
- 田中
- 糸井さんが、
「ほぼ日のアースボール」を作ろうと
思われたきっかけはなんだったんですか?
- 糸井
- 地球って、意識する機会がすごく増えているのに、
それにしては、地球を認識するのが
昔見た地球儀の絵でしかないんじゃないかなと。
各家庭にひとつ、当たり前のようにある
気楽な地球儀が作れないかなあと思ったんです。
あと、地球儀を海外旅行に持って行った人から、
「船に乗っている間も、
地球儀を出しているとおもしろいんです」
と聞いたことがあったんです。
それで思ったのは、たとえばテレビを見ていて
アフリカの象の話題になったとき、
もし地球儀上でアフリカの象が見られるような
機能があったら、それだけでたのしいなと思いましたし、
そういうものを作りたいと思ったのがきっかけです。

- 田中
- その「ほぼ日のアースボール」を
こんなふうに擬人化しようと思ったのも
最初からですか?
- 糸井
- わりと最初からですね。
アースボールのぬいぐるみや
フィギュアがあったらいいなと思っていたんです。
奇譚クラブの「コップのフチ子」さんみたいに、
コップの縁に地球のシンボルが
座っている想像をしていて。
アースボールが理科室にある教材みたいに
思われちゃうとつまんないし、
もっと身近な遊び相手に
なってほしいなぁと思っていたので。
- 田中
- おもしろいなと思うのは、
この「ちきゅうちゃん」って、
ただの象徴として擬人化されているのではなく、
地球という特性にフォーカスしていて、
頭をのぞくと、人が見えたりするんですよね。

▲絵本のワンシーンより。
- 糸井
- そうそうそう。
これは、キューライスさんが落語好きなんで、
「落語の『頭山』とか『粗忽長屋』みたいなもの」
と言ったら、すぐにわかってくれたんです。
自分の頭でみんながお花見をしているという、
そのクラクラするような間抜けさみたいなものが、
大人になるとだんだんわかんなくなるじゃない?
だったら子どもの頭がやわらかいうちに
騙してやれ、と思って。
「どうなってんだぁ?」みたいな。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- キューライスさんだったら
絶対にそういう絵は描けるに決まってるから、
すごく楽でした。
こっちで想像が足りてなかったところまで、
絵で補ってくれてましたし。
こんなに楽なコラボはなかったです。
- キューライス
- よかったです。
ぼく、いつもひとりぼっちだから、
誰かと組むことも本当にはじめてで。
- 糸井
- え、本当?
- キューライス
- はい。自分にとっても新しい取り組みで、
おもしろかったです。

- 田中
- 最初にテキストが
糸井さんから上がってきて、
ご覧になっていかがでしたか?
- キューライス
- やさしい内容なんだけれども、
なぜそうなっているのかということの説明が
一切ないのが最高におもしろかったです。
「おとうさん なにかもってかえってきた」
という書き出しではじまるんですけど、
ちきゅうちゃんが露店に売っていたのか、
ペットショップにいたのかもわからない。
そこらへんのことを考えるだけでも、
たのしくなっちゃって。
そういう余白があったから、
ぼくとしても描きやすくて、
いくらでも味付けできそうな感じがしました。
- 田中
- 糸井さんは、何かそのへんは、
注意して書かれたんですか?
- 糸井
- 今回、とじ込み付録になるミニ絵本シリーズの
見本をたくさん見せてもらって、
それぞれの作家さんが、
このちいさなサイズをどうしようと思いながら
作っているのがよくわかりました。
苦労するんだけど、
「なるようにしかならないや」と言って
描いている感じがしたんです(笑)。
結局、ぼくも自分の持ち味しか出せないんで、
小さいからな、みたいなことを
考えてもしょうがないなと。
文字数を少なくして、余白を想像してもらって、
「絵が説明してくれてもしてくれなくてもいいや」
というあたりを狙いました。
ふだんチームプレーばっかりしてるから、
こんなふうにひとりで静かに考えた仕事って、
あんまりないんです。

- 田中
- 湯村輝彦さんと『さよならペンギン』という
絵本を作られたときも、
わりと余白を取られてますよね。
- 糸井
- あれもそうですね。
ぼくは湯村さんの絵のファンだったから、
湯村さんが絵を描きたくなるような原作に
しなきゃいけないなぁと思ったんです。
湯村さんと組んでマンガを作ったときは、
ぼくがコマ割りまでしていたんですよ。
- 田中
- そうだったんですか。
- 糸井
- 絵本のときとは全然違って、
コマ割りで簡単なスケッチを描いておいて、
大きさもでたらめな比率でわざと描く。
そうすると、できたマンガが、
「君のラフがこうだったんだよ」という、
返事になっているんです。
ちっちゃなコマに合わせて、
すーごくちっちゃい人が描いてあったり。
それがおかしくて。
最初の読者って、やっぱり絵を描く人ですからね。
キューライスさんと組んで、
そのおもしろさを久しぶりに味わいました。
- 田中
- そのやりとり、
キューライスさんにとってはどうでしたか?
- キューライス
- うーん、もっと緊張するかなと
思ってましたけど、全然しなくて、
たのしかったです。

- 糸井
- 緊張しないでしょう(笑)。
あと、「生活」という部分が
絵本には描かれていましたよね。
ちゃぶ台とか、タンスとか、
今の時代の家庭にはほとんどないと思うんですよ。
事前の話し合いで、
「普通の家にやってくるわけだから、
普通の家の生活が見えるんだろうね」
みたいなことはしゃべってましたけど、
キューライスさんがここまで具体的に狙ってきたと
いうのがおもしろかった。
このカルチャーは、「ちびまる子ちゃん」だし
「ドラえもん」だなと思いましたね。
- キューライス
- そうですね。
- 糸井
- 子どもだったころの、
たのしかった記憶が出ているんですね。
そういうところも、
お父さんやお母さんがたは
おもしろがるんじゃないかなぁ。
どこんちにもあるような生活に
ちきゅうちゃんがやってくる。
- キューライス
- ちきゅうちゃんが掃除機に怯えてたり。
- 田中
- 掃除機から逃げようとして
枠から逃げ出す表現もいいです。
そうそう、うかがいたかったんですけど、
キューライスさんは
いつもは4コマをお描きになっていますけど、
今回は絵本なのでコマ割りがないですよね。
- キューライス
- いや、そうなんです。
コマ割りがない、どうしようと思って、
ちょっとコマ割りっぽい、
四角い枠を描いちゃったり‥‥。
それで、枠を描いちゃっている自分に気付いて、
最後に、それはいけないなと思って、
ぶち破るシーンを入れました(笑)。

▲絵本のワンシーンより。
- 糸井
- (絵本を見ながら)
あ、本当だ。ここいいね。
絵本作家のやることじゃないですよね(笑)。
(つづきます)
2018-10-30-TUE