柳瀬 |
『Say Hello!』が見せてくれた
出版の可能性ってけっこう
大きいと思うんです。
もともと日本は、
アメリカに比べると出版に関しては
ある意味で自由度が高いんですよ。
アメリカは、出版における
プロとアマの障壁がずっと高い。
素人がいきなり本を出すなんてまずありえないし、
出版社を立ち上げるのだって大変です。
マーケティングがしっかりして資金がないと
なかなか出版事業ができない。
その意味でヒエラルキーがしっかりある。
そんな日本の出版市場の潜在力を
『Say Hello!』は、
はっきり見せてくれたように思います。
その意味では、
アメリカより日本の出版のほうが、
可能性としては、
じつは面白いんです。 |
横里 |
そうですよねぇ。 |
糸井 |
それ、欽ちゃんのゴールデンゴールズと、
おんなじものを語ってる気がするんですよ。
今、野球選手が、
大リーグに行きたいって言いますよね。
いちばんすごいところで試合したいんだと。
オリンピックへ出たいっていうのと
おんなじですよね。 |
柳瀬 |
うん、素直に言ってるんです(笑)。 |
糸井 |
で、行くなって言う人もいるよね。
それってオリンピックなんか出たって
ろくなことはないぞって
言ってるようなものじゃないですか(笑)。
オリンピックが世界中継されてる時代に、
国際試合の1番2番の他は、
あとはどれだけ「楽しいこと」を、
「誰も」がやれるか、
っていうとこにいくんですよ。
あるいはたとえば岡本太郎。
全肯定じゃないですか。
おまえが作ったもの、ぜんぶ芸術だ、
おまえは芸術だ!
って言ってるわけでしょ?
それと欽ちゃんの
ゴールデンゴールズは同じ! |
柳瀬 |
「ぜんぶ楽しい」(笑)。 |
糸井 |
「日本人の思い」
っていうアンケートで、
こんなメールがあったんです。
ぼくはスポーツは得意だけれども、
好きじゃないって。
ぼくは脚も速いです、
球技をやっても上手なんです、
だけど、それで褒められても、
面白くないんです。っていうの。
一生懸命やってもぼくに勝つやつが
いないっていうことを、
ぼくはいいことだと思わないって。
だから、運動は好きなんですよ、
っていうわけ。 |
柳瀬 |
はぁー!(笑) |
糸井 |
ひねくれた言い方にも聞こえるんだけど、
そろそろマンガ雑誌には
そんなやつが出てきてますよね。
それは岡本太郎が言ってる、
「上手い人しかやれないようなものは、
面白くない」っていうのと、一致しますよね。
アンディ・ウォーホルが、ほら、
誰でも3分間有名になれるって言ったけど、
あれも、ほんとだったじゃないですか。 |
柳瀬 |
そうですね。 |
糸井 |
で、みんながそんなことを
考えるようになっちゃった時代に、
メシ食ってくことはなんなんだろう?
その時代に職業として、
これで食ってくぞっていって
しがみつく理由は、
もう、ないかもしれないし。
あの作家は、処女作のなんとかはいいけど、
その後ダメだって言われる筋合いもないし(笑)。
その証拠には、だって、歌手で、
いい曲を何十年も作り続けた人って、
なかなか、いないですよね。 |
柳瀬 |
いないですよね。 |
糸井 |
もうダメだとか言われながら、
でも前の勢いでやってる。
それがプロっていうものの宿命。
それでしかもこれからは
配信ビジネスになっちゃうわけでしょう?
そのときに、ほんっとにみんなのものに、
アートがなるんじゃないかっていうね、
なんかね、ちょっと涙が出るような気持ちです。
プロになろうとしてる人には、
どうしたらいいんだ? って。 |
柳瀬 |
はい(笑)。 |
糸井 |
ただ、表現するってことへの喜びを、
信じてる人には、うれしくて涙が出るし、
みたいな。
それが、ほんとになっちゃったのが
『Say Hello!』なんです。 |
柳瀬 |
これ、写真を売ってるわけじゃ
ないんですね、だから(笑)。 |
糸井 |
うん。つまり、
「思いがここにありました」って
事実を売ってるわけで。
すごい曲ができたんですよね。
つまり、小坂明子の「あなた」。
あれ、17歳くらいで作ったんですよね。
あの唄のすごさって、
あんな曲、プロは作れないですよ(笑)。
プロになりたいんだったら、
まったくちがう道に行くわけで。
その時代を、ぼくらは
生きてるっていうことを、
この本が表明してしまった。 |
横里 |
なるほどねぇ〜! |
糸井 |
横里さんのつくってる
「ダ・ヴィンチ」もそうですよ。
どんなに面白い特集を作る以上に、
「ダ・ヴィンチ」って存在が
毎月出てるっていうことが、
いちばんの「ダ・ヴィンチ」の
人気ですよね。 |
柳瀬 |
うん、うん、うん。 |
糸井 |
つまり、いろんな本が出てるっていうことを、
腑分けしては、並び替えたりするっていう。
それは、才能のなす技じゃないですよね。 |
横里 |
あ、ちがいますよねぇ。 |
糸井 |
でも、その中に、上下する部分が、
特集みたいなところにあるんですよね。
で、いい本が出てて、
それを特集したときにはさらに売れますよね。
これって、なんか、運命に近いものが(笑)。
そこで泳ぐんだって決めたときに、
もうその泳ぎ方は決まっている。 |
柳瀬 |
うん、うん、うん、うん。 |
糸井 |
ぼくらもそうです。
インターネットじゃなかったら
できっこないことしてますし。 |