ほぼ日のアースボール特別企画

ちきゅうちゃんが、やってきた。

キューライスx糸井重里 対談

ほぼ日のアースボール」に、
かわいいキャラクターが生まれました。
その名も「ちきゅうちゃん」です。
さらに、この子を主人公にした
ちいさな絵本が『小学一年生』12月号の
とじ込み付録になりました。
絵本の文章を担当したのは糸井重里、
イラストを担当してくださったのは、
漫画家・アニメーション作家のキューライスさんです。
ふたりはSNSを通じて知り合い、これまでも
TOBICHIで個展を開催するなど親交を深めてきました。
コラボレーションは今回がはじめてですが、
ふたりの息はぴったりで、かわいくてせつない、
すてきな物語になったんです。
完成した絵本を見ながら、ふたりが感想を語ります。
進行役は、絵本の編集に携わった小学館の田中さんです。

キューライスさんのプロフィール

1985年生まれ。漫画家、アニメーション作家、演出家。
映画製作会社に勤めながら
2015年から「キューライス」を名乗り、
4コマ漫画やイラストなどをネットで発表して話題に。
現在はフリーランスとして精力的に活動中。
すでに発売されている単行本に、
ネコノヒー』、『スキウサギ
チベットスナギツネの砂岡さん』など。
『ネズミダくん』『レジネコ』といった
連載も多数同時進行させている。

子どもは、せつなくかなしいもの。

糸井
(絵本を見ながら)
ぼくは特にエンディングが好きなんです。
田中
「自転」しているシーンですよね。
糸井
うん。無言だからこそ成り立つ。
田中
室外機を描かれたのもいいですよね。
キューライス
裏にあって見られたくないものと言えば、室外機かなと。
涼しい顔で風を出しているけど、
実は裏でこんなに頑張ってる、というところが
ちきゅうちゃんと重なるなあと。
田中
自分のことを抱きしめながら
回っているのもいいですね。
フィギュアの回転みたいに。
キューライス
ぼく自身がちきゅうちゃんだと仮定したときに、
自転をするとなったら、
両手を広げて回ると風の抵抗があるから、
こうしたんです。
田中
あぁ、なるほど。
健気だし、かわいいし。
社内でも、最後のシーンに
すごくウケている人がいました。
ぜひみなさんにも絵本で見てほしいです。
糸井
しみじみするんですよね。
で、同時に笑うんです。
悲しみが裏打ちされてないものはつまんないんですよ。
だから笑ってもらってよかった。
そして、笑っている人も、
ただ笑うだけじゃない何かを感じているんですよね。
ちょっと、つげ義春さんの
終わり方に近いなと思っています。
『海辺の叙景』みたいな。
キューライス
ああ、わかります。
余韻の残し方がそうですね。
田中
ところで、今日は、
昔の『小学一年生』もお持ちしました。
1983年のものです。
キューライス
すごい!
ぼくが生まれる2年前ですね。
田中
1991年のものもあります。
しかも、両方ともに
糸井さんが書いた詩が載っていまして。
(糸井が書いた詩を見せる)
糸井
ああ、ほんとだ。
田中
やっぱり糸井さんの言葉って普遍的で、
時代を超えても、
スッと入ってくるものだなぁと思っています。
今回、30年近くぶりに、
『小学一年生』に書いていただいたんですけど、
時代の違いみたいなことって意識されましたか?
糸井
ぼくは、そういうことをあまり考えないんです。
そのくらいの年代の子が感じそうなことを、
一緒に考えるような気持ちで書きます。
まあ、もし仮に電話のことを書くとしたら、
ガチャンって受話器を置く電話じゃなくて、
「携帯」になるだろうな、くらいの感じはありますけど。
田中
子どもの基本的な部分というのは
変わらないということでしょうか。
糸井
子ども観みたいなものを
そんなに整理して考えているわけじゃないけど、
大人のほうが自由だと思っているんです。
子どものときというのは不自由で、
与えられたものしかなくて、
そのなかで自分の自由をこじ開けるようにして、
なにかを得ていますよね。
子どもって、あかるくたのしいものなんだけど、
同時に、せつなくかなしいものなんです。
だから、子どもには「これからたのしいぞ」
「大人になるのはいいぞ」みたいなことを、
言ってあげたいなあと思っています。
田中
子どもは、せつなくてかなしい。
糸井
かなしいですよ、子どもって。
思ったようにならないことばっかりなんです。
ごまかされてたのしそうにしているけど、
根っこのところでは、
やっぱり閉じ込められてるし、
管理されているわけです。
じゃあ広場で浮浪児として育てばいいかといったら、
それはそれでせつないわけで。
子どもは、いろんなことが足りないですよね。
自分が子どものときに
いつもそう思っていたので、
その気持ちが出ちゃうんじゃないですかね、
あの、キューライスさんの描く、あの子もそうですよね。
田中
砂奈子ちゃんですか?

