- キューライス
- 今日は原画も持ってきました。
- 糸井
- 原画で見ると、また印象が違いますね。
- 田中
- この、うしろ姿のシーンがいいですよね。
糸井さん、打ち合わせのときに
「ここには思い入れがある」というようなことを
おっしゃってましたよね。
- 糸井
- そう。なるべく自由に
描いてもらおうと思ったんですけど、
このうしろあたまのところだけは、
もっと暗くしてほしい、というような
要望を伝えたりしましたね。
なんて言ったらいいかな‥‥
うしろあたまを見ている人って、
ものすごくそれを愛してるという気がするんですよ。
- 田中
- 対象を?
- 糸井
- 対象を。
「うしろあたまを見る」というのが、
ぼくにとっては愛情の1つのシンボルなんです。
本人とコミュニケーションをしていないときに、
片思いの視線があるのがいいなあと。
『くまのプーさん』で、プーさんと
クリストファー・ロビンが
手をつないでいるうしろ姿もそうで、
しかも黄昏どきというのが、
すごくぼくの好みなんです。
「ちきゅうちゃん」の場合だと、
太陽に顔を向けていると、
うしろあたまは絶対夜になるし、
それで全部を表せるなぁと思ったので、
考えただけでうれしくてしょうがなかった。
このシーンは、ある意味クライマックスですよね。
- キューライス
- そうですね。
あとは、ぼく、突然
宇宙空間になるところも好きなんです。
- 糸井
- あれもいいですね。
図鑑を広げている気分になります。
このページだけが観念であり事実である、みたいな。
生活から離れてますよね。
- 田中
- でも、ツッコミどころもいっぱいあるんですよね。
土星の顔が見えていない、とか(笑)。
- キューライス
- そう(笑)。
たぶん、水星はいちばん
真面目だと思うんですよね。
先頭にいるし、
「俺ちゃんとしなきゃ」という感じで。
かと思えば、後ろのふたりが
「俺たちもいるんだけどな」みたいな感じで
ちょっとだけこっちをのぞき込んでて‥‥。
- 糸井
- なんか、動物的ですよね(笑)。
- キューライス
- 木星がたぶん、いちばん動物的なんでしょうね。
鳴き声を発するだけみたいな。
お父さんがちきゅうちゃんじゃなくて
木星を連れて帰ってきたら
どうなってたんでしょうね。
- 糸井
- まず外で、「うんうん」言ってそう。
「連れて来たんだけど、家に入らないんだ」と。
「そのまま外にいてもらえば」とお母さんが言ってて、
お父さんが
「なんか必要なことがあったら、言ってもらえ」って。
でも、木星は特に何も言わないから、
「どうしたものかしらね」って(笑)
- キューライス
- (笑)
- 田中
- (笑)さすがです。
キューライスさんは、
『チベットスナギツネの砂岡さん』でも
親子のやりとりを描かれてますけど、
今回の作品のように、
子どもに向けて描く作品では、
事前にどんなことを考えましたか?
- キューライス
- 自分が子どものときに、
どういうものが好きだったかというところに立ち戻って、
「あのときこういうものが好きだったな」
という気持ちを意識して描こうと思いましたね。
描きながら思い出させてもらったというか。
- 田中
- 子どものころ、何が好きだったんですか?
- キューライス
- うーん‥‥間違い探しとか、
隠しアイテムを探すことが好きでしたね。
たとえば月があって、よく見てみると、
ウサギと一緒に歩いてる変なオッサンがいるみたいな、
ちょっとだけシュールな匂いがするものが好きなんです。
ちっちゃいころ、
『ぼくはおこった』という絵本が大好きで、
男の子が怒ったら、すっげぇ大嵐が来て、
町が吹っ飛ばされるという内容なんですけど、
そのなかに、嵐でタバコの看板が吹き飛ばされると、
タバコの看板のなかのタバコまで一緒に
散らばっている、というシーンがあるんです。
そんなこと普通はあり得ないけど、
起こったらおもしろいじゃないですか。
いまもその絵だけははっきり覚えているんです。
- 糸井
- ああ、そういうのいいですね。
- キューライス
- そういうことができたらいいなと。
この絵本にもでかすぎて
顔がまったく見えてない土星が出てきますけど、
そういう、ちょっとしたおもしろさを
出したいなと思ったんです。
- 糸井
- 読者が
「あ、ぼく、気が付いた」と言って笑うようなね。
あの、アートディレクターの佐藤卓さんが、
クールミントガムのパッケージに、
ペンギンのイラストを入れているんですけど、
よく見ると一羽だけイラストが違っているんです。
そういうのも今言ったみたいに、
子どものときにおもしろかったものを、
大人になって送り手になったときに、
昔の自分に向けて返しているような気がします。
ぼくらもやっぱりそうで、
自分の子ども時代に対して返しているんですよね。
- キューライス
- そう思います。
- 田中
- 糸井さんの子ども時代って、
どんなお子さんだったんですか。
- 糸井
- 小学一年生くらいのときは、
ちゃんと出来のいい子でした(笑)。
- 田中
- すばらしい。
- 糸井
- 伸び伸びしていたと思います。
字を早く覚えたのが運の尽きで、
文字さえ読めれば、何年生向きのものでも関係なく
読めちゃうじゃないですか。
恐竜に興味があったら、
1年生向きの恐竜の本がなくても、
6年生向きのものは読めちゃうんですよね。
父親がそれをおもしろがって、
大人の本まで渡してくれたんで、
怖がらずに知識を仕入れたり
ものを考えたりすることができて、
今思えば、それが自分の個性になった気がします。
今は自分がもう6年生みたいな人に
なっちゃったわけですけど、
1年生、2年生にも同じフィールドで
立ち上がってほしいなと思ってます。
- 田中
- 興味のあることには、上下関係なく、
もっと貪欲になっていいということですか?
- 糸井
- そうそうそう。
「ここは自分の分じゃないや」みたいな枠を
外しちゃったほうがいいと思います。
たとえば、キューライスさんが、
「昔から糸井さんのこと大好きでした」
みたいな人だったら、
「そう言うなら、それをどう守ろうか」
みたいにぼくもなっちゃって、
つまんなかったと思うんです。
ほら、体育会系の広告会社とかだったら、
年下が何か意見すると、
「下っ端のお前に言う資格はない」
みたいな雰囲気があるでしょう?
そういうのじゃなくて、
普通にボールを投げて、返して、
みたいな関係でものを作れたから
よかったと思ってます。
(つづきます)
2018-10-31-WED