたいって言いますよね。
いちばんすごいところで試合したいんだと。
オリンピックへ出たいっていうのと
おんなじですよね。
柳瀬 うん、素直に言ってるんです(笑)。
糸井 で、行くなって言う人もいるよね。
それってオリンピックなんか出たって
ろくなことはないぞって
言ってるようなものじゃないですか(笑)。
オリンピックが世界中継されてる時代に、
国際試合の1番2番の他は、
あとはどれだけ「楽しいこと」を、
「誰も」がやれるか、
っていうとこにいくんですよ。
あるいはたとえば岡本太郎。
全肯定じゃないですか。
おまえが作ったもの、ぜんぶ芸術だ、
おまえは芸術だ!
って言ってるわけでしょ?
それと欽ちゃんの
ゴールデンゴールズは同じ!
柳瀬 「ぜんぶ楽しい」(笑)。
糸井 「日本人の思い」
っていうアンケートで、
こんなメールがあったんです。
ぼくはスポーツは得意だけれども、
好きじゃないって。
ぼくは脚も速いです、
球技をやっても上手なんです、
だけど、それで褒められても、
面白くないんです。っていうの。
一生懸命やってもぼくに勝つやつが
いないっていうことを、
ぼくはいいことだと思わないって。
だから、運動は好きなんですよ、
っていうわけ。
柳瀬 はぁー!(笑)
糸井 ひねくれた言い方にも聞こえるんだけど、
そろそろマンガ雑誌には
そんなやつが出てきてますよね。
それは岡本太郎が言ってる、
「上手い人しかやれないようなものは、
 面白くない」っていうのと、一致しますよね。
アンディ・ウォーホルが、ほら、
誰でも3分間有名になれるって言ったけど、
あれも、ほんとだったじゃないですか。
柳瀬 そうですね。
糸井 で、みんながそんなことを
考えるようになっちゃった時代に、
メシ食ってくことはなんなんだろう?
その時代に職業として、
これで食ってくぞっていって
しがみつく理由は、
もう、ないかもしれないし。
あの作家は、処女作のなんとかはいいけど、
その後ダメだって言われる筋合いもないし(笑)。
その証拠には、だって、歌手で、
いい曲を何十年も作り続けた人って、
なかなか、いないですよね。
柳瀬 いないですよね。
糸井 もうダメだとか言われながら、
でも前の勢いでやってる。
それがプロっていうものの宿命。
それでしかもこれからは
配信ビジネスになっちゃうわけでしょう?
そのときに、ほんっとにみんなのものに、
アートがなるんじゃないかっていうね、
なんかね、ちょっと涙が出るような気持ちです。
プロになろうとしてる人には、
どうしたらいいんだ? って。
柳瀬 はい(笑)。
糸井 ただ、表現するってことへの喜びを、
信じてる人には、うれしくて涙が出るし、
みたいな。
それが、ほんとになっちゃったのが
『Say Hello!』なんです。
柳瀬 これ、写真を売ってるわけじゃ
ないんですね、だから(笑)。
糸井 うん。つまり、
「思いがここにありました」って
事実を売ってるわけで。
すごい曲ができたんですよね。
つまり、小坂明子の「あなた」。
あれ、17歳くらいで作ったんですよね。
あの唄のすごさって、
あんな曲、プロは作れないですよ(笑)。
プロになりたいんだったら、
まったくちがう道に行くわけで。
その時代を、ぼくらは
生きてるっていうことを、
この本が表明してしまった。
横里 なるほどねぇ〜!
糸井 横里さんのつくってる
「ダ・ヴィンチ」もそうですよ。
どんなに面白い特集を作る以上に、
「ダ・ヴィンチ」って存在が
毎月出てるっていうことが、
いちばんの「ダ・ヴィンチ」の
人気ですよね。
柳瀬 うん、うん、うん。
糸井 つまり、いろんな本が出てるっていうことを、
腑分けしては、並び替えたりするっていう。
それは、才能のなす技じゃないですよね。
横里 あ、ちがいますよねぇ。
糸井 でも、その中に、上下する部分が、
特集みたいなところにあるんですよね。
で、いい本が出てて、
それを特集したときにはさらに売れますよね。
これって、なんか、運命に近いものが(笑)。
そこで泳ぐんだって決めたときに、
もうその泳ぎ方は決まっている。
柳瀬 うん、うん、うん、うん。
糸井 ぼくらもそうです。
インターネットじゃなかったら
できっこないことしてますし。

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2005-04-11-MON


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