本の勉強。
『Say Hello!』をツールに出版を学ぼう。


■第3回■
  表現のポップソング化。
さらに、表現のパンク化について。

永江 昔、荒木経惟さんが
ワークショップをやってたころに、
山手線で個展を開こうとか、
電話ボックスで個展開こうっていうのがあって、
それは何のことはない、山手線の駅のベンチで、
隣に座ったおばさんに、自分の写真を見せる、
っていうようなものだったんです。
『Say Hello!』って、
それに近いものがありますよね。
柳瀬 ぼくも最初に『Say Hello!』を
見てなんとなく連想したのが、
たぶんこういうのをすごーく欲して
やってきたのが、
荒木さんなんじゃないかな、ということ。
じつは写真って、撮っただけでは
コミュニケーションができない。
誰かに見てもらって、
つたわらなきゃつまんない。
で、どうしたらいいんだろうって、
撮った写真の見せ方の手段を、
荒木さんってすごく考えたんじゃないかなと。
個展も、写真集も、ライブな見せ方を
いくつも『発明』して‥‥
荒木さんが「写真を伝える」手段において
苦労してきたある部分を、
デジカメが登場したことで
誰でもできるように
なっちゃったところがあるぞ、
って思いました。
一枚一枚の写真のクオリティとかって
いう話じゃなくて。
糸井 急に思い出したんだけど、
これ、写真集になるなって思った理由って、
考えてみたらね、今わかった。
横里編集長とアッキィ(秋山具義)と一緒に、
毎月いっぺん本を探して、
ああでもない、こうでもないと、
喫茶店で喋る企画があるんですよ
(ダ・ヴィンチ連載「この本にひとめ惚れ」)。
そのとき、考えて本を選んでも
世の中とおんなじなっちゃうんで、
「ひとめ惚れ」っていう言い訳で、
考えないで買ってくるようにしたんですよね。
で、そのときに、横里編集長は、
変なものを出すんだよ、いつも。
横里 え、そうですか?
糸井 たとえば「おおたうに」さんなんて、
この人によって知らされたんですよ。
「おおっ?! なんでこの本選んだの?」
って訊いたら、横里さんが
「いや‥‥女の子っていいな、って思って」。
その言葉にぼくは衝撃を受けて(笑)。
柳瀬 ダ・ヴィンチの編集長が言うか!? みたいな、
いい発言ですよね(笑)。
あれ以来、おおたうにさんの本を、
ぼくはぜんぶ買ってますよ。
糸井 女の子っていいなっていう言葉ひとつで、
ぼくの、もう、なんていうの、
ターゲットが急に増えるんですね。
おんなじように、写真のものを、
アッキィと横里編集長が、
トントンとこう、
何気なく持ってくるんですよ。
ぼくは写真集を選ぶときって、
これはいいっ! っていうのを
選ぼうとするんだけれど、
もっと、ずっと気軽に、
彼らは、選ぶことが
できているんです。
「リトルモア」という出版社が、
そういう気分の写真集を
たくさん出版していることも
影響しているのかもしれないけれど。
永江 あ〜‥‥!
柳瀬 うんうんうん!
糸井 ぼくは広告屋だったせいか、
スタジオで写真を撮るって、
もう、どれほど大変なことか、
ということを知っている。
これはかなわねぇ、っていうの、
ものすごく見過ぎちゃった。
大量の写真のなかから、
ほんとうにいい写真を
一枚だけ選ぶ、
みたいなことをしてたんで、
気軽に写真を見たり、
写真集を選ぶということが
できなかったんですよ。
HIROMIXみたいなものでも、
理念としては受け入れられるんだけど、
買うものじゃなかったんですよ。
それがね、横里さんとアッキィが
ホンマタカシや
「リトルモア」あたりを媒介にして、
近づけてきてくれた。
ポップソングですよね。
写真のポップソング化。
楽譜読めない人の音楽っていうのが
出てくるじゃないですか。
永江 ああ、ストリート感覚に
近いかもしれないですね。
糸井 「はじめてのジャズ」の打合せをしたときに、
ジャズマンで楽譜読めない人って
どのくらいいるんですか? って訊いたら、
ジャズの人はみんな読めちゃう、
だからバイトができるんだと言うんです。
で、逆に、ロックミュージシャンで
楽譜が読めるやつがいると、
変わってるって言われる。
柳瀬 はっはっはっはっはっは! いいなぁ。
糸井 あだ名が「教授」とかになっちゃう。
博士とか教授とか。
あと、アレンジャーになっちゃうんですよ。
なまじ運転免許があるせいで、
運転手になっちゃうみたいな。
で、わかったの。
そっかー、音楽でやってきたことを、
ぼくはいまごろ写真で
洗礼を受けているんだと。
柳瀬 あ〜、なるほどなぁ‥‥。
糸井 で、もっと言えば、『Say Hello!』、
これ以上画質的に大きくできない写真って
あるんですよ(笑)。
柳瀬 絶対そうだと思う(笑)。
糸井 で、それってパンクなんですよ。
つまり、Aコードで始まったら
エンディングでAに戻んなくても、
時間が来たから終わりっていうやりかたを、
パンクだとしますよね。
柳瀬 ジャーン(笑)。ピタッ。わーっ。
糸井 あれとおんなじなんですよ。
断ち切りで、これ以上伸ばさなければ
いいっていうのは、なんかね、
パンク的なエンディングなんですよ。
『Say Hello!』は
みんなが優しくって
ほのぼのして、って言ってる、
そういう音楽なんだけど、
パンクの構造の中にあるんだね(笑)。

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2005-04-08-FRI


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