▲砂奈子ちゃん。
『チベットスナウサギの砂岡さん』より。

糸井
そう。砂奈子は、
すっごくかなしくなさそうに表現されているんですよ。
お父さんがいろんなことを思ったり
慮ったりしているんだけど、砂奈子は、
いつも自由にわがまま放題を言っている。
だけど、たぶん、
砂奈子をあんなに大事にしている
お父さん側にかなしみが表現されているんです。
放っておいたら、砂奈子はかなしいから、
お父さんは、すっごく砂奈子のことを
守ろうとしているんです。
その関係のなかにお母さんがいないことの
秘密が隠れているわけで、
お父さんのいろんな表情が、
実は砂奈子の心を反映している。
これはすごい傑作ですよ。
キューライス
ありがとうございます。
ちきゅうちゃんもしゃべらないですもんね。
糸井
うん、この良さがちきゅうちゃんにもあると思います。
同じように黙っているし。
ぼくなんて、自分がしゃべりすぎだと思ってるんで(笑)。
キューライス
(笑)
糸井
しゃべるのが商売になっちゃってますからね。
家にいるときは、しゃべる必要がないから黙ってる。
キューライス
ぼくもまったくしゃべらないですよ。
友達がいないから。
だから、カラオケとか行くと
たった1曲歌うだけですぐに声が枯れちゃって。
たぶん声帯まで弱くなっちゃってるんです。
糸井
(笑)見事です。
ひとりはいいですよ、本当にね。
ひとりでいないと、
育たない想いもいっぱいありますからね。
田中
最後になりますが、
このころの『小学一年生』と現在の『小学一年生』は、
雑誌も全然違いますし、
子どもを取り巻く環境も昔とは違いますけれど、
今の親御さんたちに、
「こんなふうにしたらいいんじゃないか」
みたいなアドバイスをいただけますか。
糸井
変わっているところを見ないで、
変わってないところを見たほうがいいんじゃないかな。
社内で子どもがどんどん生まれていたり、
大きくなったりしているのを見てると、
今も昔もあんまり変わらないような気がします。
粉ミルクであるにせよ、母乳であるにせよ、
ミルクは絶対飲むし、はいはいするし、立ち上がるし、
「縄文時代とか弥生時代の人が
やっていたようなことをやってるんだよ」
と思ったほうがいいと思いますね。
「これからの時代は英語が大切だ」
みたいなことは、数え上げたら山ほどあるから、
あまり気にしなくていいんじゃないかなと思います。
田中
「うしろあたま」を見ながら。
糸井
そうそう。
子どもの「うしろあたま」を見ることですね。
キューライスさんはおとなしい子でした?
キューライス
いえ、活発な子でした。
糸井
活発だったの?
「友達がいない」と言うようになったのは、
いつからですか(笑)?
キューライス
えぇとですね、高校まではいたんですよ。
でも、大学生になってアニメを作りはじめてから、
パタッといなくなりましたね。
アニメを一緒に作るための集まりとかはありましたし、
恋人ができたりもしたんですけど、
現在に至っては、まったく友達がいないです。
ずーっとひとりで、朝起きて、
自分にお弁当作って、お昼になったらそれを食べて、
原稿描いて、お散歩行って、お風呂入って、
原稿描いて、終わる、というのが、
毎日毎日続いている感じです(笑)。
糸井
なんかよろずやのオヤジみたいですね。
それほど描いてる時間が好きなんじゃない?
キューライス
そうですね。描く以外やることなくて。
で、ときどきひとりで
ディズニーランドに行ったりとか。
糸井
(笑)
きっとキューライスさんは、
いまは幼虫、さなぎ、というふうに
変態しているんだと思うんですけど、
いずれ誰かと暮らしたりして、
元に戻って普通の人になりますよ。
普通の人の描くものがいちばん強いんです。
ぼくは何回も若い人に言ってますけど、
「ぼくは才能がある」みたいな人って、
ちゃんと飯食って、ちゃんと風呂入って、
ちゃんと寝ている人に、
みんな追い抜かれるんですよ。
キューライスさんも、そういう意味で
普通の人になっていくんだと思います。
キューライス
ああ、なるといいなあ。
糸井
まぁ、そんなこと言ってるぼく自身が
ちゃんとしてるかと言ったら、
それはわかんないですけどね(笑)。
ということで、今日はありがとうございました。
キューライス
こちらこそ、ありがとうございました。
ぜひとも子どもが読んでいるのを見たいですね。
終わりがあんなだし、
意外と最後まで真顔だったりして(笑)。
田中
(笑)子どもって、たのしんでいても、
案外あまり顔に出ないことがありますからね。
糸井
そうですよね。
なんか、バッグとかに放り込んであって、
何度か読み返してくれたりするようなことがあったら
うれしいですね。

(おわります)

2018-11-01-THU

お知らせ

ミニ絵本『ちきゅうちゃん。』は
小学一年生』2018年12月号
(11月1日ごろ発売)の巻頭付録に付いてきます。
12月号は「せかいを たのしむ」特集ということで、
「ほぼ日のアースボール」も、
アースボールのプレゼント企画や
オリジナルARコンテンツの提供など、
さまざまなコラボレーションをしているんですよ。

また『小学一年生』の別冊付録『HugKum』にも
キューライスさんと糸井の対談記事を掲載しています。
さらに、こちらの『小学館キッズパーク』では、
ふたりのやりとりがたのしいマンガ形式でも
ご覧いただけます。ぜひチェックしてくださいね。