- 糸井
- (完成した絵本を見ながら)
できましたねえ。
- キューライス
- はい、ついに。
- 田中
- 『小学一年生』の12月号をパッと開くと、
ミニ絵本『ちきゅうちゃん。』が
巻頭にドーンと挟んであります。
- キューライス
- わぁ、やった!
- 田中
- はじめてちきゅうちゃんを見た読者からは、
「わっ、かわいい!」とか
「なんだ、これ?」とか(笑)、
いろんな感想が出てくると思いますが、
このキャラクターが生まれた経緯を
教えていただけますか。
- 糸井
- なんだっけ‥‥だいぶ記憶が飛んでいて(笑)。
- キューライス
- お互いに持ってきたものを
「こんなの考えました」と言いながら見せ合って、
そこから発生したおしゃべりを
延々としていたような記憶があります。
ぼくもいろいろラフ案を出したり、
着彩したイメージを描いてみたりして。
- 糸井
- 最初、キューライスさんのほうは、
ちゃんと依頼に応えたいなぁと
思ってくれていましたよね。
だけど、放っておけば自由にやれる人だから、
自由にやってほしいなと思ってました。
- キューライス
- そうなんです。
わりとぼく真面目だから(笑)、
ビニールボールであるという特性を
しっかり出さなきゃ、みたいな思いで、
最初のラフを作ったんです。
でも、糸井さんはもっと自由でした。
「傾けたら水が漏れる」とか書いてあって、
「あ、そういう感じでいいんだ」と思って。
- 糸井
- そう。
ぼくは、アースボールのキャラクターだからって、
その特性みたいなことに縛られないで、
キューライスさんが描いてくれたもの自体が
親しまれるようになればいいやと思ったんです。
だからぼくから出した条件は
「地球」ということだけ。
で、それを言えるのは、ぼくしかいないもんね。
キューライスさんのほうから、
「条件なんて地球くらいでいいんじゃないすかぁ」
と言われたら、
「ちょっと君、ちょっと待ちたまえ」って
言ったかもしれない(笑)。
- キューライス
- (笑)それはたしかにそうですね。
- 田中
- キューライスさんが最初に描かれていたのは、
どんなものだったんですか?
- キューライス
- アースボール君がカラスさんの家に行って、
「地球儀なのに海外旅行をしたことがないんです。
カラスさん、世界一周させてください」
みたいなことをお願いしたら、カラスさんに、
「いや、ちょっと無理ですよ。スケジュールとかあるし」
って言われて断られて‥‥という内容の話でした。
- 田中
- へえ、そんな感じだったんですか。
- 糸井
- おもしろかったですよ。
- キューライス
- でも、糸井さんから上がってきた話と、
ぼくが考えていた話のいちばん大きな違いって、
主人公の「ちきゅうちゃん」がしゃべるか、
しゃべらないかというところです。
ぼくの案はわりとしゃべっていたのに対し、
糸井さんの案は、一言もしゃべらない。
それがすごくよかったと思っています。
しゃべらないからこそ、
こう‥‥なんだろう‥‥
- 糸井
- こっち側が思いやらなきゃいけなくなる。
- キューライス
- そう。何を考えているのか、
こっち側が考えちゃう。
そこがよかったと思いましたね。
- 糸井
- たしかに、そこは違いましたね。
そういう意味でいうと、ブレストって、
普段そんなにしないけど、おもしろかったです。
キューライスさんが
荻窪の酒饅頭をおやつに持ってきてくれたので、
ぼくも機嫌がよかったし。
- キューライス
- (笑)
- 糸井
- 打ち合わせっていちばん大事なんで、
機嫌よくやるのがいい。
あの酒饅頭がなかったら、
うまくいかなかったかもしれない(笑)。
- 田中
- ブレストは何回くらいなさったんですか?
