永江 |
昔、荒木経惟さんが
ワークショップをやってたころに、
山手線で個展を開こうとか、
電話ボックスで個展開こうっていうのがあって、
それは何のことはない、山手線の駅のベンチで、
隣に座ったおばさんに、自分の写真を見せる、
っていうようなものだったんです。
『Say Hello!』って、
それに近いものがありますよね。 |
柳瀬 |
ぼくも最初に『Say Hello!』を
見てなんとなく連想したのが、
たぶんこういうのをすごーく欲して
やってきたのが、
荒木さんなんじゃないかな、ということ。
じつは写真って、撮っただけでは
コミュニケーションができない。
誰かに見てもらって、
つたわらなきゃつまんない。
で、どうしたらいいんだろうって、
撮った写真の見せ方の手段を、
荒木さんってすごく考えたんじゃないかなと。
個展も、写真集も、ライブな見せ方を
いくつも『発明』して‥‥
荒木さんが「写真を伝える」手段において
苦労してきたある部分を、
デジカメが登場したことで
誰でもできるように
なっちゃったところがあるぞ、
って思いました。
一枚一枚の写真のクオリティとかって
いう話じゃなくて。 |
糸井 |
急に思い出したんだけど、
これ、写真集になるなって思った理由って、
考えてみたらね、今わかった。
横里編集長とアッキィ(秋山具義)と一緒に、
毎月いっぺん本を探して、
ああでもない、こうでもないと、
喫茶店で喋る企画があるんですよ
(ダ・ヴィンチ連載「この本にひとめ惚れ」)。
そのとき、考えて本を選んでも
世の中とおんなじなっちゃうんで、
「ひとめ惚れ」っていう言い訳で、
考えないで買ってくるようにしたんですよね。
で、そのときに、横里編集長は、
変なものを出すんだよ、いつも。 |
横里 |
え、そうですか? |
糸井 |
たとえば「おおたうに」さんなんて、
この人によって知らされたんですよ。
「おおっ?! なんでこの本選んだの?」
って訊いたら、横里さんが
「いや‥‥女の子っていいな、って思って」。
その言葉にぼくは衝撃を受けて(笑)。 |
柳瀬 |
ダ・ヴィンチの編集長が言うか!? みたいな、
いい発言ですよね(笑)。
あれ以来、おおたうにさんの本を、
ぼくはぜんぶ買ってますよ。 |
糸井 |
女の子っていいなっていう言葉ひとつで、
ぼくの、もう、なんていうの、
ターゲットが急に増えるんですね。
おんなじように、写真のものを、
アッキィと横里編集長が、
トントンとこう、
何気なく持ってくるんですよ。
ぼくは写真集を選ぶときって、
これはいいっ! っていうのを
選ぼうとするんだけれど、
もっと、ずっと気軽に、
彼らは、選ぶことが
できているんです。
「リトルモア」という出版社が、
そういう気分の写真集を
たくさん出版していることも
影響しているのかもしれないけれど。 |
永江 |
あ〜‥‥! |
柳瀬 |
うんうんうん! |
糸井 |
ぼくは広告屋だったせいか、
スタジオで写真を撮るって、
もう、どれほど大変なことか、
ということを知っている。
これはかなわねぇ、っていうの、
ものすごく見過ぎちゃった。
大量の写真のなかから、
ほんとうにいい写真を
一枚だけ選ぶ、
みたいなことをしてたんで、
気軽に写真を見たり、
写真集を選ぶということが
できなかったんですよ。
HIROMIXみたいなものでも、
理念としては受け入れられるんだけど、
買うものじゃなかったんですよ。
それがね、横里さんとアッキィが
ホンマタカシや
「リトルモア」あたりを媒介にして、
近づけてきてくれた。
ポップソングですよね。
写真のポップソング化。
楽譜読めない人の音楽っていうのが
出てくるじゃないですか。 |
永江 |
ああ、ストリート感覚に
近いかもしれないですね。 |
糸井 |
「はじめてのジャズ」の打合せをしたときに、
ジャズマンで楽譜読めない人って
どのくらいいるんですか? って訊いたら、
ジャズの人はみんな読めちゃう、
だからバイトができるんだと言うんです。
で、逆に、ロックミュージシャンで
楽譜が読めるやつがいると、
変わってるって言われる。 |
柳瀬 |
はっはっはっはっはっは! いいなぁ。 |
糸井 |
あだ名が「教授」とかになっちゃう。
博士とか教授とか。
あと、アレンジャーになっちゃうんですよ。
なまじ運転免許があるせいで、
運転手になっちゃうみたいな。
で、わかったの。
そっかー、音楽でやってきたことを、
ぼくはいまごろ写真で
洗礼を受けているんだと。 |
柳瀬 |
あ〜、なるほどなぁ‥‥。 |
糸井 |
で、もっと言えば、『Say Hello!』、
これ以上画質的に大きくできない写真って
あるんですよ(笑)。 |
柳瀬 |
絶対そうだと思う(笑)。 |
糸井 |
で、それってパンクなんですよ。
つまり、Aコードで始まったら
エンディングでAに戻んなくても、
時間が来たから終わりっていうやりかたを、
パンクだとしますよね。 |
柳瀬 |
ジャーン(笑)。ピタッ。わーっ。 |
糸井 |
あれとおんなじなんですよ。
断ち切りで、これ以上伸ばさなければ
いいっていうのは、なんかね、
パンク的なエンディングなんですよ。
『Say Hello!』は
みんなが優しくって
ほのぼのして、って言ってる、
そういう音楽なんだけど、
パンクの構造の中にあるんだね(笑)。 |