- 糸井
- 直接会ったのは1回です。
あとはメールで、
「こんな感じです」「わかった」みたいな。
ぼくもわりと、他の仕事をしながらも
ずっとこの絵本のことを考えてましたね。
やっぱりタイトルです。
タイトルができると楽になりますよねぇ。
内容については、最初は文字なしで、
ちきゅうちゃんがラップみたいに踊っている絵本に
しようかなと思っていたんです。
- 田中
- えぇ?
- 糸井
- ただ音楽が流れていくみたいな絵本に
できたらいいなと思ったんだけど、
そうすると後で誰かに音楽を頼みたくなるから、
面倒くさいなと思ってやめました(笑)。
あとは、キューライスさんは
アニメーションが得意だから、
その良さを活かせないかなぁと思ってました。
それは、ずっと捨てきれなかったですね。
- キューライス
- パラパラ漫画みたいな‥‥。
- 糸井
- そう。その気配はちょっと残っていると思います。
- 田中
- 描いていて、
むずかしかったところはありますか?
- キューライス
- 全体的にむずかしかったです。
- 糸井
- えぇ(笑)、そう?
- キューライス
- フリーハンドできれいな丸を描くという作業が
ことのほかむずかしくて。
一発描きだから、ちょっとでも歪んだら、
別の紙に描き直さなきゃいけないんです。
- 糸井
- そうかぁ。
- キューライス
- 1枚当たり、5、6枚は紙を消費しているはずです。
いちばんむずかしかったのは、
ちきゅうちゃんの仲間がいっぱいいるシーンです。
- 糸井
- あぁ、丸がいっぱいありますからね。
- キューライス
- ちきゅうちゃんは成功したのに、
他のキャラクターで失敗してだめになっちゃったり。
- 糸井
- そういえば、さくらももこさんも、
「まるちゃん描いて、って
よくパッと頼まれるんだけど、
まるちゃんがいちばんむずかしいんだよ」
と言ってました。
それも丸に対する思いがあるんですよね。
- キューライス
- あ、そうなんですよね。
ぼくも最近、さくらももこさんの映像を
YouTubeで見ていたんですけど、
ちびまる子ちゃんを頼まれて描くとき、
下書きをすごくちゃんとしていて、
「こうしないと描けないんです。
ちょっとでも歪んだら、顔が違っちゃう」
と言ってたのを見て、
へえ、そうなんだなと思いました。
- 田中
- 最初、キューライスさんから
ちょっと潰れたちきゅうちゃんと、
真ん丸なちきゅうちゃんと
2パターンをいただきましたよね。
- キューライス
- そうそう。
きれいな丸ができたんですけど、
きれいすぎておもしろみがなくなっちゃったんです。
で、こっちはちょっと歪んでるんですけど、
その歪み具合がゆるくていいかなと思って、
こっちにしました。
- 糸井
- なるほどね。
それで、絶好調のときはまんまるになるのかもね。
「君、今日機嫌がいいね」みたいな(笑)。
- 田中
- ちきゅうちゃんの
顔の場所をどこにするかというのも、
悩まれたんじゃないかなと思うんです。
- 糸井
- そこも話し合いましたよね。
「やっぱり太平洋かな」って。
- キューライス
- そうですね。
ぼくも鼻を島にしたかったんです。
あと、ちきゅうちゃんのまわりに
いつも「月」がくっついていて、
どのページにもいるのが、
間違い探しみたいでおもしろかったです。
カーテンの裏にいたり。
- 糸井
- ああ、それは、
あとで『ミッケ!』みたいに
できるといいなと思ったんです。
- 田中
- 地球の周りを月が回るというと
大人だったら、ちきゅうちゃんの顔の周りを
回るのかなと思うんですけど、
これは、ちきゅうちゃんの足元を月が回っている。
まさに子どもの発想で、たのしいですよね。
これってむずかしくなかったですか?
- キューライス
- いえ、わりと最初から
そういうイメージが自然に出てきて。
- 糸井
- すごく自然でしたよね。
ぼくは毎日のように
キューライスさんのマンガを見ているから、
この人がやりそうなことがわかるんです(笑)。
(つづきます)
2018-10-29-MON